PLMとは
PLMとは、自社製品の企画・生産・販売・廃棄まで、製品のライフサイクル全体を通して技術情報を相互に関連付けながら管理し、情報の共有と一元管理によって業務効率の向上やモノづくり体制を強化する取り組みのことを指します。
PLMシステムには、ポートフォリオや要件管理、CADやBOMデータの管理、取引先情報管理や製品データ・サービス部品の管理など、製品ライフサイクル全体を管理する機能が搭載されています。これにより、開発力や企業競争力の強化が可能になり、QCD(Quality・Cost・Delivery)の向上につながるでしょう。
なお、自動車産業や電機産業で導入されることの多かったPLMシステムですが、最近ではプロセス系製造業や消費財、アパレル業界でも導入が進んでいます。
参考:サイバーフィジカルシステムの戦略的導入等に係る調査|経済産業省
PLMが注目される背景と必要性
PLMが必要とされる背景には、製造業において利益を最大化するために「QCD」が重視されるようになったことが挙げられます。QCDとは、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の頭文字をとったもので、製造業において重要な要素です。
近年は企業間の競争の激化によって製品品質の基準が高まり、人々はより高品質の製品を望むようになりました。また、安い人件費で戦っていける東南アジアの戦略に押されるようになり、高度経済成長期から日本企業の考えは「良いものをいかに高く売るか」から「良いものをより安く売る」に変化しています。人件費が比較的高い日本では、コスト削減も重要な課題になりました。
さらにユーザーの嗜好の多様化が進み、販売や廃棄のタイミングの把握が困難になったこともPLMが注目された理由の一つです。競合他社に遅れを取らないためには、ユーザーニーズにあった良い製品を低コストで製造し、迅速に市場に導入することも求められます。
これにより、工数・コストを削減しながらも高品質な製品を作り上げるために、製造業では業務体系からの見直しが必要になりました。業務体系を見直すためには製品ライフサイクル全体を管理する必要があり、設計・開発部門や製造部門など、各部署が連携しなければなりません。
このような背景から、製品のライフサイクル全体を管理できるPLMシステムの必要性が高まりました。
PLMとPDMの違い
PLMと似たような概念にPDMがあります。PDMとは、製品情報管理システムのことで、CADやBOM(部品表)などのデータを管理します。
PDMでは、CADデータなどの開発・設計段階のドキュメントファイルが対象です。しかしPLMでは、製品ライフサイクルで使用されるデータすべてが対象になります。
つまり、PDMよりもPLMのほうが広範囲のデータ管理を行うということです。
ただし、製品によってはPDMでも開発・設計以外のデータを管理できるものもあり、ベンダーによって管理対象の範囲が異なります。
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PLMシステムの導入メリット
PLMシステムの導入メリットは、以下のとおりです。
- ●業務効率化と生産性向上
- ●品質の向上
- ●コスト削減
- ●リードタイムの短縮
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
業務効率化と生産性向上
PLMシステムを導入すると、自社製品の企画から生産・販売・廃棄までの一連の流れを相互に関連付けて管理できるため、業務の効率化につながります。これまでの製造業では製品のライフサイクルそれぞれの工程で別々に情報を管理していました。そのため、情報共有に手間と時間がかかる、伝達の漏れがあるなどの課題がありました。PLMシステムの導入でこのような情報が一つにまとまることで、業務の効率化や伝達ミスの防止が期待できるでしょう。
品質の向上
PLMは、高品質の製品を効率的に製造したいというニーズを、開発や生産など各工程のデータを一括管理することで実現します。PLMシステムは、製品設計業務から開発業務、品質テストの結果から製造・販売までの工程の情報共有を一つのシステムで行えます。伝達漏れや認識の齟齬が生じにくくなるため、製品の品質向上や品質の一貫性保持が期待できるでしょう。
