
「全ての職員が働きやすく、それぞれの能力を最大限発揮し成長を実感しながら、組織として成果を出す働き方」の実現を目指し、総務省内に発足した「働き方改革チーム」。総務省の働き方改革の特徴は、若手によるボトムアップで推進されていることです。
※インタビュー前編はコチラ。
当たり前のことを当たり前に改善していく 若手官僚による働き方改革(前編)
立候補した課長補佐・係長級の職員25名でチームを組成し、施策の立案と実行を任せたのです。男性17名・女性8名のチームは、平成30年1月から6月までの半年間、6回の全体会合と3班にわかれての議論を実施。班ごとにいくつかの改善提言を取りまとめました。
- ①意識改革班
-
- 各種制度に対する職員全体の認知度を上げたい。もっと利用しやすい雰囲気をつくりたい
- 役所の働き方の常識を疑い、みんなにとって働きやすい環境をつくりたい
- 管理職にもっと危機感をもってほしい 等
- ②業務改革班
-
- よくある業務について業務フローの見直し&合理化を行い、標準化した具体的なやり方を各部署に提案する
- 組織としての意思決定のスマート化
- 各職員の効率的に業務を行う基礎能力を向上したい 等
- ③働きやすさをサポートするインフラ整備班
-
- 勤務時間の柔軟化
- モバイルワークを行いやすくする
- 勤務、育児休業などの見える化
- 空調、エレベーターなど基本的な勤務環境を改善したい 等
▼参照:総務省働き方改革チームの活動報告
http://www.soumu.go.jp/main_content/000560577.pdf
今回、チームメンバーの中でインタビューに応じてくださった中川さんは、「インフラ整備班」に所属。まずは、全職員アンケートでも要望の多かった「庁舎内が暑い」「会議室を予約できない」という課題について、どう解決していったのかを聞きました!

(所属・役職は取材当時)
小さなことでも「変わった」と実感できる成果が…!
──働き方改革について議論する中で、「オフィス内が暑い」という身近な不満が浮き彫りになったそうですね。民間企業でもよくある問題ですが、個人によって「仕事に集中できる温度」は違うので、調整が難しいと思います。「働き方チーム」はどういった提言をしたのでしょう。
「暑いと思ったとき、どこに連絡すればどう対応してもらえるか、ルールを明確にして周知してほしい」という内容を提言に盛り込みました。空調の温度調整は各部屋で操作できない仕組みなので、これまでは不満があっても我慢するだけでした。どこに連絡すれば空調の設定を変えてもらえるのかも知らない職員のほうが多いですし。
──どこが管理しているのですか。
庁舎の設備機器を管理している部局です。私たち「働き方改革チーム・インフラ整備班」は、その部局に「オフィスが暑い」問題を相談しました。最初は、煮え切らない感じでしたね。「空調の設定温度は規則で決まっているので…」といった反応だったんです。
――よくわかります。大規模な民間企業でも、総務部門に空調の問題を相談すると、たいていは同様のリアクションだ、とよく聞きますね。
そうでしょうね。でも、私たちの場合、全職員のアンケート調査結果という、強力な根拠がありました。それを提示すると、「そんなに多くの職員が問題に感じていたのか!」と。さらに、働き方改革チームには3名の政務官が顧問についているのですが、その中のひとりの政務官の方には、一緒にその部局にかけあってもらいました。その結果、その部局の方々にも「全省をあげた取り組みだから、改善しなければならないんだな」という意識が生まれ、協力してもらうことができました。
結論として「空調の温度は操作できないが、風量は変えることができる」ということになりました。暑く感じる部署は、その部局に申し出て、風量を強くしてもらう。それで体感温度を下げられます。提言して以降、「オフィスが涼しくなった」という声をあちこちから聞いています。
“ルールの明確化”と“システムによる見える化”で改善
――職員のみなさんが実感できる成果があがっているんですね! では、インフラ整備班であがった別の課題、「会議室がとれない」はどうなったのでしょう。
まず、問題が生じる原因を分析していきました。根本は、会議室の絶対数が少ないこと。これに従って生じていたのが「早い者勝ち」の会議室の予約競争です。会議室を使うかどうかも決まっていないのに、先に押さえてしまうという実態が横行していたんです。本当に会議室を使いたい人は「キャンセル待ち」という状態が頻発していました。
そこで、提言には「『キャンセルにはペナルティを設ける』とか『絶対に使うと確定してからしか予約できない』などの明確なルールをつくりましょう」といった内容を盛り込みました。また、現状では、「何人のキャンセル待ちがあるのか」もわからないので、システム上でキャンセル待ちを「見える化」することも提言に入れました。その提言をもとに、いま、システム改善の打ち合わせが進んでいるところです。
――具体的な改善プロジェクトが進んでいるんですね。でも、そもそも「会議室の絶対数が少ない」のが問題なのでは…?
その通りです。本来なら会議室を増やしてほしいところ。でも、庁舎のスペースには限界があります。そこで各執務室でペーパーレス化を進め、書類を保管する場所を削減したり、レイアウトを変えたりして、簡単な打ち合わせが執務室内でできるスペースを確保しようという動きになっています。現状、少人数での会議なのに、大きな会議室をおさえるということも横行していたので。
ほかには、フリーアドレス制の導入の話も持ち上がりましたね。会議を好きな場所でできるようになるはず。ただ、これは官庁では相当に革新的なので、一部の部局では既に導入されていますが、全部局に広げるとなると、職員の意識が相当に変わるまでは導入は難しいでしょうね。

