楽天銀行株式会社は、楽天グループのインターネット専業銀行として、預金・融資・決済・資産運用などの銀行サービスをデジタル完結で提供しています。金融・保険業に属し、楽天グループのエコシステムとの連携による顧客獲得と、低コストなデジタル運営を組み合わせた成長モデルが特徴です。連結子会社23社で構成され、国内に加え台湾の樂天國際商業銀行でも事業を展開しています。
本記事は、2026年3月期通期(2025年4月〜2026年3月)の決算をもとにした更新版です。前回記事時点の第3四半期累計(2025年4〜12月)では経常収益1,833億円(前期比+39.1%)を報告していましたが、通期では経常収益2,555億79百万円(前期比+38.4%)、経常利益1,030億91百万円(同+44.1%)、純利益730億72百万円(同+43.9%)と大幅増収増益で着地しました。2026年3月末の口座数は1,807万口座、単体預金残高は12兆9,644億円に達し、デジタル銀行としての事業規模を大きく拡大した1年となりました。
詳しくは前回の記事もあわせてご覧ください。
【楽天銀行株式会社(証券コード:5838)徹底解説】デジタル銀行の成長はどこから来るのか
本記事では、FY2026通期の市場環境・事業展開・業績の着地点を整理し、翌期(FY2027)に向けた成長シナリオを考察します。
1. FY2026年を振り返る市場・業界の変化
2025年4月から2026年3月にかけての1年間、世界経済はウクライナ情勢・中東情勢を背景とした地政学リスクの高まりと、米国の通商政策をめぐる不透明感の中で推移しました。米国では関税引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられたものの、景気は緩やかな拡大を続け、ユーロ圏でも持ち直しの動きが確認されました。一方、中国は不動産市場の停滞が影響し、緩やかな減速が続く状況でした。
日本経済においては、個人消費や設備投資が底堅く推移し、景気は緩やかな回復基調を維持しました。もっとも、米国通商政策の影響や金融資本市場の変動など、先行きの不透明感は高まりました。金融政策の面では、米連邦準備制度理事会(FRB)が2025年9月・10月・12月の連邦公開市場委員会(FOMC)において政策金利を引き下げる一方、欧州中央銀行(ECB)も2025年6月に政策金利を引き下げました。
日本銀行は2025年12月の金融政策決定会合において政策金利を引き上げており、長期にわたる超低金利政策からの本格的な転換が鮮明になりました。この政策金利引き上げは、運用資産に対する利回りの上昇をもたらし、ネット銀行を含む銀行業全体の収益環境を大きく改善する要因となりました。楽天銀行にとっては、拡大する預金・貸出残高と金利上昇の効果が複合的に作用し、資金運用収益が大幅に拡大する局面となりました。
デジタル銀行の需要面でも、スマートフォンを通じた口座開設・各種手続きの定着が続きました。キャッシュレス決済の普及や公共料金の口座振替ニーズの拡大も追い風となり、顧客の「生活口座」としての利用が進んだ1年でした。楽天グループが提供するECサイト・ポイントサービス・携帯電話サービスとの連携も、新規口座獲得の誘引として機能し続けました。
2. 業績推移:第3四半期から通期へ
第3四半期累計(2025年4〜12月)では経常収益1,833億円(前期比+39.1%)・経常利益751億円(同+51.7%)・純利益531億円(同+50.9%)でした。通期では経常収益2,556億円(同+38.5%)・経常利益1,031億円(同+44.1%)・純利益731億円(同+43.9%)となり、第4四半期(2026年1〜3月)に経常収益約723億円を積み増す形で着地しました。
第3四半期累計と通期の成長率を比較すると、経常収益では+39.1%から+38.5%とほぼ同水準を維持しており、特定の四半期に偏らず均質な成長が1年を通じて継続したことを示しています。経常利益の成長率は第3四半期累計の+51.7%から通期の+44.1%へとやや縮小しており、第4四半期に費用が積み増された面があります。これは2025年12月以降に実施したキャンペーン施策・新サービス関連費用の影響とみられます。
