反社チェックとは
反社チェックとは、取引先法人や個人が反社会的勢力と何らかの関連やつながりがあるかを検証することを指します。2007年に政府から「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が示されて以降、すべての企業は反社と関わりのある法人や個人との取引を避けるよう、努力することが推奨されています。
特に東京証券取引所などに上場予定の企業は、コンプライアンスチェックが審査項目なため、高精度の反社チェックが不可欠です。上場企業においては、反社チェックの状況を記録するよう義務づけられています。
このように反社チェックは、企業活動をするうえで避けて通れない業務です。しかし、どのように実施するかは企業の裁量に委ねられているため、反社チェックで悩みを持つ企業も少なくありません。
参考:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省
反社会勢力に含まれる範囲とは
反社会勢力に含まれる範囲とは、暴力団や暴力団関係者などの一般的な反社組織だけではありません。暴力や詐欺などの手法を用いて利益をあげる一般人や、一見すると政治活動している風に装いながら暴力的な活動を行う組織や個人なども含まれます。
そのため一般企業が、取引先法人や個人の反社度を正確に判定するのは困難です。特に最近の暴力団員は、組織の実態を隠しながら活動することが多く、一般人とほとんど見分けがつきません。
このような背景から、取引先から反社会勢力を排除するには、さまざまな手法を利用した反社チェックが不可欠です。
反社チェックの対象範囲
反社チェックは法人・個人問わず、企業活動におけるさまざまな関係者を対象として行われます。以下に主な対象を紹介します。
- 取引先企業
- 取引先企業との関係はビジネスの基盤となるため、その企業が反社会的勢力と関わっているかどうかの確認は非常に重要です。反社会的勢力と関わりのある企業との取引は、間接的であっても企業の評判や法的リスクを招く可能性があります。
- 従業員や役員
- 企業の従業員や役員が反社会的勢力との関連を持っている場合も、企業に悪影響を及ぼす可能性があります。関連性が発覚した際だけでなく、社内情報の流出や反社会的勢力への資金提供などのリスクが考えられます。
- 株主
- 株主として反社会的勢力が関与している場合、企業の経営方針や戦略に影響を及ぼす恐れがあります。また、その事実が公になると、企業の信頼性や株価にも影響が出る可能性があります。
- 個人事業主
- 取引先が個人事業主として活動している場合であっても、反社チェックは欠かせません。個人事業主は事業としての活動がシンプルであるため、ビジネスの実態を隠しやすいともいわれています。対象が個人事業主であっても反社チェックは、入念に行いましょう。
反社チェックの必要性とは
反社チェックを行うと、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。反社チェックの必要性について3つ紹介します。
企業コンプライアンスの徹底と社会的責任のため
すべての企業は社会になんらかの影響を与えるため、大なり小なり適切なコンプライアンスが求められます。
特に反社会勢力は社会に悪影響を与えるため、コンプライアンスを重視する企業が関わるべきではありません。
反社チェックを行うと、反社会勢力との取引がなくなり、企業のコンプライアンスが遵守されます。
企業価値を維持するため
反社会勢力と取引している企業は、コンプライアンス違反になり社会的な信用を失います。企業体としてまじめに商取引を行っても、反社会勢力と取引している時点で、資金の提供元とみられかねません。
一般消費者はもちろんのこと、取引先からの信用が失墜するため、事業を存続させるのも困難です。契約書の反社条項に違反するため、取引先から多額の損害賠償を請求される可能性もあります。
反社チェックにより取引先から反社会勢力を排除することは、企業価値を維持することにつながります。
反社会勢力への資金源を遮断するため
反社チェックにより反社会勢力との取引を排除すると、反社団体への自社資金流入を防げます。
どのような組織も資金がないと活動できません。そのため、反社チェックにより資金源を断つことは、反社会勢力を撲滅することにつながります。
商取引自体は適法でも相手が反社と関わりがあると、反社会勢力への資金源になるため注意しましょう。
反社会的勢力との取引で発生するリスク
反社会的勢力との取引は、企業の評判やブランド価値の低下、取引先との関係の悪化など多くのリスクを伴います。また、一度反社会的勢力とのつながりが公になると、その情報はまず消すことができず、企業の将来にも大きな影響を与える可能性があります。そのため、反社チェックは企業のリスク管理の一環として非常に重要です。
企業の評判やブランド価値の低下
反社会的勢力との取引が発覚すると、企業の評判やブランド価値は著しく低下する可能性があります。消費者や取引先はその企業との関係を避ける傾向にあり、結果として業績にも大きなダメージを与えることとなってしまいます。
取引先との関係の悪化
他の取引先は、反社会的勢力と関わる企業との取引を避けたいと感じることが一般的です。そのため、そのような関係が発覚すると、信頼関係が損なわれ取引が停止されるリスクが高まります。
それだけでなく、取引先自体も反社会勢力ではないかとの疑いをかけられてしまう可能性もあり、自社だけでなく他社にまで迷惑がかかってしまう事も考えられます。
法的なリスク
