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決算個社IT・インターネット2026年03月12日

【ヤプリ(証券コード:4168)徹底解説】ノーコード×アプリ運用の“収益化フェーズ”へ——2025年12月期決算で読む、顧客体験と社内DXの接点

【ヤプリ(証券コード:4168)徹底解説】ノーコード×アプリ運用の“収益化フェーズ”へ——2025年12月期決算で読む、顧客体験と社内DXの接点

ヤプリは、ノーコードのアプリ開発プラットフォーム「Yappli」を中心に、企業の公式アプリや社内アプリの構築・運用を支援するSaaS企業です。2025年12月期は、売上高60.56億円(前年比9.9%増)、営業利益8.82億円(同60.2%増)と、売上成長に伴い利益が大きく伸びた年でした。会社は決算資料で「安定的な利益創出フェーズに入った一年」「利益創出フェーズに入った企業」と明記しています。

本記事では、アプリ市場の成熟や人的資本開示の流れといった市場背景から、ヤプリの決算内容(ARRや解約率などSaaS指標を含む)、事業構造(ストック81.6%)と新製品・M&Aの事実までを1本で整理します。最後に、IT・業務視点で「どの業務プロセスに効くサービスなのか」「導入検討で何を比較すべきか」を具体化します。


市場背景と業界構造

ヤプリが関わるのは大きく二つの領域です。ひとつはマーケティング領域、もうひとつはHR領域です。資料ではTAM(対象市場規模)として、マーケティング領域が5,000億円(富士キメラ総研「ソフトウェア ビジネス新市場2025年版」2029年度予測値)、HR領域が3,300億円(シード・プランニング 2021年6月推計に基づく2025年度予測値)が示されています。

市場拡大の背景として挙げられているのは、日本の人口減少・人手不足の進行に伴う、テクノロジーやAIを活用した生産性向上と付加価値創出のニーズです。加えてHR領域では、人的資本開示の流れによりエンゲージメント計測の標準化が進み、ニーズが「計測」から「改善(経営成果への接続)」へ変化していると整理されています。

一方で、アプリ市場は成熟化しており、特にエンタープライズ層ではアプリ保有率の上昇と競争激化が示されています。つまり「アプリを作るだけ」では差別化しにくくなり、アプリを含めたチャネル横断での顧客体験や、高度な施策設計・サポートへの要求が高まっている、というのが資料の前提です。

業界構造としては、アプリ開発・運用のプラットフォーム提供(SaaS)に加えて、制作支援や運用・成長支援(プロフェッショナルサービス)をどう組み合わせるかが競争軸になります。ヤプリは、プラットフォーム売上(ストック)とプロフェッショナルサービス売上(フロー)を区分して開示しており、さらに専門チームによるインハウスのプロフェッショナルサービス提供を差別化要素として挙げています。

この領域で「IT化・データ化・自動化」が影響するのは、顧客接点と社内コミュニケーションの運用です。顧客向けなら会員・購買・来店・予約などの行動データ、社内向けなら情報伝達やエンゲージメントなどのデータが蓄積され、施策改善の前提になります。資料では、プロダクト/プロフェッショナルサービス双方でAI活用を進めることが示されており、ヤプリはデジタル化の影響を受けるだけでなく、運用効率と改善速度を上げる側としても位置づけられます。


過去数年の業績推移

ヤプリの売上は、2023年12月期(単体)48.64億円(+17.4%)、2024年12月期(単体)55.11億円(+13.3%)、2025年12月期(連結)60.56億円(+9.9%)と伸びています。成長率は段階的に落ち着きつつも、増収は継続しています。

利益面の変化はより大きく、営業利益は2023年2.64億円、2024年5.50億円(+108.0%)、2025年8.82億円(+60.2%)と拡大しました。営業利益率は2023年5.4%から2024年10.0%、2025年14.6%へと上昇し、資料でも「営業利益率約15%の高収益事業へ進化」と整理されています。売上総利益率は2023年69.0%、2024年66.1%、2025年66.5%で推移しています。

当期純利益は2023年▲0.74億円から、2024年7.48億円で黒字化し、2025年9.20億円へ伸びました。資料では、2024年に当期純利益で黒字化を達成した後、継続的な利益成長へ転換したことが示されています。2025年12月期から連結へ移行していますが、一過性の株式取得関連費用等を除けば影響は軽微とされています。

ビジネスフェーズについて、資料は明確に「安定的な利益創出フェーズに入った一年」「利益創出フェーズに入った企業」と位置づけています。さらに、2026年度を経営健全化への転換点として繰越欠損金を概ね解消予定、2027年度より収益体質の正常化フェーズへ移行と記載されています。

