当初計画の購買や在庫管理、工程指示の適正化をほぼ実現
TPiCS導入から1年後の2013年10月、今日のTPiCS活用のキーマンである北村健太氏(管理部営業・管理統括部長)が入社する。北村氏は前職でも生産管理を経験するなど、新システム運用の適任者でもあった。ところが着任早々、北村氏が驚いたのは、一部(全体の約20%)の品目の構成登録がなされているだけで、TPiCS本来の機能が活かされていない状態であったことだ。どんなにTPiCSが優れていても、中身のデータを入れなければ何にもならない。そこで管理部門全員で手分けして構成登録作業を急ぐとともに、つなぎ手段として工場内の環境を2分割する戦略で臨んだ。一方はTPiCS、もう一方は旧システムの環境である。TPiCSを活用するには、実際に受注データを取り込むとどう回るかを検証することが必要だが、半面、材料発注を止めるわけにはいかないからだ。そして、全品目の構成登録とTPiCSの検証が済んだ段階ですべてをTPiCSに移行した。
ただし、問題はそれだけでは済まなかった。「メンバーのほとんどが生産管理システムの未経験者で、仕組みや動き方、データの内容理解ができていなかったのです」と振り返る。実際にTPiCSを使い始めた後も、不要な発注があったり、余計な買い物をしたり、在庫過多になるなど、さまざまなトラブルが発生した。そこで日々の業務と並行して管理部員や製造部員向けの教育を徹底して行った。
それから1年後の2014年秋、旧システムからの移行が済み、TPiCSは稼働し始めた。ただし、この時点での運用は構成登録を活用した「買い物」だけであり、生産計画や工程指示、在庫管理など本来の意味での生産管理の実現には至らず、リードタイムの設定など細かな部分の修正が必要だった。中でも問題はTPiCSの中のリードタイムと実際の工程のリードタイムがマッチしないことだった。つくりたいタイミングに材料が間に合わないとか、材料が早めに入ってくるなどの不一致である。しかし、リードタイムを変えれば、作られる計画も変わるので、細かなチェックが必要だった。
同社の工場では年間、約3000品番の製品を取り扱っており、出来上がったものから日々、出荷されるため、同じように比較することは難しい。「実は、社長から『極力、リードタイムを縮めて欲しい』という要望が出ていたので、当初は最短で組んだのです。しかし、そうすると現場に余裕がなくなり、トラブルが頻発するようになりました。そこで、徐々に延ばしていったのが実情です」(北村氏)。また、管理部門と現場との認識の違いもあった。現場の工程の中には、管理部門の人が知らないものもあり、そこが飛んでいるケースもあった。それらの肉付けも行いながら、理想的な形に近づけていったのである。
本社工場のTPiCS活用が軌道に乗ると、2016年から17年にかけて粟津事業所、北関東工場など他の生産拠点にもVPN接続上でTPiCSを入れ、全社的な運用を開始した。拠点で行うべき業務は各拠点に任せ、リモートで本社のデータベースにアクセスできる仕組みだ。
近年のエポックメイキングはTPiCS-X4.1にバージョンアップしたため、原価管理が実現したことだ。購買情報の入ったTPiCSのデータベースを使いつつ、社内で開発した加工工程のプログラムと合算して管理する仕組みのもので、2023年暮れから本格稼働を開始。一品ものから量産品まで精度よく運用できているという。原価管理を行うメリットの一つに価格交渉のしやすさがある。顧客と価格交渉する際には原価の中身を開示することが必要だが、それらの自動化を実現できた効果は大きく、顧客からの信頼性向上にもつながっているという。同社では現在、データベース内データの解析や分析に取り組んでおり、それらをはじめ今後もTPiCSの効果的な運用に努めていく考えだ。
TPiCSの画面