リファラル採用とは
リファラル(referral)は「紹介」や「推薦」という意味をもっています。リファラル採用(リファーラル採用)とは、自社の社員が推薦する候補者を採用する手法です。企業をよく知っている社員の紹介であるため、企業とのマッチング率と定着率が高い傾向があります。
また、人材紹介エージェントや求人広告などを使わず、自社が直接採用するため、採用のコストが抑えられるのが特徴です。人材確保のために欧米では重要な人事施策となっており、日本でも大手企業からベンチャー企業まで、幅広い企業で導入されており、新しい採用手法として関心が集まっています。
縁故採用と似ていますが、リファラル採用は明確な採用基準を設け、経験やスキル、適正を踏まえて採用可否を判断するため、紹介といえど採用されないこともあります。内定を前提とする縁故採用との大きな違いです。
リファラル採用の導入が進む背景
人材採用難つまり人材の確保が難しくなったことが、リファラル採用の導入が進む理由です。日本は少子高齢化の影響で、2006年と比べ2030年には、約480万人の労働人口が減少すると予想されています。求人倍率は年々上昇傾向で、ITなどの技術職は、有効求人倍率が10倍を超えることもあります。
このような人材獲得競争を勝ち抜くためには、企業は応募を待たず、自ら探しに行く姿勢が必要です。社員が友人や知人を紹介してはじまるリファラル採用は、転職を検討していない潜在層まで候補者の枠を拡げられるため、注目されています。人材確保が難しいなかで、優秀な人材の離職リスクは、できる限り低く抑えなければなりません。リファラル採用は、社員のエンゲージメント(愛着心)を高め、定着率を向上させる効果があるため、多くの企業が導入を進めています。
2019年の採用結果と2020年の見通しを調査した「マイナビ中途採用状況調査」によると、リファラル採用を実施した企業は62.9%に達しています。
参考:第2章 近年の社会経済の変化と家計の動向|厚生労働省
参考:「マイナビ 中途採用状況調査2020年版」を発表|株式会社マイナビ
リファラル採用のメリット
企業にエンゲージメントをもつ社員が紹介するリファラル採用は、社員・企業・応募者のそれぞれに大きなメリットがあります。代表的なメリットを4つ紹介します。
採用活動に要するコストを大幅に削減できる
企業が人材を採用するためには採用広報が必要であり、求人サイトを活用するか、人材紹介エージェントを利用します。リファラル採用の場合、社外のリソースは使わず社員の紹介で採用するため、採用コストはほとんどかかりません。
報酬制度を導入しており、リファラル採用で紹介した社員に紹介報酬(インセンティブ)を支払う場合でも、大幅な採用コストの削減が可能です。求人サイトへ支払う採用者一人当たりの費用や、人材紹介エージェントに支払う紹介料は高額なため、大きなコストメリットが得られます。
採用のマッチング率と入社後の定着率が向上する
企業理念や社内環境をよく知る社員が、自社に合いそうな候補者を紹介するため、マッチング率が向上します。候補者は、知人の社員から会社の魅力や雰囲気などを具体的に聞いているため、入社後のギャップが起きにくく、定着率も高くなります。
企業へのロイヤリティを高められる
社員が紹介するリファラル採用は、企業に対するロイヤリティ(忠誠心)を高める効果があります。自社にエンゲージメントをもつ社員が、友人や知人を紹介するため、おのずと候補者も企業に好感を抱きやすくなります。
人材紹介エージェントを活用する場合、その企業にふさわしい能力を有している人材が最優先です。企業に対して、よい印象を持っているかどうかは考慮されません。リファラル採用を活用すると、エンゲージメントの高い人材が増えるため、社員のチームワークがよくなり、企業へのロイヤリティが向上します。
転職活動をしていない優秀な人材を採用できる
社員が一緒に働きたい友人や知人を紹介するため、求人サイトや人材紹介エージェントがアプローチできない、転職活動をしていない潜在層へアプローチが可能です。社員の大学や専門学校の同窓生など、自社が必要とする専門的な知識をもつ人材を集めやすくなります。
すぐに転職する意思がない候補者には、自社の魅力を継続的に伝え続ければ、キャリアパスや環境の変化によりタイミングがあえば応募してもらえます。
リファラル採用のデメリット
リファラル採用のデメリットを理解すれば、有益に活用するためのヒントになります。4つのデメリットを紹介します。
社員の人間関係が悪化する可能性がある
社員に紹介された候補者が不採用になった場合、既存社員と候補者の人間関係が、ぎくしゃくする可能性があります。人間関係を壊さないように気を付けてください。紹介した社員へ、不採用になった理由を丁寧に説明するのが誠実な対応です。
入社後に、紹介者と紹介された社員の人間関係が悪くなると、どちらかが退社してしまうリスクがあります。逆のケースとして、二人の仲がよい場合は、どちらかが退職するともう一人も退職することもありえます。両者への十分なケアが必要です。
インセンティブ目的の紹介が増える可能性がある
インセンティブが高額な場合、紹介報酬を目的とした紹介が多発して、自社にミスマッチな人材の紹介が増加する可能性があります。さらに、社員はインセンティブ報酬を得たいがため、本来の業務をおろそかにすることも考えられます。
社員に対してリファラル採用の目的を明確にし、インセンティブには上限設定を設け、適切な範囲内の制度設計を行いましょう。
人材がかたよる可能性がある
紹介するのは社員なので、リファラル採用は、候補者の年代・性格・スキル・経歴・価値観などがかたよりやすくなります。企業と親和性が高く、似たような人材が集まりやすい傾向があり、人材の多様性が失われる可能性があります。
人材の多様性がなくなると、企業の意思決定がいつも同じ方向になりがちです。革新的なサービスや商品を、生み出しにくくなります。募集内容にマッチする人材を採用するだけでなく、社員のバランスを考慮する必要があります。
