AI契約書レビューサービスの運用で失敗する要因の整理
運用の失敗は、製品側、利用者側、連携先側の要因が重なって起こる場合があります。原因を一つに決めつけず、法的な位置づけとAIの判断の扱いを先に押さえておくと、対処を考えやすくなります。あわせて、弁護士法との関係も確認します。
失敗の要因を分ける三つの側面
運用がうまくいかない背景には、製品側、利用者側、連携先側の要因が重なっている場合があります。製品側では機能や仕様の限界、利用者側では体制や基準の未整備、連携先側では他システムの設定や制限が挙げられます。
原因を一つに決めつけると、対処が的外れになる恐れがあります。問題が起きたときは、どの側面で起きているのかを分けて記録し、社内とベンダーのどちらが対応するのかを整理しましょう。記録の様式を決めておくと、後から振り返りやすくなります。
AIの判断を最終判断としない前提
AI契約書レビューサービスは、契約書の確認を支援する道具であり、AIの出力を最終判断とはしません。指摘の漏れや誤りが生じる場合があるため、人が内容を確認し、判断する前提で運用を設計します。最終的な判断は、利用する企業の担当者が行うものです。
運用の失敗は、AIの指摘を確認せずに契約を進めてしまう場面が起点になる場合があります。確認する担当者、確認の範囲、重要な契約を弁護士に相談する基準を、あらかじめ文書で定めておきましょう。
弁護士法72条を踏まえた利用の線引き
法務省は2023年8月に、AIを用いた契約書の審査を支援するサービスと弁護士法第72条との関係について、考え方を公表しました。報酬目的、法律事件、法律事務の要件のいずれかに該当しなければ、同条に違反しないと考えられるとされています。
個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度を表示する機能は、法律事務に該当し得る例として示されています。サービスの機能や表示の説明を確認し、不明点は提供会社や弁護士に相談しましょう。あわせて、AIの指摘を最終判断にしない運用も整えましょう。
法務担当1人で運用が回らなくなる失敗への対処
法務担当が1人の場合、レビューの依頼が集中したり、担当者の不在で確認が止まったりして、運用が回らなくなる場合があります。体制を担当者個人に依存させない工夫が必要です。ここでは、場面ごとの対処を順に整理します。
依頼が集中して確認が滞る場面
法務担当が1人の場合、営業や購買などからのレビュー依頼が重なると、確認の待ち時間が延びる場合があります。AIが指摘を出しても、内容を判断して修正する作業は人が行うため、担当者の時間は引き続き必要です。
依頼を受け付ける窓口と、緊急度を判断する基準を決めておきましょう。AIで先に確認できる定型的な契約書と、人が詳しく見る契約書を分けると、担当者の負担を調整しやすくなります。依頼の状況を一覧で見られると、優先順位をつけやすくなります。
担当者の不在に備える代行と引き継ぎ
担当者が休暇や異動で不在になると、レビューが止まったり、設定の意味が分からなくなったりする場合があります。その間は依頼者が待つことになり、現場の業務にも影響する場合があります。特定の担当者だけが操作や判断の理由を把握している状態は、避けたいところです。
代行できる人を決め、操作の手順や判断の基準を文書にまとめておきましょう。レビューの履歴が残る機能があれば、引き継ぎの際に経緯を確かめやすくなります。引き継ぎの内容は、定期的に見直すことも大切です。
外部の専門家に相談する範囲の決め方
法務担当1人で判断が難しい契約書は、社外の弁護士などの専門家に相談する選択肢があります。AIの指摘だけで判断せず、相談する契約書の種類や、取引規模の目安を決めておくと、迷いにくくなります。相談する範囲が明確だと、判断の遅れを防ぎやすくなります。
相談先の連絡先や、相談するときに渡す資料の形式も整理しておきましょう。機密性の高い契約書を渡す場合は、秘密保持の取り決めを確認してから進めることが大切です。相談の結果は社内に記録し、次回以降の基準に生かします。
情シス不在の導入で起こるトラブルと確認点
情報システム部門が関与しないまま導入すると、設定や権限、データの扱いの確認が漏れる場合があります。専門的な作業はベンダーや社内の関係部署に相談しながら、順に確認しましょう。ここでは、権限、データ、ファイル形式の3点を取り上げます。
初期設定と権限設定の確認
情報システム部門が関与しないまま導入すると、利用者の登録や権限の設定が不十分なまま、運用が始まる場合があります。閲覧できる人の範囲が広すぎると、契約書の機密性を保ちにくくなります。運用が始まってから権限の誤りに気づくと、修正の手間も増えます。
利用者ごとの権限を、役職や部署で整理してから設定しましょう。管理者を複数人置き、設定の変更が履歴に残るかを確認しておくと、設定の誤りにも気づきやすくなります。設定の内容は、社内の関係者が見られる形で控えておきましょう。
データの保存と学習利用の確認方法
契約書には取引先の情報が含まれるため、データの保存場所や保存期間、削除の方法を確認します。入力した契約書がAIの学習に利用されるかどうかも、提供会社に確認したい項目です。契約書の取り扱いは、社内の情報管理の規程にも関わります。
