MFAツールの費用を構成する主な要素
MFAツールの総費用は「ライセンス費用」だけではありません。導入形態や認証デバイスの種類によって発生する費用の内訳が変わるため、全体を把握した上で予算を立てることが重要です。
費用の内訳:ライセンス・初期費用・デバイス費用
MFAツールの費用は大きく3つに分けられます。(1) ライセンス費用(月額または年額で発生するソフトウェア使用料。クラウド型IDaaSでは1ユーザーあたりの月額費用が基本)、(2) 初期費用(契約時の初期設定費用・環境構築費用・Active Directoryなど既存システムとの連携設定費用)、(3) 認証デバイス費用(スマートフォン認証アプリは基本的に無料だが、ハードウェアトークンやYubiKeyなどのセキュリティキーは1デバイスごとに購入費が発生する)の3つです。
また、継続的に発生するコストとして、ユーザー数増加に伴うライセンス追加費用・ハードウェアデバイスの紛失・故障時の再購入費用・ベンダーのサポート契約費用なども考慮に入れる必要があります。「1ユーザーあたりの月額費用が安い」製品でも、初期設定に高額な費用がかかる場合や、利用人数が増えると費用が跳ね上がる場合があるため、総費用(TCO:Total Cost of Ownership)で比較することが重要です。
従業員50名・100名規模でのコスト試算イメージ
具体的な費用感をつかむために、従業員規模ごとのコスト構造のイメージを整理します。スマートフォン認証アプリを使うクラウド型IDaaSを採用する場合、一般的に月額ライセンスが1ユーザーあたり数百円~1,500円程度の製品が多く見られます(機能・SSOの連携数・サポートレベルによって異なります)。50名規模であれば月額数万円~7万円程度、100名規模では月額数万円~15万円程度のランニングコストのイメージです。これに初期費用(製品によって無料~数十万円)と、ハードウェアトークンを採用する場合はデバイス費用が加わります。
ただし、製品ごとに「基本MFA機能のみのプラン」「SSO込みのプラン」「リスクベース認証・高度な管理機能込みのプラン」と階層化されているケースが多いため、必要な機能のプランで見積もることが重要です。まず「最低限必要な機能一覧」を作成し、それを満たすプランの費用を比較するアプローチが効果的です。
クラウド型IDaaSの導入費用の相場感
MFAとSSOを統合したクラウド型IDaaSは、現在最も採用されているMFA導入形態のひとつです。費用の構造と、スモールスタートの選択肢を整理します。
IDaaS(クラウド型ID管理サービス)の料金体系
クラウド型IDaaS(Identity as a Service)の料金は、一般的に「1ユーザーあたりの月額費用x利用ユーザー数」という従量制が主流です。スマートフォン認証アプリを使った基本的なMFA機能のみであれば、比較的安価な製品から選択できます。SSOの連携数・リスクベース認証・ライフサイクル管理(入退社時の自動アカウント管理)などの高度な機能が加わるほど、プランの価格は上がる傾向があります。製品によっては、連携できるSaaSの数に応じた料金体系や、無制限連携のプランが用意されているケースもあります。
初期費用については、セットアップ費・環境構築費として数万円~数十万円かかる製品もあれば、自社でセットアップできる製品では初期費用が無料または低額というケースもあります。まずベンダーの見積もりを取得し、初期費用・月額費用・サポート費用を合算した1~3年間の総費用で複数製品を比較することをおすすめします。
スモールスタートでMFAを始める低コスト導入の考え方
VPNや主要なSaaSへの二要素認証機能のみに絞った最小構成でMFAを始めたい場合は、必要最低限の機能に特化した安価なプランから始め、必要に応じて機能を追加するアプローチが有効です。クラウド型のMFAツールの中には、ユーザー数が少ない場合や機能を絞ったプランでは月額費用を抑えられるものがあります。まず「最小構成で試してみて、効果を確認してから追加投資を判断する」というスモールスタートの考え方は、予算が限られる中小企業に向いています。
スモールスタートで選定する場合は、「後から機能を追加できるか(プランのアップグレードが可能か)」「ユーザー数が増えた場合のライセンス追加手順と費用はどうなるか」を事前に確認しておくことが重要です。スタート時点での費用だけでなく、将来的に機能や規模を拡張したときの費用感もあわせて把握しましょう。
ハードウェアトークン・セキュリティキーの費用
スマートフォンを使わない認証手段として選ばれるハードウェアトークンやFIDO2セキュリティキーは、デバイスごとに購入費が発生します。規模によっては費用が大きくなるため、事前の見積もりが必要です。
TOTP型ハードウェアトークンの単価と維持費
