【要件チェック1】接続台数と利用エリアを数値で定義する
無線LAN設計の土台は「何台が、どのエリアで同時につながるか」という数値の確定です。この数値が曖昧なまま機器を選ぶと、後から増設が必要になるか、過剰投資になるかのどちらかです。要件定義フェーズで以下の項目を明文化します。
同時接続台数の算出方法
同時接続台数は「従業員数x1人あたりのデバイス数」に来客・ゲスト端末・IoT機器を加算して求めます。一人が持つデバイスはPC・スマートフォン・タブレットで平均2~3台に上ることが多く、会議室では一時的に数十台が集中することもあります。フロア別・部門別に利用状況をヒアリングし、ピーク時の接続台数を部屋単位で確認しておきます。
アクセスポイント(AP)1台あたりの推奨同時接続台数は製品仕様によって異なりますが、快適に使えるのは20~30台程度が目安です。これを超えると通信速度の低下や接続の遅延が生じます。算出した同時接続台数をこの目安台数で割り、最低限必要なAP台数を導きます。
カバレッジエリアと設置場所の要件定義
カバーすべきエリアをフロア図面に落とし込み、電波の死角が発生しやすい会議室・倉庫・廊下などを洗い出します。APの設置場所は天井設置か壁面設置かを事前に決めておき、LANケーブルの引き回しが可能かどうかも確認します。建物が複数フロアにわたる場合は、階をまたいだ電波の相互干渉も設計に含めます。
設置箇所ごとに「AP設置可否・電源の有無・PoE対応スイッチポートの有無」を一覧表にまとめておくと、施工業者への依頼資料としても活用できます。このリストが設計の骨格になるため、机上の推測ではなく実地での確認をもとに作成することが重要です。
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【要件チェック2】電波環境と建物構造が満たすべき条件
電波は目に見えない分、見落とされやすい要件です。建物の素材・構造・既存電波の干渉源を把握し、必要なAP台数と設置位置を決める根拠を数値で持っておくことが、設計の信頼性を高めます。
サイトサーベイで確認すべき測定項目
電波調査(サイトサーベイ)では、電波強度(RSSI)・信号対雑音比(SNR)・干渉源の有無を測定します。RSSIは-70dBm以上(値が大きいほど強い)を確保できるエリアを設計の目標とします。SNRが25dB以上あれば安定した通信が期待できます。測定ツールを使い、各設置候補箇所でこれらの数値を記録してからAP台数と位置を確定します。
建物の素材ごとに電波減衰の目安値が異なります。コンクリートは10~15dB、金属パーティションは15~30dB、ガラスは3~5dBの減衰が生じます。フロア図面に素材情報と隔壁の位置を記入し、減衰量を加味してAPのカバレッジ半径を設計に反映させます。
周波数帯と規格の選択基準
利用する周波数帯は2.4GHz・5GHz・6GHzの特性を踏まえて選定します。2.4GHz帯は到達距離が長い半面、電子レンジ・Bluetooth機器との干渉が多い帯域です。5GHz帯は高速で干渉が少ないものの、障害物に弱く到達距離が短くなります。6GHz帯(Wi-Fi 6E)は干渉が極めて少ないが、端末側の対応状況を確認してから採用を判断する必要があります。
規格の選択基準として、社内端末のWi-Fi 6対応率が50%を超える環境ではWi-Fi 6対応APへの移行が費用対効果を発揮しやすく、OFDMA技術による多端末の効率的な通信制御が期待できます。全端末の対応規格一覧を作成し、規格選択の根拠として要件定義書に記載します。
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【要件チェック3】有線インフラが備えるべきスペック
無線LANの通信速度は、APに接続された有線LAN(バックホール)の帯域が上限です。AP選定と同時に、既存の有線インフラが新しいAPのスペックに見合う条件を満たしているかを確認します。
スイッチのPoE給電能力と帯域幅の確認項目
