生成AIを活用したコンタクトセンター業務の効率化に向け、新たな協業が始まりました。株式会社ギブリーは、コンタクトセンター支援事業を手がける株式会社TBネクストコミュニケーションズとの協業を2026年3月26日に発表しました。両社はすでに大手自動車メーカーのコンタクトセンター業務において実証実験(PoC)を実施しており、メール対応の工数を最大50%削減するという具体的な成果を確認しています。
コンタクトセンターは慢性的な人材不足と業務の複雑化という二重の課題を抱えており、生成AI活用への期待は高まる一方です。しかしながら、AIツールを単体で導入するだけでは現場の課題を解決しきれないケースが多く、業務プロセスそのものの再設計が求められるという指摘もあります。今回の協業は、そうした「ツール導入にとどまらない改革」を志向している点に特徴があります。
ギブリーが提供するカスタマーサービスプラットフォーム「DECA AI接客」を中心に据え、TBネクストコミュニケーションズのBPR(業務プロセス再構築)ノウハウを組み合わせるという構図は、コンタクトセンターDXの現実的なアプローチとして注目されそうです。PoCで得られた数値の背景や、導入時に意識すべきポイントは多岐にわたります。
コンタクトセンターが直面する構造的な課題
コンタクトセンター業界が抱える課題は、近年さらに複雑化しています。問い合わせ件数そのものの増加に加え、その内容の多様化が進んでいることで、オペレーター一人ひとりに求められるスキルの幅は広がり続けています。それでいながら、人材の採用・育成コストは年々上昇しており、即戦力となる人材を確保することの難易度も高まっている状況です。
こうした背景のもと、多くの企業がAIチャットボットやFAQシステムの導入を試みてきました。しかし実態として、ナレッジが部門ごとに分散していたり、既存のシステムが乱立して一元管理ができていなかったりするケースが多く、AI活用の前段階である情報整備すら追いついていない組織も少なくないと見られます。
さらに、ベテランオペレーターに属人化した対応スキルをいかに組織の資産として共有するか、という「ナレッジマネジメント」の問題も根深い課題として残ります。熟練者が退職した途端に品質が低下する、あるいは新人研修に多大な工数を要するといった悩みは、コンタクトセンターを持つ多くの企業が共通して抱えている実情です。
生成AIの登場によってこうした課題への解決の糸口が見えてきたという評価がある一方、「ツールを入れればすぐに解決する」という期待が先行しがちな面もあります。実際には、AIが適切に機能するためのナレッジ整備や業務フローの見直しが不可欠であり、PoC段階で躓くケースも多いとされています。今回の協業が両社の知見を組み合わせる形をとった背景には、こうした現場の実態への認識があると捉えられます。
「DECA AI接客」と競合・既存ソリューションとの比較
今回の取り組みの核となるギブリーの「DECA AI接客」は、チャットボット・FAQ・メール・有人チャット・電話・ビデオ接客といった複数の接客チャネルに対応した統合型ナレッジベースを構築できるカスタマーサービスプラットフォームです。生成AIを活用した回答案の自動生成や、ナレッジの即時検索を支援する機能を備えており、オペレーターの業務補助から顧客の自己解決促進まで幅広いシナリオに対応できる設計となっています。
コンタクトセンター向けのAIソリューションは市場に複数存在しており、各製品の特徴を比較する視点は以下のように整理できます。
チャネル対応の統合度
一般的なAIチャットボット製品はチャット・Webフォームへの対応が中心であることが多いですが、「DECA AI接客」はメール・電話・ビデオ接客を含む幅広いチャネルを一元的に管理できる点が差別化要素として挙げられています。コンタクトセンターでは問い合わせがチャネルをまたいで発生することも多く、統合ナレッジベースによる一貫した対応品質の維持は実務上の訴求点になり得ます。
オペレーター支援に特化した設計
多くのAIソリューションが「顧客向けのセルフサービス率向上」を主眼に置くのに対し、今回のPoCではオペレーターが実際にメール対応する際のアシスタントとしてAIを活用しています。ブラウザ上で動作するウィジェット形式を採用しており、新たなアプリのインストールが不要という点は、現場への展開コストの低減という観点で評価できます。
ナレッジ整備支援の有無
