資金決済法とは
「資金決済法(正式名称:資金決済に関する法律)」は、商品券や電子マネーなどの前払式支払手段、銀行以外の業者が行う資金移動業、暗号資産交換業などの資金決済システムに関するルールを定めた法律です。2010年の施行以来、IT技術の進歩や新たな決済サービスの登場に合わせて幾度かの改正が行われてきました。
本法律は、決済サービスの利便性向上を促進するとともに、利用者の財産保護やシステムの安全性確保を目的としています。特に近年は、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)の観点からも重要性が高まっています。
参考:資金決済に関する法律|e-Gov 法令検索
参考:資金決済法について|一般社団法人日本資金決済業協会
2026年6月施行予定の改正資金決済法の概要
今回の改正では、国境を越えた決済サービスの多様化や、暗号資産・ステーブルコイン市場の拡大に対応するため、関連規制の見直しが行われます。
改正の背景
近年、海外送金やクロスボーダー決済のニーズが高まっています。また、ブロックチェーン技術を用いた信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の発行や、暗号資産関連サービスの多様化が進むなか、これらを適切に規律する枠組みの整備が求められていました。
さらに、国際的なマネー・ローンダリング対策や、暗号資産交換業者等の破綻時における利用者保護の観点からも、既存規制の見直しが必要とされています。
公布日・施行日とスケジュール
「資金決済に関する法律の一部を改正する法律」(令和7年法律第66号)は、令和7年(2025年)6月6日に国会で成立し、同月13日に公布されました。施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、令和8年(2026年)6月までに施行される予定です。
なお、具体的な要件や細則は、施行までに政令・内閣府令・告示・監督指針などで順次定められます。
参考:資金決済に関する法律の一部を改正する法律案の概要|金融庁
参考:令和7年資金決済法改正に係る政令(案)等に対するパブリックコメントの実施について|金融庁
改正資金決済法の5つのポイント
改正資金決済法において、実務上とくに重要となる5つのポイントを順に解説します。
ポイント1:クロスボーダー収納代行への規制の適用
これまで「収納代行」は、原則として為替取引には該当せず、資金移動業の登録対象外と整理されてきました。しかし今回の改正により、国境をまたいで行う収納代行のうち一定の要件を満たすものについては、為替取引に該当するものとされ、資金移動業の規制が適用されることになりました(改正後の資金決済法2条の2)。
これは、自身が関与しない取引の決済のために国際送金を行う収納代行業者について、利用者保護やマネー・ローンダリングなどのリスクに対応するための見直しです。ただし、内閣府令により、為替取引規制の適用を除外する類型も定められる予定であり、自社サービスの該当性については慎重なリーガルチェックが必要です。
ポイント2:信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の裏付け資産の管理・運用の柔軟化
信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の裏付け資産については、現行制度では全額を要求払預貯金のみで管理することが求められていました。今回の改正により、国際的な動向を踏まえ、発行額の50%を上限に、元本を毀損しない形で、国債および定期預金による運用が認められることとなりました。
これにより、ステーブルコイン発行者の収益機会が拡大し、ステーブルコイン市場の健全な発展が期待されます。なお、具体的な運用対象資産や上限組入比率、元本毀損防止に係る要件等は、政令・内閣府令等で詳細が定められます。
ポイント3:電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の創設
暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者と、暗号資産等の売買・交換を行いたい利用者を引き合わせる行為(媒介)のみを行う仲介業として、「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業(暗号資産等取引に係る仲介業)」(登録制)が新たに創設されました。
仲介業者には、利用者への説明義務や広告規制など一定の行為規制が課される一方、利用者の資産を預からないため、暗号資産交換業者等と比べて財務規制は限定的とされています。
これにより、銀行や保険会社、その子会社なども含めた多様なプレイヤーの参入が想定され、暗号資産・ステーブルコインの取引機会の拡大につながると見込まれます。
ポイント4:暗号資産交換業者等に対する資産の国内保有命令の導入
暗号資産の現物のみを取り扱う暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者が破綻した場合等に、国内利用者への資産の返還を担保するため、暗号資産のデリバティブ等を取り扱う金融商品取引業者に対する規定と同様に、当局が資産の国内保有命令を発出できるようになりました。
