「働き方改革×IT」にまつわるさまざまな“素朴な疑問”に、誰か答えを出してください! そんな編集部のワガママに今回こたえてくれたのは、サイボウズ社長室フェローの野水さん。チームワークを支援するツールを開発・提供している同社で、クラウドサービスの活用を社会に浸透させるエバンジェリストとして活躍すると同時に、カメラマンとしての顔も。「副業OK」のサイボウズさんならではの自由人です。
第1回目の疑問は「ITの進歩でどのくらい働き方が変わったのか?」というもの。TV番組制作のカメラマンとしてキャリアをスタートさせた野水さんに、TV業界を引き合いにして答えてもらいました!

サイボウズ 社長室 フェロー 野水 克也さん
(所属・役職は取材当時)

IT化はクライアントに失礼!?

──外野席からぱっと見ただけの印象論で恐縮ですが、テレビカメラマンの仕事って、野水さんがいた昔と、あまり変わっていないように思うんですが…。

ええ、びっくりするくらい変わっていないです。なんていうのかな、「ITがなにを変えたのか」という以前の問題として、まず「ITをちゃんと使えよ」って

──そうなんですか? でも、撮影のための機材って、ITのおかげですごい進歩を遂げているように見えます。

ええ、長足の進歩を遂げていますよ。昔は動画の撮影といえば、2~3人のクルーで回っていました。でも、いまは僕1人で撮影できます。なぜかというとITの力を借りているから。必要な機材の数が減り、1つの機材が小さく軽くなって、ずっとラクになったからです。たとえば、三脚がなくてもスタビライザーがあれば画像はブレないでしょ。

地方取材に行くときは、リュックの中に一眼カメラとレンズ、小型のスタビライザー、それとLEDライトとワイヤレスマイクを入れて、ドローンも入れる。これだけあれば、全国どこでもたいがいのことはできます。ひとりだからこそ「スタッフの予定を合わせてスケジュール組んで…」なんてこともしなくて済む。「明日晴れるぞ!」とわかったらすぐに行けます。サイボウズはお休みして(笑)。現場に行って、スタビライザーでクレーンショットを撮って、リモコンで操作しながらスマホをモニターにしてインタビューもしてドローンでも撮影して終了。ひとりなのでコストもかかりませんよ。

ちょっと大掛かりな機材を使う場合でも、現地のレンタカー屋さんに直送して身一つでいくだけです。

──それが最先端のテクノロジーを用いた仕事なのですね。どこまで普及しているのですか。

それがあまり広まってないんですよ。少し前、サイボウズで記者会見を開くとき、担当者が代表映像用のカメラマンを手配し忘れてしまったんです。それで「野水さん撮影してもらえませんか」という話になって。「なに? オレ今日出る側じゃなくて撮る側かよ。」なんて思いながら行きましたね(笑)。

それで記者会見が始まって、会場で周りを見渡したら、相変わらず重いカメラとでかい三脚どこのチームも、恐ろしいくらい機材が変わってないんです。20年前と同じ、「いまだにそれ?」みたいな。アシスタントを使っているのも同じで、重たいバッテリーを何個も抱えてる。びっくりしましたね。なにか、そこの会場だけが昭和にタイムスリップしちゃったような。そもそもヒマネタみたいな重要度の低い記者会見の撮影でアシスタントが必要なのかと。変えようと思ったらいくらでも変えられるのに、当事者たちがそのことにまったく気づいていないのです。

──なぜ変わらないんでしょう。誰かが抵抗しているとか…?

僕と同じぐらいの世代、おじさんが進歩することを忘れているんでしょうね。「たったひとりが軽装備で行くなんて、クライアントに失礼だ」みたいな慣習もあって、新しい技術を受け入れることをしてないんじゃないかと思います。

「おいオマエ、タバコ買ってこい」の世界

──でも、現場が抵抗したところで、経営陣が変えようとするのでは? だって、新しい技術を入れて、少ない人数で売上を上げたほうが、利益が出るわけですよね?