AI活用の成否はナレッジの品質に大きく依存します。FAQやマニュアル、過去の問い合わせ履歴を一元管理するデータベースの構築支援が含まれている点は、「ツールだけ提供して後は任せる」モデルとの差異として注目されます。PoCにおける検索ヒット率約80%という数値も、ナレッジ整理と関連ワードの最適化を行った結果として示されており、整備プロセスの重要性を裏付けています。
BPRノウハウとの組み合わせ
ツール単体の機能比較とは別に、今回の協業ではTBネクストコミュニケーションズのBPR知見が加わることで、業務プロセスの再設計から現場運用定着までを一気通貫で支援する体制が構築されています。この点は純粋なSaaSツールの導入と比較したときの大きな差別化点と捉えられそうです。一方で、コンサルティング支援が含まれる分、コスト感や工期については個別の見積もりが必要になると考えられます。
実績と導入規模
ギブリーは1,000社以上の生成AI導入支援実績を持つとしており、中小規模から大手企業まで幅広い支援経験を積んでいると見られます。今回のPoCも大手自動車メーカーのコンタクトセンターという規模感での実証であり、エンタープライズ用途での適用実績としての説得力はあると受け取れます。
IT担当者・導入検討者が確認すべきポイント
今回の発表内容を踏まえ、コンタクトセンターのDXを検討している担当者が評価・選定の段階で確認しておくべき実務的な観点を以下に整理します。
ナレッジの現状把握と整備工数の見積もり
「DECA AI接客」を含む生成AI活用型ソリューションの効果は、既存のナレッジの質と量に大きく左右されます。FAQ・マニュアル・過去メールなどがどの程度整備されているか、重複や古い情報がどれだけ混在しているかを事前に把握しておくことが重要です。整備が必要な場合、その工数とコストを含めた総合的な費用対効果を試算する必要があります。
対象業務・チャネルの絞り込み
今回のPoCは「特定の問い合わせ範囲(契約確認・利用申込、利用方法など)」に対象を絞って実施されています。全業務への一斉展開ではなく、効果が出やすい範囲から段階的に導入する戦略は現実的なアプローチです。自社にとって最も工数がかかっている問い合わせカテゴリや、ナレッジが最も整備されている領域から着手することで、早期に成果を確認しやすくなります。
オペレーターへの浸透・変化管理
AIによるアシスト機能は、オペレーターがその提案を信頼して活用するかどうかによって効果が大きく変わります。現場スタッフへの説明・トレーニング・フィードバックの仕組みをどう設計するかは、ツールの選定と同等以上に重要なテーマです。導入ベンダーが運用定着支援をどこまで提供しているか、導入後のカスタマーサクセス体制についても確認が求められます。
既存システムとの連携可否
コンタクトセンターでは、CRMやCTI(コンピューター電話統合)、既存のチケット管理システムなど複数のシステムが稼働していることが一般的です。「DECA AI接客」がこれらとどの程度連携できるかについては、個別の要件に応じた確認が必要です。API連携の柔軟性や、将来的な拡張性についても評価軸に加えるべきでしょう。
コスト構造と費用対効果の試算
ツールのライセンス費用に加え、初期のナレッジ整備・BPRコンサルティング・運用後のメンテナンスコストを含めたトータルコストを把握することが重要です。今回のPoCで確認された「対応時間50%削減」という数値は、一定の条件下での結果であり、自社の業務量・オペレーター人件費・問い合わせ件数を組み合わせた形で投資回収期間を試算することが現実的な検討につながります。
まとめ
ギブリーとTBネクストコミュニケーションズの協業は、生成AIを軸にしたコンタクトセンターDXの方向性として、注目に値する取り組みといえます。単にAIツールを導入するのではなく、BPRの知見と組み合わせて業務プロセスごと再設計するアプローチは、実際の現場課題に即した現実解として受け入れられやすい面があります。
PoCで示された「メール対応工数50%削減」「検索ヒット率約80%」「回答品質の標準化」という三つの成果は、いずれも現場オペレーターの体験に直結する指標です。特に回答品質の標準化は、ベテランと新人の間にあるスキルギャップを埋めるという、多くのコンタクトセンターが長年抱えてきた課題に対するアプローチとして評価されます。
今後は電話対応へのリアルタイム支援や、チャットボットを活用した自己解決率向上など、適用領域の拡大が予定されています。これらが実用化されれば、コンタクトセンター全体をカバーするAI活用モデルとして一つの参照事例になり得ると考えられます。
コンタクトセンターのDXは、「ツール導入」から「プロセス変革」へと議論の軸が移りつつあります。今回の協業がどのような再現性を持つモデルに育っていくか、今後の展開が注目されます。

