「就業時間中に、社内で昼寝ができる」。そんな会社があると聞き、編集部はさっそくウワサのキュービックさんを直撃。いったいどんな職場なんだろう? 興味津々で訪ねてみると、学生インターンを含む若いメンバーの会話がにぎやかに飛びかう、知的でありながらも元気いっぱいの会社でした。同社代表で、いま「健康経営」に取り組んでいるという世一さんに、詳しく聞いてみました。

株式会社キュービック 代表取締役 世一 英仁さん
(所属・役職は取材当時)
    【キュービックの健康経営の取り組み】

  • 歩数や心拍数がわかるウェアラブル端末『Fitbit(フィットビット)』を全社員に支給
  • 添加物をひかえた社食配達サービス『オフィスおかん』を導入
  • 100%天然由来原料からできている『ORGANIQ』を提供(※)
  • 就業時間の中で15分間の昼寝を容認

    ※ドリンクの販売は終了。現在、それに代わるビジネスアスリート用のジェルを開発中。

若手メンバーの「毎日コンビニ飯」にギモン

──世一さんは「健康経営」に熱心ですね。取り組みを始めたきっかけは、なんだったのでしょう。

若いメンバーたちが毎日毎日、コンビニ飯を食べていたことです。とても違和感があって。当社では多くの学生インターンも働いています。若い彼らが運動もせず、昼飯も晩飯もコンビニで買ってきて済ませてしまう。デジタルマーケティングの仕事は、どうしてもパソコンとにらめっこしている時間が長くなってしまうので、「これでいいのかな」って思ったことがそもそものきっかけでした。

──「健康経営」というワードがバズった経緯がありますが、それとは無関係に取り組みを始めたんですね。

※2014年度から、経済産業省が従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」に選定する制度をスタート。

ええ、まったく独自に始めました。あ、でも、国が企業に「従業員のストレスチェック」を義務づけていることが、当社の取り組みをあと押しした面はあります。「義務だから」と実行してみると、多くのメンバーが慢性的な運動不足であることが明らかになりましたから。「これでいいのかな」という、ぼくの違和感が、数字で裏付けられましたね。

そこで、中学時代の先輩に相談してみたんです。その方はお医者さんで、会社も経営されていたので、「社員の健康管理をどうしたらいいのか」と。

──どんなアドバイスを受けたんですか。

「まずは健康に興味を持たせるようにしてはどうか」と勧められました。「健康って目に見えないだろう。病気になって初めて気がつくのが健康というものだよ」って。まず自分自身の健康状態を目に見えるようにすることから始めて、健康に興味を持ってもらうことが大切だというわけです。

社長がいびきをかいて寝ているくらいがちょうどいい

──なるほど! それで『Fitbit』なんですね。

そうです。会社で『Fitbit』を購入してみんなに配ったら、やっぱり気にしてくれるんですよ。「今日は○歩しか歩いてない、もうちょっと歩かなきゃ」「私は緊張状態になると心拍数がずいぶん上がるな」とか、問題意識も芽生えてくる。

そんな意識が高まって、いまは週末にチームを組んで歩数競争イベントをするまでになっています。これはけっこう盛り上がりますよ。イベントの実況アプリを見ると「アカリさんが、ヨイチさんを追い抜きました! 2,000歩先にいます!」なんて(笑)。負けたら悔しいから、僕が参加するときは必ずジムに行って歩いているんですよ。

──えっ、社長も参加するんですか?

はい。よく招集されてます(笑)。こういう取り組みって、トップが真っ先に参加しないとうまくいかないと思うのです。「社長が歩いてないのに、なんでオレたちが運動するの」ってなっちゃうでしょ。歩数競争イベントが始まると、ふだんの週末の2倍以上は歩いてますね。1日2回ジムに行ったこともあります(笑)。

──もしかして、「就業時間の中で15分間の昼寝を許可」という制度でも…?

