「通常業務が忙しくて『働き方改革』を考える時間がない」―。
2018年2月、人事部門をはじめ「働き方改革」にかかわる部門に所属している500名へのアンケート調査で、まず「働き方改革」を推進する人たちの「働き方改革」が必要なことが浮き彫りになりました。
では、どうすれば人事部門は改革推進のための時間をつくれるのでしょう。この調査を実施した、人事領域に特化したITコンサルティングサービスを提供しているオデッセイ代表の秋葉さんに聞いてみると、「ロボットに業務を任せればいい」という、意外な答えが──。

株式会社オデッセイ
代表取締役社長 秋葉 尊 さん
(役職は取材当時)

いまの「働き方改革」はうわべだけ!?

――オデッセイさんが実施した調査では、「働き方改革」に「必要性は感じているが、取り組んでいない」との回答が2割以上。取り組んでいるところでも「成果に満足していない」との回答が過半数を占めていました。国が旗を振っているにもかかわらず、企業側の取り組みは進展していない。衝撃的な現実です。なにが「働き方改革」を推進するうえで壁になっているのでしょう。

「本当にできるのか」と疑う心理ですね。「働き方改革」に取り組む前段階のところで、立ち止まっている企業が少なからずあるんです。その要因のひとつに、いまいわれている「働き方改革」の対象がホワイトカラーだということがあります。日本では、これまでに大手メーカーを中心として、生産現場の生産性向上にチカラを入れてきました。だから、ブルーカラーの生産性については可視化されています。「あの人は、このラインで1分間に14個のネジをつくれる」といった具合です。そして、生産性を向上させるための方法論やツールがどんどん開発され、取り入れられてきました。

でも、ホワイトカラーの生産性は手つかずのまま。どのスタッフが、どれだけの仕事をしているのか可視化されていないですし、生産性向上の手段もわからない。だから「改革に取り組んでいる」というところでも、「従業員を退社させるため21時に強制的に電源を落とす」といったやり方が多い。第一歩になる取り組みではあるものの、本質的とはいえません。そうした施策ばかりだと、従業員側は「うわべだけだな」と感じてしまい、「自分の仕事の生産性を向上させよう」と本気で思えないでしょう。結果、取り組みの成果は中途半端なものに終わってしまうわけです。

カギは「人を動かすチカラ」をもつメンバー

――では、従業員が「これは本気だな」と思うような「働き方改革」を推進するために、どんな体制で取り組めばよいのですか。

改革を推進するプロジェクトチームのメンバーに、「人を動かすチカラ」をもつメンバーを選ぶことです。会社のなかでいちばん強いチカラをもっているのは経営者なので、トップの関与は不可欠。それにくわえ、各部門の代表者として、その部門のなかで「実際にヒトを動かしている」メンバーを選ぶのです。役職とか年次にかかわらず、周囲への説得力があり、「この人がいるからウチの部署は回っているんだよな」と認められているメンバーが、各部署にひとりはいるはずです。そういうメンバーが自部署の改革を主導しないと、現場は動きませんから。

人事部門を定型業務から解放せよ

――なるほど。とはいえ、働き方改革推進プロジェクトの中心になる人事部門は、通常業務に追われていて、働き方改革のための施策を企画する時間がとれないのが実情です。オデッセイさんのアンケート調査でも、そんな悲鳴のような声があらわでした。

はい。そこで、人事部門にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することを勧めています。たとえばデータ入力・照合、オフィスソフト起動、Web参照、メールの送受信など、マニュアル化された定型業務であれば、ほとんど人間の代わりにやってくれます。管理部門でいえば、交通費や出張費などの経費精算業務もこれにあたります。メンバーから申請書をメールで受け取り、経路や金額の確認を終えるまでの一連の業務をRPA化できる。

今後、RPAにはAIが組み込まれ、人間と同じように「判断する」業務もこなせるようになるでしょう。いまはその段階にいたっていませんが、それでも、あらかじめ判断基準を明確なロジックとして決められるようなことであれば、的確に判断できます。

