CADと関連する主な法律や規格の概要
CADデータは設計内容そのものを表す情報であるため、著作権法や製造物責任法などの法律だけでなく、業界規格や基準とも密接に関係します。ここでは、企業が日常の設計・製造で意識するべき基本的な法制度のポイントを整理し、トラブルを避けるための基礎理解をまとめます。
著作権とCADデータに関する基本知識
CAD図面は、創作性が認められる場合に著作物として扱われます。設計業務で作成した図面の著作権が企業に帰属するか、制作者に帰属するかは契約内容によって異なるため、事前に整理しておくことが重要です。
また、外部から入手したモデルやサンプル図面をそのまま利用すると、著作権侵害のリスクを生むことがあります。データの出所確認や利用許諾範囲の管理を行い、図面利用ルールを社内で統一すると安全です。
製造物責任と設計情報の扱い
製造物責任法は、製品の欠陥によって損害が生じた場合の責任を定めています。CADで作成した設計内容は製品の安全性に大きく影響するため、企業は設計の正確性や変更履歴管理が求められます。
意図しない形状で製造されることを防ぐためにも、最新データの管理や変更プロセスの明確化が欠かせません。履歴が残っていると、トラブル発生時の説明にも役立ちます。
業界ごとの規格や基準とCAD図面の関係
機械、建設、電気などの業界には、それぞれ遵守すべき規格や基準が存在します。例えば、機械分野ではJIS規格やISO規格、建設分野では建築基準法や各種基準が該当します。
CAD図面はこれら基準に沿って作成する必要があり、誤った表記があると後工程での手戻りが発生する可能性があります。協力会社との間で図面ルールを揃えることも重要な取り組みです。
CADデータの知的財産保護と契約上の注意点
CADデータは企業の知的財産として扱われるため、外注契約や秘密保持の観点から適切に管理することが求められます。権利の帰属、データ範囲、取り扱いルールを整理しておくことで、後のトラブルを防ぎやすくなります。
設計データの権利帰属と契約条項の考え方
外部に設計を委託する場合、成果物の権利を誰が保有するのかを契約書で明確にしておく必要があります。完成図面だけでなく、中間データや3Dモデルを含めた「成果物範囲」を事前に定義することで、後から利用できないデータが発生することを防げます。また、再利用や改変の権利を企業側が持つのかどうかも、契約段階で整理しておくと安心です。
外注設計や協力会社とのCADデータ取り扱い
外部パートナーとCADデータをやり取りする際は、ファイル形式、バージョン、命名ルールなどを共有しておくと作業がスムーズに進みます。情報漏えいを防ぐためにも、データ利用範囲やアクセス権を契約で定め、不要な持ち出しが起きないよう管理することが重要です。3Dモデルのように情報量が多いデータは特に慎重な取り扱いが求められます。
NDAや秘密情報管理ルールとCADデータ
NDA(秘密保持契約)は、設計情報を企業外へ提供する際に欠かせない契約です。情報の範囲や使用目的、返却方法、漏えい時の対応を明記し、運用ルールとして社内にも浸透させることで、情報管理の質を高められます。特にクラウドストレージを利用する場合は、保存先、アクセス履歴、暗号化の有無なども合わせて確認することが必要です。
法規制に基づく図面やモデルの作成ルール
設計活動では、法令で求められる図面要件や安全規格に沿って成果物を作成する必要があります。業界ごとに求められる項目が異なるため、自社製品や業務領域に応じた法規制の理解が欠かせません。
建築確認などで求められる図面要件
建築物を建てる際には、建築基準法に基づき建築確認申請用の図面を作成します。配置や平面、立面、構造など求められる情報を正確にCADへ反映することが必要です。表記の不足や誤りがあると申請が通らない可能性があるため、必要要件を社内運用ルールに反映すると設計品質の安定につながります。
安全規格を踏まえた設計とCAD表現
機械や設備では、ISOやJISなどの安全規格に沿って設計を行います。危険箇所の明示、安全距離、保護装置の配置など、利用者の安全を確保するための情報をCAD図面へ明確に表記することが求められます。注記の方法や図示形式を統一すると、確認のしやすさが高まり、設計意図を正確に伝えることができます。
トレーサビリティ確保に向けた履歴管理
変更履歴管理は、製品の安全性や品質を支える重要な活動です。いつ・誰が・どの部分を変更したのかを記録しておくことで、トラブル発生時にも原因追跡がしやすくなります。
CADシステムのバージョン管理機能を活用することで、手作業で記録する負担を減らせます。履歴管理は法令で義務付けられているわけではありませんが、製品品質や企業の説明責任において重要な取り組みです。
