モビルス株式会社は、コンタクトセンター向けにチャネル多様化、オペレータ支援、AI自動応答という3つのSaaSソリューションを提供する企業です。大手企業との協業や販売代理店網の構築を通じて、幅広い顧客層への提供体制を築いてきました。
2026年8月期第3四半期累計期間の業績は、売上高15億65百万円(前年同期比+18.5%)と増収を確保した一方、営業損失77百万円(前年同期は営業利益44百万円)、経常損失91百万円(前年同期は経常利益38百万円)、親会社株主に帰属する四半期純損失34百万円(前年同期は四半期純利益42百万円)となり、増収減益から一転して赤字に転落しました。
詳しくは前回の記事もあわせてご覧ください。
モビルス株式会社(証券コード:4370)の決算解説
通期着地を左右する市場環境
当第3四半期累計期間における日本経済は、企業収益や雇用・所得環境の改善によって、景気は緩やかな回復基調にあります。ただし物価上昇の継続による個人消費への影響や、中東情勢、金融資本市場の変動、米国の通商政策など、先行き不透明な要素が引き続き存在しています。
モビルスの事業環境としては、国内企業の人手不足感の高まりとコスト削減圧力を背景に、コンタクトセンターの効率化・自動化ニーズが引き続き高い状態にあります。加えて生成AIの技術的進化により、これまで自動化が難しかった領域でも投資マインドが醸成されつつあると見られます。
こうした環境の中、代理店経由の取引が活性化しチャットソリューションの拡販が進んだことで、SaaSサービスの売上高は前年同期比+14.4%の成長を遂げました。プロフェッショナルサービスもオペレーター支援AI「MooA」導入に伴う開発案件の寄与により、前年同期比+31.4%の伸びとなっています。通期の着地は、この投資局面をどこまで収益化できるかにかかっていると考えられます。
業績推移
詳しい数値は決算短信本文でも確認できます。
モビルス株式会社 2026年8月期 第3四半期決算短信(PDF)
モビルスの四半期業績を振り返ると、2025年8月期第3四半期累計は売上高13億20百万円、営業利益44百万円、純利益42百万円という黒字基調でした。しかし2026年8月期第1四半期は売上高4億66百万円に対し営業損失86百万円、純損失67百万円を計上し、赤字体質が顕在化しています。
続く第2四半期(中間期)累計では売上高10億08百万円、営業損失73百万円、中間純損失37百万円となり、赤字基調が継続しました。そして今回の第3四半期累計では、売上高15億65百万円まで積み上がったものの、営業損失77百万円、四半期純損失34百万円という結果です。売上は着実に拡大している一方、費用の増加ペースがそれを上回っている状況がうかがえます。
財政状態を見ると、2026年5月末時点の資産合計は24億25百万円(前期末比+1億96百万円)、負債合計は9億29百万円(同+1億52百万円)、純資産合計は14億96百万円(同+43百万円)となりました。負債面では1年内返済予定の長期借入金が3億44百万円増加しており、資金調達の状況にも変化が見られます。
直近決算の重要ポイント
今回の決算で最も注目すべき点は、増収を確保しながらも営業損益・経常損益・純損益のすべてが前年同期から赤字に転落したことです。売上原価は5億76百万円(前年同期3億57百万円)、販売費及び一般管理費は10億66百万円(前年同期8億40百万円)と、いずれも売上の伸び以上に増加しました。営業利益は前年同期比で-275.0%、親会社株主に帰属する四半期純利益は前年同期比で-181.0%と、いずれも大幅な減益(黒字から赤字への転落)になっています。
経営指標を見ると、SaaSプロダクトの契約数は304件(前年同期比96.2%)とやや減少した一方、契約当たりの平均単価は325千円(前年同期比38千円増)に上昇しています。新規案件の大型化とアップセル・クロスセルの進展が、契約数減少をカバーする形になったと見られます。ARR(年間経常収益)は14億59百万円で、前四半期の14億72百万円からわずかに減少しました。
また、直近12ヵ月平均解約率は0.75%と、前四半期の0.68%からやや上昇しています。水準としては引き続き低いものの、上昇トレンドには注意が必要と考えられます。翌期(2026年8月期通期)の業績予想については、2025年10月10日公表の内容から変更がなく、売上高22億98百万円(前期比+23.9%)に対し、営業損失-1億10百万円、純損失45百万円を見込んでいます。
