経営革新計画とは
経営革新計画とは、中小企業の新たな取り組みに対する計画のことで、経営革新支援によってさまざまな支援措置が受けられます。ここでは、経営革新計画への理解を深めるために、その概要について解説します。
経営革新計画の概要
経営革新計画の制度を定めているのは、2016年7月に施行された「中小企業新事業活動促進法」です。本法律では、「創業」「経営革新」「新連携」といった中小企業の新たな事業活動の促進について定めています。
経営革新計画が必要な事業者は、創業後に事業を軌道に乗せ、更なる成長を模索する成長期にある場合がほとんどです。事業を拡大させている元気な企業が、経営革新計画を策定するケースが多いといえるでしょう。ただし、このコロナ禍においては、事業の方向性を再検討する場合にも、最適な計画であるといえます。
経営革新計画で重要となってくる要素が、「経営革新」です。中小企業新事業活動促進法では、「経営革新」を以下のように定めています。
”事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること”
経営革新計画を策定するうえでは、「新事業活動」と「経営の相当程度の向上」を意識した計画にする必要があるといえます。
中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律|e-Gov法令検索
「新事業活動」とは
中小企業新事業活動促進法では、新事業活動を以下のように定めています。いままでに事業者が培ってきた技術やノウハウを活用し、新しい商品やサービスを開発したり、商品やサービスの生産方法・提供方法を開発したりする活動を新事業活動と定義しています。
- 1.新商品の開発又は生産
- 2.新役務の開発又は生産
- 3.商品の新たな生産又は販売の方式の導入
- 4.役務の新たな提供の方式の導入、その他の新たな事業活動
たとえば、業務用の空気清浄機を販売していた事業者が、製品の小型化により一般消費者向けの市場に参入するケースや、美容室が車による移動型の美容サービスを提供するケースなどが新事業活動として考えられます。新商品や新サービスそのものの開発だけではなく、生産方法や提供方法を変えるための取り組みも、新事業活動に該当します。
それぞれの事業者にとって新たな活動であれば、新事業活動として認められるため、すでに他社がおこなっている取り組みでも問題ありません。しかし、同じ業種や地域において相当程度普及している技術や導入方式は、新事業活動と認められないので注意してください。
「経営の相当程度の向上」とは
中小企業新事業活動促進法では、3~5年の計画の中で、以下の2つの指標を特定の伸び率で向上させることが求められます。
- 1.「付加価値額」又は「一人当たりの付加価値額」の伸び率
- 毎年3%
- 2.「経常利益」の伸び率
- 毎年1%
計画終了時の伸び率を表に整理すると以下のようになります。
|
付加価値額」又は「一人当たりの付加価値額」 |
「経常利益」の伸び率 |
3年計画 |
9%以上 |
3%以上 |
4年計画 |
12%以上 |
6%以上 |
5年計画 |
15%以上 |
9%以上 |
経営革新計画の承認受けることで得られる支援内容
経営革新計画は、定められたフォーマットに従い作成し、各都道府県の認定を受ける必要があります。経営革新計画の承認を受けると、さまざまなメリットがあります。
金融支援
経営革新計画を実行に移すためには、機械設備への投資に加え、研究開発費やプロモーションやブランド戦略などのマーケティング費用も必要になるかもしれません。このような資金需要に応えるため、さまざまな金融支援が準備されています。
その代表例が、信用保証の別枠化や日本政策金融公庫の低利融資です。経営革新計画の承認を受けていれば、民間の金融機関からも融資を取り付けたり、有利な利率設定したりできる可能性が高まります。
投資や補助金による支援
経営革新計画の認定を受ければ、融資以外の資金調達への可能性も広げてくれます。起業支援ファンドや中小企業投資育成株式会社からの投資が制度化されているので、検討してみてください。
