MFAツールが対処できる主なセキュリティ課題
MFAツールを導入する目的は企業によって異なります。自社がどの課題を優先的に解決したいかを明確にすることで、適切な製品選定ができます。
企業が直面する認証・アクセス管理の課題を整理する
企業のセキュリティ担当者が日常的に直面する認証関連の課題には、「VPN経由での不正アクセス」「クラウドサービスのアカウント乗っ取り」「パスワードを忘れた社員からの情シスへの問い合わせ増加」「退職者のアカウント削除漏れによる不正アクセスリスク」「最新フィッシング手法(AiTM)によるMFAコードの窃取」など多岐にわたります。ID・パスワードのみの認証では、これらの課題のほとんどに対応できないことが、MFA導入を検討する主な動機です。
重要なのは、MFAツールが解決できる課題は「認証の強化」だけではなく、ライフサイクル管理(退職者アカウントの自動無効化)・リスクベース認証(不審なアクセスのみに認証を要求)・パスワードレス認証(パスワード自体をなくす)など、より広い範囲の課題にも対応できるという点です。課題を整理した上で製品を比較することが、導入効果を最大化するための出発点です。
- ■VPN侵入・ランサムウェア
- VPN機器の脆弱性への対策(パッチ適用など)に加え、パスワード漏えいを悪用した不正接続のリスクを、RADIUS連携によるMFA必須化で低減する
- ■クラウドアカウント乗っ取り
- Microsoft 365・Google Workspaceへの不正ログインを、MFAによる二段階確認で遮断する
- ■パスワードリセット依頼の多発
- パスワードレス認証の採用により、パスワード忘れを根本からなくす
- ■業務効率とセキュリティのジレンマ
- リスクベース認証で普段と異なるアクセスのときのみMFAを要求し、毎回の認証負荷をなくす
- ■AiTM攻撃(中間者攻撃)
- FIDO2・パスキー対応のMFAツールでOTPを盗み取る高度なフィッシングへの耐性を持つ
- ■退職者アカウント放置リスク
- IDaaSとのSCIM連携による自動アカウント無効化で、消し忘れによる不正アクセスを防止する
課題の優先順位と解決策の対応関係を確認する
上記の課題はすべて重要ですが、どの課題が自社にとって最も急務かを判断してから製品選定を進めることで、必要な機能が備わった製品を効率よく選べます。例えば「VPN経由のランサムウェア侵入を防ぎたい」ならRADIUS連携対応、「AiTM攻撃を防ぎたい」ならFIDO2対応、「退職者アカウント管理を自動化したい」ならSCIM連携対応の製品が要件に合います。複数の課題を同時に解決したい場合は、これらの機能をすべて持つIDaaS(クラウド型のID管理・認証サービス)を検討することが選択肢のひとつです。
製品選定の際は「現時点の課題」だけでなく「1~3年後に想定される課題」も考慮に入れることが重要です。現在はシンプルな認証で十分でも、従業員が増えたり、クラウドサービスの利用が拡大したりすると、必要な機能が変わることがあります。将来的な拡張性も含めて製品を評価しましょう。
VPN脆弱性とランサムウェア侵入をMFAで防ぐ
VPN機器はランサムウェアグループに狙われやすい侵入経路のひとつです。パスワードのみのVPN認証にMFAを追加することで、侵入リスクを大幅に低減できます。
RADIUS連携でVPN接続時にMFAを必須化する方法
VPN(Virtual Private Network:社外から社内ネットワークに安全に接続する仕組み)の認証に多要素認証を組み込むには、RADIUS(Remote Authentication Dial-In User Service:ネットワーク機器向けの認証プロトコル)連携に対応したMFAツールを選ぶことが一般的な方法です。RADIUSに対応したMFAツールをVPN機器と連携させることで、既存のVPN機器を入れ替えることなく、VPN接続時にスマートフォンへのプッシュ通知やOTPによるMFAを追加できます。多くの主要VPN機器(Cisco ASA・Fortinet・Palo Alto Networksなど)がRADIUSに対応しているため、既存環境を活かしながらMFAを導入できます。
VPN経由のランサムウェア侵入は、窃取したVPN認証情報を使って攻撃者が社内ネットワークに侵入するケースが多いため、パスワードが漏えいしても「第2の認証要素(スマートフォンのプッシュ承認など)がなければログインできない」仕組みにすることが、根本的な対策となります。導入時は既存VPN機器のRADIUS対応状況をベンダーに確認してから製品を選びましょう。
Microsoft 365・Google WorkspaceのアカウントをMFAで保護する
Microsoft 365やGoogle WorkspaceなどのクラウドサービスはIDとパスワードさえあればどこからでもログインできる利便性がある一方で、パスワードが漏えいした場合に第三者が社外から不正にアクセスするリスクがあります。これを防ぐためには、クラウドサービスにMFAを設定し、正しいパスワードを入力した後にスマートフォンへのプッシュ通知または認証アプリのワンタイムパスワードでの確認を必須にすることが有効です。Microsoft 365にはMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)を経由したMFA設定機能があり、Google WorkspaceでもGoogle Workspaceの管理コンソールから多要素認証を必須化できます。