コスト削減
PLMはコスト面においても優れています。具体的には、以下の2つの理由からコストを削減できます。
- ■作業効率アップ
- 各プロセスの情報を関連付けて管理するため、必要なときに必要な情報を取り出せ、作業効率がアップします。
- ■後戻り時間の短縮
- 従来では、設計変更を行うときに業務の後戻りが多く時間がかかっていました。PLMでは業務に必要なデータを必要な形で提供しているため、作業のフェーズに応じて適切なフィードバックが行えます。設計変更の際に他部門からの的確で素早いフィードバックがあれば、業務の後戻り時間を短縮できます。
リードタイムの短縮
製品の開発製造においては、アイデアの創始・設計の段階から製品の生産・販売・廃棄にかかる期間を把握して管理し、「早期の販売により先行利益が必須なのか」「早期の廃棄をしなければ採算があわなくなるのか」の見極めが重要です。PLMシステムを導入することで、開発から廃棄までの業務プロセスを3段階に分けて、それぞれの段階で製品の市場の見極めが可能になります。
- ▼企画・設計・開発プロセス
- 工数を削減、設計から販売までのリードタイム短縮・把握。これにより、製品を適切なタイミングで市場に投入する。
- ▼生産・販売プロセス
- リアルタイムで製品ライフサイクルの損益分岐点を把握し、リサイクルまたは廃棄すべきかを判断する。
- ▼サービス保守プロセス
- 撤退するリスクを網羅し、コントロールする。
これら3段階に分けて市場状況を見極めれば、製品の市場投入時期・撤退時期を適切にコントロールできるでしょう。
PLMシステム導入の注意点
PLMシステムの導入によりさまざまなメリットが得られますが、導入には注意点もあります。PLMシステム導入を自社の業務改善につなげるためには、導入前に自社の課題やシステムの利用目的を明確にしておきましょう。製品によって搭載している機能や特徴は異なるため、自社に適した製品を導入することでシステムのメリットを最大限に活かせるでしょう。既存の業務システムと連携できるかも重要です。
また、PLMシステム導入後の運用体制も検討しておくとよいでしょう。PLMシステムは製造業における社内業務の大半を連携できるため、各部門の業務に大きな変化をもたらす可能性があります。従業員がすぐに対応できなかった場合は業務に混乱が生じるため、事前に運用体制を整えておくと安心です。最初から全社的に導入することに不安があるのであれば、特定の部門・業務からスモールスタートを検討してもよいでしょう。
PLMシステムの基本機能
PLMシステムの代表的な機能は以下のとおりです。製品によってはほかにも特徴的な機能を搭載しているものもあるため、資料請求をして比較検討するとよいでしょう。
- ■ポートフォリオ管理
- 企画・開発の工程を管理する機能。市場需要や収益性を検討し、企画・開発に加え既存製品の販売継続や仕様変更などを判断します。
- ■プロジェクト管理
- 自社内で進行しているプロジェクトを管理する機能。スケジュール管理やガントチャートの共有もできます。
- ■製品設計・品質管理
- 製品の自動設計や構造解析を行う機能。設計データの管理や見積書の自動作成、性能確認のシュミレーション、リスクマネジメントなどが可能です。
- ■CADデータ管理
- 設計に必要なCADデータを管理する機能。CADデータの検索や過去のCADデータの管理を効率化します。
PLMシステムを導入し企業競争を勝ち抜く一助に
PLMシステムは製品の設計・製造・販売・廃棄というライフサイクル全体を通して、情報を一括で管理でき、製品開発工程の効率化や品質向上を実現するメリットがあります。
昨今の物価高騰は企業にとっても大きな課題です。開発スピードをあげ、コストを削減しつつ、品質や顧客満足度も向上しなければならない非常に難しい状況のなか、各企業は競争力を高める努力をしているでしょう。PLMシステムの導入はその一助となるかもしれません。まずは、各社製品の資料請求をして製品への理解を深め、PLM導入が自社にどのようなメリットをもたらすか検討してみるとよいでしょう。