メンタルヘルスとは
私たちは普段、メンタルヘルスという言葉を口にすることがあります。しかし、その意味や定義を明確に説明できるでしょうか。まずは、メンタルヘルスの概念について確認しましょう。
日本におけるメンタルヘルスの定義
日本では、メンタルヘルスという言葉は、特に精神的な疲労やストレス、悩みの緩和を目的とした場面で使われる言葉です。メンタルヘルスは直訳すれば「心の健康」という意味ですが、実際には心の健康はとても難しい概念です。
まず、心が健康であるかどうかは、その国や文化に依存します。
例えば日本で主婦が昼間から毎日大量にワインを飲んでいたとすると、アルコール依存症ではないかと疑われます。しかし、フランスではワインを水代わりに大量に飲むことはよくあることです。そのため、その人の性格も含めて普段の状態がどのような状態であるか、どのような状態であれば異常性が認められるかを考える必要があります。
このように、日本で精神的なケアの場面で使われるメンタルヘルスという言葉を理解するには、文化や人それぞれの性格特性も考慮する必要があるのです。
メンタルヘルスケアが広まった背景
日本は先進国の中でも自殺者が多い国です。先進国G7の中でもトップに位置しています。
かつては年間3万人が自殺で命を落とし、現在でも年間2万人程度が自殺で亡くなっています。また、過労死の労災申請は毎年700~900件で推移しており、世界的にも日本は過労死の国として知られているのです。2001年には、英単語の標準的な辞書であるOxford辞書に”Karoshi”という単語が登録されたほどです。
このように、日本では自殺や過労など、精神的な問題が社会問題となっているため、先進国としても世界的にメンタルヘルスへの取り組みが期待されています。
参考:平成30年における自殺の状況|厚労省
参考:平成30年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚労省
企業におけるメンタルヘルスケアの重要性
日本では、政府が中心となってメンタルヘルスケアへの取り組みを進めています。一方で、企業にとってはメンタルヘルスケアに取り組むことで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
組織生産性の低下を防止
東大の調査によると、体調不良の社員は健康な時と比べ、作業量が低下することがわかりました。また、体調不良を我慢して出社すると、年収換算で社員1人あたり最大150万円程度の損失になるそうです。
さらには体調不良を放置すると、徐々に欠勤率が上がることもわかっています。メンタルヘルスケアは、組織生産性を防ぐためにも重要な取り組みであると言えるでしょう。
参考:中小企業における労働生産の損失とその影響要因|日本労働研究雑誌
企業イメージの向上
社内でメンタル不調者が多発すると、その後メンタル不調で離職した社員が会社の口コミサイトで悪い口コミを投稿する可能性があります。一度ブラック企業というイメージが定着してしまうと、なかなか払拭することは難しいでしょう。
反対にメンタルヘルスケアに積極的に取り組むことで、ホワイト企業というイメージをPRすることも可能です。メンタルヘルスケアに取り組むことは、会社のブランドイメージを守るためにも重要な取り組みと言えます。
社会的責任
企業は労働者を雇い、社会に価値を提供する存在です。企業市民という言葉があるように、企業は利益を追求する一方で、社会における一市民としての責任を果たさなければなりません。
近年では海外メーカーの工場で児童を働かせていたことが問題になりました。児童労働は、児童の学ぶ機会を奪うだけでなく、健康を損ねる可能性もあります。
企業は労働者の心の健康を守り、社会をよりよいものにしていくため、積極的にメンタルヘルスケアにも取り組まなければなりません。
メンタルヘルスケアの具体的な方法
では、企業においてメンタルヘルスケアはどのように取り組めばよいのでしょうか。具体的な方法をご紹介します。
個々にセルフケアを促す
メンタルヘルスケアにおいて最も重要なのが、セルフケアです。メンタルヘルスは個人それぞれの性格や精神的特性に依存します。また、なかなか目に見えづらい部分であるため、個人が自分自身で普段とどのように違う状態なのかを理解しなければなりません。
少しでもおかしいと感じるなら、まずは自分自身で判断して休養をとるなどのセルフケアをするよう促しましょう。
企業ではラインケアが重要
メンタルヘルスケアでは、対象者の普段の行動や性格をよく理解したうえで、普段とは異なる言動に気づくことが重要です。企業においては、対象者とよく接する管理者が日々の言動をよく確認して、異常性があれば早めに対処を行うべきでしょう。
このように管理者が行うケアを、ラインケアと呼びます。ラインケアは企業における特に重要なメンタルヘルスケアといえるでしょう。
カウンセラーの活用もおすすめ
一方で、セルフケアやラインケアだけでは対処できない場合もあります。そんなときは、産業カウンセラーや臨床心理士などによるカウンセリングも活用しましょう。カウンセリングというと、メンタルヘルス不調者に対処するイメージがあるかもしれませんが、多くの企業で活用されています。
メンタルヘルスケアのポイント
企業におけるメンタルヘルスケアでは、成否を分ける重要なポイントが存在しています。最後にメンタルヘルスケアで気をつけたいポイントについてご紹介します。
ストレスチェックの実施
2014年に労働安全衛生法が改正され、労働者が50名以上の職場にストレスチェック実施が義務付けられました。それ以来、企業ではストレスを毎年実施しています。しかし、年1回の実施では充分とはいえないでしょう。タイミングによっては、ストレスチェックを実施していない時期にストレスを感じることもあります。
そのため、1ヶ月~3か月に1度程度の短い期間で、社員のストレス状態をチェックするのもおすすめです。最近では簡単にストレス状態を確認できるツールも出てきています。ぜひ定期的なストレスチェックを実施しましょう。
早めの対処が有効
ここまでご紹介したように、メンタル不調になる前にケアを行うことが重要です。ラインケアを中心に、少しでも普段と違う様子のある社員がいればすぐに対処しましょう。
最近話題になったマインドフルネスの研究では、瞑想がストレスを軽減する効果を実証しています。社員向けのマインドフルネスのプログラムを実施することで、社員が自らセルフケアを行うように指導することも有効でしょう。
規則正しい生活が重要
メンタルヘルスケアで特に重要なのが、規則正しい生活を送ることです。中でも睡眠不足は、抑うつ症状の原因になり得ます。最近では睡眠を管理するアプリも充実してきました。
実際に企業では、社員の睡眠管理や睡眠指導を行う事例も増えてきています。社員がなるべく規則正しい生活を送れるよう、労働時間をコントロールするとともに、睡眠指導も取り入れてみてはどうでしょうか。
まとめ
働き方改革法やパワハラ防止法に対応するためにも、企業はメンタルヘルスケア対策に取り組まなければなりません。社員に対して、ストレスチェックなどを実施するとともに、規則正しい生活を送れるように指導していきましょう。
また、メンタル不調の場合だけでなく、普段のセルフケアが重要です。例えば、体を動かすことで気分転換になることもあると思います。各々が工夫してリフレッシュしながら、何事にも前向きに取り組んでいくことでストレスは軽減されます。心が疲れて仕事に支障が出る前に、普段からセルフケアを行うよう促しましょう。