IT視点で見ると、同社の収益は月額利用料中心のストック比率が高く(後述で81.6%)、導入後の継続運用が価値の中心になります。アプリ市場が成熟化して競争が激化する環境では、運用効率と改善サイクルの速さが継続利用や単価に影響しやすく、ここにAI活用やプロフェッショナルサービスがどう接続するかが“事業の作り”として重要になります。


直近決算の重要ポイント

2025年12月期のハイライトとして会社が強調するのは、売上成長に伴う利益の伸長により、安定的な利益創出フェーズに突入した点です。通期の売上高60.5億円、営業利益8.8億円で過去最高を更新したとしています。加えて、初の自社株買いと配当による株主還元を実施した点もトピックとして挙げられています(ただし本記事では投資判断ではなく、企業のフェーズ理解として扱います)。

通期業績予想に対しては、利益は上方修正後の予想を上回った一方、売上は下回って着地しています。進捗率は売上高97.7%、営業利益106.4%、当期純利益100.1%です。この「売上は未達だが利益は上振れ」という結果は、少なくとも期中のコスト運用や収益性の改善が効いた形として、事実ベースで確認できます。

SaaSのKPIとして、契約数939件(+5.2%)、ARR 51.8億円(+9.4%)、平均月額利用料46.0万円(+4.1%)、解約率0.92%が示されています。契約数よりARRの伸びが大きく、平均月額利用料も増えていることから、売上の伸びが“契約の積み上げ”と“単価”の両面で支えられている状況を、数値上は読み取れます(ここでは推測ではなく、指標間の関係の説明に留めます)。

大型案件・トピックスとしては、ANAホールディングス(社内アプリ)、魁力屋(公式アプリ)、猿田彦珈琲(公式アプリ・ブランドサイト統合)の活用事例が挙げられています。用途が顧客向けだけでなく社内向けにも及ぶ点は、業務プロセス上の接点が広いことを示す材料です。

また、2026年を「マルチプロダクト元年」と位置づけ、ウェブ構築の新製品「Yappli WebX」を投入。さらに、チューズモンスター(現 ヤプリフードコネクト)のM&Aにより、飲食業界向けモバイルオーダー「Yappli MobileOrder」の提供を開始しています。プロダクト拡張が、アプリ単体からウェブやモバイルオーダーへ広がる事実が示されています。

IT視点で注目すべきは、AI活用が“製品機能”と“提供サービス”の両方に明記されている点です。プロダクトへのAI活用として、プッシュ通知アシスト、デザイン編集、バリエーション作成、多言語化などが挙げられています。プロフェッショナルサービスへのAI活用としては、顧客セグメント、データ分析・行動予測、運用最適化などが示されています。つまり、制作・運用・改善という実務にAIを組み込む方向性が、資料上の事実として確認できます。


事業構造と収益モデルの解説

ヤプリの主力は、アプリ開発プラットフォーム「Yappli」で、用途別にYappli for Marketing、UNITE by Yappli、Yappli for Businessが示されています。加えて、ウェブ構築プラットフォーム「Yappli WebX」、飲食店向けモバイルオーダー「Yappli MobileOrder」が新たな構成要素として提示されています。

収益モデルは、ストック(プラットフォーム売上)とフロー(プロフェッショナルサービス売上)の組み合わせです。ストックは基本システム利用やオプション機能利用などの月額リカーリング売上で、月額利用料比率は2025年12月期実績で81.6%(前年差+0.2pt)とされています。フローは、デザイン・構築などの制作支援や、アプリマーケティングなどの成長支援に伴うショット売上です。

この構造が意味するのは、導入企業側の実務で言えば「導入して終わり」ではなく、継続運用と改善で価値を出すモデルであることです。業務プロセスとしては、主に次の領域と接続します。

顧客向け(マーケティング領域)では、会員・販促・店舗送客・EC連携などの顧客体験(チャネル横断)が中心になり、施策設計・サポートへの要望高度化が市場背景として示されています。社内向け(HR領域を含む)では、社内アプリを通じた情報伝達やエンゲージメントに関わる運用が関係します。資料上、人的資本開示を背景にエンゲージメントの「計測」から「改善」へニーズが移るとされており、ここでも“運用して改善する”前提が置かれています。

IT投資が利益構造にどう影響し得るかは、資料内ではR&D費の推移として示されています。R&D費(管理会計上)は2023年671百万円、2024年533百万円、2025年723百万円です。ここは、プロダクト拡張(WebX、MobileOrder、AI活用)と並行して、開発投資が行われている事実として押さえるべき情報です。


