AI・機械学習
2026年07月03日

VisaのAIエージェントが「本物のECサイトで買い物」開始、欧州で本運用へ——次世代エージェンティックコマースが動き出す

VisaのAIエージェントが「本物のECサイトで買い物」開始、欧州で本運用へ——次世代エージェンティックコマースが動き出す

VisaのAIエージェントが「本物のECサイトで買い物」開始、欧州で本運用へ——次世代エージェンティックコマースが動き出す(写真はイメージ)

Visaは2026年7月、AIエージェントが実際の加盟店サイトで購入取引を完了できる仕組みを欧州で本運用段階に移行したと発表しました。旅行の「lastminute.com」、小売の「Frasers」、eコマースの「Cleverbridge」「BrickDepot」など、実加盟店でAIエージェントによる取引が始まっており、30以上の欧州銀行が発行側で連携する体制です。これまで各社が実験・PoCを重ねてきた「エージェンティックコマース」が、実際にお金が動く実運用フェーズに入ったことを象徴する動きといえます。

何が実現したか——「AIが検索する」から「AIが買う」への転換

これまでのAIエージェントは、商品検索・比較・カート追加までを担い、最終購入は人間が行う設計が一般的でした。今回のVisaの発表は、AIエージェントが消費者の意向に基づき、加盟店サイト上で決済処理まで完結させる仕組みが欧州で稼働開始したことを意味します。テスト環境ではなく、独立系の実加盟店で本番トラフィックとしてAI決済が流れ始めた点が最大のポイントです。

対応加盟店は現時点で、旅行・小売・eコマースなど複数業種に及びます。lastminute.comのような旅行予約サイトでの本運用は、複数条件を横断する購入判断が求められる領域でもAIエージェントに任せられる水準に達していることを示唆します。

中核技術「Visa Intelligent Commerce」と「Agentic Readyプログラム」

今回の仕組みを支えているのが、Visaが推進する統合構想「Visa Intelligent Commerce」と、その運用エコシステムである「Agentic Readyプログラム」です。両者は、AI主導のコマースを大規模かつ標準化された形で運用するための、インフラ・仕様・パートナーシップの束と位置づけられています。

技術的な要になるのが「Trusted Agent Protocol(TAP)」と「Agent Directory」です。加盟店側は、AIエージェントの身元を安全に識別し、検証済みのエージェントかどうかを区別できるようになります。同時にインフラ側はCloudflareやAkamaiが参画しており、AIエージェント経由の膨大なトラフィックを既存のCDN・エッジセキュリティ基盤で捌く設計が明示されている点も特徴です。

セキュリティ設計——Payment PasskeysとSCA準拠

AIエージェントに決済を任せる際、最大の論点は「不正・誤操作の抑止」と「規制対応」です。Visaは今回、「Visa Payment Passkeys」を基盤に据え、消費者の明示的な指示に基づいて取引を承認する仕組みを整えました。欧州の強力な顧客認証(SCA:Strong Customer Authentication)要件にも準拠し、各取引を検証済みユーザーに紐づけて記録します。

発行銀行と加盟店の双方が、AIエージェントによる取引の可視性を持てる点も重要です。エージェントが暴走しても取引ログが残り、事後の異常検知や取引拒否のフィードバックループを回せる構成になっています。従来の「テストで動く」段階から一歩踏み込み、金融規制と実務運用の両輪を回せる設計になった点が、欧州本運用に踏み切れた背景といえます。

加盟店・消費者・銀行——三方向のメリット

加盟店側から見れば、新たなインフラを大規模構築せずに、既存のリスク・ポリシーフレームワークにAIエージェント取引を組み込める点が大きな利点です。「検証済みAIエージェント」と「未検証トラフィック」を区別できるため、AI経由取引の割合が増えても既存の不正対策の考え方を延長できる形になります。

消費者側は、事前に定義したパラメータ(購入上限額、対象カテゴリ、優先ブランドなど)の範囲で、AIエージェントが自動的に購買を進める運用が可能になります。時間を大きく取られていた比較検討や購入手続きを短縮でき、日常的な買い物のオペレーションが変わる可能性を持っています。銀行側は、30以上の欧州銀行が発行側で参画しており、Barclays、HSBC UK、NatWest、ING、Revolutなど主要行が名を連ねます。カード発行体としての取引可視化と不正対策の観点でも、今のうちに標準化に加わっておく戦略的な意義がある構図です。

日本企業への示唆——EC・カード・SIerが備えるべき論点

日本企業から見ても、この動きは看過できない転換点です。まず、EC事業者は「AIエージェント経由トラフィック」を前提とした設計を検討する必要が出てきます。単なるボット遮断ではなく、「検証済みAIエージェントを識別し、正規顧客として扱う」運用が世界標準になりつつあります。カード発行体・ネットワーク側にとっては、AIエージェント認証・SCA準拠・不正検知の三点を同時に満たすアーキテクチャの設計が急務です。

SIerや決済ゲートウェイ事業者にとっては、Trusted Agent Protocolのような標準仕様への対応が、次世代コマース案件の受注要件に組み込まれていく可能性があります。日本でもJCB・三井住友・楽天カードなど主要カードブランドの動向が注目されるほか、EC側ではShopify・BASE・楽天のようなプラットフォーム側の対応が焦点になりそうです。

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まとめ

今回のVisaの発表は、AIエージェントが「調べる存在」から「取引を完結する存在」へと役割を拡張したことを、欧州の実加盟店運用という具体的な事実で示した点に意義があります。Visa Intelligent Commerce・Agentic Readyプログラム・TAP・Payment Passkeysという層の重なりが、規制・セキュリティ・拡張性の要件をまとめて満たす設計として動き出しました。

日本企業にとっては、「AIエージェントがECで買い物する時代」を前提にした、決済・不正対策・EC設計の見直しがそう遠くないタイミングで求められそうです。まずは動向のウォッチングにとどまらず、社内システムやパートナー選定にAIエージェント対応の観点を組み込む議論を始めておくことが、実務としての備えになりそうです。

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