「日本一働きたい会社」を目指すLIFULLさん。「働き方改革」の観点からも、とても先進的な会社です。ワークライフバランスを考慮した勤務体系、ITを活用した業務効率化、副業OK。でも、そうした改革を推進しているのは、決して「国の政策だから」「時流に乗らないといけないから」という理由からではありません。代表の井上さんの目線は、もっと高いところにあります。

やがてAIやロボットが人間の業務の大半を代替するようになったとき、「会社」「仕事」のあり方が大きく変わるはず。そんな未来を見据えて、いまから手を打っているのだそうです。ロングインタビューの後編では、そんな井上さんのビジョンに迫ってみました!

LIFULL 代表取締役社長 井上 高志さん
(所属・役職は取材当時)

「おいおい、働く自由を奪うなよ」

──国が旗振って「働き方改革」を推進しています。LIFULLさんでは、どう労働時間の短縮に取り組んでいますか。

ちょっと待ってください。私は「働き方改革=労働時間の短縮」という考え方には賛成しません。機械的に労働時間に制限をかけるのは、間違っていると思っています。

──えっ…。しかし、長時間労働の是正こそ「働き方改革」の第一歩ではないかと…。

ええ、過労死を招くような“ブラック”な働き方は是正されるべきです。そんな「やらされている仕事」「苦痛な仕事」を長時間続けている現場があるなら、すぐにでも改善しなくてはいけないですね。でも、「やりたくてやっている仕事」「楽しい仕事」であれば、当の本人は長時間続けていても苦に感じていないはず。内発的動機付けによる仕事については、時間に制限をかける必要はないです。この場合、機械的に労働時間に制限をかけると、むしろ働く自由を奪ってしまうことになります。

働き方改革は、多種多様な働き方を許容する変革だといえます。その「多種多様」のなかには、「育児や介護と両立させるために時短で働く」というものもあれば、「自分が心の底からやりたい仕事だから、長時間働く」というものもあっていいはずです。

──…言われてみれば、その通りですね。

そうでしょう。私個人としても、仕事と人生はイコール。「働くことそのものが、自分の人生を運んでいる」という感覚です。完全に内発的動機付けで、好きでやっていることなので、めいっぱいやりたいんですよ。「17時きっかりに終わらせなさい」なんて言われたら、「おいおい、私の働く自由を奪うなよ」と言いたくなりますよ。20代・30代の若い働き手を中心に、私と同じように考える人がいるでしょう。「自分はやりたいと思っているのにどうしてやらせてくれないのか」と思う層は、いつの時代であっても一定数いると思います。

そういう、内発的動機付けによって働くメンバーが集まっている典型例が、ベンチャー企業の創業期。これから大きなイノベーションに挑もうとしているそのとき、GoogleもAmazonもAppleも、全メンバーが労働時間なんて気にせず、情熱をもって働いたんです。創業時はネクストという社名だったLIFULLだって同じです。「長時間働くのは悪いことだから、17時に帰ろう」なんて言っていたら、絶対に創業時のこの会社は生き残れなかったはずです。

能動的に「時間の予実管理」をせよ!

──井上さん自身、「寝てもさめても仕事をしていたい」わけですね。東証一部上場企業の経営者として多忙を極めるだけでなく、「ピースウェポン運動」の提唱をはじめ社会的な活動もしています。どうやって時間を捻出しているのですか。

「時間の予実管理」を徹底的にやっています。私は「死ぬほど働きたい」と思っているので、1日の中で起きている時間、18~19時間ぐらいを「働く」ことにあてています。その「働く」時間をどう配分するのかを計画立てて管理しているのです。

たとえば、会社の成長ステージによって配分を変更しています。創業期にはなんでも私がやらなければいけないから、95%を会社に費やす。その中で、「ヒト」に注力したいから、30%は人事や採用の仕事に配分する、といった具合です。会社が発展していくと、事業推進は現場の役職者に任せられるようになります。そうすると「社外での社会貢献活動に15%割り振ろう」といった時間配分の変更ができるようになるのです。そのうえで、1ヶ月単位で、計画と実際に費やした時間とのギャップをみて、改善していきます

──なるほど、確かに「予実管理」ですね!

ええ。たとえば、「どうも現場の報告を聞く業務に、計画以上の時間を費やしているな」とわかったとします。そうしたら、定例会議をWeb会議やメールでの報告に変えて、20%費やしているところを10%に効率化させるといった具合です。受動的に時間を使っているのではなく、能動的に「こう時間を使いたい」と決めることが肝心です。

ただ「会いに行かない」のはちがう

──時間の予実管理においても、どう時間を使いたいのか、「内発的動機付け」にもとづいているわけですね。

はい。ベストセラーになった『7つの習慣』によれば、重要度が高くて緊急性の低いものを最優先しなければならない。しかし、どうしても緊急性の高いものを優先して、次々にこなすというのが人間の習性ですから、意識して「緊急性はないけれど重要度が高いもの」から優先的にスケジュールの中に組み込んでいくよう心がけないと、中長期的にみて、価値の高い仕事はできないんです。

──時間管理のために利用しているITはありますか。

Skype、Zoomミーティング、テレカンなど、対面せずにコミュニケーションできるツールは“使い倒して”いますよ。これは、社内の営業部門でも活用しています。「訪問しない営業体制」を構築して、時間とコストを大幅に削減しています。

──営業なのに訪問しない…?

