マルチホーミングの仕組み
ECサイトにおけるビジネス活動はもちろん、メール、VPN、クラウドなど、インターネットはビジネスインフラとなっています。インターネット接続の障害やレスポンス悪化は、ビジネス遂行に多大な影響を及ぼします。
このインターネットの安定稼働と耐障害性を目的とする負荷分散には、2つの方法があります。1つがサーバの負荷分散です。Webサイトのアクセス急増やサーバ障害に備え、サーバを二重あるいはそれ以上に増設し、アプリケーションデリバリコントローラ(ADC)でそれぞれのサーバにアクセスを振り分けます。ADCはロードバランサあるいはL7スイッチとも呼ばれます。
もう1つが、ISPの二重化です。1990年代半ば、インターネットにアクセスするISPは、通常1社でした。特定のISPと契約して、利用していました。それが、90年代後半からビジネスにおける比重が増し、2000年前後にはブロードバンドとなり、生活やビジネスに浸透してきます。ここにおいて、より安定した接続を求め、複数のISPと契約し接続する企業が出てきました。これがマルチホーミングです。
マルチホーミングであれば、1つのISPに障害が発生しサービスが停止しても、もう1つのISPでインターネットを利用できます。2つのISPを利用することで、負荷分散も可能となります。
マルチホーミングの機能は当初、外部との接続部分であったルータに設けられたり、ファイアウォールに追加されたりしていました。やがて、専門の機器も登場し、マルチホーミングを導入する企業も多くなっています。
リンクアグリゲーションとの違い
マルチホーミングと似た概念に「リンクアグリゲーション」があります。リンクアグリゲーションは回線を冗長化する手法です。アグリゲーション(aggregation)とは集約を意味する英単語です。
Aの機器とBの機器を接続する際、1本の回線ではなく、たとえば2本にします。その回線が100Mbps(通信速度を表し、数値が多いほど高速)であれば、2本を集約して200Mbpsで利用できます。1本に障害が発生して使えなくなっても、もう1本で100Mbpsの通信は利用できる仕組みです。
これはISPとの接続でも同様です。1社のISPと100Mbpsで2回線契約します。通常はそのISPと100Mbps×2本=200Mbpsでインターネットを利用できます。たとえ1本の回線に異常が発生し、残り1本になっても100Mbpsは利用できます。
ただし、ISP自体に障害が発生した場合、回線が2本でも、両方とも使えなくなります。これがリンクアグリゲーションの限界です。マルチホーミングはISPが2社(あるいはそれ以上)なので、1社の回線がサービス停止になっても残りのISPの回線で事業を継続できます。
マルチホーミングのメリット
マルチホーミングには大きく次の3つのメリットがあります。
- ■事業継続・収益の確保
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安定したサービスの提供はビジネスの基本原則です。インターネットがビジネス遂行に不可欠になっている以上、その対障害対策は必須になっています。インターネット障害が大きな機会損失につながることもあります。マルチホーミングは対障害対策として有効です。
- ■パフォーマンスの向上
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インターネットの接続を同時に複数回線で行うことで、通信の負荷分散とパフォーマンスを向上させることができます。アクセスが集中しても安定したレスポンスを維持できます。
- ■コスト削減
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SLA(Service Level Agreement,:サービス品質保証制度)の契約により、サービス品質を保証しているISPもあります。しかし、帯域保証(自社が利用できる回線の容量を保証してくれること)は高額であることが多く、ベストエフォート(帯域保証をしない)のISPと複数契約する方が低料金になることがあります。
回線障害によるシステム停止時間が、秒単位、分単位で、大きな機会損失になる場合、事業継続や収益確保のため、マルチホーミングの検討をお薦めします。