【人事の打ち手:第3回】人事制度は頑強でなく、柔軟に設計(高城 幸司氏)

2015年11月27日

    

人事の打ち手

当社および当方は人事制度を50社以上/年で構築してきました。

会社から依頼を受けるきっかけは株式公開やM&Aなど様々。先日もオーナーである父から事業承継したご子息が人事の仕組みを一新したいと依頼をいただきました。ちなみに人事制度を構築する前に現状分析をさせていただくのですが、年功序列の古い人事制度を大切につかっている会社も少なくありません。成果主義は8割以上の会社が導入している…とある新聞記事で紹介されていましたが、それは大企業の実態に過ぎません。

これまでの経験から感じているのは、自社の戦略と乖離した人事制度を平気でつかっている会社があまりに多いこと。社員とっては大いに困る問題。ただ、かけ離れた人事制度を変えないのは理由があるのか?その背景を探ってみたいと思います。

戦略が変わったら人事制度は変える必要あり?

ここで人事制度について簡単に定義しておきます。仕組みとして

  • 等級制度
  • 評価制度
  • 報酬制度
  • から構成されます。いづれも「定める基準」が定義されて、その定義で処遇(昇給・昇進・昇格)が決まります。例えば、等級制度の主任級(営業)であれば

    《効果的な提案をして一定の収益をあげることが出来る》

    と会社が期待する定義が明示されます。この3つ仕組みを活用して社員の働く意欲を向上させて戦略を人事上から支援するのが人事制度の目的。ところが、会社の戦略が変わっても、人事制度は変えない会社によく遭遇します。それでは、社員は混乱することにならないか?間違いなく、混乱します。例えば、取材した機械商社のP社は円高の影響で業績が長年低迷。そのため、評価制度を

    《目の前の仕事で高い収益を上げる人》

    を高く処遇するように設計。営業職の評価基準は収益目標達成率だけ。収益額の大きな仕事をしている営業だけが高く評価され、管理職に抜擢。当然ながら新商品開発のための取引先の声に耳を傾ける気配など皆無の状態になっていました。

    ところが、円安に振れて業績が回復。すると経営陣が「取引先の求めるニーズを把握して、商品開発につなげて欲しい」と新機軸の方針が発信。しかし、人事制度の変更なし。経営陣は趣旨を伝えれば社員は意識や行動が変わると思ったのかもしれません。(大きな間違い) 残念ながら社員は新商品開発のために取引先の声なんて聞かない。長年、染みついた収益を上げる行動を優先するだけ。経営陣が笛吹けど踊らない状態。

    戦略が浸透しない怒りの矛先をはき違えてはいけない

    ここで方針が180度変わった理由を補足します。経営陣はアベノミクス効果で業績好調は当分続くと予測。そこで新規事業を幾つか立ち上げる決断。経営陣にもLED事業とか海外進出支援などアイディアはあるものの、

    「現場の視点で新しいビジネスの芽をつくりあげたい」

    と考えて新商品プランを公募。具体的には社内の掲示板で

  • 社長のメッセージ
  • 応募方法
  • の告知がされました。公募から締め切りまで約3ヶ月。経営陣は社員が意欲的に参加してくれることを期待していました。ところが応募者は僅か3名。しかも(経営陣からすれば)アイディアレベルで評価に値しないと思える内容。まさに想定していなかった結果。経営陣は公募の事務局を任せた人事部の関係者を呼び出し「社員への伝え方が悪い人事部で責任をとってくれたまえ」と厳しい言葉が投げかけました。では、どうしたらよかったのか?人事部の責任だけとは言えません。責任は社員が新商品を考えることに意欲的になる人事制度に変えなかったことにあるのではないでしょうか?本気で新規ビジネスを考えて欲しいと考える会社は評価やインセンティブなどの処遇面での反映がされています。サイバーエージェント社やリクルート社など代表的なケースかもしれません。

    頑強な人事制度よりも柔軟に対処できることが大切

    時代が変われば方針が変わる。朝令暮改とも言うが、変わっても構わない。変わったことで仕組み(人事制度)も変えればいいだけ。それがどうして出来ないのか。人事制度が複雑につくられているからではないでしょうか?

    取材したIT系企業は人事制度を大掛かりなシステム構築しており、多少の変更でも数百万、あるいは数千万のコストが発生する状態になっていました。そこまで凝り固まったシステムにしてしまったため、戦略が変わっても人事制度を変えることが出来ないのかもしれません。あるいは、人事制度を改定する専門家が社内にいないという理由をあげる会社もあります。

    確かに当社のようなコンサルティング会社にとってはありがたい話ではあります。ただ、そこまで面倒に考えなくても戦略と人事制度をつなげる方法はあります。評価制度に1か所だけ柔軟に会社の戦略を書き加えられる項目を準備しておいてはどうでしょうか?例えば、収益から新規事業に戦略が変わったら、さらに

    《今期の重要テーマ 新商品開発のため取引先の声を聞く》

    と書き込んで社員に目標を設定させる。さらに評価ウエイトを何割かおけばいいのです。そうすれば全社員(少なくとも営業職)は取引先の声を聞いて新商品プランの応募をするでしょう。社員は経営陣の掛け声よりも自分の評価を大事にするもの。ちなみにP社は評価項目に追加した翌年から新商品プランの応募は急増したようです。

    さて、戦略が人事制度と乖離しないため大掛かりな変更は不要です。小さな工夫を凝らすだけで十分。ただし、変化の度に細かく対処する心配りを忘れないでください。

     


    高城孝司 著者:高城 幸司 株式会社セレブレイン 代表取締役社長    
    1964年東京生まれ。同志社大学文学部卒業後リクルート入社。営業現場では常にトップセールスマンに。96年独立・起業情報誌「アントレ」を創刊。事業部長・編集長を歴任。2004年に自ら独立をし、株式会社セレブレインを設立。経営・人事戦略コンサルティングを手がける。『営業マンは心理学者』(PHP研究所)など、著書多数。

    無料会員で、最新情報をお知らせ!!

    ご利用規約プライバシーポリシーに同意の上、ご登録ください。

    ITトレンドLaboとは

    ITトレンドLaboはビジネスに関わる皆様のための総合情報サイトです。経営、人事、総務、情報システムなど、業務の中で感じる課題や疑問について解決策や、業務効率化のためのノウハウを研究しお届けします。