HA構成とは?止まらないシステムの基本
HA構成とは、High Availability(高可用性)を実現するために機器やソフトウェアを冗長化した構成を指します。冗長化とは、同じ役割を果たせるものを余分に用意しておくことです。可用性とは、システムが「使いたいときに使える状態である度合い」を表す言葉で、性能の速さや安全性とは別の観点として扱われます。
大切なのは、HA構成が故障そのものを防ぐ技術ではない点です。サーバーの電源やディスクはいずれ壊れますが、予備の機器が即座に処理を引き継げば、利用者から見たサービスは止まりません。つまりHA構成は、障害の発生を前提に置いたうえで、その影響が業務に届く前に吸収する考え方だといえます。
稼働率で見るHA構成の効果
可用性は稼働率という数字で表され、一般に「99.9%」のようなパーセンテージで示されます。稼働率99.9%は年間の停止時間がおよそ8時間45分、99.99%ならおよそ52分に相当します。桁が1つ増えるだけで、許される停止時間が10分の1に縮まる計算です。
稼働率を上げるには、機器の予備を持つことに加えて、障害を素早く見つける仕組みと、切り替えを自動で行う仕組みが必要です。また、電源やネットワーク回線のように1つしかない部分が残っていると、そこが壊れた瞬間にシステム全体が止まります。稼働率の目標を決めるときは、どの部分まで冗長化するのかとセットで考えることが重要です。
HA構成が必要になる業務の見分け方
すべてのシステムにHA構成が要るわけではありません。判断の軸になるのは、「止まったときにどれだけ困るか」です。受注管理や決済、工場の生産指示、医療情報のように、数分の停止が売上や安全に直結する業務は、HA構成の対象になりやすい領域です。
一方で、社内の閲覧用資料サーバーや検証環境のように、半日止まっても代替手段で乗り切れる業務であれば、バックアップからの復旧で十分な場合もあります。判断のためには、停止1時間あたりの損失額と、復旧までに許容できる時間を具体的な数字にしてみると整理しやすくなります。感覚で決めるのではなく業務ごとに重要度を仕分けることが、過剰投資と対策不足のどちらも避ける近道です。
HA構成の主な種類と切り替え方式
ひとくちにHA構成といっても、予備機をどう待機させるか、データをどう共有するかによって、コストも切り替え時間も大きく変わります。ここでは代表的な待機方式とデータ共有の方式を整理します。
アクティブ/スタンバイ方式
アクティブ/スタンバイ方式は、1台を稼働機(アクティブ)として実際の処理を担わせ、もう1台を待機機(スタンバイ)として控えさせる構成です。稼働機に障害が起きると、待機機が処理を引き継ぎます。構成が分かりやすく、動作の検証もしやすいため、基幹業務のサーバーで広く採用されています。
待機の仕方にはいくつか段階があります。待機機のOSやアプリケーションまで起動させておく方式は、切り替えが速い代わりに常時リソースを消費します。逆に、最小限の準備にとどめる方式は費用を抑えられるものの、切り替えに時間がかかります。どこまで温めておくかは、許容できる切り替え時間と予算の兼ね合いで決めます。
アクティブ/アクティブ方式
アクティブ/アクティブ方式は、複数台をすべて稼働させ、通常時から処理を分担させる構成です。全機が仕事をしているため設備を遊ばせずに済み、1台が停止しても残りの機器が処理を続けられます。台数を増やすことで処理能力そのものも高められる点が特徴です。
ただし、この方式はどのアプリケーションでも使えるわけではありません。同じデータに複数台から同時に書き込むと矛盾が生じるため、アプリケーション側が分散処理に対応している必要があります。また1台停止した際に残りの機器へ負荷が集中するので、通常時の使用率に余裕を持たせておかないと、障害をきっかけに全体が遅くなる事態を招きます。
共有ディスク型とミラーリング型
待機方式とは別に、データをどう持つかという軸があります。共有ディスク型は、稼働機と待機機が同じ外部ストレージに接続し、切り替え時には接続先を待機機へ付け替えます。データが1か所にあるため引き継ぎ時のずれが生じにくい反面、共有ストレージ自体が壊れると全体が止まるため、ストレージ側の冗長化も欠かせません。
