「働き方改革」って、いまどこまで進んでいる? そんな「そもそも論」を知りたくて、この人を直撃してみました。組織論のエキスパート、小笹さんです。従業員の「モチベーション」に焦点を当てた経営コンサルティングで、多くの組織を活性化させているリンクアンドモチベーションの創業者。同社は数々の企業の「働き方改革」につながる変革を支援して2017年12月期は売上高・経常利益ともに過去最高を更新。自社でも22時にオフィスを完全消灯するなど、改革を推進しています。それでは小笹さん、よろしくお願いします!

株式会社リンクアンドモチベーション
代表取締役会長 小笹 芳央さん

(役職は取材当時)

大企業は着手済みだが中小・ベンチャーは…

──「働き方改革」って、いまどれぐらい進んでいるんですか?

小笹さん(以下、敬称略):相当浸透していますよ。ただし、“大企業では”という前置きがつきます。改革のうちの「長時間労働の是正」には、ほとんどの大企業が着手済み。そして、働く時間や場所の制約を取り払ったり、副業を認めたりする「多様な働き方の許容」についても、導入が始まっています。多くの大企業では、「多様な働き方を認めた。では、そのうえで、多様な従業員たちをどう統括すればいいのか」という課題に直面している。そんな段階にあります。

──だいぶ進んでいる感じですね。でも、大企業だけなんですね。

小笹その通りです。中小・ベンチャー企業はまだ改革に対応しきれていないのが実情です。長時間労働の是正も、多様な働き方の許容も、導入の意思決定がなされていない段階であることが多いです。大企業と中小・ベンチャー企業には、決定的な差が生まれてしまっている印象です。

ベンチャー経営者の成功体験がアダに

──なぜ、中小・ベンチャー企業は遅れをとってしまったんですか。

小笹大きな要因のひとつは、トップの意識ですね。上に立つ経営者自身が“ガンバリズム”でのしあがった経験をもっています。創業直後から、自分自身が寝てもさめても仕事のことを考えているようなワークスタイルで成功しています。その体験をもとに、従業員にも「同じように働いてほしい」と求めている。それが、改革が進まない要因になっているケースが多いです。

──なるほど。しかし、小笹さん自身もリンクアンドモチベーションを起業したころは、“ガンバリズム”を実践していたのでは?

小笹そうですね。“ガンバリズム”それ自体は悪いことではないと思います。ただ、労働基準監督署をはじめ、外から企業を見る視点が、以前とは完全に変わったことを経営者は肝に銘じなくてはなりません。社会の潮流やルールに適応していくことも企業経営の重要な要素です。“ガンバリズム”をメンバーに求めている多くの中小・ベンチャー企業の経営者は、危機意識が少し薄いのかもしれませんね。

徹夜ナシで決算業務が完了する

──でも、“ガンバリズム”までいかなくても、従業員がガンガン働かないと、会社の業績は落ちていくわけですよね。

小笹いやいや、それは固定観念ですよ。むしろ、「残業してはいけない」と号令をかけると、業績アップにつながると考えます。働く時間に制限をもうければ、従業員みんなの「仕事を定時までに終わらせよう」という意識が高まる。それによって時間内に終わらせるための工夫や知恵が従業員に生まれてくるわけです。モチベーションを高く保ったまま業務を遂行してくれるから、ひいては、業績の向上につながるのです。

──うーん、ホントですか?

小笹ははは。最初はみんなそう疑うんですよね。でも、本当の話ですよ。当社の例でいうと、いまは22時にオフィスを完全消灯し、物理的に残業できないようにしています。そして、従業員が働きすぎていないか、マネジャーに厳しくチェックさせています。それでどうなったかというと、昔は「決算期末直前の2週間、管理部門は徹夜の連続で仕事するのが当たり前」でした。それがいまや、みんな22時に帰宅していて、業務の品質にはなにも問題はないんです。

「今日、22時までに絶対に終わらせなければならない」と意識するだけで、制限時間内に業務を終わらせるための工夫や知恵は現場から出てくるものなんです。自らアイデアを出して仕事の進め方を自分で考えられるので、モチベーションも高まります。また、どう考えても「毎日、残業は22時まで」という制限のなかではこなせない業務量・納期の仕事を振られたとき、「量や納期について相談させてください」と上司にいうこともできます。会社の至上命令が「22時以降の残業NG」なので、上司としてもそれを前提にして、部下に仕事を振ろうと努力するようになったんです。

「家に仕事を持ち帰れ」はダメ上司

──とはいえ、「家に持ち帰ってでも、最初にいった量と納期でやれ」と命じるマネジャーが出てきそうな…。

小笹いや、当社にはいませんね。世の中に、もし、そんな経営者やマネジャーがいるのであれば、それは従業員に甘えていると思います。「社員の時間は無尽蔵にある」。そんな前提でマネジメントしているわけですから。従業員の時間と能力の限界を見極めて、適切な業務を割り当てるのがマネジメントの本質。それをやっていないのだから、マネジメント能力が向上するはずがないですよね。

そんな本質から外れたマネジメントが行われている職場では、えてして従業員が「上司が帰らないから自分も帰れない」などと考えます。会社の席についていたとしてもダラダラしているだけ。そうなってしまうと、経営者・マネジャーのマネジメント能力にくわえて、従業員のモチベーションも向上しません。そのような状態に陥った企業が、利益をあげられるわけがないでしょう。まさに負の連鎖ですよ。

スキルを磨く場は会社だけではない

──確かにそうですね。でも、働く側からすると、「残業NG」っていわれちゃうと、「もっと働きたい」「仕事でもっと成果を出したい」という意欲をそがれてしまう気もしますが。