――RPAを業務に取り入れることは、「働き方改革」のいちばんの目玉である「労働時間削減」に直結するわけですね。

その通りです。RPAは、日々の定型業務から従業員を解放します。そして、人事をはじめ管理部門のスタッフについていえば、定型的な通常業務はRPAにまかせ、働き方改革推進のための時間を生み出せばいいのです。

タレントマネジメントで非定型業務も効率化

――しかし、人間がやらなくてはならない業務も残ると思います。それを効率化する方法はありますか。

その点も、ITで解決できますよ。なかでも最近、注目されているのはタレントマネジメントです。これは、従業員のもつ能力やスキルをはじめとするプロファイルデータを一元管理して活用するシステム。それによって、人事部門の業務効率化につながります。

これまでは、たとえば、ある人材についての情報が、「履歴書がロッカーに入っている」「人事のPCに過去の評価ランクが入っている」「上司のPCに評価面談のときのログが入っている」「本人の今後のキャリア目標は人事スタッフの頭のなかに入っている」といった具合に分散している。経営者が当人を抜てきするかどうか判断したいとき、「データを出してくれ」といわれて、人事スタッフが大あわてで情報をまとめる。こんなことがよくあります。タレントマネジメントで一元管理すれば、すぐに経営者が求める情報を取り出せるわけです。

そして会社全体での「働き方改革」の実現にもなります。適材適所の配置を実現し、仕事と人材のミスマッチによる労働生産性の低下を防止できるからです。自分にあった仕事に携われることでモチベーションが上がり、生産性が向上することも期待できます。

――これまでも人事部門向けのシステムがあったと思います。違いはなんでしょう。

「人材に活躍してもらう」ことをメインの目的にしている点です。従来のシステムは給与計算の効率化をメインの目的としていました。いわば、「人材が活躍したあと、その活躍を評価し、給与で報いる」業務を効率化するシステムでした。これに対し、タレントマネジメントは「これから人材に活躍してもらい、個々の能力を最大限に発揮してもらう」ためのシステムです。

これまでは、グローバル展開している大手企業が、国際競争に打ち勝つためにグローバルで採用した人材の管理に活用しているケースが多かった。でも、最近は国内を主戦場にしている、中堅企業やベンチャー企業の導入例が増えています。

――どのように活用している例がありますか。

たとえば従業員のアセスメント・テストの結果をデータベースに取り込んで、社内で高い成果を継続的に出している従業員のコンピテンシー(行動特性)の共通点を抽出。それを人材採用に活かし、「すぐに活躍してくれる人材」の要件を定義するのに役立てている例があります。また、そうした高い成果をあげる可能性がある人材の情報を整理し、「将来活躍する人材の要件」を明らかにしたうえで、若手社員のなかからハイパフォーマーとして抜てきし幹部候補として育成している会社もあります。

性格や意向、資格情報など多様なデータを入力し、適材適所の配置に役立てている例は数多くあります。これまで、人事スタッフの頭のなかと、PCのなかにあった情報が整理されたカタチであつかえるようになり、経営陣にとっては「人材情報の見える化」になります。

人手不足はまだまだ序の口

――最後に、「働き方改革」プロジェクトを推進する総務・人事担当者にアドバイスをお願いします。

日本が抱える喫緊の課題は「少子高齢化による労働人口の減少」です。総務省が発表したデータによると、日本の人口は2030年には2013年に比べ15%減、2060年には50%減との見通しが打ち出されています。いまの半分ですよ。現在の労働人口の減少は、まだまだ序の口なのです。

従業員が半分になった状態で現在の企業力を維持するのは、非常に困難です。企業を取り巻く環境がこれからさらに厳しくなることを見越して、今のうちに対策を打つ必要がある。RPAもその有力な選択肢なのです。

――なるほど。従業員が減る分、ロボットに仕事をしてもらうわけですね。まず人事部門から導入すれば、会社全体の「働き方改革」推進のために動く時間も生み出せるので、まさに一石二鳥ですね。今日はありがとうございました!

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