スマホ撮影した領収書で経費精算が可能?
経費精算業務はIT技術の発展と法整備により、便利に処理できるようになってきました。特にインパクトが大きいのは国税関係書類の一つである領収書の電子化による保存が認められるようになったことです。さらに、領収書を電子化するだけでなく、スマートフォンで処理できるようになったことで、業務効率が大幅に上がりました。
しかし、スマートフォンを使った領収書の電子化には押さえておくべきポイントがあります。その前に、まずはスマートフォンで撮影した領収書で経費精算ができるようになった背景を説明していきます。
今まで電子保存が進まなかった理由
近年ようやくスマートフォンで撮影した領収書のデータを使って経費精算を行うことができるようになりました。実は10年以上も前から領収書などの国税関係書類を電子化し保存するための法律はありました。しかし、この法律のもとでは領収書を電子保存するための要件が厳しく、電子保存が進みませんでした。経費精算を適切に行うための前提として、電子データを保存するための法律の概要と改正動向を把握しておくことは大切です。
領収書の電子保存に関する法律は大きく分けて「電子帳簿保存法」と「e-文書法」の2種類があります。「電子帳簿保存法」は1998年に施行された法律であり、国税関係書類の電子データ保存が認められたものです。その後、2005年に施行された「e-文書法」によって、これまで紙の原本保存が原則だった領収書などの文書や帳票に関して電子データで保存することが法律上可能になります。しかし、この段階ではまだ法律上の規制が厳しく、実用的な法律とまではいえませんでした。
法改正により電子保存が可能に
2016年に行われた電子帳簿保存法の法改正では、保存するための要件は残るものの、たとえば社外からスマートフォンで撮影し保存された領収書の写真を電子データとして使うことができるようになりました。法改正以前は、専用のスキャンが行われたものでなければ電子データとして認められませんでした。金額基準が撤廃されるまでは電子データ保存対象の領収書には金額基準(3万円未満のものに限られる)が設けられ、指定されたスキャナにも原稿台と一体になったものという条件が設定されており、スキャナ保存のためにわざわざスキャナを用意する必要がありました。
専用のスキャンが必要だと、電子保存できたとしても事務所で経費精算処理を行わなければならず、通常の業務に加えてスキャンする手間もかかるため、業務の負担がかえって増えていました。これが、法改正以降はスキャナに関する要件が撤廃され、A4以下の大きさの領収書を読み取るときに大きさに関する情報の保存が不要になるなどの改正によって、スマートフォンのカメラで保存したデータも有効になり利便性が向上しました。
しかし、スマートフォンのカメラで撮影した領収書のデータであっても要件が求められます。
スマホ保存の要件
スマートフォンで撮影した領収書を電子データとして保存するための主な要件は以下の通りです。
- ■適正事務処理要件
- 規程を定めて、規程に基づく正しい事務処理が行われるための要件です。
-
- ・不正防止のため、複数の事務担当者が処理に関連する各事務を行う体制(相互けん制が効いていること)
- ・税理士が定期的に検査を行うなどの社内体制の整備が必要(定期的なチェックが機能していること)
- ・各事務処理に問題点などの不備が発見されると、報告、原因究明、改善策の検討がなされる体制(再発防止策が取られること)
- ※定期的なチェックを税理士などが行っている小規模企業者では相互けん制の要件は不要です。小規模企業者は、おおむね常時使用する従業員の数が20人以下(卸売業・小売業・サービス業では5人以下)の中小企業基本法で定める小規模企業者を指します。
- ■タイムスタンプの付与
- タイムスタンプとは、電子データの存在が認められるように、日時や時刻を記したスタンプのことです。領収書は受領後、署名をした上で、3日以内にタイムスタンプを付与することが必要(電子署名は不要)です。
スマートフォンを使った領収書の電子化には、このような要件を満たす必要がありましたが、2017年6月に国税庁から出された新通達に沿った場合は、経理担当者が電子保存された領収書データと紙の領収書が同じであることの確認を行うといった条件を満たせば、特に速やか(3日以内)にタイムスタンプを付す必要はなく、1か月+1週間以内に受領者本人が署名をせずに電子化を行ってもよいことになりました。
参照:制度創設等の背景|国税庁
2020年改正の電子帳簿保存法で何が変わる?