学習への利用を止める設定があるか、取引先との秘密保持契約に照らして入力してよいかも整理しましょう。技術的な確認が難しい場合は、ベンダーに質問したり、専門家に相談したりして補います。回答は文書で受け取り、社内の記録に残しておくと安心です。
ファイル形式の読み取りとサポート範囲
契約書のファイルは、WordやPDFなどの形式で取り込みます。スキャンした画像のPDFは文字を正しく読み取れない場合があり、レイアウトが複雑な契約書では条文の区切りがずれることもあります。表や図が含まれる契約書も、読み取りの結果を見ておきたい点です。
試用で、自社が実際に使う形式の契約書を読み取れるか確かめましょう。困ったときの問い合わせ窓口や、設定の支援の範囲も、導入前にベンダーへ確認しておくと安心です。読み取りの結果が異なる場合を想定し、複数の契約書で試すと判断しやすくなります。
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複数拠点で契約書と基準が混乱する場面
複数拠点でAI契約書レビューサービスを使うと、拠点ごとに基準や契約書の版が異なり、混乱が生じる場合があります。共通にする部分と拠点ごとに分ける部分を、事前に整理しておくことが重要です。下の一覧が、確認の目安です。
- ■レビュー基準
- 全社共通の基準と、拠点ごとの例外を分けて管理する
- ■契約書の版
- 最新版を保管する場所を決め、版と日付を記録する
- ■問い合わせ窓口
- 基準の運用で迷ったときの相談先を一本化する
レビュー基準が拠点ごとに分かれる場面
拠点ごとに審査の基準を設定すると、同じ条項でも指摘の内容が拠点によって異なる場合があります。基準の更新が一部の拠点にだけ反映され、古い基準でレビューが行われる状況も考えられます。利用者は、どの基準が最新なのかを判断しにくくなります。
全社共通の基準と、拠点ごとの例外を分けて登録できるかを確認しましょう。基準を更新する担当者と、更新を各拠点に知らせる手順も決めておくと、混乱を抑えられます。拠点の担当者が基準の内容を理解できるよう、説明の場も設けたいところです。
契約書の版と保管場所の管理
契約書の修正版が拠点ごとのフォルダやメールに散らばると、どれが最新版か分からなくなる場合があります。古い版をレビューしてしまうと、確認した内容が現在の契約書と一致しません。拠点間でファイルを送り合う運用では、版の取り違えに注意が必要です。
契約書の保管場所を決め、ファイル名に版や日付を入れる運用が有効です。サービス上でレビューの履歴が版ごとに残るかも、あわせて確認しましょう。古い版が残らないよう、不要になったファイルの扱いも決めておきます。
拠点間の問い合わせ窓口の整理
指摘の解釈や基準の運用で迷ったときに、誰に相談するのかが決まっていないと、判断が拠点ごとにばらつきます。問い合わせの窓口が複数あると、回答の内容が食い違う場合もあります。担当者が判断に迷う時間が長くなると、契約の進行にも影響します。
窓口を本社の法務部門などに一本化し、質問と回答を共有できる形にしましょう。回答の内容を蓄積して基準の見直しに生かせば、拠点間の判断のばらつきを減らしやすくなります。窓口の連絡先は、利用者の目につく場所に掲示しておきます。
法務と営業の分業で失敗しないための役割分担
法務部門と営業部門で分業するときは、どこまでを営業が確認し、どこから法務が判断するのかを明確にすることが重要です。役割分担を表で整理すると、確認の抜けを防ぎやすくなります。表の内容は、自社の体制にあわせて調整してください。
| 役割 | 担当する範囲 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 営業部門 | 定型契約書の一次確認 | 対象とする契約書の種類 |
| 法務部門 | 例外対応と最終確認 | 判断の基準と記録の方法 |
| 責任者 | 専門家に相談する判断 | 弁護士へ相談する条件 |
営業が一次確認する範囲の設定
営業部門がAI契約書レビューサービスで一次確認する場合は、対象とする契約書の種類を限定する方法があります。定型的な契約書に絞れば、法務部門の負担を抑えながら、確認の速さを保ちやすくなります。営業の担当者が契約の内容を把握しているかも、事前に確認が必要です。
ただし、AIの指摘を営業の判断だけで受け入れてよいわけではありません。指摘を採用する範囲と、法務部門に回す条件を、営業の担当者にも分かる言葉で示しておきましょう。判断に迷う場合の相談先も、あわせて決めておきます。
最終確認の責任範囲の明確化
分業では、誰が最終的に契約内容を承認するのかが曖昧になり、対応責任が不明確になる場合があります。営業は法務が見ていると考え、法務は営業が確認済みと考える、といった行き違いも起こり得ます。こうした行き違いは、承認の記録がないと気づきにくくなります。
契約書の種類や取引の規模に応じて、承認者を決めておきましょう。AIの指摘への対応結果を記録として残し、誰がどの判断をしたのか後から追えるようにしておくことが大切です。承認の記録は、後の見直しにも役立ちます。