前期通期(FY2025)との比較では、経常収益1,845億円から2,556億円へ710億円超の拡大、純利益は508億円から731億円へ222億円の増加となりました。前期に比べて増収幅・増益幅ともに過去最大規模の更新となっており、日銀の政策金利引き上げ効果と口座数・預金残高の両面での成長が連動して収益を押し上げた結果です。
3. 直近決算の重要ポイント
通期の経常収益2,556億円のうち、最大の構成要素は資金運用収益の1,976億円です。前期比695億円増(+54%超)と大幅に拡大しており、運用資産の増加に加えて日本銀行の政策金利引き上げに伴う運用利回りの上昇が主因です。役務取引等収益は495億円(前期比+31億円)で、口座数の増加と生活口座化の進展による受取為替手数料・口座振替手数料・カード関連受取手数料の増加が収益を押し上げました。
費用面では、経常費用が1,525億円(前期比+395億円)となりました。内訳をみると、資金調達費用が552億円(前期比+280億円)と大きく増加しており、預金残高の伸長に加え、2025年3月と2026年2月に実施した普通預金金利の引き上げによる預金利率上昇が影響しています。営業経費は569億円(前期比+106億円)で、人件費・ソフトウェア償却費・業務委託費・広告宣伝費が増加しました。
事業展開面では、2025年5月に「楽天銀行リバースモーゲージ(極度型)」の取り扱いを開始し、2025年6月には「楽天銀行 証券担保ローン」を開始しました。証券担保ローンはサービス開始からわずか約4か月後の2025年10月に残高100億円を突破しており、投資家層の借り入れニーズに応える新商品として順調な立ち上がりをみせました。
顧客向け施策も積極的に展開しました。2025年7月には給与・賞与・年金の受け取りやデビットカード利用・口座振替などの利用状況に応じて普通預金金利を上乗せする「ボーナス金利」を拡充しました。2025年12月には特典進呈額が過去最大となるキャンペーン「過去最強の特典祭」を実施し、同月よりスマートフォンを使ってATMで入出金できる「スマホATM」サービスも開始しました。また、2026年1月には楽天証券との口座連携サービス「マネーブリッジ」の普通預金優遇金利適用残高を300万円から1,000万円に引き上げ、楽天モバイルとの銀行代理業務連携も開始しています。公金収納についても兵庫県神戸市など複数の自治体での口座振替取り扱いを新たに開始し、生活口座としての利便性向上を図りました。
4. 通期実績が示す収益モデルの現在地
楽天銀行の収益モデルは、「楽天エコシステムを活用した低コスト顧客獲得」と「デジタル完結オペレーションによる高い運営効率」の組み合わせを基盤としています。FY2026通期において純利益が経常収益の伸び(+38.5%)を上回る+43.9%の成長を達成できたのは、金利環境の改善という外部要因と、口座数・預金残高の継続的拡大という内部成長が相乗的に作用した結果です。資産面では総資産が16兆5,921億円(前期末比+1兆8,435億円)に拡大し、貸出金が5兆9,431億円、有価証券が2兆3,248億円と増加しています。
負債面では、普通預金が10兆7,703億円(前期末比+5,747億円)、定期預金が2兆1,795億円(同+1兆166億円)と拡大しました。定期預金の増加幅が大きいのは、金利上昇局面での顧客の預け替え・新規資金流入が寄与したとみられます。口座数1,807万口座という規模は、預金残高の積み上げのみならず、今後のローン・資産運用・保険といったクロスセル展開に向けた潜在力を持っています。
翌期(FY2027)の業績予想は経常収益3,147億円(+23.1%)・経常利益1,156億円(+12.1%)・純利益813億円(+11.2%)です。今期の+38.5%から成長率は鈍化しますが、絶対額での成長は引き続き大幅です。成長率の正常化は、今期に作用した日銀政策金利引き上げの追加効果が限定的となることに加え、セキュリティ強化・内部管理態勢整備への継続的な投資増加を織り込んでいるためとみられます。配当は今期・翌期ともにゼロを維持しており、利益を成長投資へ優先的に充てる方針が続きます。
5. 業界の注目ポイント
ポイント1:日本銀行の利上げ継続がネット銀行の収益構造に与える影響