そうです。会社として新規獲得営業の業務分析をしたとき、「移動時間が占める割合が高い」ということがわかったのです。また、時間にくわえて、宿泊費や交通費というコストを加えると、かなり負荷が大きかった。そこで、「移動をなくそう」という結論にいたったのです。いまでは、新規獲得営業は電話とメールを中心におこなっています。

──それは斬新ですね。でも、LIFULLさんの主な営業先は不動産会社。「会いに来い!」というような、古い体質の会社もあるのでは…。

ええ。だから私たちは、すべてのクライアントをクラスタ分析して、「この領域のクライアントには訪問するよりも、電話とメールで頻度多く連絡するほうが効果的だ」「こちらのクラスタのクライアントには、訪問して深くコンサルティングする方針でいこう」といった区分けをしています。

「見える化しクラスタ分析して最適化する」といったサイクルを回し続けて、生産性を高める。このプロセスを営業活動に限らず、あらゆる業務について適用しています。

今後、「外発的動機付け」による仕事が全部なくなる

──なるほど。では、生産性向上に取り組んでいる例を教えてください。

たとえば広告宣伝。Web広告を自動入札する作業をロボット化しています。「他社の動きを見ながら、どのキーワードの組み合わせを、いつ入札して、どのWeb媒体に出すか」といった、気が遠くなるような掛け合わせを人間がやっていた時代は終わりました。ほかには、まだ導入途中の段階ですが、RPAの活用ですね。売上の計上や請求管理などルーティンで処理できる業務はRPAに乗せる計画です。

──さすが「物件を見なければ始まらない」とされていた不動産業界に、「Webで物件を検索する」という新機軸をもたらしたLIFULLさん。最先端のIT活用に積極的ですね!

はい。でも、あと十数年が経過すると、いま最先端のITがオモチャのように感じられる時代が来ますよ。シンギュラリティ(技術的特異点)を越え、AIが人間の頭脳を超えるからです。1つのAIが全人類100億人を集結させた頭脳に勝つようになる。そこにロボティックスやIoTが組み合わさると、人間の仕事の大半が奪われますね。

いま、日本は「働き方改革」に取り組んでいます。でも、「日本は労働生産性が低いよね」「労働人口が減るよね」という課題に対して、対症療法的な改革しかできていないように感じます。本当は、「10年、15年先の“シンギュラリティ以後”を見据えて、いま打つべき手は何なのか」を議論するほうが、政策的に重要なことだと思うのです。

──でも、人間の仕事が奪われてしまうわけですから、収入がなくなっちゃうわけですよね。手を打つといっても…。

確かに、収入は大きく減るかもしれません。でも、考えてみてください。例えば、電気、ガス、水道、通信、住宅、食料、教育、医療。全部、AIが手配して供給してくれるようになれば、大きくコストが下がります。単純化していえば、収入が10分の1になるけれど、生活費も10分の1になるので、まったく支障はないわけです。

そして大事なことは、単純労働のような苦役から人間が解放されることです。外発的動機付けによる仕事が全部なくなるのです。人間の時間は有り余りますよね。そうすれば、その余った時間をクリエイティブなことに使えるようになります。内発的動機付けにより、本当に「やりたい」と思えることに、自分の能力や時間、人生を使えるようになる。未来は明るいんです。

──すばらしい! そんな時代が到来したら、「会社」はどんなふうに変わっていますか。

会社という概念がなくなる可能性がありますね。わざわざそこに属する必要性がなくなるわけですから。会社ほど大きくないコミュニティに個々で属して自分の能力を発揮したり、プロジェクトベースでくっついたり離れたりと、組織にとらわれない働き方を自ら選択するという生き方に変化していくでしょう。

「会社ってもういらないよね」という未来を想定しよう

──そんな未来に向けて、どんな改革を推進していきますか。

私たちは「時短勤務やテレワークなど多様な働き方を認める」「副業をOKにする」などといった改革は、早い段階で取り入れています。「社員が起業するときに最大20%まで出資する」という制度もあれば、本社オフィスの一部を、スタートアップやノマドワーカーに開放してオープンイノベーションを実現する場にする取り組みもあります。いろいろな働き方やチャレンジを全部、応援しています。

これらの取り組みはすべて、「会社ってもういらないよね」という時代に突入していったときのことを想定して実施しているものです。そのとき、組織の権威ではない、別の魅力が求心力となって、イノベーションを起こすコミュニティが形成されるようになるでしょう。私たちは、そうしたコミュニティの先駆者になりたい。そして、私たちのコミュニティのあり方に共感してくれる人には、ぜひ、飛び込んできてもらいたいですね。

──会社がなくなっても、「やりたいことをやりたい」という人間の欲求は不変ですもんね。「機械的な労働時間の削減」だけを追求するような働き方改革ではなく、「やりたいことだからからやる」という、社員の能動的な意欲を高める環境づくりこそ、「働きたい会社」への道だということがよくわかりました! 本日はありがとうございました!

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