セコム株式会社は、総合的なセキュリティサービスを軸に、防災・医療・保険・BPO/ICTなど多岐にわたる「社会システム産業」を展開する企業です。売上規模1兆2,000億円超を誇り、法人・個人・官公庁向けに多層的なサービスを提供しています。
本記事は、2026年3月期通期(2025年4月〜2026年3月)の決算短信をもとにした更新版です。前回記事(2026年3月期 第3四半期)から通期では、連結売上高1兆2,568億96百万円(前期1兆1,999億42百万円、+4.7%)・純利益1,126億62百万円(前期1,081億09百万円、+4.2%)と安定的な増収増益を達成しました。売上高・営業利益・経常利益・純利益のすべてにおいて過去最高を更新しています。一方で翌期(2027年3月期)の純利益予想は1,058億円(−6.1%)と減益見通しとなっており、この背景を丁寧に読み解く必要があります。
詳しくは前回の記事もあわせてご覧ください。
【セコム株式会社(証券コード:9735)徹底解説】2026年3月期通期──売上1兆2,568億円・安定成長続く、翌期は先行投資で減益予想
1. 2025年度の経営環境と主な取り組み
当期(2025年4月〜2026年3月)の日本経済は、雇用・所得環境が改善するなかで設備投資や個人消費に回復の動きが見られました。一方、中東情勢の影響や金融資本市場の変動、アメリカの通商政策をめぐる動向など、先行きへの留意が必要な状況が続きました。
こうした環境のなかでセコムグループは、「安全・安心・快適・便利」な社会を実現する「社会システム産業」の構築をめざし、「セコムグループ2030年ビジョン」の実現に取り組んできました。また、2040年に向けて目指す方向を明確にするために、2026年5月に「セコムグループ2040年ビジョン」を策定しています。同ビジョンでは、インシデント前の予兆を捉えて不安の発生に先回りする「プロアクティブ(事前対応型)」をキーメッセージに据え、「先回りの安心」の実現を掲げています。
当期の具体的なトピックとしては、まず2025年3月にセキュリティロボット「coccobo」が遠隔操作型小型車の適合審査に合格し、警備会社が提供するロボットとして初めて公道を含む道路の走行が可能になりました。これにより、敷地周辺の公道でも昼夜を問わず活用できるようになり、人とロボットの力を融合させた高度なセキュリティをより多くの場所に提供できるようになっています。7月には、家庭向けAEDとしては日本初となるオートショック機能を搭載したAED「セコム・MyAED」の販売を開始しました。
2025年4月から10月にかけて開催された大阪・関西万博では、会場内全域の人的警備で主要な役割を果たしたほか、監視カメラや入退室管理システムなどを多数導入し、安全な会場運営を支えました。同年10月には、世界各地で建設が相次ぐデータセンターを運営する欧米企業を中心に強固な顧客基盤を持つグローバルセキュリティSI企業AVTEL Holdings Pte. Ltd.を完全子会社化しました。さらに12月には、国際的な環境NGOのCDPが実施した気候変動・水セキュリティへの取り組みに関する調査において、最高評価の「Aリスト」に2年連続でダブル選定されています。
2. セグメント別の業績詳細
当期はすべての事業セグメントで増収を達成し、連結売上高1兆2,568億96百万円(前期比4.7%増)・営業利益1,603億33百万円(前期比11.1%増)を記録しました。経常利益は米国などにおける投資事業組合運用益が123億円減少したことなどにより1,821億60百万円(前期比4.0%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は1,126億62百万円(前期比4.2%増)となりました。
セキュリティサービス事業では、事業所向け・家庭向けセントラライズドシステムの販売が堅調に推移し、価格改定(値上げ)の効果や常駐警備サービスの増収も加わり、売上高は6,606億円(前期比4.3%増)となりました。営業利益は1,238億円(前期比7.7%増)と大幅に伸長し、グループ全体を牽引しています。事業所向けでは、防犯・防災から従業員の就業管理まで対応するシステムセキュリティ「AZ」と監視カメラとの連携を強化したほか、カスタマーハラスメント対応アプリの実証実験も開始しました。家庭向けでは、顔認証機能を搭載した操作機器をラインアップした「セコム・ホームセキュリティNEO」の積極的な拡販を進めました。