日本銀行の政策金利引き上げは、大規模な運用資産を保有するネット銀行にとって収益の構造的押し上げ要因となります。楽天銀行の今期資金運用収益は前期比+695億円と急拡大しており、金利正常化局面でのビジネスモデルの収益拡大力が明確になりました。一方、普通預金金利を含む預金金利の引き上げ競争も激化しており、調達コスト上昇を貸出金利・運用利回りでどれだけカバーできるかが、今後の利鞘管理における主要な論点となります。
ポイント2:楽天エコシステムとの連携深化が継続的な口座増加を支える
楽天銀行の顧客獲得コストの低さは、楽天市場・楽天Pay・楽天ポイント・楽天モバイルなどグループサービスとの連携に起因しています。今期は楽天モバイルとの銀行代理業務連携を開始し、楽天モバイル契約者向けの「楽天モバイル×楽天銀行 ボーナス金利」サービスも導入されました。グループとのクロスユース促進による新規口座獲得と既存顧客の維持強化が、競合他社との差別化要因として今後も機能すると考えられます。
ポイント3:証券・資産運用との口座連携が個人金融サービスの裾野を広げる
新NISAの本格普及を背景に、個人の資産運用ニーズが高まり続けています。楽天銀行は楽天証券との「マネーブリッジ」を通じて、銀行口座と証券口座を連携させることで資金移動の利便性を高めています。今期は優遇金利の適用残高上限を大幅に引き上げ(300万円→1,000万円)、資産運用層の取り込みを強化しました。口座数1,807万という規模を活用したクロスセル展開が、手数料収益の中長期的な成長エンジンとして機能する可能性があります。
6. ITトレンド編集部の考察
FY2026通期を総括するならば、「金利転換の恩恵と顧客基盤拡大が重なった、デジタル銀行モデルの真価が問われた1年」と評価できます。経常収益+38.5%・純利益+43.9%という成長率は、日本銀行の政策転換という外部環境の変化を取り込みながら、口座数・預金残高・貸出資産の継続的な拡大という内部成長も維持した結果です。証券担保ローンが4か月で残高100億円を突破した事実は、新商品の市場投入能力の高さを示しています。
第3四半期累計からの通期着地を振り返ると、経常収益の成長率がほぼ同水準で維持された点は、特定四半期への偏りのない安定した事業構造を裏付けます。費用面では営業経費が前期比+106億円と増加しており、キャンペーン施策の規模拡大と新サービス関連投資が積み上がっていることがわかります。これは短期的な費用増加を伴いながらも、顧客基盤の厚みをさらに高める先行投資とみるべきです。
翌期の成長率鈍化(+23.1%)は、今期の金利上昇という一時的な追い風効果が部分的に剥落することを織り込んでいます。しかし純利益で813億円という絶対水準は、前年同期比での継続的な増加を意味しています。楽天モバイルとの連携強化・スマホATMの利用定着・公金収納拡大による生活口座化の深耕など、翌期に向けた施策の布石は複数打たれており、今後の顧客ARPU(1口座あたり収益)の向上が注目されます。
7. まとめ
楽天銀行株式会社を一言で表すと、「楽天エコシステムとデジタル完結サービスを武器に、金利転換局面でも高成長を実現するネット専業銀行」です。
2026年3月期通期(2025年4月〜2026年3月)の主な業績と経営トピックスは以下のとおりです。
- 経常収益2,556億円(前期比+38.5%)、経常利益1,031億円(同+44.1%)、純利益731億円(同+43.9%)と大幅増収増益を達成
- 2026年3月末の口座数1,807万口座・単体預金残高12兆9,644億円と国内最大規模のデジタル銀行へ成長
- 資金運用収益は1,976億円(前期比+695億円)と急拡大し、日銀の政策金利引き上げと運用資産拡大の複合効果が顕現
- 証券担保ローンをサービス開始4か月で残高100億円突破、スマホATM・楽天モバイル連携・ボーナス金利拡充など顧客接点強化を継続推進
- 総資産は16兆5,921億円(前期末比+1兆8,435億円)、純資産は3,895億円(同+704億円)と財務基盤を拡充
- 翌期(FY2027)は経常収益3,147億円(+23.1%)・純利益813億円(+11.2%)を予想し、成長率は正常化しながらも二桁増収増益路線を維持
翌期は楽天モバイルとの連携による新規顧客の取り込みと、マネーブリッジを活用した資産運用ニーズの受け皿としての機能強化が重点テーマとなります。デジタル銀行としての強固な顧客基盤を活かし、手数料収益とクロスセル収益の底上げを図ることができるかが、成長率の持続的維持に向けた鍵となります。

