IT トレンドが「インターネット広告ツール」カテゴリで扱う上場企業のうち、直近決算が出そろった5社(株式会社レントラックス、ニフティライフスタイル株式会社、SMN株式会社、バリュークリエーション株式会社、バリューコマース株式会社)の決算を比較しました。決算期はそれぞれ異なりますが、いずれも2025年後半〜2026年前半にかけての業績であり、同じ市場環境を反映した数字として読み解くことができます。
結論から言えば、インターネット広告市場全体は拡大が続いているものの、5社の明暗はくっきりと分かれました。アドテク・不動産送客系の3社(レントラックス・ニフティライフスタイル・SMN)は増収増益基調を維持した一方、バリュークリエーション・バリューコマースの2社は減収・営業赤字に沈んでいます。本記事では、各社の決算数値を横並びで比較しながら、この二極化の背景にある構造を整理します。
1. 市場全体の環境──ネット広告費は初の4兆円超え
株式会社電通が公表した「2025年日本の広告費」によると、2025年の日本のインターネット広告費は4兆459億円(前年比+10.8%)となり、初めて4兆円を突破しました。総広告費に占める構成比も50.2%と、初めて過半数に達しています。SNS上の縦型動画広告やコネクテッドTV(CTV)向けの動画広告需要の高まりが、市場拡大の主なけん引役です。
5社のうち複数社が、この電通調査を決算短信で引用しており、業界全体の追い風を共通の前提として認識していることがうかがえます。一方で、ニフティライフスタイルは「生成AIの急速な拡大」を先行き不透明要因として挙げており、AIによる情報収集行動の変化が広告接触のあり方を変えるのではないかという警戒感も業界内に広がりつつあります。
市場自体は拡大しているにもかかわらず、個社の業績に差が生まれている点が、今回の決算シーズンの特徴といえます。次章で各社の数値を具体的に比較します。
2. 5社の業績比較
企業名 | 決算期 | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|---|
株式会社レントラックス | 2026年3月期 通期 | 44億40百万円 | +14.9% | 10億51百万円 | -8.0% |
ニフティライフスタイル株式会社 | 2026年3月期 通期 | 52億38百万円 | +6.1% | 11億89百万円 | +18.5% |
SMN株式会社 | 2026年3月期 通期 | 123億48百万円 | +6.1% | 5億61百万円 | +134.6% |
バリュークリエーション株式会社 | 2027年2月期 第1四半期 | 7億55百万円 | -19.5% | -36百万円(赤字) | — |
バリューコマース株式会社 | 2026年12月期 第1四半期 | 28億96百万円 | -64.6% | -2億35百万円(赤字) | — |
売上規模で見ると、SMNが123億48百万円と突出していますが、営業利益率は4.5%とレントラックス(23.7%)やニフティライフスタイル(22.7%)に比べると低水準です。一方、営業利益の伸び率ではSMNの+134.6%が最も高く、アドテクノロジー領域の投資が実を結びつつある局面が読み取れます。
対照的に、バリュークリエーションとバリューコマースは減収に加え営業赤字に転落しており、特にバリューコマースは売上高が前年同期比-64.6%と大きく落ち込んでいます。同じ「インターネット広告」というくくりの中でも、事業モデルの違いによって明暗が大きく分かれる決算シーズンとなりました。
3. 二極化の背景にある構造
増収増益を維持した3社に共通するのは、広告主・送客先が明確な特定業界に紐づいている点です。レントラックスは金融・自動車・エステクリニックなど成果報酬型広告の主力業種が堅調に推移し、加えて貴金属リユース・加工・精錬事業を手がける井嶋金銀工業を新たに連結子会社化したことで、純利益は25億70百万円(前期比+284.7%)という大幅増益となりました。この純利益急増は本業の広告事業というより、M&Aによる負ののれん発生益が主因である点には留意が必要です。
ニフティライフスタイルは不動産送客サービス「ニフティ不動産」を中核に、純利益7億78百万円(前期比+26.0%)と増収・増益・増配を達成しました。SMNはビッグデータとAIを活用したDSP「Logicad」を軸とするマーケティングテクノロジー事業で、純利益4億34百万円(前期比+49.1%)、営業利益は前期比+134.6%と大幅に伸びています。
一方、苦戦する2社は事業の転換期にあります。バリュークリエーションはマーケティングDX事業と不動産DX事業(解体の窓口)の二本柱ですが、増収を確保できず営業赤字に転落しました。バリューコマースはアフィリエイト広告の構造変化に加え、新サービス「StoreMatch」「STORE's R∞」への投資が先行しており、既存事業の落ち込みを新規事業でまだ補いきれていない状況がうかがえます。
4. 業界の注目ポイント
ポイント1:動画広告の伸長がネット広告市場をけん引
SNS上の縦型動画広告やコネクテッドTV向け動画広告の需要拡大が、2025年のインターネット広告費+10.8%という成長を支えています。SMNのようにデータサイエンスを活用した広告配信技術を持つ企業にとっては、この動画シフトが追い風となっている可能性が高いと見られます。
ポイント2:生成AIによる情報行動の変化への警戒
ニフティライフスタイルが決算短信で言及した「生成AIの急速な拡大」という不透明要因は、業界全体で共有されつつある懸念と考えられます。検索・情報収集の入り口が生成AIに移ることで、従来型の送客・アフィリエイトモデルの効果に変化が生じる可能性があり、各社の中期的な事業戦略に影響を与えるとも読み取れます。
ポイント3:非広告領域への多角化が進む
レントラックスの貴金属リユース事業、バリューコマースのCRMツール「STORE's R∞」、バリュークリエーションの不動産DX事業など、広告単体からの収益多角化が各社で進んでいます。広告事業の競争環境が厳しくなる中、周辺領域での収益源確保が生き残りの鍵になりつつあると見られます。
5. ITトレンド編集部の考察
今回の決算比較で見えたのは、「市場は拡大しているのに、個社の業績は二極化する」という構図です。インターネット広告市場そのものは電通調査の示す通り堅調に拡大していますが、その恩恵を受けられるかどうかは、各社が持つ広告主基盤の質や、事業モデルの転換スピードに左右されているように見えます。
増収増益を維持した3社は、いずれも特定領域(金融・不動産・データサイエンス)での専門性を武器にしており、市場拡大の恩恵を取り込みやすい構造にあります。一方、苦戦する2社は事業構造の転換期にあり、新規事業への投資が先行して既存事業の落ち込みをカバーしきれていません。
次の決算シーズンでは、新規事業(貴金属リユース、CRM、不動産DX)が収益に本格的に寄与し始めるかどうかが、業績回復の分水嶺になると考えられます。広告市場自体の拡大が続く中、各社がどの領域で専門性を発揮できるかが、今後の明暗を左右する観察ポイントです。
6. まとめ
- 2025年の国内インターネット広告費は4兆459億円(+10.8%)と初の4兆円超え、総広告費構成比も50.2%に到達
- レントラックス・ニフティライフスタイル・SMNの3社は増収増益基調を維持
- バリュークリエーション・バリューコマースの2社は減収かつ営業赤字に転落
- 生成AIによる情報行動の変化への警戒感が業界内で共有されつつある
- 広告単体からの収益多角化(貴金属リユース、CRM、不動産DX)が各社で進行中
各社の詳しい決算内容は、以下の個別記事もあわせてご覧ください。
ITトレンド編集部
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