知的資産とは
通常会社の資産は決算書の中で資産計上され、数値として示されます。知的資産とは、そうした可視化できる資産とは異なり、目には見えにくいけれども、会社の成長を支える無くてはならない資産のことをいいます。
具体的な知的資産として、技術力や人材、関連会社とのネットワーク、ブランドなどが挙げられます。このような知的資産こそが、企業競争力の源泉となっているのです。
経済産業省では、中小企業が知的資産を有効的に活用する、「知的資産経営」を推奨しています。知的資産経営ポータルというWebサイトも立ち上げていますので、参考にするとよいでしょう。
なお知的資産と似た用語として、知的財産があります。知的財産とは、特許や商標、営業秘密など、法律で守られる財産です。知的財産も目には見えにくい重要な資産であり、知的資産の一部であると考えてよいでしょう。それでは、知的資産がどういうものなのか、より詳しくみていきましょう。
参考:知的資産経営ポータル|経済産業省
技術力
特に製造業などでは、技術力がその会社の生命線となっている場合が少なくありません。中小企業では他では真似のできない匠の技が、もっとも重要な会社の資産に位置づけられることも多いはずです。普段何気なく活用している技術力であっても、自社の強みとして正しく認識し、今後の経営戦略の中でどのように活用するのかを検討することが求められます。
人材
従業員がもつアイデアや経験、ノウハウ、さらには組織的な団結力、モチベーションなど、人材は企業活動をおこなううえでの原動力となります。人材がもつ力も、決算書の中では可視化されません。しかし今後の成長戦略を検討するうえでは、人材の力をどのように活用するのかといった視点が欠かせません。
取引先との関係性
企業活動をする上では、自社だけではなく取引先との協力が欠かせません。工場をもたないファブレス型の企業に代表されるように、外部の資産を有効的に活用する事業形態も増えています。重要なのは、取引先との関係性がどのような競争力を生み出しているのか、正しく把握することだといえるでしょう。
顧客との関係性
強固な顧客との関係性は、企業に安定的な収益を生み出します。自社製品のブランド力や顧客のロイヤリティが高いことは、重要な知的資産となるのです。このような顧客との強固な関係性は、維持継続するだけではなく、今後どのように新規に生み出していくのか、という視点も必要となります。
知的資産経営のステップ
それでは、知的資産経営はどのように進めていけばよいのでしょうか。ここでは、3つのステップに分けて解説します。なお、経済産業省でも「中小企業のための知的資産経営マニュアル」を公開していますので、あわせて確認すると良いでしょう。
参考:中小企業のための知的資産経営マニュアル|経済産業省
SWOT分析
知的資産を実践するうえで、会社の経営環境を正しく把握することが重要です。そのために有効なツールがSWOT分析です。
SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字からとった用語です。文字通り自社の強みと弱み、および市場の機会と脅威をそれぞれ列挙しています。特に会社の強みは、それがそのまま知的資産となりますので、漏らさず把握するようにしてください。
SWOT分析ができたら、クロスSOWT分析で今後の会社の方向性を見出します。以下の画像のように、強みと機会、弱みと機会など4象限それぞれに分けて検討するとよいでしょう。
価値創造のストーリーを可視化する
クロスSWOT分析で打ち出した会社の方向性を、実際の企業活動に落とし込むための具体的な方法を検討し、これを可視化します。
一般的には、企業活動を、営業、調達、生産、販売、総務、といった構成要素に分解し、それぞれの構成要素ごとに具体的な戦術を打ち出していきます。このとき、SWOT分析で明らかにした知的資産をどのように活用するのか、といった視点を意識するとよいでしょう。
知的資産経営報告書にまとめて活用する
知的資産の整理とその活用方法をまとめるだけでは意味を成しません。知的資産を有効的に活用していくためには、これを可視化するために報告書の形で文書化することが求められます。知的資産経営報告書は、開示する対象や範囲などを明確に定め、営業秘密にも留意しながら、まとめるようにしてください。
知的資産経営報告書が有効なケース
文書として知的資産経営報告書をまとめるのは簡単ではありません。しかし知的資産を文書として可視化することは、さまざまなメリットを企業にもたらします。それでは具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは知的資産経営報告書が有効なケースを紹介します。
事業承継
事業承継と聞くと、土地や建物、株式といった目に見える資産の継承や、その税金対策に目がいきがちです。しかしいくらこれらの資産を継承しても、技術力や取引先との関係性といった知的資産を継承しないと、事業の存続すら難しいかもしれません。
新旧の経営者がコミュニケーションを取りながら、知的資産経営報告書を作成することで、事業の円滑な引き継ぎが可能となります。M&Aの手法による事業承継の場合でも、会社の企業価値を正しく把握するために、知的資産経営報告書は極めて有効であるといえるでしょう。
資金調達
金融機関は、融資を検討する場合には、過去の実績を重視します。このため決算書の数字が重要となりますが、知的資産経営報告書があれば、決算書には載っていない知的資産を見える化できます。
たとえ決算書の数字がよくない場合でも、知的資産から評価できる会社の将来性などを考慮して融資を引き出せるかもしれません。会社の状況を金融機関に正しく把握してもらうために、知的資産経営報告書は効果的です。
人材の確保
従業員は、自分がやりたいことと会社の進むべき方向性が合致していれば、満足度が向上しモチベーションも上がるでしょう。知的資産経営報告書をまとめて、これを採用活動で利用すれば、自社に最適な人材を確保できる可能性が高まります。
会社の事業内容を説明するだけでは、自社が本当に必要とする人材を確保するのは難しいかもしれません。知的資産経営報告書があれば、次の時代の新たな人材という知的資産を確保することにもつながるのです。
新規事業の検討
変化する経営環境に対応するために、新規事業を検討する場合も多いでしょう。このとき変化する外部環境だけではなく、自社が保有する知的資産も考慮しながら新規事業を検討することが重要となります。
たとえ大きなビジネスチャンスがあったとしても、それを実現できる知的資産がないと競争力のある事業展開は難しいでしょう。新規事業を立ち上げるプロジェクトメンバーが、知的資産を共有してそれを最大限に活用するために、知的資産経営報告書が重要な役割を果たしてくれるはずです。
知的資産経営で不確実性の高い未来に備えよう
企業が持続的な成長を成し遂げるためには、既存の事業を闇雲に継続させるだけではなく、きたる未来に向けた経営戦略を立案しなければなりません。しかし新型コロナウイルスの影響で未来の不確実性は高まり、アフターコロナにおいて事業存続の道を探ることは難しくなっています。
だからこそ知的資産を可視化して、自社が進むべき道を明確にしなければなりません。知的資産経営報告書にまとめれば、関係者を巻き込みながら未来に向けた協力体制を構築できるでしょう。困った時こそ、知的資産に頼るべきなのです。