あくまで推測ですが、見積りを作成するとき、今でも人工(にんく)で計算しているから変えられないんじゃないかと思います。「正カメラマン1人8万円×1日、アシスタントカメラマン2人2万5千円×1日」といったやり方なので、人数が減ったらお金をもらえないんです。

人数の多さは仕上がりにまったく関係ない。でも、見積りを見るほうも人工で見てしまう。「1人減らせるなら2万5,000円安くなるね」って話になっちゃう。その考え方は、僕みたいに、ひとりでやっている人間にとって大迷惑なんです。「私は2人分の仕事をしますから高いです」という話がなかなか成り立たないからね。まあ、私は今は人工で見積もるような仕事はしてないんですけど。

──なるほど。商慣習も改革の壁になっているんですね。

はい。それに、テレビ局や制作会社の内部の慣習も壁になっています。「プロデューサーは大勢従えているから偉い」みたいなね。「おいオマエ、タバコ買ってこい」の世界がまだ続いているんじゃないですかね。「数は力だぜ、兄貴」みたいな。

私がこの業界に入った頃は徒弟制度ですからいろんな理不尽を経験しました。夜中に突然「車を出せ」と言われてね。眠い目をこすって100メートルくらい走ったら、コンビニの前で「待ってろ」と言われて。タバコ買って出てきて「帰るぞ」。えっ、このためだけにオレ起こされたのかよって。そういうことがフツーにあったわけです。

──はぁ…。いまの時代、上司が部下を私用でこきつかうなんて、それこそ「ブラック」職場あつかいされますが。

今はさすがにもうちょっとマシになっているとは思いますけど。それで、アシスタントとして過酷な日々を積み重ねて、やっと自分が上の地位になる。ようやく「自分にアシスタントがついた」となったとき、「アシスタントなしでできる世界をつくるんだ」とはなかなかならないですよね。

──「よし、オレもアシスタントをこき使ってやれ」と。

そう、運動部の伝統みたいなやつ。だから徒弟制度や年功序列制度って、すごく強い慣性の法則が働くのだと思います。なかなか変わらないし、「変えよう」という意識が出てくることさえ難しいんですよ。

ユーザーの嗜好で世の中が変わる時代

──絶望的ですね。これからもずっと…。

いやいや。さすがに、テレビの世界は今後急速に変わってくるんじゃないかと。なぜかというと、地上波のTV局の影響力が弱くなるから。すでに20代の人たちは、テレビの視聴時間よりもインターネットの視聴時間のほうが長い。そうすると、テレビにスポンサーが集まらなくなって業界自体が崩壊するわけです。

──業界慣習を守ってきた、その本丸が崩れてしまうと。

そう。そうなると、新しい勢力が出てくる。たとえばケーブルテレビとかやり方によってはチャンスだと思います。たとえばVRを導入しようとするとき、地上波のテレビ局が送信装置や電波塔を改修しようとしたら莫大な費用がかかります。しかし、ケーブルテレビならそれほどでもない。「360度映像の番組流します」というのは、ケーブルテレビ局のほうが挑戦しやすいでしょう。

たとえば、丸い部屋にスタジオが4つくらいあって、こっちはスポーツの話、こっちで時事問題、こっちは天気予報で、もう1つはお笑いをやっている。そして、真ん中にすれば全部見られるというのは、チャンネルを変えるよりラクでしょう。時事問題について報じるキャスターのうしろにコメンテーターの有識者がいて、さらにそれを飛び越えると野次馬が自由に話している。で、その中に入っていくこともできて、みんなが勝手に話しているところに参加するとか。そういう番組にチャレンジするところが出てくるかもしれない。

──楽しそう!

