時間外労働時の残業代を計算する前に知っておきたい基礎知識
時間外労働時の残業代を計算する前に、法定労働時間と法定外労働時間について確認しておきましょう。
法定労働時間とは、労働基準法に明記されている「1日8時間」「週40時間」のことです。就業規則などで制定した労働時間を超えても、1日8時間・週40時間以内であれば、法定労働時間として扱われます。
それに対し、1日8時間・週40時間を超えた労働は、法定外労働です。事業者は、法定外労働を行った労働者に対し、割増率をかけて算出した残業代を支払わなければなりません。
時間外労働が発生した際における残業代の計算方法
時間外労働が発生した際の残業代は、以下の式で計算するのが一般的です。
残業代 = 基本給及び諸手当 ÷1か月の所定労働時間 × 割増率 × 法定外労働時間
諸手当については、1ヵ月以内に労働者に支払うものが対象です。1か月を超える期間ごとに支払う家族手当や通勤手当・ボーナスなどは含まれません。
1か月の所定労働時間は、「所定労働日数×1日の所定労働時間」で求められます。
割増率は基本的に25%です。しかし、法定外労働時間が1ヵ月に60時間を超えると50%、休日労働だと35%となり、法定外労働・深夜労働・休日労働の組み合わせ次第でさらに高くなります。
たとえば基本給及び諸手当が30万円、所定労働時間8時間、所定労働日数20日の労働者が3時間の時間外労働を行った場合、1時間あたりの残業代は以下のようになります。
30万円 ÷160時間 × 1.25 × 3時間= 7,031円
以下の見出しでは、「30万円 ÷160時間 = 1,875円」とし、同じ条件のもと残業代の計算例を紹介します。
深夜時間帯に働いた場合:割増率を50%で計算
22時~翌5時の時間帯に労働した場合は、深夜労働となります。割増率は50%です。
深夜時間帯に働いた場合の残業代は、所定労働時間が平日9時~18時の8時間、1日だけ深夜24時まで残業したとして以下のように計算できます。
1,875円 × 1.25 × 4時間 + 1875円 × 1.5 × 2時間 = 15,000円
法定休日に働いた場合:割増率を35%で計算
労働基準法で決められている休日を「法定休日」と呼びます。法定休日に8時間働いた場合の残業代は、以下の通りです。
1,875円 × 1.35 × 8時間 = 20,250円
法定労働時間内で残業をした場合:割増率はゼロで計算
会社の就業規則によっては、法定労働時間内で残業が発生するケースがあります。
所定労働時間を1時間の休憩ありで9時~17時の7時間としている企業を例に挙げます。労働者が18時まで働けば、法定労働時間内にも関わらず1時間の残業となるでしょう。この場合は残業代が割増されず、下記のように算出します。
1,875円 ×1時間 = 1,875円
一方、所定労働時間を9時~18時の8時間としている企業では、法定労働時間内での残業が発生しません。
そのほかの勤務形態で時間外労働を行った場合の計算方法
そのほかの勤務形態で時間外労働を行った場合の計算方法について解説します。
フレックスタイム制:清算期間を基準にして計算する
フレックスタイム制は、労働者が始業・終業時間を決められる制度です。1ヵ月以内の清算期間内であらかじめ決めた総労働時間を超えた場合、残業代が発生します。そのため場合によっては、労働時間が1日8時間・週40時間を超えても残業代が発生しません。総労働時間の計算方法は、以下の通りです。
法定労働時間の総枠=1週間の法定労働時間(40時間)× 清算期間の日数 ÷7日
清算期間を30日に設定した場合の総労働時間は、171時間です。
そのため清算期間を30日、期間内の実労働時間が180時間の場合、残業代は以下のように算出します。
1,875円 × 1.25 × 9時間 = 21,094円
変形労働時間制:所定労働時間を加味して計算する
変形労働時間制は、週・月・年単位で労働時間を調整できる制度です。
繁忙期は、予定外のことが起こり、従業員の就業時間が法定労働時間を超えるケースも珍しくありません。その際に、労働基準法違反とならないよう、あらかじめ閑散期と繁忙期で労働時間の調整をできるのが、変形労働時間制のメリットです。
たとえば1ヵ月を単位として変形労働時間制を採用した場合で考えてみましょう。この場合、それぞれ以下のような所定労働時間を設定すれば、ある週で法定労働時間を超えても、 週平均40時間以下となり法律違反になりません。
- 第1週(繁忙期):48時間
- 第2週(繁忙期):47時間
- 第3週(閑散期):33時間
- 第4週(閑散期):32時間
実労働時間が「第1週:50時間」「第2週:50時間」「第3週:34時間」「第4週:32時間」となった場合の残業代は、以下の通りです。
1,875円 × 1.25 × 6時間 = 14,063円
裁量労働制:みなし労働時間を加味して計算する
裁量労働制は、実労働時間にかかわらず、みなし労働時間を定めておく制度です。たとえば実労働時間が10時間でも、みなし労働時間が8時間であれば実労働時間も8時間となり、残業代が発生しません。みなし労働時間が8時間を超えると、法定外労働時間に対する残業代が発生します。
みなし労働時間が10時間の場合、残業代は以下のように計算します。
1,875円 × 1.25 × 2時間 = 4,688円
ちなみに、裁量労働制であっても深夜や休日に働いた場合は割増賃金を支払います。
時間外労働が発生した際の残業代をミスなく計算する方法
時間外労働が発生した際の残業代をミスなく計算するには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。
昨今は働き方が多様化しており、従業員全員の労働時間を把握し、正確に残業代を計算するのが困難です。手作業だとミスが発生する可能性があります。勤怠管理システムの計算機能を活用すれば、正確な残業代を自動で算出することが可能です。
また、あらかじめ就業規則に沿った所定労働時間の集計方法などを登録できます。残業の申請や承認が簡略化するため、担当者の業務効率化にも効果的です。
時間外労働が発生した際の残業代計算を正しく行おう
事業者は労働者が時間外労働をした際に、残業代を支払わなくてはなりません。従業員の深夜労働や休日労働などが発生した際は、正確に残業代を計算しましょう。
フレックス制・変形労働時間制・裁量労働制といった、複雑な勤務体系を採用する場合は、勤怠管理システムの導入をおすすめします。勤怠管理システムを活用して、時間外労働が発生した際の残業計算を正しく行いましょう。