株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS 代表取締役社長CEO 宇野 康秀さん
(所属・役職は取材当時)

宇野康秀さんといえば、ベンチャー界隈で知らぬ人はいない存在。25歳で求人情報雑誌を発行するインテリジェンス(現:パーソルキャリア)を起業し、2,000年に同社が株式上場する基盤をつくりました。家族の事情で、有線放送事業をいとなむ大阪有線放送社(現:USEN)の経営を受け継ぎ、2001年に株式上場を実現。その後、同社の経営危機からのV字回復に導いた後、動画サービスを手がけるU-NEXTを立ち上げ、2014年に株式上場を果たしました。

実に、3社の株式上場に携わった宇野さん。起業家といえば、Appleの創業伝説でも知られるように、熱中して働いて、世の中にない新しい価値を生み出しているイメージがあります。もしも「長時間労働は悪いことだから、夕方5時になったら帰りなさい」なんて強制されていたら、宇野さんが率いた3社の株式上場も、USENの経営危機の克服も、そして、いまのUSEN-NEXT GROUPさんの成功もなかったんじゃないか…。

現在、USEN-NEXT GROUPさんでは、オリジナルの働き方改革として、「Work Style Innovation」を推進中といいます。もうUSEN-NEXT GROUPさんは、がむしゃらに働いて世の中に新しい価値を提供することをやめて、落ち着いた中堅企業として今後運営していくのでしょうか? そんな疑問を、当の宇野さんにぶつけてみました!

働く「時間」ではなく「熱量」を増やせ

──日本有数のベンチャー起業家である宇野さんに、単刀直入におうかがいします。いま、世間をにぎわせている「働き方改革」について、どんな意見をもっていますか。

そうですね、ひたすら「労働時間を削減しましょう」と、それだけを推進する動きには疑問を感じています。労働時間の削減は重要です。ただ、まず思い返してほしいのが、企業はつねに競争をしているということです。とくにベンチャー企業なら大企業の何倍も働かないと追いつけないでしょうし、ベンチャー同士の競争でも他社より何倍も働かないと生き残れません。メンバーの「働く量」が「結果」につながることは往々にしてあると思っています。

ひと昔前、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの方からおもしろい話をききました。「自分たちが投資するかどうかは、土日にその会社の駐車場に車が何台とまっているかで判断する」と言っていました。あちらは自動車通勤が普通。休日返上でメンバーが働いているところに投資するというわけです。そのくらい「働く量」と「結果」の関係性は強いのです。

ただし、その「量」の意味するところが問題です。「長い時間、働けばいい」というよりは、「たくさんの熱量をもって働く」という話なのだと思っています。

──「熱量」ですか。

ええ。「この仕事をしているのがおもしろくて仕方ない」という想いだったり、「この事業をなんとしても成功させなくてはならない」という使命感だったり。もしくは「この会社で働いていることが最高に楽しい」という感情だったり。そこの話だと思うんです。仕事や事業や会社に、より多くの熱量をもって働くことで、結果につながるんじゃないでしょうか。労働時間を増やすのではなく、熱量を増やすことは可能です。

手を使う時間が減った分で頭を使う

──なるほど。でも、宇野さん自身、がむしゃらに働いてきたからこそ、いまの成功があるのではないでしょうか。

ええ。私も昔はとにかく長時間、働いていました。でも、いまは違います。「オフィスに長くいる必要はまったくない」と気づいて、働き方を変えました。

──そうなんですか! 昔といまとで、なにが変わったのでしょう。

ITの進化です。昔は文字を打つのにワープロで…。パソコンに入っているワープロソフトじゃなくて、「ワープロ」という機械があったんですよ、若い人にはわからないかもしれませんが(笑)。予測変換の機能がない、とても原始的な機械で1字ずつ変換して文字を打っていました。長い時間かけて、ようやくテキストだけのプレゼン資料を作成できた。それがいまや、アニメーションや動画を組み込んだプレゼン資料を、あっという間に作成できる。技術革新によって自分たちがやっていた仕事の大部分が簡略化できるようになったんです。

確かに、昔の私自身をはじめ、ベンチャー企業のメンバーは長い時間、働いていました。でも、その時間の大きな部分を、「手を動かすこと」が占めていたんです。働いている時間の中で、より重要なのは「頭を動かすこと」です。ITの進化によって、「手を動かすこと」に割く時間を大幅に減らせるようになりました。その分、「頭を動かすこと」に時間をあてられるわけです。

──そうか、宇野さんが先ほど指摘していた「仕事への熱量」は、人間の心理的なものでした。「頭を動かすこと」がより多いほうが、より熱量の多い働き方だといえますね。ITが発達したことで、長時間労働をすることなく、熱量をより多くすることができるようになったんですね。

そうなんです。それに、「頭を動かすこと」が仕事の価値だとすれば、そもそも表面的な労働時間なんて関係なくなるんですよね。オフィスで机に向かっていても仕事以外のことを考えているときだってあるでしょう。反対に、オフィスにいないけれど仕事のことを考えている瞬間だってあるはずです。だから、「働く場所」や「働く時間」に制約をもうける必要はないんです。

「ベンチャーだから長時間働く」は誤り

──うーん、理屈はそうでも、働く場所や時間を管理しないとなると、統制がとれなくなってしまいませんか…?

「働くこと」についてのみんなの意識が変われば、大丈夫です。働く側である一般の社員の意識と、働かせる側である管理職の意識と、両方が変われば。

これまでは、定刻までにオフィスに出勤して、退勤時間までは必ずいて、その後、長く残っていれば残っているほど、「働いた」ことになっていました。その意識を変え、どこにいたのか、どれだけの時間をかけたのかに関係なく、多くの熱量をもって仕事をすればするほど「働いた」ことになる。これからは、そんなふうに意識を変えていくべきです。

だから、ベンチャー企業であっても「とにかく長時間働かなきゃいけない」というのは違うと思います。時間ではなく、より頭を動かすこと、より多くの熱量をもつことにフォーカスするべきなんです。

──では、「熱量の多さ」をどんな基準で判断したらいいのか教えてください。

単純に言うと「結果」ということになります。たとえば、私が社員の誰かに「企画を出してほしい」と依頼したとしましょう。企画があがってきたとき、完成した資料が何時間かけてつくったものか、何ページの文書か、それは私には関係ありません。そのアイデアが良いかどうかだけが重要。「これは多くの時間をかけてつくったものです」と言われても、それによって「生み出したものの価値」=「結果」が変わるわけではありませんから。

「結果」での評価が生産性の向上につながる

――「時間」ではなく「結果」で仕事を管理するわけですね。ただ、現状の法律では「労働時間で管理しましょう」となっているので、難しい面もあると思います。

もちろん、法の範囲内で改革を進めていくことが前提です。ただ、働く時間を自分でコントロールできるようになり、「結果」だけで仕事の価値が評価されるようになったら、多くのビジネスパーソンは「より短い時間でよりよい結果を出そう」という意識を強くもつようになるでしょう。そうなれば、法定労働時間を超えるような長時間労働はどんどん減っていくようになると思いますよ。

──なるほど! 確かに、「結果だけで評価される」となれば、みなさんより効率的によい結果を出そうと努力し始めるでしょうね。画一的に「17時過ぎたら帰りなさい」なんて強制するよりも、よっぽど生産性向上につながりそうです。「時間」よりも「熱量」を。宇野さんのそんな考え方を起点にして、いま、USEN-NEXT GROUPでは「Work Style Innovation」という働き方の変革を推進しています。 インタビュー後半は、グループをあげて取り組んでいる改革の具体的な中身について聞いています!

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