つくりすぎも欠品も許されない自動車業界の中にあって、松栄電工の生産管理の精度が着実に向上している。TPiCSの導入から8年。指示型の生産管理、短納期対応、在庫適正化などの初期課題はほぼクリア。より効率的な運用を目指して、近年はIoTによる作業の進捗状況の可視化管理にも取り組んでいる。新規顧客への拡販も順調に進んでいることが何よりもその効果を物語っている。将来はTPiCSのデータを活用して作業の負荷分散を自動的に行う予定である。
何十年も前からオフコンを使い続けてきたため、TPiCSにギャップを感じ、システムの移行には苦労した。とくにオフコンのBOMをTPiCS用に変換登録する作業に手間取った。登録内容の間違いチェックと修正は稼働開始の直前まで続き、ある程度の精度のBOMが用意されたところで、2012年11月の本番稼働を迎えた。
部品アイテムが3万点近くあり、短期間で万全なものに仕上げることはできなかったが、その都度、マスタの確認を行った結果、徐々に精度の良い発注と在庫の適正化が図れるようになった。
導入から半年後の2013年年初には、生産管理に精通する現生産管理G課長の石川晴義氏が着任した。「まだ、もたついているところはありましたが、生産管理システムの形にはなっていました」と石川氏は当時を振り返る。ただし、在庫管理の精度はまだ十分ではなかった。
石川氏が問題視したのは、現場で運用されているのは、初工程の実績と製品の完成実績だけで、中間工程がファジィ(管理されていない状態)になっていたことだ。同社が生産するハーネスは防水性能が高いのが特徴で、電線の切断先端の圧着加工から始まり、コネクタやハウジング配線組立、回路の防水加工が行われる。在庫を正確に把握するには、中間工程のタイミングで実績登録することで使用される部品の管理がされなければいけない。こうした改善を率先して行うことを生産管理部門の役割とし、運用ルールを再設定した。
問題点はほかにもあった。スイッチ部門は受注すると仕掛かりがなく一気に完成品まで作業を行うため、部品の引き落としは生産実績で都度計画外の実績としていたが、ハーネス部門の場合は、部品のリードタイムが長く、納期に生産が間に合わないことが起こった。スイッチと同じ方式だと、共通する在庫部品がないぶん、部品の納期遅れが発生すると、現場がつくりたいときに材料の欠品となることがあった。こういう問題を1つひとつ洗い出し、その都度、TPiCSのマスタを変えていったのである。これらの改善活動が奏功し、「2015年6月の棚卸しあたりから、在庫管理の精度が大きく向上しました」と石川氏。
2019年8月には、TPiCSによる生産管理をさらにパワーアップするため、4.1へのバージョンアップを行った。これにより所要量計算が従来の20分から10分に半減したのをはじめ、履歴検索などがよりスムーズになった。TPiCSを初めて導入してから8年。今では社内にすっかり定着した。「TPi CSの良いところは、何と言っても操作が簡単なこと。このシステムなしでは当社の生産管理は考えられません」と、日々、マスタ管理を行う生産管理G主任の岡田和樹氏は話す。
導入前と比較すると新規顧客への拡販により売上が増加しても適正在庫を継続していることが何よりもTPiCSの効果を物語っている。
しかし、まだやり残していることはある。現状は売上の6割を占めるワイヤーハーネス部門が先行する形でシステム化されているが、スイッチ部門も同じレベルで管理できるようにすること。また、「将来的にはTPiCSデータを活用して、現場作業の負荷分散が行えるようにしたい」と石川氏は言う。今後も改善の手を緩めず、一歩一歩前進していく考えだ。