株式会社エンファクトリー 代表取締役社長 加藤 健太さん
(所属・役職は取材当時)

「専門的知識を活かした仕事をしたい」「フリーランスとして活躍したい」など、自身のチカラで働いていこうとしている人たちをサポートするマッチングサービスなどを提供しているエンファクトリーさん。2011年に設立されたベンチャー企業です。

働き方改革が推進されるようになって、社員の副業を認めるかどうかの議論がさかんになる中、テレビやネットでエンファクトリーさんがたびたび紹介されています。2011年から「専業禁止!!」という方針を掲げて、社員が自社の仕事に専念することを禁止しているからです。いったい、どんな考えから社員に “副業することを義務づける”ようになったのか? みんながほかの仕事をしていて、会社としてまとまれるのか? そんな疑問を、エンファクトリー代表の加藤さんにぶつけてみました!

副業だけが「悪者」にされるのはおかしい!

──「副業を認めるのか、それとも禁止し続けるのか」という議論をしている会社が多いと思うのですが、エンファクトリーさんは「専業禁止!!」というキャッチフレーズを掲げています。加藤さんが考えたフレーズなんでしょうか。

うーん、忘れました(笑)。たしか創業メンバー数名で話してて、「専業禁止やっちゃう?」みたいなノリでスタートしたんじゃなかったかな(笑)。本当は、禁止はしてないんですよ。実際、4割ぐらいの社員は副業をやっていないですし。「好きにやっていいよ。会社は絶対にジャマしないから」ということを伝えたくて、こんなフレーズになったんです。

でも、エッジのきいたフレーズだったので、テレビが取材に来るし、今日もこうして『ITトレンドスタイル』に取材してもらっている。ネットでアーカイブもされている。採用や会社のブランディング、PR面では、かなり効果があったと思っています。

──しかし副業を認めてしまうと、「仕事に専念してくれないから生産性が悪くなるんじゃないか」「セキュリティリスクが高まるんじゃないか」といった不安を抱き、二の足を踏んでいる経営者も多いと思います。

それって別に副業でなくても一緒だと思うんですよ。たとえば、子どもが生まれて、かわいくてそのことばかり考えてしまう。彼氏にぞっこんで仕事に身が入らない。生産性、落ちてますよね。副業のことばかり言われるけど、どう違うのかと思うのです。

情報漏洩の話も同じで、友達とお酒を飲んだ時、会社のことを話すこともあるでしょ。副業をしていない人は、会社の情報をほかに伝えていないのか、会社の仕事に集中しているのか。そんなことはない。副業だけを悪く言うのは、おかしいですよ。

社員が勝手にミニ経営者として成長してくれる

──確かに、そうですね。しかし、デメリットがそれほど大きくないとしても、社員が副業することは、会社にとってなにもメリットがないような気が…。

いやいや、そんなことはないですよ。まず、社員が勝手に成長してくれます。研修費とか、会社はいっさいお金を出していないのに、ものすごく成長してくれる。別に会社へのメリット還元をねらって始めたのではなく、やってみてわかったことですが。

当社では“副業”ではなく、フクはフクでも“複業”という言葉を使っています。会社の仕事以外に主軸がほかにもある、ということです。「コンビニでバイトして少しでも収入の足しにする」というような“副業”ではない。小規模でも経営者として事業を自分で営んで、メインのワークをもうひとつ持つ“複業”を奨励しているんです。確定申告とか、事業運営をひと通り経験すると、マネジメントができるようになるんですよ。

──なるほど! パラレルワークを推進することで、よりコストをかけずにマネジャーを育てることができる、と。

ええ。「数字をつくる」っていうことはどういうことなのか、自分がやっていることが給料とどう結びつくのか。そういうことがわかる人材が増える。経営的視点でものが見えるようになるから、マネジメントができるようになるわけです。組織のリーダーとして事業の数字をしっかり見ながらコントロールできる。

そのことは結果にもあらわれていて、当社は創業以来、7期連続で増収増益なんです。…こんなこと言って、今期の業績が不振だったら困るな (笑)。

社員が勝手にお客さんを引っ張ってきてくれる

──ほかに、社員の複業を推進して、会社が享受しているメリットはありますか。

社員が社外からいろんなネタを引っ張ってきてくれることですね。新しい案件とか新事業のアイデアとか新サービスのモデルとか。疑似的なオープンイノベーションといったらいいのかな。パラレルワークで起業した社員が公庁の大きな案件をもってきたこともあります。

パラレルワークができる人、起業できる人って、要するにビジネスパーソンとして優秀な人材なわけです。当社での肩書きで言えば、副社長、執行役員、事業部長みたいな人たち。そういう人たちが社外でつくっているネットワークと、当社がゆるく連携して、共同でサービスを提供する形態をとっている案件がたくさんあります。これがたぶん現実的に、「専業禁止!!」が会社に貢献している効果でしょうね。

──優秀な社員が起業して、しかもフィールドが近い所で事業を起こすということは、お客さんを取られてしまう心配があるのでは…?