防災事業では、国内防災業界大手2社の能美防災株式会社とニッタン株式会社がそれぞれの営業基盤を活かして受注を伸ばし、火災報知設備などの増収により売上高は1,868億円(前期比5.5%増)となりました。原価率の改善も相まって営業利益は247億円(前期比23.1%増)と、セグメント別で最も高い増益率を達成しています。
メディカルサービス事業では、医療機器・医薬品の販売が好調だったことに加え、インドにおける総合病院事業会社タクシャシーラ ホスピタルズ オペレーティング Pvt.Ltd.の増収などにより、売上高は920億円(前期比6.8%増)、営業利益は62億円(前期比15.6%増)となりました。保険事業では、セコム損害保険株式会社のガン保険「自由診療保険メディコム」および自動車保険の販売が堅調に推移し、運用収益の増収もあって売上高は654億円(前期比10.2%増)となりました。自然災害による損害の減少や販売管理費の圧縮も奏功し、営業利益は59億円(前期比41.2%増)と大幅な改善を遂げています。
地理空間情報サービス事業では国内公共部門の増収を主因に売上高606億円(前期比3.9%増)となり、原価率の改善と販売管理費の削減により営業利益は53億円(前期比55.9%増)と急伸しました。BPO・ICT事業はデータセンター事業の増収やサーバーなどの機器販売が好調だったことにより売上高1,299億円(前期比1.1%増)を確保しましたが、前期に稼働開始した新たなデータセンターの影響による原価増加から、営業利益は89億円(前期比1.9%減)と唯一の減益となっています。
3. 財政状態とキャッシュ・フローの概況
当期末の連結総資産は前期末比845億円(3.9%)増加の2兆2,301億円となりました。固定資産では投資有価証券が451億円(10.4%)増加の4,808億円、有形固定資産が152億円(3.4%)増加の4,644億円となっており、長期保有資産を着実に積み上げています。流動資産は現金及び預金が137億円減少したものの、受取手形・売掛金及び契約資産が110億円増加するなど、全体では128億円増加の9,816億円となりました。純資産は利益剰余金が715億円増加した一方で自己株式が599億円増加(取得による減少)し、全体では519億円(3.6%)増加の1兆4,996億円となっています。
キャッシュ・フローの面では、営業活動によるキャッシュ・フローが2,035億円の資金増加(前期1,678億円)となりました。主な増加要因は税金等調整前当期純利益1,800億円と減価償却費739億円であり、法人税等の支払額506億円が主な減少要因です。投資活動によるキャッシュ・フローは886億円の資金減少で、警報機器及び設備等の取得に704億円、投資有価証券の取得に336億円を支出した一方、投資有価証券の売却・償還により467億円を回収しています。財務活動によるキャッシュ・フローは1,181億円の資金減少で、自己株式の取得600億円と配当金の支払い411億円が主な要因です。これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は前期末比17億円減少し4,066億円となりました。
4. 翌期(2027年3月期)の業績予想と見通し
2027年3月期の業績予想は、すべての事業セグメントで増収を見込んでおり、売上高は566億円の増収で1兆3,135億円(+4.5%)、営業利益は51億円の増益で1,655億円(+3.2%)を計画しています。一方、経常利益は当期に好調だった米国などの投資事業組合運用益の反動減を見込み、1,760億円(前期比61億円減)を予想しています。親会社株主に帰属する当期純利益は1,058億円(前期比68億円・6.1%減)と減益予想となっていますが、これは営業段階では増益を維持しながらも、営業外・税負担等の段階での影響が純利益を押し下げる構図です。配当金は1株当たり120円を予定しており、株主還元の継続姿勢を維持しています。
当面の日本経済については、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待される一方、中東情勢・金融為替市場の変動・米国の通商政策の動向など不透明な要因が続くと見込まれます。こうした環境のなかで同社グループは、「セコムグループ2040年ビジョン」のもとで「あんしんプラットフォーム構想」を強化し、インシデントへの対処だけでなく、その前から安心を生み出すプロアクティブなサービスの開発・提供を推進していく方針です。
5. 中長期戦略と業界の注目ポイント