これまで説明してきたように、領収書を電子保存するための要件が度重なる改正の中で徐々に緩和されたことで経費精算業務を効率化できるようになりました。電子帳簿保存法は2020年10月にも改正法が施行され、さらに電子保存のための要件が緩和されています。大きな改正点は次の2点で、いずれも電子取引を利用した領収書の電子保存がしやすくなる内容となっています。
- ■領収書を電子データ(PDFなど)で受け取った場合の要件緩和
- 領収書を発行する側がタイムスタンプを付与していれば、受け取る側でのタイムスタンプが不要になりました。
- ■クラウドサービスなどを利用した電子取引で受け取った電子データの保存要件の新設
- 受け取る側でデータを自由に改変できないクラウドサービスなどを利用した電子取引で受け取った電子データ(クレジットカード、交通系ICカード、QRコード決済の利用明細データなど)を領収書の代わりとしてそのまま保存できます。タイムスタンプが不要なので手間も省け、キャッシュレス決済による利用データを取り込めるシステムがあれば経理業務自体の効率化も期待できます。
今までは事務所でなければできなかった経費精算業務が、スマートフォンを活用することで外出先での作業も可能になり、2020年10月の改正法施行を受けてより一層運用がしやすくなりました。これからペーパーレス化を目指す企業にとっては、こうした改正動向がシステム導入を含めた仕組みを取り入れる際の追い風になるでしょう。
領収書を電子保存する4つのメリット
運用にあたっては、領収書の電子保存のメリットとデメリットを把握しておかなければなりません。ここからは領収書を電子保存するメリットを紹介します。
領収書を電子保存するメリットは大きく分けて4つあります。
保管コストの削減
領収書の原本を紙からデータで保存できるようになれば、保管するためのスペースを用意する必要はありません。また、領収書を貼り付ける台紙も不要になるため台紙として使うための紙のコストも削減できます。
バックアップの管理が可能
紙の領収書を保管しているとスペースを使うだけでなく、紛失や火災による消失のリスクが伴います。領収書を電子データ化できることで、バックアップ管理が可能になり、物理的な被害をほとんど受けずに安全にデータ保管できます。
経理業務の効率化
今まで経費精算を行うために紙の台紙に領収書を貼り付けて保管する作業者の手間がかかっていたため、作業面の負担が大きいものでした。これが、スマートフォンで撮影するだけで領収書を電子化できるようになったことで経理業務の効率化が期待できます。複数拠点がある企業では国税関係書類のすべてを本社で管理するケースがありますので、電子保存が可能であれば輸送コストを削減しながら本社で集中管理できます。
スタッフの生産性の向上
領収書をスマートフォンで撮影し、金額などの情報を入力するだけで申請が可能になるため業務効率が大幅に上がります。さらに、会計システムなどとの連携によって申請内容がそのまま会計システムにも反映されると、手作業での転記による入力漏れやミスを防ぐことができます。
領収書を電子保存する3つのデメリット
領収書を電子保存するデメリットは大きく分けて3つあります。
変化に対応できない人が出る場合がある
領収書を電子保存するためにはスマートフォンで撮影して申請する必要があります。今までの経費精算処理と比較すると業務改善や効率化につながる期待が持てますが、手順が大きく変わることで変化に対応できない人が出る場合があり、一時的に非効率になる可能性もあります。
必要な機能が揃っていない場合がある
適切に経費精算を行うためには経費精算システムを使う必要がありますが、領収書を撮影する機能やタイムスタンプ機能がないなど、十分に適応していないシステムもなかには存在します。業務改善を行うためには、領収書を電子化するための十分な機能を備える経費精算システムを導入しなければなりません。
情報管理が100%安全とはいえない
経費精算で処理するデータは企業にとって重要な情報です。経費精算申請を行う際に使用するスマートフォンは従業員が個人で所有する端末であることも多く、セキュリティ対策のレベルもバラバラです。実際に撮影した領収書などの記録自体が端末本体内に保存されていると、スマートフォンを紛失すれば情報漏えいが起こります。このように情報管理面での課題を残すため、セキュリティ対策が欠かせません。
領収書を電子保存する際の注意点
スマートフォンで撮影したデータを使って経費精算を行うことが可能ですが、撮影した領収書の画質によっては税務署からの指摘を受ける可能性もあります。高画質で保存できるシステムや、AIを使って文字認識を行えるようなシステムなど、領収書の電子保存に適したシステムを導入し活用するのが妥当です。以下の記事では、スマホで活用できる経費精算システムの解説をしています。
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経費精算システムの特徴を押さえよう
いかがでしたか。今回は経費精算システムと領収書の電子化との関係性などについて紹介しました。領収書を電子保存することで経費精算が効率化できるようになりましたが、それだけで完全というわけではなくデメリットや注意点もあります。経費精算業務を効率化するためには、システムの特徴をしっかりと押さえて、自社にふさわしい経費精算システムを選択して導入しましょう。
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