ただし、各サービスごとに個別にMFAを設定・管理するのは工数がかかります。複数のクラウドサービスを利用している場合は、IDaaS(シングルサインオン対応のクラウドID管理サービス)を経由して一元的にMFAポリシーを適用する方法が、管理効率の観点から推奨されます。IDaaS経由であれば、新しいクラウドサービスを追加する際も同じMFAポリシーを適用できます。
認証の手間を減らしつつセキュリティを高める方法
「MFAで毎回認証が必要になって業務が遅くなった」という不満は、導入後の定着を妨げる大きな原因です。リスクベース認証やパスワードレス認証でこの問題を解決できます。
リスクベース認証で「必要なときだけ」MFAを要求する
リスクベース認証(Adaptive Authentication)とは、ユーザーのアクセス状況をリアルタイムで評価し、リスクが高いと判断したアクセスのみにMFAを要求する認証方式です。判断の基準としては「普段と異なるIPアドレス・国からのアクセス」「登録していない新しいデバイスからのアクセス」「通常とは異なる時間帯のアクセス」「短時間に複数の国からログイン試行がある」などが使われます。これにより、オフィスや自宅から普段と同じ端末でアクセスする場合はMFAを省略し、不審なアクセスのみに追加認証を求めるという運用が実現します。
リスクベース認証を導入することで、「毎回の認証が面倒」というユーザーの不満を解消しながら、リスクが高い場面では確実にMFAを適用するというバランスが取れます。ただし、リスク判定のロジックはベンダーによって異なるため、「どのような条件でMFAが要求されるか」を導入前にベンダーに確認しておくことが重要です。
パスワードレス認証でパスワード忘れ問い合わせをなくす
「パスワードを忘れた」という情シスへの問い合わせは、社員数が多い企業では年間数百件に上ることもあります。パスワードレス認証(パスワードを使わずに生体認証・PINコード・ハードウェアキーで本人確認する方式)を採用することで、そもそもパスワードを設定しない・覚えない運用にすることができ、パスワード関連の問い合わせを根本からなくすことができます。Windows 10・11に標準搭載のWindows Hello for Business(顔認証・指紋認証・PINでWindowsにサインインする機能)や、YubiKeyなどのFIDO2対応ハードウェアキーが代表的なパスワードレス認証の手段です。
パスワードレス認証はFIDO2という国際標準規格に基づいているため、フィッシング耐性も高く、セキュリティの面でもパスワード認証より優れています。Microsoft 365・Google Workspaceなど主要クラウドサービスもFIDO2対応ログインをサポートしており、パスワードレス化と同時にMFAの強化が実現できます。
高度な攻撃とアカウント管理リスクへの対策
近年のサイバー攻撃はMFAを回避することを前提にした手法が増えています。AiTM攻撃への耐性と退職者アカウント管理の自動化が、現代のMFA運用では重要な課題です。
AiTM攻撃(OTPを盗む中間者攻撃)への対応策
AiTM(Adversary-in-the-Middle:中間者攻撃)とは、攻撃者が本物そっくりの偽ログイン画面を用意し、ユーザーが入力したID・パスワード・MFAのワンタイムパスワード(OTP)をリアルタイムで奪い取って、本物のサービスに不正ログインする攻撃手法です。この攻撃は、スマートフォン認証アプリで生成する6桁のOTPには有効で、OTPを入力させるタイプのMFAでは防ぎきれません。AiTM攻撃を防ぐには、FIDO2に準拠したハードウェアセキュリティキー(YubiKeyなど)またはパスキー(スマートフォンの生体認証を使う最新の認証方式)を採用することが効果的です。
FIDO2認証は、認証時に「どのサイト(オリジン)に対して認証するか」を暗号化して検証する仕組みを持つため、偽サイトに誘導されても認証情報を渡すことがありません。フィッシング攻撃が高度化している現在、FIDO2対応製品の採用はセキュリティ戦略上の重要な選択肢のひとつです。
退職者アカウント消し忘れリスクをIDaaSで自動管理する
退職した社員のクラウドサービスアカウントを削除し忘れた場合、その社員が退職後もクラウドサービスにアクセスできる状態が続く可能性があります。これは情報漏えいや内部不正のリスクとなります。IDaaSとSCIM(ユーザー情報の自動同期規格)を連携させることで、人事システム上で退職処理が行われると同時に、連携するすべてのクラウドサービスのアカウントを自動で無効化することができます。手動での「全サービスにログインしてアカウントを停止する」作業を自動化することで、消し忘れリスクをゼロに近づけられます。
IDaaSを経由してシングルサインオンで管理されているサービスでは、IDaaS側のアカウントを無効化するだけで連携するすべてのサービスへのアクセスが同時に遮断されます。退職者管理の自動化は、SOC 2・ISO 27001などのセキュリティ認証取得時にも評価されるセキュリティ管理策のひとつです。
まとめ
多要素認証(MFA)ツールは、VPN経由のランサムウェア侵入・クラウドアカウント乗っ取り・AiTM攻撃・パスワードリセット依頼の多発・退職者アカウントの放置リスクなど、企業が直面する多様なセキュリティ課題に対応できます。課題の種類によって必要な機能(RADIUS連携・FIDO2対応・リスクベース認証・SCIM連携)が異なるため、自社の優先課題を整理してから製品を選定することが重要です。無料トライアルや問い合わせをあわせて活用し、最適なMFAツールを見つけてください。