ミラーリング型は、各サーバーが自分のディスクを持ち、書き込み内容をネットワーク経由で相手にも複製します。共有ストレージが不要で、機器を離れた場所に置きやすい点が利点です。一方で複製の遅れが発生すると、切り替え後に直前のデータが失われる可能性があります。
HA構成はどうやって障害を検知し引き継ぐのか
HA構成が働くかどうかは、障害を正しく見つけて確実に引き継げるかにかかっています。ここでは、生存確認の通信であるハートビート、引き継ぎ動作であるフェイルオーバー、そして最大の落とし穴であるスプリットブレインを説明します。
ハートビートによる生存確認
ハートビートとは、クラスターを組む機器どうしが定期的にやり取りする短い信号のことです。心臓の鼓動になぞらえた呼び名で、この信号が届き続けている間は相手が正常だと判断します。信号が一定時間途切れると、待機機は相手に障害が起きたとみなして引き継ぎの準備に入ります。
この仕組みで注意したいのは、ハートビートが通る経路そのものが壊れる場合があることです。経路が1本しかないと、サーバーは正常なのに通信だけが切れた状態を「相手が死んだ」と誤って判断してしまいます。そのため実務では、業務用とは別の専用線を用意するなど、複数の経路で生存を確認する設計が基本とされています。
フェイルオーバーとフェイルバック
フェイルオーバーとは、障害を検知した際に待機機が処理を引き継ぐ動作です。実際には、業務で使う仮想的なIPアドレスを待機機へ移し、ディスクを引き継ぎ、アプリケーションを起動するといった手順が順番に実行されます。この一連の作業を自動化しておくことで、担当者が駆けつけるより早く復旧できます。
復旧した元の稼働機へ処理を戻すことをフェイルバックと呼びます。自動で戻す設定にすると、原因が取り除かれないまま切り戻して再び障害を起こす危険があるため、担当者が状態を確認してから手動で戻す運用も広く採られています。
スプリットブレインという最大の落とし穴
スプリットブレインとは、サーバー間の通信だけが途切れた結果、両方の機器が「自分が稼働機だ」と思い込んで同時に動いてしまう状態です。同じデータに双方から書き込みが走るため、データの破壊という、単なる停止よりも深刻な被害につながります。
この事態を防ぐため、HA構成では相手を確実に停止させる仕組みが用意されています。代表的なのが、疑わしい機器の電源を強制的に落とす方法です。また、3台以上で構成し、多数決によって正しい側を決める考え方も使われます。検討時は切り替えの速さだけでなく、この安全装置の実装を必ず確認してください。
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HA構成と混同されやすい構成との違い
HA構成は、負荷分散や災害対策、バックアップとしばしば同じものとして語られます。しかし目的が異なるため、取り違えると必要な備えが抜け落ちます。ここでは代表的な2つとの違いを整理します。
ロードバランシング(負荷分散)との違い
ロードバランシングは、多数の処理要求を複数のサーバーへ振り分けて、1台あたりの負担を軽くする仕組みです。主な目的は性能の確保であり、結果として1台が停止しても振り分け先から外すことで、可用性の向上にもつながります。この重なりが、両者を混同させる原因です。
違いが表れるのは、状態を持つ処理を扱うときです。負荷分散は基本的に、どのサーバーで処理しても同じ結果になる仕事を前提としています。データベースの更新のように1か所でしか実行できない処理は振り分けでは守れず、引き継ぎの仕組みが必要です。Webの入口は負荷分散、裏のデータベースはHA構成と使い分けるのが一般的です。
災害対策(DR)やバックアップとの違い
災害対策(DR)は、地震や火災などで施設ごと使えなくなる事態に備え、離れた場所に代替環境を用意する取り組みです。HA構成が同じ拠点内の機器故障を数分以内に吸収するのに対し、DRは拠点全体の喪失を数時間から数日かけて復旧する想定で組まれます。守る範囲と時間の尺度が違います。
