組織風土とは?
組織風土とはいったい何なのでしょうか。ただでさえ組織という言葉が難しいのに、風土という抽象的な言葉が結びつくことで、さらに難解な言葉のように感じられる方もいるでしょう。そこでまずは組織風土の定義をご紹介します。
働く人のモチベーションや行動を左右する環境特性
まず風土とはどのような意味なのでしょうか。
小学館の国語辞典「デジタル大辞泉」によれば、風土は「人間の文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境」とされています。一方で、組織風土は1968年にリットビンとストリンガーの2人の学者が「仕事環境で生活し活動する人が直接的に、あるいは間接的に知覚し、彼らのモチベーションおよび行動に影響を及ぼすと考えられる一連の仕事環境の測定可能な特性」と定義しました。
簡単に言えば、働く人のモチベーションや行動を左右する環境特性のことです。ちなみに、英語の「Organizational climate」いう言葉が日本語に訳された言葉が組織風土になります。英語の「Climate」は気候や傾向、社会の風潮という意味があるため、日本語では「風土」という言葉に置き換えられることになったのだと考えられます。
文化や価値観との違い
では、組織風土と組織文化や価値観はどのような違いがあるのでしょうか。
組織文化とは
文化は、日本語で「民族や社会の風習・伝統・思考方法・価値観などの総称で、世代を通じて伝承されていくもの」(デジタル大辞泉)と定義されています。世代を通じて伝承されていくものであるため、文化は安定していてなかなか変わらないという特性があります。
同様に、組織文化も組織に所属するメンバー間で共有され伝承されるものです。経営学者のエドガー・シャインによれば組織文化は「集団として獲得された価値観、信念、過程」とされています。組織文化は、働く人の集合体としての組織に焦点をあてています。
一方で組織風土は組織の価値観を軸にしながらも、働く人を取り巻く環境に焦点をあてているのです。つまり、組織文化は働く人が意識している暗黙のルールなどであり、組織風土は働く人に影響を及ぼす職場環境と言えます。また、学術的には、文化は測定できないが、風土は環境要因として数値的に測定できるという違いが定義されています。
価値観とは
似たような紛らわしい言葉に「価値観」があります。価値観とは「物事を評価する際に基準とする、何にどういう価値を認めるかという判断」(デジタル大辞泉)と日本語で定義されています。つまり個人が持つ判断基準のことと言えます。
組織文化は見えない暗黙のルールなどによって、個人の判断基準に影響を及ぼします。また、人は集団に所属しているときにだけ普段と違う行動をとることが知られています。価値観は組織文化を構成する要素と言えるでしょう。
まとめると、組織文化は集団の価値観やルール、価値観は判断基準、組織風土は働く人に影響を及ぼす職場環境になります。
組織風土を構成する要素
組織風土はどのような要素から構成されるのでしょうか。実は、研究者の間でも明確な構成要素が定まっていません。そこでこの記事では、世界的なコンサルティングファームのマッキンゼー社が開発した「7S」モデルをもとに組織のハード面、ソフト面から組織風土の構成要素を考えてみましょう。
ハード面
組織の戦略や組織、制度は明文化できるという意味で企業の「ハード」と言えます。7Sのフレームワークでは、この3つが「ハード」とされています。
- 戦略(Strategy)
戦略は事業の方向性です。事業の方向性は組織風土に影響を与えます。例えば急成長を目指すベンチャー企業と市場での安定を目指す大企業では、社内のスピード感は全く異なるでしょう。
- 組織(Structure)
多くの企業ではピラミッド型の組織形態を採用しています。一方で最近はティール組織やホラクラシー組織といったピラミッド型ではない組織も生まれてきました。
こうした組織形態も組織風土を構成する要素です。ピラミッド型組織であればトップダウンが強い傾向にあり、フラットな組織であれば自由なコミュニケーションが奨励されるでしょう。
- 制度(System)
