株式会社イトーキが、全社4000名を挙げて"AI経営"への転換に踏み出します。2026年2月20日の発表によれば、同社はOffice3.0の新ソリューション「ITOKI OFFICE AI AGENTS」を開発し、年内より順次提供を開始する予定です。このソリューションは3つのAIエージェントで構成され、企業が自らオフィス投資の判断と働き方の最適化をハイサイクルで実行できる仕組みを目指しています。
背景にあるのは、生成AIの急速な進化がもたらす働き方の大変革です。業務プロセスや意思決定の在り方が再設計される中で、働く環境に求められる役割も変化し続けています。オフィスは「作ったら終わり」ではなく「作ってからが本番」という運用重視の考え方が主流となり、継続的な最適化が求められる経営資源へと位置づけが変わりつつあります。その結果、オフィス投資にも明確な費用対効果が求められるようになりました。
一方で、活用すべきデータは急増し、分析は高度化・複雑化しています。イトーキによれば、データ活用以前と比較してデータ量は1.7万倍、複雑さは最大2.7億倍程度に達しているとのことです。人手に依存した意思決定では到底スピードが追いつかず、投資対効果の最大化が困難になるという課題が顕在化しています。
3つのAIエージェントが実現する"自律最適化"
「ITOKI OFFICE AI AGENTS」は、160社を超えるデータドリブンなオフィス構築・運用の支援実績と、年間約3万枚におよぶ設計データ、長年蓄積してきたオフィスデザインやファシリティマネジメントの知見を基盤に開発されました。3つの革新的なAIソリューションで構成されています。
Facility Portfolio AIは、最適な面積・席数・配置・コスト構造を算出し、拠点再編をシミュレーションするAIエージェントです。Wi-Fiデータや会議システム、スケジュール情報などを統合し、例えば100拠点規模に及ぶ複数拠点の利用実態を立体的に分析します。拠点の集約・分散や再編の選択肢を具体的な数値とともに提示することで、ファシリティ戦略の検討時間を大幅に短縮し、経営判断の迅速化を支援します。
Workplace Insight AIは、図面、写真、アンケート、経営方針資料などの非構造データを含む多様な情報を一括で解析し、オフィスの課題や改善ポイントを構造的に抽出します。さらに、類似事例との比較や、改善による効果予測、ROI試算までを自動で行い、経営層や総務部門にとって実効性の高い判断材料を提供します。
Space Matching AIは、在席情報や行動傾向、利用履歴をもとに、実際に空いているスペースをリアルタイムで判定し、利用者に即時案内します。利用されていない予約は自動的に解放され、需要に応じて再配分される仕組みにより、会議室や席の不足によるストレスを軽減し、空間の稼働率向上を実現します。物理空間とデジタルデータを連動させた点が大きな特長です。
これらのAIソリューション群は課題に応じて個別導入も可能で、経営層は投資対効果を数値で即時判断でき、総務部門は複雑な分析負荷を削減できます。従業員は快適で無駄のない働き方を実現でき、顧客自らがデータに基づく高度な"ハイサイクル運用"が実行可能になると期待されています。
オフィスDXの"設計思想"が変わる
この発表を法人向けITやSaaS、生成AIの流れの中で捉えると、興味深い転換点が見えてきます。従来のオフィスDXは、データを可視化し、人間が判断するための材料を提供することが主な役割でした。しかし「ITOKI OFFICE AI AGENTS」は、常時モニタリング、高精度シミュレーション、専門知識を融合し、AIエージェントが改善策を高速で提供する仕組みを目指しています。
これは単なる「AI活用」ではなく、AIを経営の中核に据える"AI経営"への転換と捉えられます。意思決定の質とスピードを飛躍的に進化させるためには、AIが単なる支援ツールではなく、経営判断の一部を担う存在になる必要があるという考え方です。イトーキは約100名規模のITエンジニア体制を強みに、この方向性を追求していくとしています。
また、開発段階から実証を重視し、30件を超えるPoC(概念実証)を経て構築されている点も注目されます。自社で検証を行い、得られた知見を顧客サービスに反映し、その成果を再び顧客支援に活用する循環モデルを構築しているとのことです。この「社内と社外の循環」により、継続的な価値向上を図っているのも特徴的です。
ITツール導入・選定における示唆
ITツールの導入や選定に関わる立場から見ると、この動きは「AIに何を任せるか」という問いを改めて考える機会となりそうです。オフィス空間という物理的な資源の最適化に、AIがどこまで踏み込めるのか。その判断基準や信頼性をどう担保するのか。導入企業側にも、データ基盤の整備や運用体制の見直しが求められると考えられます。
また、イトーキは「Tech×Design based on PEOPLE」から「AI×Design based on PEOPLE」へ転換するとしており、AIと人の協働という視点を強調しています。AI経営モデルにおいても、最終的な判断や創造的な部分は人間が担い続けるという姿勢が読み取れます。このバランス感覚は、他の領域でのAI活用においても参考になるかもしれません。
まとめ
イトーキの「ITOKI OFFICE AI AGENTS」は、オフィスと働き方をAIが牽引し、人と協働する新たな経営モデルの確立を目指す取り組みです。生成AIの進化により働き方が大きく変わる中で、オフィス空間の在り方も変化し続けています。データ量の急増と分析の複雑化に対応するためには、AIを経営の中核に据える発想が必要だという考え方が、今回の発表から伝わってきます。
今後、他の企業やサービスでも同様の"AI経営"への転換が進む可能性があります。AIがどこまで経営判断に関与するのか、その境界線はどこにあるのか。イトーキの取り組みは、そうした問いに対する一つの回答として、注目していく価値がありそうです。