業界の注目ポイント

ポイント1:アプリ市場の成熟化と“運用競争”の強まり
資料では、特にエンタープライズ層でアプリ保有率が上がり競争が激化しているとされます。これは新規導入の競争が厳しくなるだけでなく、導入後の運用で差がつく状況を示します。IT導入で改善可能かという観点では、単なるアプリ開発ツール導入だけでは十分ではなく、運用・施策設計・データ分析まで含めた体制整備が必要になります。ヤプリはプロフェッショナルサービス(制作・成長支援)を持ち、AI活用で運用効率や改善速度を上げる方向性を示しています。

ポイント2:チャネル横断の顧客体験要求と施策高度化
アプリを含めたチャネル横断での顧客体験、施策設計・サポートの高度化が要望として挙げられています。これはIT導入で改善可能ですが、複数チャネルのデータ連携と運用ルールが必要になります。ヤプリは「月間3,400万人が利用する製品スケーラビリティとデータ基盤」を強みとして掲げており、運用を自走化するAI生成の記載もあります(具体機能は資料の範囲)。

ポイント3:人的資本開示とエンゲージメントの“改善”ニーズ
HR領域では、エンゲージメント計測の標準化と、計測から改善へのニーズ変化が示されています。これもIT導入で一部改善可能ですが、指標を取るだけでは不十分で、改善施策を回す運用設計が必要になります。ヤプリはHR領域のTAMを示しつつ、エンタープライズ以上が主なターゲットとしています。


ITトレンド編集部の考察

ヤプリは、ノーコードで「作る」だけでなく、「運用して改善する」前提のSaaSとして整理できます。売上の81.6%が月額利用料で、契約数939件、ARR 51.8億円、解約率0.92%という指標が示されていることからも、継続利用の上に成り立つモデルです。アプリ市場が成熟化し競争が激化する中では、運用の省力化と改善サイクルの速さが成果に直結しやすく、同社がプロダクトとプロフェッショナルサービス双方でAI活用を掲げている点は、運用負荷と改善速度の課題に対応する方向性として理解できます。

導入検討者にとって、同社が向いているのは、顧客接点の強化(公式アプリ、ブランドサイト統合など)や社内コミュニケーションの整備(社内アプリ)を、短期間で立ち上げて継続運用したい企業です。活用事例として社内アプリ(ANAホールディングス)と公式アプリ(魁力屋など)が併記されていることは、用途がフロントと社内の両方に及ぶ材料になります。

IT投資余地という観点では、同社は「安定的な利益創出フェーズ」に入ったとしながら、2026年をマルチプロダクト元年としてWebX投入やMobileOrder開始を掲げています。ここは、単一プロダクトでの深掘りに加え、周辺領域へ展開する局面にあることを示します。比較検討時には、アプリ開発だけでなく、Web構築やモバイルオーダーといった周辺機能が、既存の業務(EC、店舗運営、販促、社内情報共有)にどう接続するかを整理したうえで選定するのが現実的です。

また、エンタープライズ/ミッドマーケット/スモールビジネスの導入構成比(24.6%/29.9%/44.8%)が示されている一方で、HR領域ではエンタープライズ以上が主なターゲットとされています。導入検討者は、自社の規模・利用目的(顧客体験か社内DXか)と、必要な伴走支援(制作・成長支援)を含めて比較することが重要になります。


まとめ

ヤプリを一言で表すなら、「ノーコード×AIアシストで、アプリ運用の改善サイクルを回す“マルチプロダクト化”途上のSaaS企業」です。

市場では、人手不足下の生産性向上ニーズ、人的資本開示によるエンゲージメントの“改善”需要、アプリ市場の成熟化と運用競争の激化が示されています。2025年12月期は売上60.56億円(+9.9%)、営業利益8.82億円(+60.2%)で、営業利益率14.6%まで上がり、会社が「安定的な利益創出フェーズ」を明記しました。KPIは契約数939件、ARR 51.8億円、平均月額利用料46.0万円、解約率0.92%と、ストック型モデルの健全性を示す指標が並びます。

IT/業務観点では、価値の中心は「短期構築」よりも「運用・改善を回す仕組み」にあります。導入・比較検討では、アプリだけでなくWeb(WebX)や飲食向けモバイルオーダー(MobileOrder)まで含め、顧客体験・店舗運営・社内コミュニケーションのどの業務プロセスを変えるのか、AI活用が運用負荷にどう効くのか、伴走支援をどこまで求めるのかを軸に評価することが意思決定につながります。

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