Q3時点の事業進捗
モビルスはコンタクトセンター向けSaaSソリューション事業を単一セグメントとして展開しており、サービス別ではSaaSサービスとプロフェッショナルサービスの2本柱で収益を構成しています。今第3四半期累計では、SaaSサービスの売上高が11億47百万円(前年同期10億02百万円)、プロフェッショナルサービスが4億18百万円(同3億18百万円)となり、いずれも増収を確保しました。
とりわけプロフェッショナルサービスの伸びが大きく、オペレーター支援AI機能「MooA」の導入に伴う複数の開発案件が寄与したことがうかがえます。有償カスタマーサクセス案件の獲得も進んでおり、既存顧客との関係を深化させながら収益源を広げる動きが見られます。
一方で、無形固定資産のうちソフトウエアが2億67百万円増加するなど、将来の収益基盤構築に向けた投資が先行しています。減価償却費も1億76百万円(前年同期1億05百万円)に増加しており、投資回収が今後の収益改善の鍵を握ると考えられます。Q3時点では、投資が先行する成長フェーズにあることが事業構造から読み取れます。
業界の注目ポイント
生成AI活用によるコンタクトセンター自動化の加速
ChatGPTをはじめとする生成AIの技術進化に伴い、これまで自動化が困難とされていたコンタクトセンター業務領域でも効率化への期待が高まっています。企業の人手不足感やコスト削減圧力を背景に、コールセンターへの投資マインドが一段と醸成されつつある状況です。
モビルスはこうした流れを捉え、オペレーター支援AIソリューション「MooA」の開発案件を積み上げています。今後は個別の自動応答機能にとどまらず、オペレーターとAIが協働する業務設計そのものが差別化要因になっていくと見られます。
代理店経由の販売網拡大とアップセル戦略
モビルスのSaaSサービスは代理店経由での取引拡大が成長を牽引しています。契約数そのものはやや減少したものの、既存顧客への追加購入(アップセル・クロスセル)と新規案件の大型化により、契約当たり単価の上昇という形で収益に結びついています。
今後は代理店網のさらなる拡充と、顧客ごとのニーズに応じたソリューションの組み合わせ提案が、収益の質を高める鍵になると考えられます。単価上昇のトレンドが今後も続くかどうかが注目されます。
投資先行フェーズにおける収益性回復のタイミング
今回の決算では、増収にもかかわらず営業損失を計上した点が最大の焦点です。ソフトウエア投資や本社移転費用などの一時的な要因に加え、販管費の増加が収益を圧迫しています。
翌期の通期予想でも営業損失が見込まれていることから、投資回収のタイミングがいつ訪れるかが市場の関心事になると見られます。ARRの積み上げペースと解約率の動向は、収益性回復の先行指標として注視する価値があります。
ITトレンド編集部の考察
今回の決算からは、モビルスが成長投資を優先する局面に入っていることがうかがえます。売上高そのものは前年同期比+18.5%と着実に伸びており、SaaS事業の需要自体は堅調と考えられます。一方で、営業損失・経常損失・純損失という3つの利益指標すべてが赤字に転じたことは、投資家にとって軽視できない変化だと考えられます。
特に注目したいのは、契約数がやや減少する一方で契約単価が上昇しているという構造です。これは、大型化・高度化する案件へのシフトを意味しており、既存の顧客基盤を深耕する戦略が奏功しつつある可能性を示しています。ただし解約率がわずかに上昇傾向にあることから、顧客満足度の維持と単価上昇の両立が今後の課題になると見られます。
翌期通期予想でも赤字が継続する見込みであることから、投資回収のタイミングと収益性改善のシナリオが明確になるかどうかが、株価やIR上の焦点になると考えられます。オペレーター支援AI「MooA」の収益貢献がどの程度本格化するかを、次四半期以降も注視する必要があるでしょう。
まとめ
- 2026年8月期第3四半期累計の売上高は15億65百万円(前年同期比+18.5%)と増収
- 営業損失77百万円(前年同期は営業利益44百万円)、経常損失91百万円(前年同期は経常利益38百万円)
- 親会社株主に帰属する四半期純損失は34百万円(前年同期は純利益42百万円)
- SaaSプロダクト契約数は304件とやや減少も、契約単価は325千円に上昇
- 翌期(通期)予想は売上高22億98百万円、営業損失-1億10百万円、純損失45百万円を見込む