ないですね。一緒に仕事すればいいだけのことですから。まったく同じサービスをして、まったく同じ価値を提供することは、さすがにないです。それぞれ得意な領域がある。だから連携すれば、お客さんにとってはいいとこ取りもできる。

たとえば、当社ではショッピングサイトの『スタイルストア』を運営しています。全国3,000社くらいのメーカーさんと取引しています。その中には「販路を拡大したい。でも、ECはやり方がさっぱりわからないし、海外にも売り込みたいけど方法がわからない」といった具合に、いろんなニーズを抱えているわけです。それに対して、当社はECが得意。そして、起業している社員の中には海外展開を得意にしている人もいます。両者が連携してサービス提供するとクライアントはすごく喜んでくれるわけです。

パラレルワークで「生きる力」が身につく

──顧客満足度の向上にもつながっている、と。会社にとってのメリットは大きそうですね。でも、加藤さんは「会社の利益のために社員のパラレルワークを奨励しているわけではない」のですよね。いったい、なにをめざして「専業禁止!!」を始めたのでしょうか。

社員に「生きる力」を身につけてもらうことです。昭和から平成って、大きく世の中の仕組みが変わったじゃないですか。これまでは、1つの会社に就職すれば、年功で給料が上がっていき、終身雇用なので定年まで働けた。退職金と年金で老後の生活も保障されていましたよね。

ところが、いまの時代は年をとったからといって給料が上がるとは限らない。退職金だって出さない企業が増えていて、公的年金はどうなるかわからない。一方で「人生100年時代」と言われていますが、それって生活費だの医療費だの、かかるお金が増えるということです。

つまり、先行きがまったく不透明な中で、会社も公的制度もあてにできないのに、かかるお金が増えることははっきりしている。まず自分たちがそういう時代に生きているということを、本人が自覚することが大事です。そのうえで、どうやってそんな時代を生き抜くか。それを考えてもらうための機会提供として、「専業禁止!!」を掲げたわけです。

──「1つの会社に就職して安心してる場合じゃないよ。自分の選択肢を増やさないとまずい時代なんだよ」と。

そう! だって、いま経営者に多い60代70代は“逃げ切り世代”。いまの制度の中で食っていけるわけです。「自分を変えよう」なんて本気で思わないでしょ。でも若い世代は違います。「生きる力」を身につけていかないといけない。これからいろんなことが変化するだろうから、それに耐えられるだけの力。とくに「心の力」を身につけてほしい。変化のたびにいちいち心が折れてたらしょうがないからね。

では、心の力、生きる力ってどうしたら習得できるのか。だれかが教えてくれるものでもない。研修で学ぶことでもない。いちばんいいのは、生きるためのエネルギーや気づきを与えてくれる環境に身を置くことだと思うのです。「専業禁止!!」とは、「そういう環境に身を置きなさい」ということなんです。

──だから、ちょっとした小遣い稼ぎのような“副業”ではなく、経営者として事業を営む“複業”を奨励しているわけですね。

ええ。それが私の考え方のベースですね。会社が個人にしてあげられることは、機会を提供すること、あとは背中を押してあげることだけだと思っています。

唯一のルールは「オープンにすること」

──なるほど。これまでの会社は、社員に対して終身雇用や退職金といったカタチで、「生きる力」を提供していた。エンファクトリーさんは、それに替えて、パラレルワークを奨励することで「生きる力」を得る機会を提供しているわけですね。では、会社が社員の複業を認める場合、注意するべきポイントはなんでしょう。

1つだけあります。「自分が複業していることをみんなの前でオープンにする」こと。複業の取り組みを披露しあう発表会もやってます。お酒飲みながら。たとえばそこで自慢話が出たとしても、お互いに笑い飛ばせるような雰囲気が大事なんですよ。そういう雰囲気の中でみんなが自分のことを素直に出すようになると、「あいつはああいうこと考えて、こういうことをしてる」というのがわかってくる。そうすると周囲が応援する立場になるんですね。もしくは、気にならなくなる(笑)。

──オープンになっていないと、「あいつはなにをやってるんだろう?」と疑心暗鬼になる。それを防ぐということですね。

そう。オープンにしていくと、当たり前のように流れている空気みたいになっていきます。オープンになればなるほど、まわりを気にせず集中できるんです。それだけでなく、オープンにすると悪いことをしようとは思わなくなります。大きな会社ではこういうことは難しいかもしれないけど、小さな会社だったら、いくらでもやりようがあると思いますね。

──なるほど! 会社はもう個人の一生を保証してくれる存在ではない。そんな時代が到来していますが、エンファクトリーさんはパラレルワークを奨励することで、「自分で自分の人生を保証する力を身につける」機会を提供してくれているわけですね。とても社員にやさしい会社だと思いました!
そんな新しい働き方を提唱するエンファクトリーさんは、パラレルワーク以外にも、働き方の面で独自の工夫を凝らしています。インタビュー後半で、加藤さんにその工夫について語っていただきます!

↓↓インタビュー後編はコチラ↓↓
「副業OKにしても社員は辞めないの? 」“専業禁止”をかかげる社長に聞いた(後編)

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