社員との認識そごによるトラブルにつながる可能性がある
求めている人材のスキルや選考方法を、社員が正確に理解していないと、トラブルになる可能性があります。求める人材と候補者とのミスマッチがあれば、当然ですが選考過程で不採用になります。リファラル採用の社員紹介は、内定ではありません。
正しく理解していない社員から、候補者が内定であるように伝えられていると、不採用時にトラブルになる場合があります。社員の認識そごによるトラブルを防止するため、正しい理解と周知が大切です。
リファラル採用を成功させるための導入フロー
5つのステップを追って、リファラル採用を成功に導くための導入フローを説明します。
- 1.人事評価制度の見直し
- 全社で人事評価制度を見直し、人事評価制度が各部署でどのように運用されているかを把握しましょう。候補者が配属先でどのように人事評価されるかを、社内で共有することが大切です。
- 2.リファラル採用制度の設計
- どのような職種・人材を募集するか、促進体制・紹介者の基準などを定めます。このような制度設計を行った経験がない場合は、リファラル採用ツールやサービスの提供者から、コンサルティングなどのサポートを受けるのがおすすめです。
- 3.インセンティブの設計
- 紹介者へのインセンティブは、リファラル採用の成否を分ける重要な項目です。例えば、1紹介あたり10万円、あるいは入社した社員年収の一定パーセントなど、基準を決める必要があります。
- 4.リファラル採用の社内告知
- 準備ができたら、社内に告知しましょう。社員が紹介したいと感じられる、魅力的な紹介文の作成が大切です。
- 5.報酬の発生・採用後のフォロー
- 採用できた場合は、紹介者へ遅滞なくインセンティブの支払いを行いましょう。また、採用した社員へのフォローアップをしっかりと行ってください。
リファラル採用ツールの導入が成功の近道
リファラル採用を成功させるためには、最初に行う制度や運用の設計がカギとなり、スムーズに運用するためにはリファラル採用ツールが力を発揮します。制度や運用を複雑にすると、社員は負担が多く候補者を紹介する意欲を失い、人事は効率的に対応できません。
社員が簡単に採用条件や応募方法を入手でき、紹介活動や採用状況をいつでも確認できるような、仕組み作りが重要です。多くのリファラル採用ツールが提供されており、制度設計などのコンサルティングも用意されています。このようなツールとコンサルティングを活用することが、リファラル採用を成功させる近道です。
リファラル採用にかかる費用
自社に適した人材確保に有益なリファラル採用を導入するためには、費用が発生します。主な費用を3つ紹介します。
インセンティブ
リファラル採用を実施すると、紹介者へインセンティブ(報酬)費用が発生します。ほとんどの企業が支払っており、相場は一人当たり数万円~20万円程度ですが、職種・採用の難易度・緊急性により大きく隔たりがあります。
ソーシャルギフトあるいは自社商品の割引券を提供している企業もあり、風土・文化・スタイルにあわせたインセンティブが妥当です。紹介された人への「就職祝い金」などの提供は、2021年4月に職業安定法で禁止されたので注意してください。
参考:職業紹介事業者の皆さまへ|厚生労働省
会食費用
紹介者と候補者との会食費用も発生します。企業により、カフェ代やランチ代を支給したり、会食費として一人当たり3,000~5,000円を支給したりするケースがあります。紹介者と候補者が会食し、ざっくばらんに情報交換をすれば、採用をスムーズに進められるでしょう。
しかし、安易に会食制度を設けると、会食目的の候補者紹介になりかねません。経費申請の際に、誰といつ会食を行ったのかを明確にし、現時点の採用状況を確認して、成果につながるルールになるように注意してください。
リファラル採用ツールの使用料
リファラル採用ツールを導入する場合、利用料が発生します。コンサルティングサービスを活用すると、別途費用になる場合があります。自社の目的や課題にあわせて、選択してください。
リファラル採用の導入が有効な企業
リファラル採用が適している企業や、スムーズに導入できて成果を上げやすい企業があります。おすすめする企業の特徴を2つ紹介します。
スタートアップ・ベンチャー企業
急成長するスタートアップ企業やベンチャー企業にとって、人材確保は最重要課題です。しかし、知名度がなければ人材確保は難しく、採用コストは抑えたい状況と考えられます。このような企業にとって、リファラル採用は最も適した採用方法です。
知名度のある企業と採用で競合せず、潜在層の人材を確保できます。ミスマッチも起きにくく、定着率が上がります。ただし、従業員が少ない場合は紹介数も少ないため、リファラル採用のみで十分な人材の確保が難しいことを、理解しておきましょう。
従業員満足度が高い企業
自分が勤めている会社が好きでなければ、大切な知人や友人に紹介しようとは考えないでしょう。インセンティブに魅力を感じても、転職という大きな決断を促すのには責任が伴います。
企業に対するエンゲージメントが高く、毎日充実した仕事をしていれば、ぜひ紹介したいと考えるでしょう。従業員の満足度が高い企業は、リファラル採用の導入がスムーズで、すぐに成果を上げられます。
リファラル採用で優秀な人材の確保と定着率を向上!
リファラル採用とは、自社社員の紹介や推薦にもとづいて採用する手法のひとつです。コスト削減・マッチング率と定着率の向上・ロイヤリティを高める効果があります。転職を考えていない優秀な人材を、採用できる可能性もあります。
人事担当者や採用担当者は、この記事で解説したメリットとデメリットなどを参考に、自社に適したリファラル採用を導入し、優秀な人材を確保して定着率を向上してください。優秀な人材確保が、ビジネス拡大につながります。