ラインケアとは?
職場におけるメンタルヘルスケアにおいては、4つのケアが必要とされています。それは従業員本人が行う「セルフケア」、管理者が行う「ラインケア」、産業医や保健師による「事業上内産業保健スタッフによるケア」、カウンセラーや精神科医など社外の専門家が行う「事業上外資源によるケア」です。その中でも特に重要なのが、ラインケアと言われています。
現場の管理者が部下に行うケアのこと
ラインケアは、日常的に従業員と接する現場の管理者が行うケアです。管理者は日々部下の様子に率先的に気づき、メンタルヘルス対策を行う必要があります。
具体的には、職場環境の改善、部下の変化に気づき対策を行うこと、部下に対する相談対応、メンタルヘルス不調者の職場復帰支援を行うことが求められます。
メンタルヘルス対策にはラインケアが必須
4つのケアの中でも管理者は部下との接点が多く、一緒に過ごす時間も一番長くなります。そのため、部下の日々の変化に気づくことが容易です。
一度、メンタルヘルス不調者が発生すると、健康的に働ける人員が減るだけでなく、会社としても対応に多くの手間が発生します。メンタル不調者の発生は、組織の生産性に影響を及ぼすため、従業員がメンタル不調に陥る前に不調者を早期に発見することがとても重要です。
そのためには、管理者が部下の日々の変化を捉えることが不可欠なのです。このように、ラインケアはメンタルヘルス対策において必須の機能と言えるでしょう。
メンタルヘルス対策の必要性と目的
近年、健康経営が注目を浴びています。実際に健康経営に取り組む企業も増えてきました。なぜ企業は、メンタルヘルスケアをはじめとする従業員の健康対策を行わなければならないのでしょうか。
健康経営で生産性低下を予防する
東大の調査研究によって、従業員の健康が企業に損失を与える可能性があることが明らかになりました。健康分野では、何らかの疾患や不調により実際に欠勤することをアブセンティーズム、不調を感じながら出勤することをプレゼンティーズムと呼びます。
東大の調査では年収から時給を計算し、健康的な状態との比較を行いました。その結果、アブセンティーズムの状態では企業にとって最大12万円の損失、プレゼンティーズムは最大で159万円の損失が起こることがわかりました。つまり、健康経営は企業にとって生産性の低下や損失を防ぐ効果があるのです。
参考:中小企業における労働生産性の損失とその影響要因|日本労働研究雑誌
パワハラ防止法によって義務化されている
2020年6月1日にパワハラ防止法が施行されました。企業は組織的にパワハラ防止策を講じるとともに、管理者にパワハラを起こさせないように指導することが義務付けられました。また、パワハラの被害者に対しても、しかるべきケアを行うことが義務となっています。企業は日頃から従業員の変化に気づき、パワハラを未然に防ぐ必要があるのです。
こうした背景をもとに、企業におけるメンタルヘルス対策の必要性はますます高まってきています。
ラインケアの具体的な方法
では、実際に企業ではラインケアをどのように導入すればよいのでしょうか。
部下のメンタルヘルス状態の確認
まずは、ラインケアのキーマンである管理者が、部下のメンタルヘルス状態に気づかなければなりません。管理者が部下の状態に気づくためには、管理者が日々部下の様子を確認し、少しでも普段と違う様子があれば休ませるなど、早めの対応が必要です。企業は、管理者が常に部下の様子を把握できるように、管理者をトレーニングしなければなりません。
産業医やカウンセラーとの連携
ラインケアで次に重要なポイントは、社内の専門家との連携です。
日々、部下に接する管理者が部下の異変に気づいても、管理者がその場で対処することは危険な場合もあります。そのため、管理者が部下の言動や様子に疑問に思ったら、早いタイミングで社内の産業医やカウンセラーと連携することも重要です。早めに連携できれば、部下のメンタルヘルス悪化を防ぐこともできるでしょう。
ラインケアのポイント
ラインケアは、ポイントを理解すれば難しいものではありません。管理者本人が実際にラインケアを行うためのポイントを紹介します。
常にコミュニケーションをとる
メンタルヘルス不調者を発生させないためには、常に部下と適切なコミュニケーションをとることが必要です。部下の話に耳を傾け、可能な範囲でプライベートの変化を確認し、部下の話に共感することが必要になります。
特に、部下の話を聞いても、共感しない管理者が多くいます。ラインケアの基本は、部下の話に耳を傾け共感する傾聴です。メンタルヘルス不調状態にある部下は、話の中で不調のサインを出すこともあります。常に部下とのコミュニケーションをとりながら、傾聴することを忘れないようにしましょう。
遅刻や欠勤などから不調のサインに気づく
特に注意して見ておきたいポイントが、部下の遅刻や欠勤です。遅刻が増えてきた場合、単に叱るのではなく、いつもと違う様子がないかを確認しましょう。メンタルヘルス不調者の中には、ある日突然会社に行けなくなる出社拒否の症状を訴える人もいます。
遅刻が多い場合、精神的に疲れている可能性もあるため、部下の様子を確認したうえで必要であれば休ませるようにしましょう。
まとめ
企業におけるメンタルヘルスケアは4つあり、中でもラインケアは重要視されます。従業員の不調に早く気づくことができれば、企業の損失や生産性の低下を未然に防ぐことができるでしょう。
部下の多くは体調不良を隠して出社する、プレゼンティーズムの状態にあるかもしれません。部下の不調に気づくために、日々のコミュニケーションが欠かせないのです。
管理者と人事部は、メンタルヘルスケアは組織運営の効率低下を防ぐための経営課題だという意識をもって取り組むべきではないでしょうか。