効果の高いIT投資を実現するポイント
IT投資で効果を実現するためには、手順を踏んで自社の課題を認識し、課題解決につながるITツールを正しく選定する必要があります。規模の小さな中小企業の場合、情報システムを専任する部署がない場合が多くあります。このため、自社の課題把握からITツールの選定まで、外部ベンダーに丸投げすることも多いかもしれません。
しかし、外部ベンダーへの依存度が高くなると、自社の課題を正しく認識できなくなり、効果の高いITツールを導入できる可能性は低くなります。ここでは、自社の課題解決に沿った効果の高いIT投資を実現するためのポイントについて解説していきます。
現状の把握
まずは、現状を正しく認識し、改善するべき課題を明らかにしましょう。外部ベンダーへの依存度を下げて、できる限り自社リソースを使って現状を把握したほうが、課題を正確に把握することができるでしょう。正しく課題を認識できれば、効果の高いITツールを導入できる可能性が高まります。
IT導入補助金を使ったIT投資をするからといって、いきなりIT導入支援事業者に相談することはできるだけ避けてください。IT導入支援事業者が提供できるITツールには限りがあるため、自社の課題解決につながりにくいITツールの提案を受けることがあるからです。
ITツールの選定
課題を正確に把握したあとは、その課題を解決できるITツールを選定します。自社で解決するべき課題は、業務フロー図などを使って可視化しておくことをお勧めします。課題を可視化できれば、RFP(Requset For Proposal)を作成して、その課題を解決するための提案を外部ベンダーに依頼することができます。複数社に提案依頼を出して比較することで、最適なITツールを選定することができるでしょう。
このような手順を踏んでITツールを選定したあと、IT導入支援事業者に相談してIT導入補助金の活用を検討するようにしてください。
クラウドを使ったITツールを優先する
情報システムを専任する部署がないことが多い中小企業の場合、ITツールの導入に必要なソフトウェアやハードウェアを自社で管理、運営していくことは簡単ではありません。管理コストを軽減するために、できる限りクラウドとしてサービス提供されるITツールを優先するようにしてください。
IT導入補助金を導入するためのポイント
ここまで解説したポイントを踏まえて、自社の課題分析に基づくITツールの選定ができれば、いよいよIT導入補助金の申請をおこないます。しかし、2019年度版のIT導入補助金は、2018年度と比較して補助上限額が増加した一方で、採択率は下がるといわれています。ここでは、採択を受ける可能性を上げるとともに、IT導入補助金を上手に使うためのポイントについて解説します。
IT導入支援事業者と協力して申請をおこなう
IT導入補助金の申請は、IT導入支援事業者と協力しながら手続きを進める必要があります。綿密にコミュニケーションをとりながら、申請手続きを進めるようにしてください。申請自体は、すべてWebによる手続きで完了できます。
参照:申請・手続きフロー|IT導入補助金2019
経営者の理解を得る
IT導入補助金の申請をおこなうためには、2期分の決算書類を準備して経営診断をおこなったり、履歴事項全部証明書や法人税の納税証明書といった書類を準備する必要があります。決算書類などの重要情報は、大企業であれば公開されていることもありますが、中小企業の場合は、従業員が気軽に閲覧できる書類ではないはずです。
補助金を使ったIT投資を行う場合は、早めに経営者の理解を得て、必要な書類を閲覧できる権限を得ておくことも重要になります。
IT投資に必要な資金を準備する
IT導入補助金の採択を受ければ、補助上限額の範囲内であれば必要なIT投資額の半額が補助されます。このため、必要な資金はIT投資額の半額でよいと考えていませんか。実は、IT導入補助金に限らず、ほとんどの補助金は、必要な投資額の全額を支払った後、報告書を提出することで補助金が支払われます。
手元資金が不足している場合は、金融機関に相談すれば補助金が支払われるまでの短期資金を、つなぎ融資として融通してくれることがほとんどです。直前になって慌てないように、あらかじめIT投資に必要な資金を準備するか、金融機関からつなぎ融資の確約を得るようにしておくとよいでしょう。
IT導入補助金を使ったIT投資の成功事例
2019年度で3年目を迎えるIT導入補助金ですが、実際にどのような成功事例があるのでしょうか。ここでは、IT導入補助金を使い、生産性向上を実現した事例を紹介していきます。
RPAツールの導入事例
通信ネットワークの設計、構築、保守を手がける、ある情報システム会社では、複数の受発注システムに関する事務処理業務の属人化が課題となっていました。特定の社員しか作業手順を理解できておらず、非効率が発生していたのです。
こうした現場の課題を解決するために、事務処理業務の定型化に着手します。そのうえで、IT導入補助金を使ってRPAツールを導入したのです。RPAツールの導入により定型業務を自動化して人件費負担を軽減しただけではなく、入力時間の短縮、ミスの軽減、チェック時間の短縮も実現しました。これにより、月間25時間分の残業時間の削減につながりました。
勤怠・給与計算システムの導入事例
自動車の販売・整備等をおこなう、ある小売業者では、Excelで勤怠データを管理していました。業績の拡大にともない、7拠点で事業展開していましたが、締め後の給与計算の負担が大きく、計算ミスも多発しました。
そこで、給与計算にかかる負担を軽減するために、IT導入補助金を使って人事管理と給与計算システムの導入をおこない、給与計算業務の自動化を実現したのです。導入効果は、締め日直前の10時間(2時間×5日)の残業時間の抑制にとどまりませんでした。従業員が単純作業から解放され、付加価値の高い業務に時間をかけることができるようになり、従業員満足の向上にもつながったのです。
販売管理システムの導入事例
ある建材販売業者は、変動する仕入れ価格や需要予測を、ベテラン社員の経験と勘に頼っていました。しかし、ベテラン社員の高齢化が進み、後継者問題も浮上します。人への依存度を下げて、システム的に仕入れ量の決定や需要予測をおこなう必要性に迫られたのです。
システム化にあたっては、現状把握を重視し業務フロー図を作成します。業務フロー図を活用することで、ITベンダーから具体的な解決方法を提案してもらうことができました。提案に基づき、IT導入補助金を使って販売管理システムの導入を決断しました。
その結果、発注から原価計算まで情報を一元化し、情報の集計・分析を効率よく行うことができるようになりました。そして、分析結果を仕入れ量の決定や需要予測に活用できるようになったのです。
成功のポイントをおさえて補助金の申請を行おう
事例でも紹介したように、IT導入補助金は有効に活用すれば自社に大きなメリットをもたらします。申請の締切まであと僅かとなりました。自社に合ったツールを見つけて、自社の改善に役立てられるように、まずは自社の課題を整理することから始めましょう。そして、実際の対象製品を見ながら具体的な解決策を検討していくことをおすすめします。