幹部の意識改革なくして働き方は変わらない!
――うーん、確かに。職員の意識を変えるために、「働き方改革チーム」の意識改革班はどんなことを提言しているのでしょう。
局長をはじめとする幹部職員の意識変革を促すために、「働き方宣言」を発信してもらうことを提言しています。
これは、幹部職員に自らの働き方のルールについて部下にお願いしたいメッセージが含まれています。たとえば…
- 私は、業務分担の最適化をはかります。
⇒ムダな業務や優先順位の低い業務は削減します。 - 私は、ペーパーレス化を進めます。
⇒局内の打合せは、各自PCを持ち込み、ペーパーレスで行います。 - 私は、効率的な業務の遂行を推進します。
⇒最初に完成イメージを伝え、手戻りを極力減らします。
といった宣言文を、各自で作成、全職員に公開するんです。
働き方改革を進める上で、もっとも重要なのが幹部の意識変革。とくに役所は上下関係がきっちりとしているので、幹部の影響力は大きいんです。それに加えて、ジェネレーションギャップの問題もあります。
多くの幹部の方が「自分は働き方について進歩的だ」と思っていらっしゃる。確かに、幹部の方の若いころと比べたら、働き方はずいぶんと変わっているんでしょう。だからこそ実感として、進歩的だという言葉にウソはないと思います。
しかし、いま時代は大きく変わっているので、そこからさらにもう一歩踏み出していただきたいなと。そのために、幹部のみなさんが、こうした宣言を発信し、他人ごとではなく、自分のことだと思って取り組んでいただくことには、とても大きな意味があると思います。
1回の提言で終わらせない。
──それはとてもいいアイデアですね! 若手で構成されたチームの提言らしい新鮮さを感じます。「働き方改革チーム」は第二期もあるのですか?
あります。私見ですが、次はチームメンバーを課長補佐・係長級に限定せず、幅広く募集するのもいいかもしれません。幹部には幹部の悩みが絶対にあるでしょうし、1年目の職員にも悩みがあるはずです。いずれにせよ、1回で終わらせるのではなく、継続して議論していくことが大切です。
――最後に、民間企業が働き方改革を進めていく上でのヒントがあれば、教えてください。
まず、職員が働き方改革について話し合える「場」をつくることが重要です。そして、その場をつくるために必要なのが、トップの一声。トップが口火を切らないと、意識の高い職員がいても、たったひとりで「改革しよう」なんて叫べないですから。
ぜひ経営者の皆さんには働き方改革を実行するための“第一声”をあげてほしいと思います。そうすれば、きっとたくさんの社員がこたえてくれるはずです。私たちも、国民のみなさまや企業の方々に示しがつくよう、今後も働き方改革に取り組んでいきます。

――まずトップが「改革するぞ!」と“ツルの一声”を発する。それから、若手中心のチームに具体的なことは任せる。そうすることで、ボトムアップによる働き方改革が実現するわけですね! 役所という、民間企業とは別の論理で動く組織とはいえ、民間でも参考にできることがたくさんありました。本日はありがとうございました!
いいね!をして
最新記事を受け取ろう