小笹いやいや、そんな考え方はおかしいです。もしも、働き手側が「会社から長時間労働を禁じられているから自己成長できない」というなら、それも甘えです。先ほどの話と反対に、従業員がマネジメント側に甘えているのではないでしょうか。本当に意欲の高い人材は、「労働時間が制限されていて自己成長できない」とは考えません。制限されているのは会社のなかでの労働時間だけですよね? 社外に一歩出たら、自由に時間を使えますから。

家族のために時間を使うのもよし、趣味を追求するもよし。「自己成長を遂げたいんだ」という意欲が強いのであれば、自己研さんのために時間を使えばいいじゃないですか。社外でなにか新しい刺激や発見を得ることは、いまの仕事のやり方に変革をもたらすきっかけになります。「会社に拘束されている時間だけが自己成長のための時間だ」という考えは捨て去るべきですね。

──会社にいる時間だけが成長の場ではない、ということですね。

小笹そうです。いま自分がしている仕事が20年後、30年後もあると思わないで、いつでもどこでも成長の機会をつかみとる姿勢をもつこと。以前とは違い、最初に入った会社・最初に就いた職種のままで、ずっと働き続けられる保証はどこにもないのですから。

自分をつねに磨き続けて組織や会社に選ばれ続けるように、リカレント教育の考え方をもっていてほしいですね。つねに学び直したり自分をみがき直したりして、変化し続けることを恐れないこと。それが大切です。自分に投資することを忘れてはいけません。

──自己投資の結果、身につくスキルや知識が武器になる、と。

小笹うーん、これからの時代はちょっと違うと思います。スキルや知識が身につくことよりも、「自己投資し続ける」ことのほうが重要。AIやドローンなど、人間の仕事を代替するものが日々開発されている時代ですから。自己成長するために一生懸命スキルを身につけたとしても、身についたときには古くなっていて活かせない可能性もあります。それでも、「磨いたスキルが時代遅れになってしまったら、また磨き直す」努力をする人材と、なにも努力せず停滞しているままの人材とでは、勝負は明らかですよね? だから、「自己投資し続ける」ことが大事なんです。

多様な働き方を認めないとヒトが辞めていく

──意欲の高い人材に働き続けてもらうには、企業側はどんな努力をすればいいんですか。

小笹まず「労働時間の削減」は大前提。そして、テレワークや兼業を許可するなど、「多様な働き方を認める改革」を進めるべきです。働き方の問題で不満が出ないようにしなければ、転職市場は圧倒的に売り手優位なので、すぐに従業員が辞めてしまいかねません。また、従業員の生産性とモチベーションを高める意味でも、多様な働き方を認めるべきです。

マクロな視点でみれば、これは「いま労働市場に参加している人材の生産性を高める」ことに貢献します。また、「女性やシニア、外国人といった、いまはあまり労働市場への参加者が多くない人材」に門戸を開くことにも貢献できます。「フルタイムで働くのが困難」というのが、労働市場に参加しない最大の要因ですからね。

もともと政府が「働き方改革」の旗を振っているのは、日本が労働力人口の減少というシリアスな課題に直面しているからです。労働人口減少による人手不足を解消するには、生産性を高めることと、女性やシニア、外国人に活躍してもらうこと。その両方に「多様な働き方を認める」ことが役立つわけです。

──なるほど、インタビュー冒頭で「大企業では多様な働き方を許容する取り組みが進んでいる」との指摘がありました。いちばん本質的なところの改革が、いままさに進んでいるということですね。

小笹はい。いま大企業から寄せられる相談で多いのは、「働き方の多様化は進んだ。しかし、従業員を束ねることが困難になってしまった」というものです。つまり、働き方は多様になったものの、ひとつの企業として収拾がつかなくなっています。

企業と従業員の関係は「all for one(オールフォーワン)」であり「one for all(ワンフォーオール)」である必要があります。しかし、企業(all)がひとりの従業員(one)に対して多様な働き方を許容すると、企業が従業員のモチベーションや足並みを束ねる労力が、ぐっと増えてしまいます。そのため、トップが従業員をしっかりと引っ張るためには、トップと従業員とのコミュニケーションが不可欠です(詳しくは後編で解説)。

「自社が許容できる多様性」を明確化せよ

──最後に、「働き方改革」に挑もうとしている経営者にメッセージをお願いします。

小笹いまの時代、ルールが以前とは変わったことを認識し、過去の感性は捨て去りましょう。企業や従業員を変えたいならば、「どうせ」「しょせん」という諦めの境地に至る前に、まずは「労働時間に制限をかける」ことです。

改革の推進にあたっては、ほかの企業で出始めている多くの事例から自社にあったものを取り入れていきます。その際、世の中にある事例をなんでもかんでもマネるのではなく、自社らしい事例に取り組んでみてください。当社の例でいうと、兼業はまだ解禁していません。「コンサルティング会社として機密漏えいに格段の配慮が必要であるから」といった背景があり、兼業は難しいという判断に至っています。

まずは、経営者自身が「自分たちが許容できるレベルの多様性とは何なのか」を明確にすることから始めるのがよいのではないでしょうか。

──なるほど。いま、あらゆる企業で「残業を減らそう」という動きがありますが、従業員にとっても、今後の労働市場を踏まえると、生産性を高めて自分で自由に働ける時間を増やし、自己投資し続けることが大事になっているんですね。

とはいえ、企業側が働き方に自由度を高めると、従業員や業績のコントロールが難しそうです。次回は、「働き方改革」推進と業績アップを両立させる具体的な方法について、聞かせてください!

*後編はコチラからご覧ください。
「労働市場で生き残れ!」LMI小笹会長に聞いた“働き方改革”論(後編)

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