介護DXとは何かを基本から整理する
介護DXという言葉は広く使われていますが、ICT化と同じ意味だと捉えられることも少なくありません。まずは言葉の定義と、介護分野でデジタル化が求められている背景を整理しておきましょう。
介護DXの定義とICT化との違い
DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術を使って仕事の進め方や組織のあり方を変えることを指します。介護DXは、この考え方を介護現場に当てはめたものです。紙の記録や電話、FAXに頼っていた業務をデータでつなぎ、サービスの質と働き方を同時に見直すことが目的です。
一方、ICT(情報通信技術)の導入は、タブレットやソフトを使えるようにする「手段」の段階を指すことが一般的です。例えば記録をタブレット入力に変えるだけでは、ICT化にとどまります。蓄積したデータをケアの改善や人員配置の見直しにまで生かしてはじめて、介護DXと呼べる状態に近づきます。つまりICTは道具であり、DXはその道具で業務やケアの形そのものを変えることだと整理できます。
介護DXが求められる背景
介護DXが注目される大きな理由は、高齢化で介護の需要が増える一方、支え手の確保が難しくなっていることです。厚生労働省は、2040年度には約272万人の介護職員が必要になると推計しています。限られた人数でサービスを続けるには、間接業務の効率化が欠かせません。
もう一つの背景は、医療と介護の連携強化です。退院後の在宅生活を支えるには、病院やケアマネジャー、訪問系事業所が利用者の情報を素早く共有する必要があります。紙や電話中心のやり取りでは時間がかかり、転記ミスも起こりがちです。こうした課題を解消する手段として、介護分野全体のデジタル化が進められています。介護DXは、こうした構造的な課題に中長期で備える取り組みとして位置付けられています。
介護DXでデジタル化する主な業務
介護DXの対象は、日々の記録から請求、外部との情報共有まで幅広くあります。ここでは、事業所の業務負担に直結しやすい領域を取り上げ、デジタル化によって何が変わるのかを具体的に見ていきます。
介護記録と請求業務の電子化
最も取り組みやすいのが、介護記録と介護報酬請求の電子化です。介護ソフトを使えば、スマートフォンやタブレットで記録した内容が、実績管理や請求データの作成にそのまま反映されます。手書き記録をパソコンに転記する手間が減り、国民健康保険団体連合会(国保連)への請求もスムーズに進められます。
最近は、音声入力で記録を作成する機能や、AI(人工知能)が記録内容の要約やケアプラン作成を補助する機能も登場しています。記録にかかる時間を短縮できれば、その分を利用者と向き合う時間に充てられます。まずは記録と請求を一つの仕組みでつなぎ、データを残せる土台をつくることが第一歩です。データが一か所にそろえば、後の分析や国への提出にも活用できます。
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事業所間・多職種での情報連携
介護DXでは、事業所の外とのやり取りもデジタル化の対象です。居宅介護支援事業所と訪問介護や通所介護などの事業所の間では、毎月のケアプランや利用実績をFAXや郵送でやり取りする運用が長く続いてきました。これをデータ連携に切り替えると、送付や転記の手間を大きく減らせます。
厚生労働省の依頼を受け、国民健康保険中央会がケアプランの予定や実績をオンラインで送受信できる「ケアプランデータ連携システム」を運用しています。利用には連携に対応した介護ソフトが必要で、2027年1月には介護情報基盤側のWebサービスへ統合される予定です。また、医師や看護師、リハビリ職などと利用者の状態を共有するために、多職種連携用のコミュニケーションツールを取り入れる事業所も増えています。写真や動画も共有できるため、言葉だけでは伝えにくい皮膚の状態なども確認しやすくなります。
国が進める介護DXの主な施策
介護DXは個々の事業所の努力だけでなく、国の制度づくりとも深く関わっています。介護報酬の加算要件や全国的な情報基盤の整備など、事業所が押さえておきたい代表的な施策を紹介します。
介護情報基盤の整備
介護情報基盤とは、利用者本人や市町村、介護事業所、医療機関などが、介護に関する情報を電子的に共有するための仕組みです。2023年に成立した改正介護保険法で、市町村の地域支援事業として位置付けられました。要介護認定の情報やケアプランなどを、関係者が必要に応じて確認できるようにすることを目指しています。
この仕組みが広がれば、紙の書類の郵送や、市町村への問い合わせにかかる手間の削減が期待できます。厚生労働省は、準備が整った市町村から段階的に活用を始める方針を示しています。事業所側では、利用者のマイナンバーカードによる本人確認などに対応するため、端末やカードリーダー、セキュリティ対策の準備を進めておくことが大切です。具体的な開始時期は市町村によって異なるため、自治体からの案内を確認しておきましょう。
科学的介護情報システムLIFEの活用
LIFE(科学的介護情報システム)は、利用者の心身の状態やケアの内容をデータとして国に提出し、分析結果のフィードバックを受け取る仕組みです。2021年度の介護報酬改定にあわせて運用が始まりました。科学的介護推進体制加算などでは、LIFEへのデータ提出とフィードバックの活用が要件に含まれています。
LIFEの価値は、経験や勘に頼りがちだったケアを、データで振り返れる点にあります。例えば、ADL(日常生活動作)や栄養状態の推移を全国の傾向と比べれば、ケア計画の見直しに役立ちます。LIFEに対応した介護ソフトを使えば、日々の記録から提出用データを作成でき、入力の二度手間を防げます。提出して終わりにせず、フィードバックを職員会議などで共有することが重要です。