でしょう? 『ニコニコ動画』とか、けっこうそれに近いと思いますよ。あれって、みんなのコメントがおもしろくて見る人が多いでしょう。「そういう楽しみ方のほうがいい」という層がお金を使うメイン層になった時、世の中は変わってくるんじゃないか、と。そう遠くない話です。

──そんな未来を実現するために、なにか壁になるものはありますか。

うーん…。視聴者の恥じらいかな(笑)。あのVRメガネをかけている姿を家族に見られるのが、ちょっと…。ウチの社長の青野はまったく平気で、ゴーグルつけた写真とかSNSにアップしてたりしますが。僕はまだ自意識を越えられないんです。どうしたらいいんでしょうね(笑)。

業務を効率化するクラウドでも働き方は変えられない

──TV業界のほかに、ITの活用が進まず、業務の効率化ができない業界って、どこがありますか。

「人工(にんく)で見積もっているがゆえにヒトを減らせない」という意味では、顧客のシステム構築を行うSI業界もそうです。徒弟制度といえるものはそれほどないですが、重層的な請負関係があって、階層の末端にいる人が苦労している点では似ていますね。

──ITをつくっている業界が、そんな状態では…。

少しずつ、変わってきてはいます。たとえば我々が出しているkintoneというクラウドサービスでは、面前開発を取り入れています。これはクライアントとプログラマーが、1つの画面を見ながらその場でリアルタイムにシステム構築していくやり方です。仕様を渡されて、その通りに開発したものを提出して、確認を受けて──というやりとりが大幅に減らせますし、相談しながら作れるのでやりがいもありますし、業務効率化にもつながっています。

それに、クラウドですから家からでも出張先でもどこからでも開発が行える。これも開発者の業務を大きく効率化することに貢献していますよ。

──なるほど。やはりテクノロジーのイノベーションが業務効率化をもたらすのですね。そういう新しいやり方に、抵抗勢力みたいなものはいないのですか?

いますね。特に困っているのは知識がないがゆえによくわからないから「クラウドは危険だ」って言っている人たちですね。クラウドに保存される情報が流出してしまうリスクがあると。確かに100%安全かといえばそんなことはない。でも、「100%の安全がなければ使っちゃいけないのか」ということなんです。それは、「車の事故が無くならないから車はなくそう」っていうのと同じです。

情報セキュリティを物理的なカギに置き換えて考えてみましょう。家のカギについて、「100%泥棒に破られませんか?」と聞かれたら、どう答えますか?

──100%はムリです。

ですよね。でも、みんな「まぁこれくらいならいいだろう」というレベルの安全性で使っています。100%安全にしたかったら、玄関に10個くらいカギをつけて、窓ガラスはなくして鋼鉄の板にして…。でも、そんな不便な家に住む人はいないわけです。

クラウドも同じ。認証をちゃんとして、変なところからログインされていないかチェックする備えをしておけば、そうそう泥棒に入られることはない。守るべき財産の価値と鍵の頑丈さはバランス関係ですから、大切なことは、「こうすれば安全ですよ」ということと「こうすると便利です」ということの両方を広めて使う人が選べるようにしていくこと。どちらか一方が強調されすぎるのはおかしい。

──低コストで、現実の社会と同レベルの安全なものが出てくれば、誰かが反対しても、ITは普及していくわけですね。そうなれば働き方も変わっていくのでしょうか。

働き方は、まだもう少し後の話ですね。ユーザーが変われば商品・サービスもすぐ変わっていく。ところが、働き方っていうのは集団の話です。ひとりが変わっても、「変わり者がいるぞ」ってことになっちゃう(笑)。「変わり者」が多数派になっていくには意識改革だけではダメで、はっきり費用対効果で出てくることが必要でしょうね。「変えなければ事業が立ち行かない」というところまでいかないと、働き方は変えられないんじゃないかと思っています。個人的にはその前に気づいて変わっていってほしいと思うのですが。

──ITの進歩は確かに労働生産性を上げる。でも、業界や職種によっては、その内部慣習などの壁にはばまれて、IT導入が進まない現実もある、でも、画期的な新技術が生まれれば、その壁もいずれは崩壊していくということですね。カメラマンやプログラマーの方たちはもう少しの辛抱なのかもしれません。
野水さん、貴重なお話、どうもありがとうございました!次は、中小・ベンチャー企業の“ガンバリズム”について、ご意見をお聞かせください!

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