ボタンを押すとワンタイムパスワードが表示されるキーホルダー型のハードウェアトークン(TOTP型)は、スマートフォンなしで多要素認証を実現できるデバイスです。単価はメーカー・機能によって異なりますが、一般的に1本数千円程度の製品から選択できます。電池式のデバイスは電池寿命が数年程度のため、交換や新規購入のサイクルが維持費として発生します。また、紛失・盗難時の再購入費用と、ユーザーへのデバイス配布・回収管理の工数も見込んでおく必要があります。
全社員100名にハードウェアトークンを配布する場合、デバイス費用だけで数十万円規模の初期投資が必要です。社員の入れ替わりが多い環境では、デバイス管理の手間がクラウド型MFAツールのライセンス費用を上回るケースもあるため、「何名規模で導入するか」「入れ替わり頻度はどれくらいか」を考慮して総費用を比較することが重要です。
FIDO2セキュリティキー(YubiKeyなど)のコスト
FIDO2(フィッシング耐性のある国際認証標準)に対応したUSBセキュリティキー(YubiKeyなど)は、TOTP型ハードウェアトークンより高いセキュリティを持ちますが、1本あたりの価格も高くなる傾向があります。セキュリティキーの価格帯は対応する認証プロトコルの数・USBの形状(Type-A・Type-C)・NFC対応の有無などによって異なります。YubiKey as a Serviceのようなサブスクリプション形式を利用することで、初期の一括購入費用を抑えられる選択肢もあります。
FIDO2セキュリティキーをすべての社員に配布するコストが大きい場合、「VIPアカウント(経営幹部・管理者)や特権ユーザーにのみFIDO2キーを配布し、一般社員はスマートフォン認証を使う」という段階的な導入アプローチも費用対効果の観点から有効です。リスクが特に高いアカウントから優先的にセキュリティを強化するという考え方で予算配分を検討しましょう。
Microsoft Entra IDの無料MFA機能と有料製品の違い
Microsoft 365を契約している企業では、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)に付属するMFA機能を無料で利用できます。有料の専用MFAツールとの違いを理解した上で、追加投資が必要かどうかを判断しましょう。
Microsoft 365に含まれる無料MFA機能でできること
Microsoft 365では、Microsoft Entra ID Free(セキュリティの既定値群など)を利用してMicrosoft AuthenticatorアプリによるMFAをMicrosoft 365アカウントに適用できます。「セキュリティの既定値群(Security Defaults)」という設定を有効にすることで、すべてのユーザーにMFAを必須化することが可能です。この機能は追加費用なしで利用でき、Microsoft 365のアカウント乗っ取りを防ぐ効果があります。
ただし、無料機能には制限があります。「Microsoft 365以外のSaaSサービスへのSSOとMFAを一元管理したい」「場所やデバイスによってMFAの要否を変えるリスクベース認証・条件付きアクセスを使いたい」「アプリの登録・アクセスポリシーを詳細に制御したい」といった要件を満たすには、Microsoft Entra ID P1またはP2ライセンスの追加購入、またはサードパーティのIDaaSの導入が必要です。
有料IDaaSが必要になるケースと費用対効果の判断方法
Microsoft 365のEntra ID無料機能を超えて有料のIDaaSが必要になるのは、「Microsoft 365以外のSaaSにもSSOでMFAを一括適用したい」「Active Directoryとクラウドのユーザーを統合管理したい」「リスクベース認証・詳細なアクセスログ管理が必要」「Microsoft以外のIDaaS(SeciossLink・Gluegent Gate・Okta Workforce Identityなど)を選定したい」といった場合です。有料IDaaSの費用対効果を判断するポイントは、「現在の情シスのサポート工数(パスワードリセット対応・アカウント管理)を金額換算したコスト」と「IDaaSのライセンス費用」を比較することです。
例えば、月に10件のパスワードリセット対応が担当者1人1時間ずつかかっている場合、人件費換算で月に相当なコストが発生しています。IDaaSのセルフサービスパスワードリセット機能でこれをゼロに近づけられれば、ライセンス費用を上回るコスト削減効果が見込める場合があります。「ツールの費用」だけでなく「ツール導入で削減できる業務コスト」を合算した費用対効果で判断しましょう。
まとめ
多要素認証(MFA)ツールの費用は、クラウド型IDaaSの月額ライセンス・ハードウェアデバイスの購入費・初期設定費用・維持費で構成されます。Microsoft 365のEntra ID無料機能はMicrosoft 365のMFAには使えますが、他のSaaSへのSSO一元管理や高度な認証機能には有料プランや専用IDaaSが必要です。総費用(ライセンス+デバイス+人件費削減効果)で比較し、自社の規模・機能要件に合ったMFAツールを無料トライアルや問い合わせをあわせて活用しながら選定してください。