生産性向上推進体制加算の新設
2024年度の介護報酬改定では、生産性向上推進体制加算が新設されました。見守り機器などのテクノロジーを導入し、職員の負担軽減とケアの質の確保に向けた委員会で検討を重ねる事業所を評価する加算です。区分は二つあり、上位区分では取り組みの成果をデータで示すことが求められます。
この改定では、施設系などのサービスで、生産性向上に向けた委員会の設置も義務付けられ、一定の経過措置期間が設けられています。加算を取るかどうかにかかわらず、業務改善の体制づくりが求められる流れといえます。見守りセンサーや記録ソフトの導入は、こうした制度対応とあわせて検討すると効果的です。見守りセンサーの中には、AIを使って離床などの動きを検知し、職員に知らせる製品もあります。
介護DXを進めるための導入手順
介護DXは、ツールを入れれば完了するものではありません。現場に定着させ、データを活用できる状態をつくるまでが一連の流れです。失敗を避けるために押さえておきたい進め方を、段階ごとに解説します。
現状の業務を洗い出して目的を決める
最初に行うべきは、現在の業務の流れと課題の把握です。記録、請求、シフト作成、申し送り、外部との連絡など、どの作業にどれだけ時間がかかっているかを書き出します。職員へのヒアリングを行うと、管理者が気付いていない二度手間や転記作業が見つかることもあります。
課題が見えたら、「記録時間を減らす」「FAX送付をなくす」など、達成したい目的を具体的に決めます。目的が明確であれば、必要な機能や優先順位を判断しやすくなり、使わない機能に費用をかける事態も避けられます。あわせて、現行の介護ソフトやパソコン、通信環境などの状況も確認しておきましょう。施設内でWi-Fiが届きにくい場所がないかも、この段階で調べておくと後の手戻りを防げます。
小さく始めて現場に定着させる
ツールを選んだら、いきなり全事業所で導入するのではなく、一つのユニットや一部の業務から試すのが安全です。試験導入で操作のしやすさや業務への影響を確認し、課題を修正してから対象を広げます。現場で旗振り役を担う職員を決めておくと、操作に関する相談の窓口にもなります。試験導入の期間と評価の基準を事前に決めておくと、本格導入の判断に迷いません。
導入後は、記録時間や残業時間などの変化を定期的に確認し、効果を職員と共有しましょう。成果が見えると、デジタル化への前向きな空気が生まれます。運用ルールや操作マニュアルを整え、新しく入った職員にも同じ使い方を引き継げるようにしておくことが、定着のポイントです。
介護DXでつまずきやすい課題と対策
介護DXを進める過程では、費用や人材、情報管理などの壁に直面することがあります。あらかじめ課題を想定し、対策を準備しておけば、途中で取り組みが止まるリスクを抑えられます。
導入コストの負担と補助制度の活用
中小規模の事業所にとって、ソフトの利用料や端末の購入、通信環境の整備にかかる費用は大きな負担です。月額料金だけでなく、初期費用やサポート費用、既存データの移行費用も含めて総額を見積もることが大切です。削減できる残業時間や紙代などと比べ、費用対効果を確かめましょう。複数の製品から見積もりを取り、機能と費用のバランスを比べることもおすすめです。
費用面の負担を抑える手段として、都道府県が実施する介護テクノロジー導入支援事業など、公的な補助制度があります。対象となる機器や補助率、申請時期は自治体や年度によって異なります。導入を決める前に、自治体の公式情報や、ソフト提供会社の案内を確認しておくと安心です。交付決定前に購入した費用は対象外となる制度もあるため、手続きの順番にも注意が必要です。
職員のITスキル差と情報セキュリティ
介護現場では、年齢や経験によってデジタル機器への慣れに差があります。操作が難しいと感じる職員が多いと、紙の記録に戻ってしまうこともあります。画面が見やすく入力項目が少ないツールを選び、導入時には少人数での操作研修や、困ったときに質問できる体制を整えましょう。
また、介護記録には病歴や家族構成など、配慮が必要な個人情報が多く含まれます。端末の紛失や不正アクセスによる情報流出を防ぐため、パスワード管理や端末ごとの利用制限、アクセス権限の設定が必要です。厚生労働省などが示す情報セキュリティに関するガイドラインも参考に、事業所としての運用ルールを定めておきましょう。クラウド型のソフトを選ぶ場合は、提供会社のセキュリティ対策やデータの保管場所も確認すると安心です。
介護DXの土台づくりに役立つ介護ソフト
ここでは、スマートフォンやタブレットでの記録入力に対応し、日々の記録を事業所運営に生かしやすいクラウド型の介護ソフトを紹介します。
介舟ファミリー (株式会社日本コンピュータコンサルタント)
- 介護保険・障害福祉保険の両制度に対応
- シンプルで使いやすい操作性
- 法改正後の追加料金なし
Care-wing (株式会社ロジック)
- 介護事業者の依頼で開発された業務効率化ソフト
- ヘルパーが選ぶ介護ソフトで3冠達成。
- 特定事業所加算の要件『指示・報告・申し送り』に対応。
まとめ
介護DXとは、デジタル技術で介護記録や請求、事業所間の情報連携を変え、ケアの質と働き方を同時に見直す取り組みです。国も介護情報基盤の整備やLIFEの運用、生産性向上推進体制加算の新設などで後押ししています。まずは自事業所の業務課題を洗い出し、目的に合った介護ソフトを小さく試しながら定着させていきましょう。