APの電源供給にPoE(Power over Ethernet)を使う場合、スイッチが対応するPoE規格と給電予算(バジェット)を確認します。Wi-Fi 6対応の上位モデルAPはPoE+(IEEE 802.3at、最大30W)、一部のWi-Fi 6Eモデルは、PoE++(IEEE 802.3bt)など、より大きな給電能力を必要とする場合があります。スイッチの全ポートに接続した場合の総消費電力がスイッチのPoEバジェットを超えないことを計算で確認します。
帯域幅は最低でも1Gbpsポートを各APに割り当てることを基準とします。Wi-Fi 6対応APは理論値で9.6Gbpsを謳いますが、実使用環境では複数APのトラフィックが上位スイッチに集約されるため、アップリンクポートは10Gbps以上を確保することが推奨される設計です。既存スイッチが100Mbpsのままでは新規格APの性能を活かせない点を要件定義で明記します。
ネットワーク設計で事前に決める仕様
VLAN(仮想LAN)を用いたネットワーク分割を計画する場合、既存スイッチが802.1Q VLANのトランクポートをサポートしているかを確認します。社員・ゲスト・IoT機器ごとにSSIDとVLANを対応させる設計では、スイッチとAPの双方がVLANタグを正しく処理できることが前提です。古いスイッチでは対応規格が制限されているため、設計前に機種仕様を確認します。
回線の冗長性も要件として明文化します。重要な業務基盤として無線LANを位置づける場合は、コアスイッチのリンクアグリゲーションや回線の二重化など、有線側の冗長構成も設計に含める必要があります。無線LANに切り替えてから有線側がボトルネックとなる事態を防ぎます。
ITトレンドでは、最新の製品・サービスを多数比較・掲載しています。まず資料を取り寄せて機能や特徴をさまざまな製品で比較してみてください。忙しい業務時間内でも、各社に問い合わせる手間なく、たった1回の入力(約60秒)で無線LAN構築の一括資料請求が可能です。浮いた時間で、じっくりと製品を比較検討し進めましょう。
【要件チェック4】セキュリティ要件の定義と認証仕様
無線LANは電波が壁を越えて届くため、有線ネットワークより接続制御が難しい側面があります。どのデバイスが、どの条件でネットワークに接続できるかを要件として定義し、その要件を満たす認証方式を選定することがセキュリティ設計の基本です。
認証方式ごとの要件と必要なインフラ
PSK(事前共有鍵)方式はルーターやAPだけで設定できるシンプルな方式ですが、パスワードが共有されるため個人単位の管理が難しく、退職者への対応のたびにパスワード変更が必要です。小規模で外部接触が少ない環境に向いています。
IEEE 802.1X(Enterprise)認証は個人またはデバイス単位で接続を制御でき、退職者の端末を個別に無効化できます。導入にはRADIUSサーバーの構築(またはクラウド型IDaaSとの連携)が必要で、各端末にサプリカント設定を行う管理工数も発生します。従業員が50名を超えるか、機密データを扱う環境では802.1X認証を要件に含めることを推奨します。
SSIDとVLANによるアクセス制御の設計仕様
用途ごとのSSIDとVLANの対応表を要件定義フェーズで作成します。社員用SSIDは802.1X認証を利用し、社内サーバーへのアクセスを許可、ゲスト用SSIDはPSK認証でインターネットのみに誘導、IoT機器専用SSIDは固定IPと通信先の制限を設ける、という区分が標準的な設計です。SSID数が増えるとビーコン送信の負荷が上がるため、1AP当たり最大3~4個程度に抑える設計が一般的な基準です。
WPA3への対応状況も要件として確認します。WPA3は2018年以降に策定された最新の無線LAN暗号化規格で、WPA2に比べてパスワード推測攻撃への耐性が高まっています。導入するAPとクライアントデバイスがWPA3をサポートしているかを仕様書で確認し、要件定義書に採用・非採用の判断根拠を記録します。