補助金の採択審査においても、経営革新計画の認定が有利になることがあります。ものづくり補助金では、経営革新計画の認定が加点要素となっています。経営革新計画の推進に設備投資が必要な場合には、ものづくり補助金の申請を検討してみるとよいでしょう。
販路開拓についての支援
たとえ画期的な新商品や新サービスを生み出しても、ブランド力や知名度に劣る中小企業が新たな取引先を見つけることは容易なことではありません。経営革新計画の承認を受けた事業者は、販路開拓コーディネーターの支援やテストマーケティング支援、市場調査のフィードバックを受けられます。
中小企業基盤整備機構が主催する、「新価値創造展」への出展の可能性を広げることも可能です。新価値創造展とは、中小企業の優れた製品・技術・サービスを紹介するマッチングイベントを指します。経営革新計画の認定を受けていれば、新価値創造展への出展企業を決める審査において有利となるため、新たな商談を生み出すチャンスとなるでしょう。
参考:中小企業基盤整備機構 新価値創造展2020
特許料の減免措置
経営革新計画で取り組む内容の革新性が高く、特許を取得できる場合もあるはずです。このような場合を想定し、経営革新計画の認定を受けた企業には、特許料の減免措置が設けられています。
審査請求料、および1年から10年の特許料が半額に軽減される制度となっているので、革新性が極めて高い新商品や新サービス開発の場合は、積極的に特許の取得を検討するとよいでしょう。
経営革新計画の具体例
それでは、事業者はどのような経営革新計画を作成しているのでしょうか。ここでは、地域の中小企業が、自社の強みを生かしながら、他にはない新しいサービスを展開するために経営革新計画を利用した例をご紹介します。
フォトスタジオによる簡易ウェディングサービス事業
フォトスタジオを経営している事業者の事例です。同社では、もともと、七五三や成人式、ホームページ用の写真撮影を主な事業としていました。しかし、季節ごとの需要変動要素が大きく、競争力のある事業を始めることについて課題を持っていました。
そこで、小規模な挙式へのニーズに着目し、神前結婚式とフォトサービスをセットとした独自のウェディング事業を開始することにしました。当サービスはSNSを通じたクチコミで広がっていき、県外からの依頼もあるなど、同社の持続的な成長に貢献しています。
参考:経営革新計画事例集|茨城県産業戦略部中小企業課
製茶、加工技術を活用したポタージュの開発
お茶の卸売り販売をおこなっていたこの事業者では、茶葉の特徴を最大限に引き出す焙煎を得意としていました。ところが、若年層を中心としたお茶離れが深刻化、今までとは異なる全く新しいお茶を使った新商品開発が求められていました。
そこで、地域のじゃがいもやとうもろこしといった農産物とお茶を組み合わせたポタージュを開発。販路開拓についてのアドバイスをもらいながら、展示会への出店や、ポチャージュと名付けたブランド戦略などに取り組み、同社の業績を牽引する商品に育ちました。
参考:経営革新計画事例集|静岡県経済産業部経営支援課
老舗せんべい店によるスイーツせんべいの開発
創業以来、良質のうるち米を使った独自製法でせんべいを焼き、店頭で販売していた老舗せんべい店では、伝統を守りながら、地元の農産物を使った新商品の開発に取り組みます。こうして、今までの常識とは全く異なるアイデアで、スイーツせんべいが誕生しました。
ブルーベリーやレモン、みかん、抹茶という4種類のせんべいを開発し、若い世代にも受け入れられる商品となりました。今までの伝統にとらわれることなく、経験やノウハウを活用しながら、新しい発想で経営を革新した事例であるといえます。
参考:経営革新計画事例集|静岡県経済産業部経営支援課
経営を革新して持続的な成長戦略を描くために
企業が持続的な成長を実現するためには、経営環境の変化に応じて、新しい事業領域に挑戦することも求められます。しかし、何の計画もなしにこのような経営革新に挑戦したとしても、ほとんどの場合、失敗する可能性が高いといわざるを得ません。
変化の激しいコロナ禍の最中だからこそ、計画的な経営革新が求められるといえます。アフターコロナのおける成長戦略を描くために、経営革新計画の策定を検討してみてください。