「働き方改革×IT」にまつわるさまざまな“素朴な疑問”に、サイボウズ社長室フェロー・野水さんに回答してもらう本企画。今回は、働き方改革推進への有力な反対論、「マネジメントが大変になるから」について。同じ時間に同じオフィスへ出社して、同じ時間に退社する。社員が同じ働き方をしているからこそ、管理することが容易になる。時短、在宅ワークなど、多様な働き方を認めてしまえばマネジメントのコストが増えてしまってどうにもならない…。そんな意見について、多様な働き方を許容することにかけては先進的なサイボウズの野水さんは、どのように考えているのですか?

(所属・役職は取材当時)
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もし企業の管理職が高校野球のマネージャーに学んだら
──自宅で仕事する人、時短勤務の人、テレワークの人など、多様な働き方を認めた場合、マネジメントコストが上がる。これってホントですか。
はい。マネジメントコストは上がります。でもね、これはいままで日本のマネージャーが、マネジメントをあまりしてこなかったということなんです。マネジメントコストがほとんどかかってなかったものが必要になるから「上がった」と認識してしまうだけです。いちばんの問題は、いまマネージャーがマネジメントの仕事をしていないことでしょう、と。
──それでは改めて、「マネジメント」の定義を教えてください。
今の場合は「権力を使わずに、メンバーの気持ちを会社の理想に向かわせること」かな。うまい言い回しではないかもしれませんが。少なくとも「管理」ではないですね。マネジメントって日本語にしにくいんです。「高校の野球部のマネージャーがやっていること」っていう説明をしたほうが、わかりやすいかもしれませんね。
──野球部のマネージャーですか。少し前に、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』という本が話題になりましたが。
あの本だと、高校野球のマネージャーがプロのマネジメントを学ぶ話になりますが、むしろホントのマネジメントをしているのが女子高生なんだと思うんです。名称が「マネージャー」なだけで、野球部のマネージャーレベルにも満たない企業の管理職って多いんじゃないでしょうか。
──野球部のマネージャーのやっていることの、どこが「ホントのマネジメント」なのですか。
甲子園という目標に向かって、部員たちがやる気を出して気持ちよく練習できるように周りの環境を整える。そして甘い言葉をかけたり、尻を叩いたりしながら目標に向かわせていく。決して権力を使って練習させているわけではありませんが、優秀なマネージャーがいるだけで部員のやる気がぐんぐん増します。マネージャーの仕事はまさにこれです。
──野球であれば、企業のマネージャーとよく対比されるのは監督だと思います。
そうですね。でも、本来の監督の役割は、どちらかといえば試合に勝つこと。戦術面に重きを置いています。企業でいうとプロダクトマネージャー、製品が売れるために全力を尽くす人と同じ役割です。一方、ヒトの側面はリソースマネージャーの担当。極端な言い方になりますが、この役割を果たしているのが、高校野球なら野球部のマネージャーなんです。
ヒトに働いてもらうためには、野球部のマネージャーと同じで、権力でどうこうするものではありません。権力ではないマネジメントスキルを使って、ヒトの気持ちを共通の理想に向けていく。それこそマネージャーの仕事なんです。
マネージャーは学校の先生じゃないんだから…
──うーん、でも、「部長の命令だ!」というのが権力ですよね。それ以外のスキルをもっている管理職って、どれぐらいいるんでしょう。
最近は増えてきましたが、中小企業ではまだまだ少ないんじゃないでしょうか。最初にいったように、マネジメントをちゃんと学んでないし、親のマネをしているだけですからね。
──どうして権力を行使してはいけないのですか。
言われたことしかやらなくなるからです。それでは人も会社も成長できません。逆に、メンバー全員のやる気がマックスになっていて、みんなの目標が一致していれば、あとはマネージャーは寝ていても、売上も上がるし新しいアイディアも湧いてきます。その状態をつくり出すのが、マネージャーの仕事なわけです。でもみんな、評価とかで点数をつけるのがマネージャーの仕事だとカン違いしている。学校の先生じゃないんだからって話ですよ。
──えっ。評価がマネジメントの核心だと思っていました。