バックアップはさらに目的が異なり、データそのものを別に保存して、消失や誤操作、改ざんから守る手段です。HA構成では、片方で誤って消したデータは相手にもそのまま反映されるため、人為的なミスやランサムウェアの被害は防げません。可用性の対策とデータを取り戻す対策は別物として、両方を用意する必要があります。
HA構成を設計・運用するときの注意点
HA構成は、機器を2台並べれば完成するものではありません。いざというときに機能しない構成を作らないために、見落としやすい観点を3つ挙げます。
単一障害点が残っていないか確認する
単一障害点とは、そこが壊れると全体が止まってしまう箇所を指します。サーバーを二重化しても、両方が同じ電源タップや同じネットワークスイッチにつながっていれば、その1点の故障で共倒れになります。ラックや空調、回線の引き込み口まで経路をたどると、思わぬ弱点が見つかります。
すべてを二重化すると費用は膨らむため、現実には優先順位づけが必要です。故障の起きやすさと、壊れた場合の影響の大きさを掛け合わせて、対策する箇所を選びます。特にディスクやファン、電源のように可動部や消耗部を含む部品は故障頻度が高く、優先度が上がりやすい対象です。
切り替え時間とデータの整合性を実測する
設計書に「自動で切り替わる」と書いてあっても、実際に何秒で業務が再開できるかは動かしてみないと分かりません。アプリケーションの起動やデータの復旧処理に時間がかかり、想定の何倍もかかることは珍しくありません。本番と同じデータ量で切り替え試験を行い、時間を計測しておくことが重要です。
あわせて確認したいのが、切り替えの瞬間に処理中だった取引の扱いです。引き継ぎの直前に受け付けた注文が消えたり、二重に登録されたりしないかを、業務の視点で検証します。技術的に切り替わったことと、業務が正しく続いていることは別の話です。試験は導入時だけでなく、機器更新や改修のたびに繰り返してください。
運用体制と定期的な訓練を用意する
HA構成の落とし穴は、切り替わったことに誰も気づかないまま運用が続くことです。片方が停止したまま放置されると冗長性は失われ、残った1台が壊れた時点で業務が止まります。切り替えが起きたら必ず通知が届く監視の仕組みと、その後の対応手順を決めておく必要があります。
また、切り替え作業を年に一度でも計画的に実施しておくと、手順書の抜けや、担当者の入れ替わりによる知識の断絶を防げます。長期間動かしていない待機機は、更新プログラムの適用漏れや設定のずれによって、いざというときに起動しないことがあります。HA構成は、動く状態を維持し続ける運用があってはじめて価値を発揮します。
業務システムでHA構成を実現するには
ここまで説明した検知・引き継ぎ・安全装置の仕組みを自前で作り込むのは現実的ではありません。基幹業務など停止が許されないシステムでは、これらをまとめて提供するクラスタリングソフトを利用するのが一般的です。以下は代表的な製品です。
InfoScaleEnterprise (べリタステクノロジーズ合同会社)
- AIと自動化でシステム管理を効率化
- 最新OS/仮想化/クラウド対応
- アプリとストレージを一元管理
PRIMECLUSTER (富士通株式会社)
- サーバ障害時も待機サーバへ即座に切替え、業務を継続。
- 多様な環境に対応し、既存インフラを活かした高信頼基盤を構築。
- 冗長化によりデータ保護と通信経路の可用性を確保。
まとめ
HA構成とは、機器が壊れる前提に立ち、予備を用意して業務を止めない高可用性の構成です。アクティブ/スタンバイやアクティブ/アクティブといった方式があり、ハートビートで生存を確認してフェイルオーバーで引き継ぎます。負荷分散や災害対策、バックアップとは目的が異なるため、混同せずに組み合わせることが大切です。導入にあたっては単一障害点の洗い出しと切り替え時間の実測、そして運用体制の整備までを一連の取り組みとして進めてください。