会社にはさまざまな制度があります。その中でも特に人事制度は、組織風土に影響を及ぼす可能性が高いものです。昇進昇格や評価は会社が求める行動を社員に奨励す効果があります。会社が求める行動をすれば評価され、昇進や昇格につながります。
ソフト面
ハード面に対して、明文化が難しいのが組織のソフト面です。ソフト面には組織の価値観、人材、経営方針、組織能力が含まれます。
- 価値観(Shared value)
どの企業にも理念やビジョンなど何かしらの価値観が存在しています。価値観は組織風土そのものに影響を及ぼすというよりも、価値観から生まれる職場環境が組織風土を形成していると言えるでしょう。
例えば「スピード感」が最も大切な企業であれば、職場環境もスピーディーなものになるでしょう。このような価値観に基づく職場環境が組織風土の要素といえます。
- 人材(Staff)
どのような人材を採用するか、どんな人が働いているのかは組織風土に影響を及ぼします。例えばおとなしい人材が集まる会社ではおとなしい社風になるでしょう。反対に体育会系が集まる会社では上下関係が厳しく、熱血的な職場になる可能性があります。
- 経営スタイル(Style)
経営スタイルは、経営において何を重視するかという意思決定の軸と定義できます。とにかく利益重視なのか、それとも社会的な貢献も重視するのかによって組織風土は大きく異なるでしょう。
- 組織能力(Skill)
組織風土は働く人を取り巻く「環境」であるため、組織のハード面・ソフト面から構成要素を考えてみると抽象的な組織風土という概念もわかりやすく考えることができるでしょう。
組織風土は企業の何に影響を与えているのか?
では、組織風土は企業の何に影響を及ぼすのでしょうか?組織風土に関する研究を調べてみました。
企業のパフォーマンス
専門家の研究では、組織風土は企業の売上などの業績(パフォーマンス)に影響を及ぼすことが示唆されています。組織風土は、個人の心理的風土(個人の特性)に影響を与え、その影響が個人の仕事への満足度や態度に反映されます。その結果、モチベーションの向上や低下が発生し、最終的に企業のパフォーマンス(業績)に影響を及ぼすのです。
出典:組織風土が仕事の成果に影響を及ぼす構造モデル ※広島大学 福間氏 論文より
モチベーション
組織風土はモチベーションにどのように影響を及ぼすのでしょうか。淑徳大学国際コミュニケーション学部の境教授の論文によれば、仕事の充実度、職場の人間関係、部下や職場の仲間を大切にする成員思考のリーダー、報酬水準、意思決定への参加の5つの要素がモチベーションに影響を及ぼすとしています。
出典:組織風土とワーク・モチベーション ※淑徳大学国際コミュニケーション学部 境教授 論文より
組織風土はこの5つの要素のような環境要因として定義されます。環境要因を構成する要素変えれば、モチベーションを向上させ組織風土をより良いものにすることができるでしょう。
組織風土を変えるには?3つのポイントを紹介
もし今、あなたの組織のパフォーマンスが低下しているなら、ひょっとするとそれは組織風土が原因かもしれません。では、組織風土を変えるには具体的にどうすればよいのでしょうか。比較的簡単にできる3つのポイントをご紹介します。
組織体制や戦略、制度を変える
組織風土は環境要因なので、ハード面からアプローチすることで変えられます。一番わかりやすいのが組織体制を変えることです。例えば今までピラミッド型組織だったのであれば、階層をなくしたフラットな組織にすると大幅に組織風土を変えることがきるでしょう。
また、戦略を変えることでも組織風土を変えられます。とにかく新規獲得重視だった戦略を、お客様のアフターフォロー重視に変更することで組織風土は変わるでしょう。
しかし、こうした思い切った改革は難しいはずです。そこで、簡単にできることとして制度を変える方法があります。特に評価制度を変えることは有効です。評価制度は会社が望む行動を奨励する仕組みです。もし、社内でパワハラが多く発生しているのであれば、相手を尊重することを管理職の評価に入れるとよいでしょう。
このように制度により、行動を強制的に変えることで組織風土も変えられるはずです。
リーダーシップの発揮方法を変える