これは、海外取引所の破綻時に国内利用者の資産が返還されないリスクへの対応を念頭に置いたものです。対象となる事業者は、国内に保有すべき資産の具体的な範囲を踏まえた資産管理体制の整備が求められます。
ポイント5:資金移動業者の破綻時等における利用者資金の返還方法の多様化
資金移動業者の破綻時等における利用者資金の早期返還を促すため、銀行等の保証機関や信託会社による資産保全の方法として、既存の供託を経由する返還手続に加え、新たに利用者に直接返還する方法が認められました。
具体的には、以下の3つの新たな保全方法が導入されています。
- ●履行保証人債務引受契約
- ●履行保証人保証契約
- ●履行保証金弁済信託契約
また、第一種資金移動業者については、保全すべき利用者資金の全額を新たな保全方法により保全し、早期確実な弁済体制を備えている場合に、為替取引に関する債務を一定期間(2月を超えない期間)負担できる旨も定められています。
参考:資金決済に関する法律の一部を改正する法律案の概要|金融庁
参考:資金決済に関する法律の一部を改正する法律案|内閣法制局
改正資金決済法が事業者に与える影響
法改正により、決済サービスを提供する事業者や、それを利用する企業にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは、主な対象別に整理します。
資金移動業者・収納代行サービス事業者への影響
越境決済を伴う収納代行サービスを提供している事業者は、自社のビジネスモデルが新たに「為替取引」に該当しないか、内閣府令で定める適用除外類型に該当するかも含めて再評価が必要です。該当する場合は、資金移動業の登録手続きや、それに伴う内部管理体制(本人確認や資産保全など)の構築が求められます。
また、既存の資金移動業者にとっても、新たな保全方法(履行保証人債務引受契約など)の活用により、資金繰りの柔軟化が期待できます。
ステーブルコイン(特定信託受益権)関連事業者への影響
信託型ステーブルコインを発行する事業者は、裏付け資産の運用方針を見直せるようになります。発行額の50%を上限とする国債・定期預金での運用が認められたことを受け、運用ガイドラインの策定や、信託銀行・特定信託会社における運用体制の整備が求められます。
暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者への影響
資産の国内保有命令の対象となる可能性があるため、国内に保有すべき資産の具体的な範囲を踏まえた資産管理体制の整備が必要です。とくに海外グループ会社との資産の所在管理や、内部統制の見直しが重要なポイントとなります。
新規参入を検討する事業者(仲介業)への影響
電子決済手段・暗号資産サービス仲介業(暗号資産等取引に係る仲介業)の創設により、利用者資産を預からない媒介業務に限定して新規参入する道が開かれました。財務規制が課されない一方、利用者への説明義務や広告規制等への対応が必要です。
本人確認やAML/CFT対応については、事業スキームや関係事業者との役割分担を踏まえ、適用される義務を確認しましょう。
一般事業会社(決済代行を利用する側)への影響
直接の規制対象とならない一般企業であっても、利用している決済代行業者や送金サービスが法改正の要件を満たさず、サービス停止となるリスクがあります。提携先のコンプライアンス状況の確認や、契約書・利用規約の見直しが必要になる場合もあります。
事業者が確認すべき自社対応のチェックポイント
施行に向けて、実務担当者は以下のポイントを中心に、社内体制の点検と準備を進めましょう。
- ●自社の提供サービス(とくに越境取引や収納代行)が、資金決済法上の「為替取引」に該当しないか、適用除外類型に該当するかのリーガルチェック
- ●利用者財産の分別管理体制、および履行保証金の保全状況の見直し(新たな保全方法の活用検討)
- ●本人確認(KYC)やAML/CFT体制など、自社に適用される法令上の義務の確認
- ●暗号資産交換業者等は、国内保有命令を踏まえた資産管理体制の整備
- ●ステーブルコイン発行者は、裏付け資産の運用方針・運用体制の整備
- ●提供サービスの利用規約、および取引先との契約書の見直し
- ●所管の財務局等の監督官庁への事前相談や、必要な届出・登録手続きの準備
- ●コンプライアンス部門や関連部署に向けた社内研修の実施
改正対応には、利用者の本人確認(eKYC)や反社チェック、契約書の電子化など、ITツールの活用も有効です。サービスを選定する際は、対応法令の網羅性、サポート体制、金融機関等での導入実績などを確認しましょう。
「自社が改正資金決済法の対象になるか不安」「対応に向けてどのシステムやサービスを選べばいいかわからない」という方向けの診断ページもあります。
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改正資金決済法に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、実務担当者からよく寄せられる疑問について整理しました。
Q1:改正資金決済法はいつから施行されますか?