反社会的勢力との取引やその関連が発覚した場合、法的な制裁を受けるリスクも考えられます。取引の内容にもよりますが、契約の無効化や損害賠償請求、法的な罰則などが適用される可能性があります。
将来的な影響
一度反社会的勢力とのつながりが公になると、その情報は消えにくくなります。このような情報は、企業の将来の取引や事業展開にも影響を与え、長期的な不利益をもたらす可能性があります。
反社チェックを行うタイミング
外部組織や個人となんらかの取引や契約をする場合は、反社チェックを行いましょう。特に以下のような重大なイベントの前には実施することをおすすめします。
- ・新規契約締結
- ・取引開始
- ・契約更新
- ・資金調達
- ・上場審査
- ・M&A
- ・社員採用
- ・役員就任
- ・株主変更
反社チェックを行う3つの方法
反社チェックは、具体的にどのような手法で実施すればよいのでしょうか。反社チェックを行う3つの方法について解説します。
自社で調査する
自社で調査する方法は、以下の4種類です。
- ・企業情報を法人登記などで確認する
- ・インターネットや新聞のデータベースで検索する
- ・業界団体の反社データベースで照会する
- ・反社チェックツールを利用する
それぞれの調査方法を以下で紹介します。
企業情報を法人登記などで確認する
国税庁の「法人番号公表サイト」を用いると、取引先企業の商号や本店所在地などを調べられます。法人番号が登録されていなかったり、本店所在地が変わっていたりする企業は、反社会的勢力の可能性があるため注意が必要です。登記内に不審な点がある場合は、インターネットや新聞などから反社情報をチェックしたり、本社に訪問して実態を確認したりしましょう。
国からの許可が必要な業種は、許認可証の有無を確認することも大切です。中古販売事業者であれば各都道府県の「公安委員会」で古物許可証を、不動産事業であれば「国土交通省 企業情報検索システム」で宅地建物取引士などの有無を調べましょう。
インターネットや新聞のデータベースで検索する
新聞記事のデータベースやインターネットのニュース記事などから、取引先法人や個人の情報を収集できます。データベーススクリーニングと呼ばれる手法です。取引先の企業名や役員名などとともに「反社」や「暴力団」というキーワードで検索すれば、過去に反社と関わりがあったのかを確認できます。
ただし、インターネット検索だけでは、古い記事にアクセスできない可能性があるため、注意が必要です。情報の信憑性や過去記事へのアクセス性を考えると、新聞記事のデータベース検索と併用することをおすすめします。
業界団体の反社データベースで照会する
業界団体には質の高い情報が集まっているため、効率的に反社チェックを実施できます。取引先が不動産事業者なら「不動産流通推進センター」、上場企業であれば「日本証券業協会」のデータベースを利用しましょう。
ただし、情報量が少ないため、あくまで反社チェックのひとつとして利用することが大切です。実際の現場では、得られた結果をほかの調査方法の結果とすりあわせて、反社チェックの精度を高めます。
反社チェックツールを利用する
反社チェックツールは、取引先企業の反社リスクを効率的にチェックできます。インターネット記事や新聞記事はもちろんのこと、警察関連情報などの高精度データにもアクセス可能です。過去の犯罪歴から、暴力団や半グレなどとの関わりも調べられます。
反社会勢力に含まれる範囲は多岐にわたるため、自社のネットワークだけで反社チェックをするのは現実的ではありません。
反社チェックツールを利用すると、効率的に取引先の反社リスクをチェックできます。
以下の記事では、おすすめの反社チェックツールを価格や調査範囲などの観点から紹介しています。ツールを導入する際の参考にしてみて下さい。
専用の調査機関へ依頼する
信用調査会社や興信所などの専門機関に、反社チェックを依頼する方法もあります。専門機関の調査方法は、一次情報などの信頼できるデータを用いたり、取引先企業内部に潜入して内部調査したりとさまざまです。ほかの調査方法に比べるとコストがかかるため、ある程度の予算を用意しておきましょう。
行政機関へ相談する
行政機関は質の高い情報が多いため、反社チェックに利用できます。警察組織なら「暴力追放運動推進センター(暴追センター)」や「暴力団対策課」などに相談するとよいでしょう。
ただし、状況によっては情報提供してくれない可能性もあるため注意が必要です。取引先の企業名や氏名、調査資料などを事前に用意しておきましょう。
反社チェック方法を選ぶポイント
反社チェックは、できるだけ多様な方法で行うほうが精度が高くなります。しかし、多様な方法にこだわりすぎると、調査コストが高くなり本業に悪い影響を与えかねません。そのため反社チェックは、自社の取引規模にあった調査方法を採用することが大切です。
上場企業や上場予定企業は取引規模が大きいため、契約前の反社チェックのほか、契約後も定期的なスクリーニングが必要です。
相手が反社会勢力と確定したときの対処法
相手が反社会勢力と確定したときは、上司や取締役などに相談し指示を待ちます。トラブルを避けるためにも、担当者の裁量で取引先と直接やり取りしてはいけません。必要に応じて、弁護士や警察に相談し解決するよう努めましょう。
反社チェックは会社や従業員を守るための重要な手段
反社チェックとは、取引先法人や個人が反社会組織と関係していないかチェックすることです。反社会勢力への資金源遮断や企業コンプライアンスの遵守、企業価値の維持などにおいて重要なため、かならず実施しましょう。
専用の調査機関や行政に相談したり、ツールを利用したりして、効率化することをおすすめします。反社チェックを実施して、会社や従業員を守りましょう。