株式会社クイックは、人材紹介・人材派遣を手がける人材サービス事業を中核に、リクルーティング事業、地域情報サービス事業、HRプラットフォーム事業、海外事業の5つのセグメントを展開する人材サービス企業です。有料職業紹介事業を軸に、国内外で幅広い顧客企業の採用課題解決を支援しています。
2026年3月期通期の連結業績は、売上高339億24百万円(前期比+4.4%)、営業利益45億83百万円(同+1.1%)、経常利益46億89百万円(同+1.7%)、親会社株主に帰属する当期純利益41億58百万円(同+16.1%)となり、増収増益を確保しました。投資有価証券売却益の計上も純利益の押し上げに寄与しています。
詳しくは前回の記事もあわせてご覧ください。
株式会社クイック(証券コード:4318)の決算解説
2026年3月期を振り返る市場・業界の変化
当連結会計年度における日本経済は、継続的な賃上げによる所得環境の改善やインバウンド需要の拡大に支えられ、緩やかな回復基調が見られました。一方で、物価上昇による消費マインドの停滞や米国の通商政策の影響など、先行きは依然として不透明な状況が続いています。中東情勢の緊迫化に伴う物流への影響やエネルギー価格の上昇も、今後注視すべき要素として挙げられます。
国内の雇用情勢を見ると、有効求人倍率(季節調整値)は1.19倍、完全失業率(季節調整値)は2.6%と、各指標は依然として企業の人手不足を反映した水準で推移しました。こうした環境の中、クイックは既存事業の拡大に加え、新たなマーケットの開拓やサービス提供、注力分野への投資、グループ内連携の強化などに取り組んでいます。
人材サービス事業では建設・不動産、IT分野、製造業に加え看護師の採用ニーズも堅調に推移しました。リクルーティング事業では採用手法の多様化が進み競争環境が激化する一方、Indeedや求人ボックスといったアグリゲーション型求人サービスの取り扱いが好調に推移しています。
業績推移
詳しい数値は決算短信本文でも確認できます。
株式会社クイック 2026年3月期 通期決算短信(PDF)
クイックの四半期業績を振り返ると、2026年3月期第1四半期累計は売上高98億63百万円、第2四半期累計は179億72百万円、第3四半期累計は253億83百万円と積み上げが進み、通期累計では339億24百万円まで拡大しました。前期(2025年3月期)通期の売上高は325億1百万円だったため、通期で見ても着実な増収を確保した形です。
利益面では、前期通期の営業利益45億33百万円に対し、今期は45億83百万円とわずかな増益にとどまりました。一方で親会社株主に帰属する当期純利益は、前期の35億80百万円台から41億58百万円へと大きく伸長しています。これは投資有価証券売却益11億64百万円(前期は7億18百万円)を特別利益に計上したことが主因です。
財政状態を見ると、2026年3月期末の総資産は259億46百万円、純資産は193億79百万円となり、自己資本比率は74.7%(前期末は71.0%)へと上昇しました。営業活動によるキャッシュ・フローは27億27百万円(前年同期比34.4%減)となり、手元資金は131億38百万円と前期末から18億68百万円減少しています。
直近決算の重要ポイント
今回の決算で最も注目すべき点は、営業利益・経常利益がほぼ横ばいにとどまる一方、純利益が前期比+16.1%と大幅に伸びたことです。背景には、保有する投資有価証券の一部売却による特別利益11億64百万円の計上があります。本業の利益成長は緩やかである一方、資産活用による収益の底上げが効いた決算といえます。
セグメント別では、人材サービス事業の売上高が234億78百万円(前年同期比3.5%増)となった一方、営業利益は36億40百万円(同7.2%減)と減益になりました。保育士派遣が政府の処遇改善施策による定着率向上で登録者が縮小し減収となったことが、収益性を押し下げた要因の一つと見られます。
一方、リクルーティング事業は売上高37億8百万円(同6.2%増)、営業利益11億45百万円(同29.6%増)と大きく伸長しました。地域情報サービス事業も売上高30億54百万円(同14.4%増)、営業利益4億90百万円(同35.3%増)と好調で、複数事業がけん引役となった決算です。
通期実績が示す収益モデルの現在地
クイックの収益モデルは、人材紹介・派遣を主軸としながら、リクルーティング、地域情報サービス、HRプラットフォーム、海外事業という複数の収益源を組み合わせる分散型の構造にあります。今期は主軸である人材サービス事業が伸び悩んだ一方、リクルーティング事業や地域情報サービス事業が高い伸び率を示し、事業ポートフォリオ全体でバランスを取る形になりました。