セコムが当期に打ち出した「セコムグループ2040年ビジョン」は、単なる中期計画の延長ではなく、社会課題の複雑化が一層加速するなかでの長期的な方向性を明示したものです。ビジョンの核心にある「プロアクティブ(事前対応型)」の考え方は、これまでの「侵入・火災などの事後対処」から「予兆を捉えた事前介入」へのシフトを意味します。パートナーや顧客などのステークホルダーとの接点から得られるデータ・技術・知見と同社グループのリソースを組み合わせながら、「人とテクノロジーの融合」を進める方針です。
業界全体の動きとして、物理セキュリティとサイバーセキュリティの統合が加速しています。施設の入退室管理システムがネットワーク接続されるとともに、産業用IoT機器のセキュリティ管理の重要性も増しており、総合的なセキュリティサービスへのニーズが高まっています。AVTEL Holdings の完全子会社化は、データセンターを中心とするグローバル企業向けセキュリティSI分野への本格参入を意味しており、中長期の成長軸として重要な布石といえます。
防災・医療・BPO/ICTといった複合事業ポートフォリオを持つセコムにとって、高齢化社会の進展は医療・介護・緊急対応サービスの需要拡大をもたらし、既存の警備網・通信インフラを活用したサービス展開が競争優位を形成しています。気候変動対応の観点でも、CDP「Aリスト」に2年連続でダブル選定されたことは、ESG投資家からの注目度を高める要因となっています。
6. ITトレンド編集部の考察
セコムの2026年3月期通期決算は、売上高・営業利益・経常利益・純利益の4指標がそろって過去最高を更新した、文字通りの「全面増益決算」です。1兆2,568億円という規模の企業が4.7%の増収と11.1%の営業増益を達成したことは、継続契約型のストック収益モデルが安定的に機能していることの証左です。
特筆すべきは、防災事業が営業利益前期比23.1%増、保険事業が41.2%増、地理空間情報サービスが55.9%増と、コア事業のセキュリティサービスに加えて周辺事業がダイナミックに利益を拡大したことです。セキュリティサービスが「収益の基盤」として安定している一方で、多角化した周辺事業が「収益の上乗せ」として機能する構造が確立されつつあります。BPO・ICT事業の微減益はデータセンター投資の先行コストによるものであり、将来の収益化を見据えた必然的な局面と捉えるのが適切です。
翌期の純利益減益予想(−6.1%)は、経常利益段階での投資事業組合運用益の反動減が主因であり、事業の基礎体力を示す営業利益は+3.2%の増益計画です。「2040年ビジョン」に基づくプロアクティブサービスの具体化、AVTEL Holdings を通じたグローバルSI事業の拡大、セキュリティロボット「coccobo」の普及拡大など、次の成長ドライバーの種をこの1年で着実に仕込んでいる点が重要です。中長期的な視点では、現在の先行投資局面がどの時点で利益に転換するかを継続的に注視していく必要があります。
7. まとめ
- 連結売上高1兆2,568億96百万円(+4.7%)・純利益1,126億62百万円(+4.2%)と安定増収増益、4指標すべてで過去最高を更新
- 営業利益1,603億33百万円(+11.1%)・経常利益1,821億60百万円(+4.0%)と高水準の収益性を維持
- 防災(+23.1%)・保険(+41.2%)・地理空間情報(+55.9%)の各セグメントが大幅増益、多角化事業の収益貢献が拡大
- 大阪・関西万博での警備実績、AVTEL Holdings の完全子会社化、セキュリティロボット「coccobo」の公道走行対応など戦略的施策が進展
- 「セコムグループ2040年ビジョン」を策定、プロアクティブ型サービスへの転換を中長期の成長軸に位置づけ
- 翌期は売上高1兆3,135億円(+4.5%)・営業利益1,655億円(+3.2%)の増収増益計画、純利益は投資事業組合運用益の反動で1,058億円(−6.1%)の減益予想
- 翌期配当1株当たり120円、継続的な株主還元を維持
セコムは「警備・防災・BPO/ICT・医療・保険・地理空間情報」という多層的な社会インフラサービスを提供する企業として、1兆2,000億円超の売上規模で安定成長を継続しています。翌期の純利益減益予想は営業外要因が主体であり、事業の基礎成長は維持されています。「2040年ビジョン」に基づくプロアクティブサービスの具体化とグローバル展開の深化が、中長期的な観察ポイントとなります。