先ほどの境教授の論文によれば、仕事の成果を重視するリーダーよりもメンバーを大切にするリーダーが、モチベーションに影響を及ぼすことが示されています。他の研究でも対人関係の満足度がモチベーションを左右することがわかっています。そのため、管理職がリーダーシップの発揮方法を変えれば、組織風土を変えることができるでしょう。
もし現在の組織風土で、強気に部下を従わせるトップダウン型のリーダーシップが中心であれば、部下を支えるサーバント型のリーダーシップに変えると良いです。
仕事の進め方を変える
組織にはそれぞれの仕事の進め方があります。何人もの上司の承認が必要な組織もあれば、自分で考え行動することが求められる組織もあります。こうした仕事の進め方を変えることで組織風土を変えることができます。
簡単な方法として、例えばペーパーレス化があげられます。紙の資料を大量に使用していた組織であれば、紙を使用せず完全にデジタル化することで印刷するという行動がなくなります。印刷する工数がなくなれば、その分、時間的な余裕ができ生産性が高まります。こうした仕事の進め方を少し変えるだけでも、組織風土を大きく変えることができるでしょう。
組織風土変革の成功事例
ここまで組織風土に関する理論と研究、そして具体的な変革方法をみてきました。最後に実際に組織風土変革に成功した企業の事例をみてみましょう。
無印良品
令和時代における無印良品は圧倒的な世界的ブランドです。いまではどのお店に行っても、同じ商品、同じ店構えをしています。
しかし1994年頃まではそうではありませんでした。お店にはマニュアルが存在せず、店長の勘と経験をもとに陳列をはじめとする店舗運営を行っていました。そのため、お店ごとに雰囲気や店員の接客レベルがバラバラ。「経験主義」に基づく店舗展開が店舗拡大を難しくしていただけでなく、ブランド力の低下さえも招いていたのです。
そこで、無印良品は業務を標準化するためにマニュアルをつくりはじめました。無印良品のマニュアルは単に作成して終わりではなく、アルバイト店員からも日々改善点を受付けて更新を行っていくことが特徴です。最終的には10年をかけて13冊2,000ページに及ぶマニュアルが完成。マニュアルは「MUJIGRAM」と名づけられ、現在でも更新が行われているそうです。
MUJIGRAMのおかげで店舗のレイアウトは統一され、現在はどの店舗に行っても同じサービスを受けられます。特筆すべき点はマニュアルをつくることで、従業員の行動を変えたことにあります。無印良品の事例は、店長の「勘と経験」に基づく経験主義の組織風土から、標準・統一主義の風土へと変革した好事例です。
村田製作所
近年の組織風土改革成功事例として、村田製作所があげられます。村田製作所はもともと創業者のリーダーシップのもと、自由に技術開発ができる風土がありました。
しかし、会社が大きくなるにつれて自由にモノが言えない、暗い組織風土になっていきました。組織風土変革のきっかけとなったのが、2000年代のITバブル崩壊です。ITバブル崩壊後、ライバル企業が次々と業績回復する中で村田製作所だけが取り残されていました。
そこで創業者の村田会長を筆頭に、社内に「組織風土改革委員会」を設立。村田製作所が大切にしてきた「自由闊達な組織風土」を取り戻す活動を行いました。村田製作所の組織風土改革で特筆すべき点は、経営トップや役員が根気強く風土改革の取り組みを続けたことです。
村田会長や役員が各部門をまわって、繰り返し組織風土を変えることの重要性を自ら示していきました。業績が赤字に転落しても風土改革の取り組みを止めずに続けたことで、次第に従業員の意識も変わっていきました。
こうした取り組みを10年ほど続け、村田製作所は再び「自由闊達な組織風土」を取り戻すことができました。2000年代前半に5,000億円程度だった売上高は、現在では約3倍の1兆5,000億円にまで成長しています。村田製作所の事例は、組織風土変革の取り組みが少なからず企業のパフォーマンスに影響を及ぼした事例と言えるでしょう。
組織風土を変えて、健全な経営を!
組織風土は抽象的で分かりづらい概念です。しかし、構成する要素を理解すれば組織風土は変えることができます。
組織風土変革はさまざまな要素があり、なかには変えるのが難しい要素もあります。組織風土を変えることは簡単なことではありませんが、無印良品や村田製作所のように根気強く取り組めば必ず成果が現れるでしょう。