債務管理・債権管理システム市場の現状
企業のクラウド活用が進み、請求・入金消込・支払管理のデジタル化が広がっています。ここでは、市場の基礎動向としてクラウド利用の全体傾向と制度面の背景を、公的統計・ガイドラインから確認します。自社要件化の前提整理に活用ください。
市場規模・成長率・クラウド化率
企業のクラウド活用は年々広がっており、請求や入金、支払といった取引関連データのデジタル化も進展しています。電子帳簿保存法の改正や電子インボイス(JP PINT)標準の整備が進んだことで、請求書の発行・受領・保存を継続的に運用する仕組みの重要性が高まっています。
その流れの中で、債務管理・債権管理システムを含む関連ソリューションの導入・検討が増えつつある状況がうかがえます。ただし、債務・債権管理システム単体の導入件数や成長率を示す公的統計は現時点で存在していません。
中小企業/大企業/業種別の利用状況
中小企業では、初期コストや人員負担を抑えやすいクラウド型の債務管理・債権管理システムを採用する傾向があります。一方で、大企業は多拠点・多通貨・承認統制といった複雑な要件を持ち、統合型やプラットフォーム型のシステムを選定するケースが増えています。
製造業・卸売業・建設業などでは、請求・支払の件数や取引先数が多く、管理業務の複雑化が課題とされています。そのため、債務・債権管理の自動化や照合精度を重視する動きが見られます。また、金融・通信・インフラ分野においては、監査証跡やコンプライアンス対応が業務要件として挙げられており、関連システムの運用設計において重要視される傾向があります。
いずれの業種でも、電子帳簿保存法やインボイス制度などへの制度準拠、検索性、データ改ざん防止といった基本機能が評価の前提となる点は共通しています。
参考:令和六年通信利用動向調査 企業編|総務省
参考:電子帳簿保存法 一問一答|国税庁
参考:JP PINT(電子インボイス)標準仕様|デジタル庁
主要ベンダー・サービス紹介とシェア分析
債務管理・債権管理システムには、請求・入金・回収などを自動化する専用クラウドサービスが複数登場しています。ここでは、債権・債務管理領域で専用機能を提供し、導入実績や第三者調査など客観的に確認できるデータをもとに、主要ベンダーの市場での位置づけを整理します。
V-ONEクラウド
「V-ONEクラウド」は、株式会社アール・アンド・エー・シーが提供する、入金消込に特化したクラウド型システムです。請求データと入金明細を自動照合し、債権残高をリアルタイムに可視化します。
同社の「Victory-ONEシリーズ」全体では、2024年8月時点で累計導入社数が1,500社を突破。業界内でも「入金消込を主機能とするクラウド型システム」として早期から普及している製品群の一つとされています。
参考:入金消込・債権管理システム「Victory-ONEシリーズ」が累計導入社数1,500社を突破|R&AC
債権奉行iクラウド
株式会社オービックビジネスコンサルタントが提供する「債権奉行iクラウド」は、入金管理・回収予定・滞留債権の可視化を中心にした債権管理専用システムです。奉行シリーズの一環として提供され、請求管理や販売管理と連携しながら、会計情報と統合的に運用できます。
債権奉行単体の社数は公表されていないものの、奉行シリーズ全体では、2024年8月29日に公式発表された資料にて「累計82万社の導入実績」を公表しています。会計・販売領域での信頼性を背景に選定されるケースが多い製品です。
参考:導入実績|奉行シリーズでIPOを実現|【勘定奉行のOBC】
バクラク債権管理
「バクラク債権管理」は、株式会社LayerXが提供する債権管理クラウドで、入金消込・督促・仕訳作成の自動化を支援します。AIによる照合精度の高さと、バクラクシリーズ(請求書発行・経費精算など)との統合性が強みです。
2025年4月時点で、バクラクシリーズ全体で累計導入社数15,000社を突破したと発表されています(債権管理単体数値は非公開)。導入企業はスタートアップから中堅企業が中心で、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応を目的とした利用が増えています。
債務管理・債権管理システムの市場シェアから見る選定のヒント
導入実績は「広く使われている確からしさ」を測る一つの材料です。ただし、債権管理と債務管理では目的や重視点が異なります。入金消込や回収管理を重視するのか、支払スケジュールや承認統制を優先するのか。自社の運用像に近い指標で比較し、数値の母集団や調査時点を必ず確認しましょう。
導入企業多数の意味と注意点
導入社数が多い製品は、機能成熟度や他システムとの連携、サポート体制の整備が進んでいる傾向にあります。一方で、自社の債権・債務プロセスに合わない仕様を選ぶと、運用設計の手戻りを招くことがあります。導入実績を比較する際は、集計範囲(債権管理のみ/債務管理含む/シリーズ全体など)や算出基準(契約単位・アカウント単位)を確認し、同一条件で判断してください。
ニッチ/新興ベンダーの可能性と見極め
ニッチや新興のベンダーは、特定業務やAPI連携の柔軟性など、独自の強みを持つことがあります。ただし、長期的な保守・アップデート体制や法令改正(電子帳簿保存法・インボイス制度など)への追随方針を事前に確認することが重要です。SLA(サービス品質保証)や障害発生時の公開姿勢、サポート窓口の対応実績も含め、信頼性を多面的に判断しましょう。
資料請求の進め方
市場シェアや導入社数の母集団・算定方法を確認したうえで、自社要件に近い3〜5社程度へ資料請求するのが効率的です。入金消込・回収・支払管理など、債権と債務のどの領域を重点的に改善したいのかを明確にし、会計との連携有無や運用フローを整理しておきましょう。比較表に要件と機能の差分を可視化することで、検討の方向性が具体化します。
チェックリスト
| 観点 | 確認ポイント |
|---|---|
| 集計定義 | 導入社数の算出基準(債権/債務/シリーズ全体など) |
| 制度準拠 | 電子帳簿保存法・インボイス制度への対応状況と更新方針 |
| 標準仕様 | JP PINT/Peppol等の電子取引標準への対応実績 |
| 連携性 | 会計・販売管理・購買管理・銀行API・ワークフローなどの連携可否 |
| 運用実績 | SLA・障害情報開示・サポート体制・導入後の移行支援 |
| 費用条件 | 料金体系(初期費用・従量項目・最低契約期間・追加ユーザー単価) |
まとめ
債務管理・債権管理システムの導入は、請求・入金・支払業務の標準化と監査対応を両立させる鍵となります。記事内では、一次情報に基づき市場の傾向と主要サービスの導入実績を整理しました。
選定時は、債権・債務のどちらを重点化するか、会計や販売・購買システムとの連携範囲をどう設計するかが重要です。上記のチェックリストを活用し、複数製品の資料を比較することで、自社の運用要件に最も適したシステム像を具体化できるでしょう。


