製造部の残業がゼロに
TPiCSの画面
早い時期に工程ごとの作業の基準値を決めたのもシステム運用に役立った。基準値があると、例えば焼き工程の入った日であれば、1日にどれだけの量が焼け、それが基準値を超えたか下回ったかがわかり、下回った場合はその原因がどこにあるかまで深掘りすることができるからだ。「私は元来、こういう仕事は向いていないと思っていましたが、システム運用に携わったことでデータに関する意識が変わりました」(田上氏)。
商品の販売先は生活協同組合(生協)、ギフト品としての直販、民間スーパーの順であり、ブランド力維持のため、飲食店や激安スーパーなどへの販売は行っていない。この商売の難しさは、需要が正確に読み切れないことだ。また生協は単一組織ではなく地域ごとに独立しており、それぞれの生協で注文内容に細かな指定がある。中には1回の企画で5万パックの注文が納期10日前にくることもある。問題はそれらの事前情報がアバウトなものであったことだ。「かつては、そのアバウトな情報をたよりに製造していましたが、結果としてすごく余ることもあれば、魚が足りなくなることも頻繁に起きました」(明神氏)。しかしTPiCSを入れ、社内で実績に基づくデータが取れるようになると、アバウトな情報をあてにしなくても、自前で精度の高い見通しが立てられるようになった。その結果、2023年は売上増に反比例して、年間を通じて製造部の残業はゼロになった。「先が見えるようになると、どの工程が詰まってくるかがわかり調整がしやすくなります。仮にこの先残業することがあっても、数量の動きを見て、前の月からにするか、次の月にするかの判断ができます」と生産計画の担当でもある製造部部長の山﨑達也氏は話す。
TPiCSを入れてからは製造だけでなく、営業部門でもデータの重要性が認識され、情報の精度が良くなった。その結果、実績や在庫管理が確実に実行でき、原価管理もある程度は実績ベースで行えるようになった。「TPiCSを入れて一番良かったのは、社員のデータに関する意識の高まり」と専任者らは異口同音にいう。
そして次に目指すのは、実績だけの管理から未来が見える計画管理へとステップアップすることだ。同社商品の繁忙期は、5月から7月上旬である。鰹は11月から2月までは漁ができないので、1年のスパンで見ると前年の9月くらいから翌年の5~7月を目指して在庫を構える(つくりだめ)ことが必要となる。その際、一番のネックは顧客ごとに注文がマチマチの外装包装工程である。焼きと包装を同時に行うのは不可能なので、「つくれる状態をつくる」ことを目指している。
一方、システム運営のほうもレベルアップが必要だ。「例えば現在、月1回の所要量計算を週次にすることも検討しています。計画というのは必ずズレが生じるものなので、スパンが短いほど対応がしやすいからです。TPiCS研究所さんからもいわれていますが、長期的な視野に立つ一方、スパンを少しずつ縮めながらグルグル回していくことも大事だと思っています」(明神氏)。売上優先から利益重視の業務運営へ。同社にとって、いまやTPiCSは不可欠のツールになりつつある。