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【要件チェック5】特殊環境・高密度環境が満たすべき仕様
屋外設置や多数のデバイスが密集する環境では、一般的なオフィス向け設計とは異なる仕様要件が生じます。環境特性ごとにAPの仕様要件を別途定義します。
屋外設置APが備えるべきIPグレードと給電仕様
屋外や工場内など粉塵・雨水にさらされる環境では、IP(Ingress Protection)等級をIP65以上に設定することを要件とします。IP65は「完全な防塵性能と水の直接噴射に耐える防水性能」を意味し、屋外設置での実績が多い水準です。さらに水没リスクがある場合はIP67以上を選定基準とします。
動作温度範囲も屋外設置の要件として明記します。夏季の直射日光下では機器周囲の気温が50℃を超えることがあり、動作保証温度範囲が-20~+60℃以上の製品を候補として選定します。PoE給電を前提とする場合は、設置場所までのLANケーブルの最大延長距離(標準で100m)も配線計画に含めます。
高密度環境における設計仕様の数値基準
スタジアム・展示会場・大学の大型講義室など数百人が密集する環境では、APの送信出力を意図的に下げて各APのカバーエリアを狭め、AP台数を増やして面でカバーする「高密度設計」が求められます。具体的な数値基準として、1APあたりの接続台数を25台以下に抑え、5GHzの利用可能な非重複チャンネルを、チャネル幅や周辺環境に応じて分散させることが設計の出発点です。
高密度設計では、APが自動的に周辺APの電波環境を検出して送信出力とチャンネルを最適化する「自動RF最適化」機能の有無も選定要件に加えます。Wi-Fi 6対応のOFDMAは、チャネルを複数のリソースユニットに分割し、複数端末との通信効率を高められるため、高密度環境での輻輳緩和に効果を発揮します。ただしAP・クライアント双方の対応が前提です。
無線LAN構築の要件定義でよくある疑問(FAQ)
要件定義フェーズで担当者から多く寄せられる疑問を整理しました。導入計画の見直しにご活用ください。
- ■Q1:要件定義はどのタイミングで行うべきですか?
- 製品選定の前に行うのが原則です。接続台数・設置エリア・セキュリティポリシー・管理方式が決まっていない状態でカタログを比較しても、選定基準が定まらず比較に時間がかかります。まず現地調査と社内ヒアリングで要件を数値化し、その後で仕様書と照合する順番が効率的です。施工業者や販社への見積依頼も要件定義書をもとに行うと、回答内容がそろいやすく比較しやすくなります。
- ■Q2:既存のAPを残したまま新しいAPを追加できますか?
- 技術的には可能ですが、混在環境では管理が複雑になるため注意が必要です。旧規格のAPが残ると、新規格APのパフォーマンスが制限される場合があります。管理ツールが異なるメーカーのAPを一元管理できない製品では、運用負担が増す点も要件確認の対象です。段階的に移行する場合は、フロアや拠点単位で新旧を切り分け、管理系を統一できる製品を選ぶことをお勧めします。
- ■Q3:要件が確定したら何をもとに製品を比較すればよいですか?
- 要件定義書に記載した項目(同時接続台数・対応規格・認証方式・PoE規格・IP等級・管理方式)を確認軸として用い、製品の仕様書と照合します。全要件を満たす製品を候補に絞った後、価格・保守期間・サポート体制で最終絞り込みを行う流れが標準的です。候補製品のPOC(概念実証)環境を設けて実際の接続試験を行うと、カタログスペックでは見えない実性能を確認できます。
まとめ
無線LAN構築を成功させるには、機器を選ぶ前に接続台数・電波環境・有線インフラ・セキュリティ認証・特殊環境への対応という五つの要件をチェックリスト形式で定義しておくことが必須です。要件が数値で明文化されていれば、製品カタログとの照合が機械的に行えるようになり、選定ミスや後からの追加コストを防げます。各項目の確認が済んだら複数ベンダーに要件定義書を提示して比較見積もりを取り、最適な構成を選びましょう。