はい、僕もよく寝ています(笑)。まずトップから昼寝しないと、「OKって言ってるけど大丈夫かな…」と社員は思いますからね。トップがいびきをかいてるくらいがちょうどいいんですよ。

──トップが率先して取り組むことで社員に浸透していくわけですね。逆に、社員のみなさんが自発的に取り組んでいるものはありますか。

あぁ、UCCなんかはそうですね。

──ユーシーシー?

「運動不足を(U) ちょっと(C) ちゃんとする(C)」っていう取り組みなんです(笑)。月に2回、希望者が集まっていろいろな運動をしています。トランポリン、フットサル、ダンス、ボルダリングなど、いろいろですね。「場所代は会社が負担するから好きにやってくれ」ということで、有志の社員が自発的に動いてくれています。「UCCの予算でビールを飲んで、かえって太っちゃった」なんてことにならないように、その後の懇親会には予算をつけずに場所代だけにしています。

社員を「家族」と考えたら、食べるものが気になった

──楽しそう! でも、IT企業でここまで社員の健康に気を配っている会社って、あまり聞いたことがありません。世一さんが「健康経営」に取り組むのは、なにが原点になっているんでしょうか。

僕は高校のころ、運動部に入っていました。部活の中で、自分の健康管理のために「炭酸飲料は飲まない」「カップラーメンはダメ」など、いろいろな規制がありました。それに、食事は母親がしっかり手づくりのものを食べさせてくれていた。なんていうのか、「それが当たり前」みたいに思っていたんですよね。だから社員がコンビニ弁当ばっかり食べてるのを見るのが、なんだかイヤだったんです

──高校時代に世一さんがお母さんに気づかってもらったように、今度は世一さんが社員の健康に気を配っている、ということでしょうか。

それはちょっと、“いい人”過ぎますかね(笑)。「なんだか気になる」っていうだけです。会社立ち上げ当時からしばらくの間、うちはベンチャーというより、“中小企業”でした。「会社の規模を急拡大させよう」なんて思っていなかったんです。社員数は20~30名ほどで、「儲からなくてもいいから、楽しく働いて、たまに乾杯しようぜ!」みたいな。

もともと家族のような感じで、全員に目が届く状態で経営をしていた。だから自然と、みんなの健康も大事にしなきゃと思うようになったんですね。それが、社員数がグッと増えたいまでも続いているわけです。

──確かに、「家族」として考えるなら、食べるものに気を配るのも当然ですね。

そうですね。だから、添加物をひかえたお惣菜をオフィスに定期的に届けてくれるサービス『オフィスおかん』を導入しました。会社の費用負担があるので、社員は「お惣菜1パック100円」という格安で買えます。夜食にしたり、持ち帰ったり、毎回ほぼ完売状態になっています。

また、フルーツの宅配サービスも以前は導入していました。『オフィスおかん』と同じような仕組みで、毎朝フルーツ、ヨーグルト、グラノーラを届けてくれるサービスです。

さらに、社員が仕事で「よし集中するぞ!」と気合いを入れたいときのために、天然成分だけでできているエナジードリンク『ORGANIQ』を割安で買えるようにしています。以前は一般的なドリンクを支給していたのですが、「身体に良くなさそうだ」ということになって。社員に「代案があったら出して」と言ったところ、ある社員が「世界が認めたオーガニックのエナジードリンクがある」という情報をみつけてきた。でも、調べたらかなり高価なんですよ。そこで会社が予算を出し、社員が1本100円で買えるようにしたんです。

──ふつうのエナジードリンクと同じ効き目があるんでしょうか。

一般的なドリンクはバキッと飲んだ瞬間効果が出て、そのあとスーッとなくなる。それと比べると、ジワ~ッとした効果だけど長続きする。そんな感じみたいですよ。実は、僕は飲んでいないんです。社員が飲める本数が減ってしまうので。

「健康経営」は社長の趣味?