HRプラットフォーム事業は売上高11億27百万円(前年同期比9.6%減)、営業利益4億76百万円(同19.1%減)と減収減益でした。主要顧客のマーケティング予算縮小の影響を受けた一方、HRイベント事業は好調で、事業内でも明暗が分かれています。海外事業は売上高25億57百万円(同6.1%増)、営業利益1億69百万円(同25.4%増)と増収増益を確保しました。
EPS(1株当たり当期純利益)は74.11円となり、配当は年間71.0円(期末21.0円・中間50.0円)、配当性向は56.4%に達しています。翌期は配当38.0円を予定しており、株主還元の水準にも変化が生じる見通しです。
業界の注目ポイント
人手不足を背景とした人材サービス需要の底堅さ
有効求人倍率1.19倍、完全失業率2.6%という水準が示すとおり、国内の人手不足感は依然として根強く、企業の採用意欲は高い状態が続いています。看護師や建設・不動産、製造業といった特定領域での人材紹介・派遣ニーズは今後も一定の底堅さを保つと見られます。
一方で、保育士派遣のように政府の処遇改善施策が登録者の定着を促し、派遣需要そのものを縮小させるケースも見られました。人材サービス業界全体として、政策動向が需給バランスに直接影響を与える構造がある点は、今後も注視すべきポイントです。
求人メディア市場における競争環境の激化
リクルーティング事業を取り巻く環境では、採用手法の多様化が一段と進み、求人メディア間の競争が激しさを増しています。クイックはIndeedや求人ボックスといったアグリゲーション型サービスの取り扱いを強化し、リクルート社の掲載課金型メディア販売終了に伴う受け皿としても業界特化型メディアの拡販を進めました。
こうした動きは、大手プラットフォームの動向変化が中堅事業者にとって事業機会にもなり得ることを示しています。生成AIを活用した採用業務の自動化・効率化が進む中、コンサルティング領域では競合との差別化がより重要になっていくと考えられます。
特別利益に依存しない収益基盤構築の必要性
今期の純利益大幅増は投資有価証券売却益という一時的な要因に支えられた面が大きく、本業の営業利益はわずかな増益にとどまりました。翌期の業績予想でも営業利益は前期比-10.3%の減益が見込まれており、事業環境の変化を踏まえた収益基盤の強化が課題となります。
地域情報サービス事業や海外事業のように高い伸びを示すセグメントをいかに拡大し、主軸である人材サービス事業の収益性改善と両立できるかが、今後の業績を左右するポイントになりそうです。
ITトレンド編集部の考察
今回の決算から見えるのは、クイックが複数事業のバランスによって全体の増収増益を実現した一方、収益の質という面では課題も抱えているという点です。純利益の伸びの大部分が投資有価証券売却益という一時的な要因によるものであり、本業の営業利益はほぼ横ばいにとどまりました。
翌期の業績予想では、売上高は348億円の増収を見込む一方、営業利益は41億10百万円(同-10.3%)、純利益は28億05百万円(同-32.5%)という保守的な水準が示されています。人材サービス事業における採用手法の変化や、保育士派遣のような政策要因による需給変動を踏まえると、事業ポートフォリオの再構築を進める局面に入っていると見られます。
一方で、地域情報サービス事業やリクルーティング事業の高い伸び率は、クイックが単一の人材紹介・派遣モデルにとどまらず、複数の収益源を育ててきた戦略の成果とも読み取れます。翌期以降、これらの成長セグメントがどこまで全体をけん引できるかが、注目すべき焦点になるでしょう。
まとめ
- 2026年3月期通期の売上高は339億24百万円(前期比+4.4%)と増収
- 営業利益45億83百万円(同+1.1%)、経常利益46億89百万円(同+1.7%)とほぼ横ばい
- 親会社株主に帰属する当期純利益は41億58百万円(同+16.1%)と大幅増、投資有価証券売却益11億64百万円が寄与
- リクルーティング事業・地域情報サービス事業が好調に推移し、人材サービス事業は減益
- 自己資本比率は74.7%へ上昇、配当は年間71.0円(配当性向56.4%)
- 翌期は売上高348億円(同+2.6%)を見込むが、営業利益は41億10百万円(同-10.3%)、純利益は28億05百万円(同-32.5%)と保守的な予想
ITトレンド編集部
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