評価の基準がそもそもバラバラで戦略的でもないですよね。だいたいが自分の言うことを聞くかと、当期の短期的な成績で評価して点数をつけています。それは○○マネージャーという特定の人からどう見えたのか。たったそれだけのこと。これから成長して10年も20年も働いてもらうかもしれない人を、今の上司にだけ最適化させてどうするんだって思うのです。
──なるほど。「マネジメントコストが上がるから多様な働き方を認めたくない」って言っている人は、そもそもマネジメントがなにかをわかっていない人であると。
そうです。それはマネジメントコストじゃなくて管理コスト。管理がしんどくなってくるのなら、コストのことばかり気にしていないで、管理のやり方を変えればいいのです。ただそれだけのこと。
──でも、「同じ場所で同じ時間、働くから管理できるんだ」という意見は根強くありますよね。
それじゃコンビニエンスストアのバイトの仕事のチェック表と一緒じゃないですか。「トイレの掃除をした人はチェックマークを入れなさい」とか。誰がどこでなにをやったかなんて、そんなことはどうでもいいんです。子どもじゃないんだから、いちいち気にするなってことですよ。

理想を考えられるのが理想のマネージャー
──では、多様な働き方が許容される時代のマネジメントって、どういうものであるべきなのでしょう。
「甲子園」というすばらしい目標を自分でつくることができるマネージャーがいたら、それは理想でしょう。野球部のマネージャーには、「甲子園」という理想がすでにあるわけですが、企業のマネージャーの場合、目指す理想を自分でつくることができて、そこに向かう環境を整えることができたら最高です。
──難しい仕事ですね。いまのマネージャーの役目といえば、「期限内にこれだけの成果を上げてくれ」みたいなことばかりですから。
そこもたぶん変わってくるんじゃないかな。生産効率を求めればいいという考え方がこのまま続くわけはないでしょう。むしろ、「思いもかけないものを出してくれ」みたいな。
たとえば、総務の人の仕事だったら、いまは伝票10枚を書くのに30分かかっている、と。それを「25分にしたら目標達成」というのが従来型のマネージャー。でも、「伝票を書かなくて済むように変えよう!」というのがよりいいマネージャーですね。
──なるほど「この業務をやってくれ」ではなくて、「この業務のやり方を考えてくれ」ということですね。
そうです。だからたとえば総務部長だったら、「総務部がなくてもいい会社にしよう」というのを目標にしたりね(笑)。それってかなりステキな目標だと思うんです。
──大胆な目標ですね。部下から反対されそうですが。
「理想が実現したその日から、私は仕事がなくなって食べていけないです。どうすればいいんですか」って話になるでしょうね。でも、伝票を自動化していくプロセスを考案して実行できたら、「自動化プロセス導入コンサルタント」として自立できるかもしれない。ほかの企業でスーパー総務として雇ってくれるかもしれない。あるいは同じ会社のほかの部署で業務効率化のスペシャリストとして迎え入れてくれるかもしれない。個人としてステップアップでき、キャリアの選択肢が増えていくことになるわけです。それこそが成長ですから。
──カッコいい。部長についていきます!
でも、現実にはいないです(笑)。かなり理想が高い、究極というか、「そうなったらいいな」という話ですね。いまの大半のマネージャーの悪いところは、自分の部門の人数をやたら増やそうとするところです。「数は力だぜ、アニキ!」ってわからなくはないですが(笑)。
──誰に聞いても、「忙しいから人員を増やしてくれ」って言いますよね。
全員、言いますね。誰に聞いても「足りない」って言う。でも、同時に給料上げてくれっていうんですよね。人数増えて同じ売上だったら、給料下がるじゃないですか。上がる方がおかしい。毎年10%給料を上げていきたかったら、コスト部門だったら毎年10%効率を上げなければダメでしょ。それなのに、同じ売上なのにヒトを増やすってことは、一人あたりの給料は減る。マネージャー自身も含めて。当たり前のことなのに、なぜみんな「ヒトを増やしてくれ」って言うのかなと思っちゃいます。
──むやみに「ウチの部署のヒトを増やしてくれ」はダメなマネージャー。「ウチの部署がなくなってもいいようにしよう」が理想のマネージャー。一見、過激な主張に見えますが、実に理にかなっていると思います。多様な働き方を許容した先には、そんな新しいマネージャー像があるわけですね。今回も目からウロコのお話をありがとうございました! 連載ラストは、“理想の職場”について、伺わせてください!
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