──「健康は自己責任で、会社が介入することではない」と主張する人もいます。どう思いますか。

ええ、まったくその通りだと思っています。「自分は歩きたくない」「好きなものを食べたい」「睡眠時間を削ってゲームしたい」というように、「放っておいてくれ」というのが当たり前でしょうね

「会社ってなにをするところですか、働く場所でしょ」と言われれば、その通り。だから、「健康経営」についての取り組みは、完全に僕の趣味でやってること。そう位置づけています。

ただし、健康的であることを心がけ続けることは、その人の幸せにつながる、ということは間違いないとは思いますけどね。

──生産性向上にもつながるんでしょうか…。

つながっているのかもしれませんが、生産性が向上したかどうかを計測するすべがありませんよね。生産性も上がったら上がったで、いいですけれど。それを目的にしてしまったら、「定量的に見えないからやめましょう」という話になってしまう。続けるためにはそもそも測ってはいけないんですね。売上につながればいいとか、ホントに思っていません。

──それでも健康経営を続ける。その先にあるのは何なのでしょう。

なんでしょうね…。うちはまだ若いメンバーが多い会社だから、自分自身を含め、友人・知人を見回しても、大きな病気をわずらった経験が少ないメンバーばかりなんです。でもこれから10年20年と働いてくれたとき、ふと周囲を見回して、「オレはけっこう、健康だな」と思ってくれたらそれでいい。10年20年経つと、小さなことの積み重ねが、大きな差になっていますから。

会社ができることは健康に対する「興味喚起」

──ステキな考え方ですね。そうすると、社員の間で、世一さんの取り組みに感謝する声が上がっているんでしょうね。

いいえ、「健康経営やってくれてありがとう」なんて言われたことは、一度もないです。いま質問されて記憶をたどってみたけど、ホントに1回もないな(笑)。「ありがとう」と言われたくてやってるわけではないから、ショックではないですが。これが当たり前と思ってるんじゃないかな。はっきり意識してないのかもしれません。

ただ、転職してきた人たちが「こんなこともしてるんですか!」と驚いたという話は聞いたことがありますね。採用ブランディングが目的でやっていることでもないので、「そうなんだ、めずらしい取り組みなのか」と思うだけですが。

──ほかの会社が「うちも健康経営をやってみよう」と思ったら、何から手をつけたらいいでしょう。

目的によりますね。社員の満足度を上げたいのか、生産性を上げたいのか、採用につなげたいのか…。「社員の運動不足を解消させたい」という目的であれば、『Fitbit』の無償貸与はいいんじゃないかな。ただし、それなりの導入コストがかかります。また、「配って終わり」ではダメで、定期的に興味喚起する仕掛けが必要です。

生産性を上げたいのであれば、昼寝の容認がいいと思います。制度導入後、仕事中ぼーっと疲れた顔をしてる人がめっきり減りましたから。オーガニックのエナジードリンクも生産性が上がるんじゃないかな。昼寝と同じくらい効果があるかもしれません。

──今後はどんな取り組みをしていきますか。

たとえば『Fitbit』の歩数を月単位で競うチーム戦をやって、勝ったチームに軽めの賞品を渡すとか。ゲームですね。結局、健康に関して会社がやれることは、興味喚起だと思うのです。

「なんで歩数を競ってるの?」「それはね…」。「なんで会社でお惣菜売ってるの?」「それはね…」。「なんでオーガニックのエナジードリンクなの?」「それはね…」。この積み重ねによって、健康に興味が出てきます。そこから先は自己責任だと思うのです。

興味喚起できれば、気にする人たちが企画して、社内での取り組みも広がっていきます。それが広がり、心身健康で働いてくれる社員が増えるのなら、やる価値はあると思います。健康経営は費用対効果で考えるものではないのです。

──健康であることを社員に押しつけるのではなく、健康について興味喚起する存在に徹する。健康に興味がある社員が増えれば増えるほど、社員も会社もどんどん元気になっていくわけですね。ITベンチャー企業というと、短期的な事業成長にばかり目が向いているイメージでしたが、世一さんが見ているのは「10年20年先の社員の笑顔」なのですね。
インタビュー後半は、社員に対して独特の向き合い方をしている世一さんに、「働き方改革」について聞いてきました!

↓↓↓インタビュー後編はこちら↓↓↓
「アイデアのタネが飛びかうチームに」 キュービックの健康経営の裏側に迫る(後編)

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