改正法(令和7年法律第66号)は令和7年(2025年)6月13日に公布され、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において、政令で定める日に施行されます。
そのため、令和8年(2026年)6月までに施行される予定です。詳細な基準を定める政令・内閣府令・告示などは順次整備されるため、金融庁の最新情報を確認しましょう。
Q2:自社が改正の対象になるかどうか、どこで確認できますか?
まずは金融庁の公表資料やガイドラインを確認し、自社のビジネスモデルについて弁護士などの専門家にリーガルチェックを依頼することをおすすめします。
とくに越境収納代行の該当性については、内閣府令で定められる適用除外類型との関係を慎重に検討する必要があります。疑義がある場合は、金融庁のノーアクションレター制度などの活用も検討されます。
Q3:信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の発行者に求められる対応は?
今回の改正により、裏付け資産について発行額の50%を上限に、国債および定期預金による運用が認められます。発行者である信託銀行・特定信託会社等は、運用対象資産・上限組入比率・元本毀損防止に係る要件などを踏まえ、運用方針および運用体制を整備することが求められます。
Q4:海外への送金サービスを提供している場合の対応は?
国境をまたぐ収納代行のうち、一定の要件を満たすものは新たに為替取引に該当し、資金移動業の登録が必要になる可能性があります。一方で、内閣府令で定められる適用除外類型に該当する場合は、引き続き為替取引規制の対象外となります。
自社サービスのスキームを確認したうえで、必要に応じてライセンス取得の準備や事業スキームの見直しを検討しましょう。
Q5:違反した場合の罰則は?
無登録営業や利用者財産の流用などの重大な違反には、業務停止命令や登録取消しなどの行政処分のほか、法人および個人に対する懲役刑や罰金などの刑事罰が科される可能性があります。具体的な罰則は違反内容や適用条文により異なるため、条文や専門家への確認が必要です。
改正資金決済法に関する相談窓口
事業の適法性やライセンス登録に関する不明点は、以下の公的機関や自主規制団体などへ相談することが推奨されます。
- ●金融庁 金融サービス利用者相談室 / FinTechサポートデスク
- ●各地域の財務局
- ●一般社団法人 日本資金決済業協会
- ●一般社団法人 日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)
参考:FinTechサポートデスク|金融庁
参考:財務局・財務事務所の管轄区域一覧|財務局
参考:トップページ|一般社団法人 日本資金決済業協会
参考:トップページ|一般社団法人 日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)
まとめ
令和8年(2026年)6月に施行予定の改正資金決済法は、以下の5つを柱としており、決済ビジネスに大きな影響をもたらします。
- ●クロスボーダー収納代行への規制の適用
- ●信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の裏付け資産運用の柔軟化
- ●電子決済手段・暗号資産サービス仲介業(暗号資産等取引に係る仲介業)の創設
- ●暗号資産交換業者等への資産の国内保有命令
- ●資金移動業者の利用者資金返還方法の多様化
該当する事業者は、無登録営業などのコンプライアンス違反を防ぐため、早期に事業スキームを確認し、必要な体制整備を進めることが重要です。規制対応には、本人確認業務(KYC)やコンプライアンスチェックを効率化するITシステムの活用も有効です。
施行までの期間を活用し、専門家の知見や専用ツールを取り入れながら、確実な法対応を進めていきましょう。