CADセキュリティと個人情報や機微情報保護
CADデータには、個人情報や安全保障に関わる情報が含まれる場合があります。誤った取り扱いが大きなトラブルにつながる可能性があるため、安全管理措置の徹底が必要です。
個人情報を含むCADデータの取り扱い注意点
建築物の図面には、所有者情報や住所情報など個人情報が含まれることがあります。個人情報保護法では、安全管理措置としてアクセス制御や暗号化が求められるため、データ共有時には必要最小限の情報公開を意識することが大切です。第三者へ提供する場合は、氏名などを削除した図面を作成する方法も有効です。
輸出管理や安全保障に関わる設計情報の管理
製品によっては、輸出管理の対象となる技術情報が含まれる場合があります。図面を海外へ送付するだけでも規制対象となるケースがあるため、該当性を判断するための社内運用ルールを整えることが欠かせません。誤送信を防ぐための確認フローや承認プロセスも有効です。
クラウドCAD利用時のデータ保存場所と契約確認
クラウド型CADを利用する場合、データ保存場所が海外になることがあります。情報管理ポリシー上、国内保存を必須とする企業もあるため、契約内容で保存先の地域や暗号化の有無を確認することが必要です。契約内容と社内運用ルールの整合性を取ることで、CAD利用時のセキュリティを高められます。
電子データ保存と電子帳簿保存制度との関係
CAD図面は電子データとして保存されることが一般的です。法律で直接的な保存ルールが定められているわけではありませんが、業務上の証跡として扱う場合には、真実性や可視性を確保するための工夫が有効です。電子帳簿保存制度の考え方を応用し、改ざん防止対策を整える企業も増えています。
電子データとしてのCAD図面保存ルール
電子データ保存では、改ざん防止と検索性が重視されます。CAD図面そのものは電子帳簿保存制度の対象とは限りませんが、証跡として活用する場合は、ログ管理やアクセス制御などの仕組みが役立ちます。保存形式や保管期間を社内運用ルールに明確化することが重要です。
改ざん防止やタイムスタンプの活用
設計データの信頼性を高めるために、タイムスタンプの付与が活用されています。特定時点でデータが存在していたことを証明できるため、変更履歴管理やトラブル対応に役立ちます。文書管理システムと連携することで、効率的に改ざん防止が行える環境を整えられます。
紙図面からCADへの移行時の注意点
紙図面をスキャンしてデジタル化する場合、寸法誤差や画質の問題が発生することがあります。CADデータとして再利用する際には、読み取り誤差の確認やデータ形式の統一が欠かせません。移行プロジェクトでは、命名ルールやフォルダ構成を整備することで、後工程の効率が向上します。
CAD運用ルールに法律や規格を組み込むポイント
法律や規格に基づいた設計を安定的に実施するためには、社内運用ルールとして体系的に整理することが重要です。教育や監査にも活用できる仕組みを整えることで、品質や安全性の向上につながります。
社内設計標準に法規制要求を反映する方法
法規制の要件を社内設計標準に反映することで、設計者が迷わずに作業を進められます。安全情報の表記方法、断面図の種類、注意書きの形式などを統一することで、設計品質の安定が期待できます。法律改正があった際には、標準書を更新する仕組みを整備し、最新情報を設計者が把握しやすい環境を作ることが有効です。
CAD教育で法律や規格の観点を取り入れる工夫
CAD教育では、操作方法だけでなく、著作権や安全規格、個人情報保護といった法律に関する基礎知識もあわせて学べる仕組みが重要です。動画教材やケーススタディを取り入れることで、法律と日常業務のつながりを理解しやすい環境になります。
また、教育内容を定期的に振り返ることで、社内ルールの遵守状況を確認でき、品質のばらつきを抑えるための改善にもつながります。
監査やトラブル発生時を想定した運用整備
社内運用ルールは、設計業務の効率化だけでなく監査やトラブル対応にも役立ちます。変更履歴やアクセス状況、保存形式などを管理しておくことで、外部からの確認に対しても説明しやすくなります。情報漏えい時にも原因追跡がしやすくなり、企業としての信頼性向上につながります。
まとめ
CADと法律には多くの接点があり、著作権、安全規格、個人情報保護、電子データ保存のルールなど、把握しておくべきポイントが幅広く存在します。企業が安心してCADを活用するためには、法律理解を踏まえた社内運用ルールを整備し、教育や履歴管理を通じて運用を安定させることが欠かせません。
自社に合ったCAD環境を整備したい場合は、複数製品の資料請求を行い、比較しながら最適な導入を検討する方法をおすすめします。