例外が出たときの引き上げ手順
定型から外れた条項や、取引先からの大きな修正要望が出たときは、営業の一次確認から法務の確認へ引き上げる手順が必要です。引き上げの条件が曖昧だと、確認が遅れる場合があります。引き上げた案件の結果を共有すると、判断の基準も磨かれます。
引き上げの目安は、基準にない条項がある、損害賠償や解除の条件が変更されたなど、具体的な事例で示します。迷ったときは法務部門に相談するというルールを、あわせて周知しておきましょう。具体例は、運用しながら追加していきます。
運用の定着にかかわる機能を持つ製品の例
ここでは、進捗の可視化、自社基準の登録、手順の自動化といった運用の定着に関わる観点から、確認しておきたい点とあわせて製品を紹介します。
GMOサイン契約レビューパック
- 契約ステータスの可視化や情報の一元管理化で業務効率化を実現
- 充実した機能で、契約オペレーション全体を最適化
- 導入支援サービスを標準提供しているので安心
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供する「GMOサイン契約レビューパック」は、契約関連業務を一元管理するサービスです。作成中、承認中といった契約書の進捗がタスク管理機能で可視化されるため、状況を担当者間で共有しやすくなります。レビューの履歴は自動で保管され、交渉の経緯の可視化やバージョン管理にも対応するとされています。担当者が交代したときや、判断の理由を後から確かめたいときに経緯をたどる手段として、確認しておきたい機能です。
ContractS AI Agent Platform
- 過去契約や法令を参照し背景を踏まえたAIレビュー
- 自社プレイブックを学習し独自基準で一次チェック
- 修正文作成や通知まで一連の作業を自動化
ContractS株式会社が提供する「ContractS AI Agent Platform」は、契約書のレビューを支援するAIレビュー基盤です。過去の契約や法令を参照し、一次レビューから修正文の生成、担当者への連絡までを支援します。自社のプレイブック(審査基準をまとめたもの)を学習し、独自の基準で一次チェックを行うとされています。土台となるContractS CLMの導入が前提とされているため、運用の体制や導入の順序とあわせて確認しておきたい製品です。
Lisse法務AI Cowork
- 総勢30名以上の弁護士監修による法務特化AI
- 弁護士設計のフローで、レビュー手順を自動化
- 社内外への返信・説明文作成まで自動化
株式会社リセが提供する「Lisse法務AI Cowork」は、法務に特化したAIが、契約書のチェックや作成、関連法令のリサーチなど、さまざまな作業を実行するサービスです。弁護士が設計したフローでレビューの手順を自動化し、法令確認や修正文案、コメント案の作成から、社内外への返信や説明の文案作成まで支援するとされています。手順が定まることで、担当者による進め方の違いを抑えたい場合の確認材料です。提供形態はクラウドで、端末はPCが対象です。
GVAassist (GVATECH株式会社)
- AIが契約書のリスク箇所を指摘し修正案を提示
- 自社の審査基準を反映したレビューが可能
- 法務依頼受付から契約管理まで自動化
LawFlow (LawFlow株式会社)
- 弁護士監修AIが契約条項の抜け落ちを瞬時に検出。
- 多様な契約書に対応し、法務知見を蓄積。
- ひな形設定・変更点ハイライトでレビュー効率化。
AI契約書レビューサービスに関するよくある質問
AI契約書レビューサービスの運用の失敗についてよくある質問と回答をまとめました。
- ■Q1:運用ルールは、導入前と導入後のどちらで決めるべきですか?
- A:導入前に基本のルールを決め、導入後の実績を見ながら見直すのが現実的です。確認の担当者、判断の基準、記録の方法を、先に文書にしておきましょう。
- ■Q2:担当者が異動したとき、レビュー基準はどう引き継げばよいですか?
- A:基準の内容と更新の履歴を文書にまとめ、複数の担当者が参照できるようにしておきます。操作の手順も記録し、後任がレビューの履歴を確認できる状態にしておくと、引き継ぎを進めやすくなります。
- ■Q3:AIの指摘と人の判断が食い違ったときは、どちらを優先しますか?
- A:AIの指摘は判断の材料であり、最終判断は人が行います。食い違った内容は記録に残し、必要に応じて基準の見直しやベンダーへの確認につなげましょう。
- ■Q4:運用が定着しないときは、まず何を見直せばよいですか?
- A:利用者が使わない理由を聞き、操作の負担、基準の分かりにくさ、役割分担の不明確さのどこにあるかを分けて確認します。原因は一つとは限らないため、体制、設定、研修の面から順に見直しましょう。
まとめ
AI契約書レビューサービスの運用の失敗は、製品側、利用者側、連携先側の要因が重なって起こる場合があります。法務担当1人の体制、情シス不在の設定、複数拠点の基準、法務と営業の役割分担を整理し、AIの判断を最終判断としない運用を整えることが大切です。弁護士法との関係や機密保持も確認したうえで、複数の製品を資料請求して比較してみてください。

