SES契約とは何かを最初に押さえる
SESはシステムエンジニアリングサービスの略称です。まずは「何に対してお金を払う契約なのか」「誰と誰が契約を結ぶのか」という2点を押さえると、他の契約形態との違いも理解しやすくなります。ここではSES契約の基本的な考え方を確認します。
技術者の労働時間そのものに対価を支払う
SES契約で発注側が購入しているのは、完成したシステムではなく、エンジニアが一定期間働いてくれるという事実です。契約書には「月160時間から180時間の稼働」といった時間の枠が記され、その枠内で作業が行われた事実に対して報酬が支払われます。仕様どおりに動くシステムが完成しなかったとしても、エンジニアが誠実に作業を行っていれば、原則として報酬を支払う義務が生じます。
この性質があるため、SES契約は仕様が固まりきっていない開発や、終わりの見えない運用保守業務と相性がよいといえます。要件が動くたびに契約を結び直す必要がなく、稼働時間の枠内で柔軟に作業内容を調整できるからです。一方で、成果を保証してもらえる契約ではない点は、発注前に必ず理解しておく必要があります。
契約を結ぶのは発注企業とSES事業者の二者
SES契約は、業務を依頼する企業とエンジニアが所属するSES事業者との間で結ばれます。実際に働くエンジニア個人と発注企業の間には契約関係がありません。エンジニアはあくまで自社の指示のもとで、発注企業の現場に出向いて作業を行うという構図です。この二者間の関係が、後述する労働者派遣との決定的な違いを生みます。
なお、SES業界では元請けから二次請け、三次請けへと契約が連なる多重下請け構造がしばしば見られます。間に入る会社が増えるほど手数料が重なり、支払った金額に対して現場のエンジニアの技術水準が見合わない事態も起こり得ます。契約前に、実際に作業するエンジニアがどの会社に所属しているのかを確認しておくと安心です。
請負・派遣・準委任とSES契約はどこが違うのか
SES契約が理解しづらい理由は、よく似た契約形態が複数存在するためです。違いを見分ける軸は「完成責任があるか」と「指揮命令権が誰にあるか」の2つに集約されます。この2軸で整理すると、それぞれの位置づけがはっきりします。
請負契約との違いは完成責任の有無
請負契約は、成果物を完成させて引き渡すことを約束する契約です。納期までに仕様を満たすシステムが完成しなければ報酬は発生せず、納品後に不具合が見つかれば、受注側が無償で修正する契約不適合責任も負います。発注側にとっては、成果を確実に手に入れられる契約形態です。
これに対しSES契約には完成責任がありません。そのぶん、発注側は仕様変更を柔軟に依頼できます。要件が明確で納期が動かない案件は請負契約、要件が流動的で継続的な作業が必要な案件はSES契約、という使い分けが実務上の目安です。どちらが優れているという話ではなく、案件の性質にあわせて選ぶ判断が求められます。
労働者派遣との違いは指揮命令の権限
労働者派遣では、派遣先の企業が派遣スタッフに直接指示を出せます。始業時刻や作業手順、残業の指示まで派遣先が決められる代わりに、労働者派遣法にもとづく許可の取得や派遣期間の制限など、厳格なルールが課されています。
SES契約では、発注企業がエンジニアに直接指示を出す権限を持ちません。作業の進め方や勤怠の管理は、すべてSES事業者側の責任者が担います。同じ現場で机を並べて働いていても、指示の出し手が違うという点が両者を分ける決定的な境界線です。この違いを曖昧にしたまま運用すると、法令違反を問われる危険があります。
準委任契約という枠組みとの関係
法律上、SES契約は民法が定める準委任契約の一種として扱われるのが一般的です。準委任契約とは、法律行為以外の事務の処理を委託する契約を指し、受託者は善良な管理者の注意をもって業務を遂行する義務、いわゆる善管注意義務を負います。SES契約という名称は法律用語ではなく、IT業界の商慣習として使われている呼び方です。
準委任契約には、稼働時間に応じて支払う履行割合型と、一定の成果に対して支払う成果完成型があります。SES契約の大半は履行割合型です。ただし契約書の書き方によっては成果完成型と解釈される余地もあるため、どちらの類型で結ぶのかを事前に双方で確認しておくと、後の認識のずれを防げます。
SES契約の費用の決まり方と契約書で確認したい条項
SES契約の費用は、製品の定価のように一律で決まるものではありません。何によって金額が変わるのか、そして契約書のどこを読み込むべきかを知っておくと、想定外の追加請求を防げます。ここでは実務で押さえたい3点を挙げます。
単価の算定基準と稼働条件を確認する
SES契約の金額は、エンジニア1人あたりの月額単価に人数を掛けた形で提示されるのが一般的です。単価は、担当する技術領域の専門性、実務経験の年数、上流工程まで任せられるかどうかといった要素で変動します。同じ職種でも、要件定義から担える人材と実装のみを担う人材では金額に差が出ます。
そのため、複数社から見積もりを取る際は金額だけを並べても比較として成立しません。想定している稼働時間、担当する工程の範囲、参画するエンジニアの経歴を揃えたうえで比べる必要があります。単価が低い提案には、経験の浅い人材が想定されている場合もあるため、内訳の説明を求めましょう。
精算幅の設定を必ず確認する
SES契約では、月の稼働時間に下限と上限を設ける精算幅が設定されるのが通例です。仮に下限140時間、上限180時間と定めた場合、この範囲内であれば契約単価どおりの支払いとなります。範囲を超えて働けば超過分が追加請求され、下回れば控除される仕組みです。
この精算幅が広すぎると、実際の稼働が少ない月でも満額に近い費用が発生します。逆に狭すぎると、繁忙期のたびに超過精算が積み上がります。自社の業務量の波を踏まえ、無理のない幅を交渉することが費用の安定につながります。超過時と控除時の時間単価も、契約書に明記されているか確認しましょう。
再委託と成果物の権利の扱いを明文化する
契約書で見落とされがちなのが、再委託の可否と成果物の権利の帰属です。SES事業者が別の会社にさらに委託する再委託を無制限に認めてしまうと、誰が現場に来るのか把握できず、情報管理の統制も効かなくなります。事前承諾を必要とする条項を入れておくと安全です。
また、エンジニアが作成したプログラムやドキュメントの著作権が、契約上どちらに帰属するかも明記が必要です。何も定めなければ、作成した側であるSES事業者に権利が残る可能性があります。将来自社で改修や再利用を行う予定があるなら、権利の譲渡や利用許諾の範囲を契約段階で詰めておきましょう。
ITトレンドでは、最新の製品・サービスを多数比較・掲載しています。まず資料を取り寄せて、さまざまな製品の機能や特徴を比較してみてください。忙しい業務時間内でも、各社に問い合わせる手間なく、たった1回の入力(約60秒)でITアウトソーシングサービスの一括資料請求が可能です。浮いた時間で、じっくりと製品を比較検討し進めましょう。
SES契約で偽装請負を防ぐためのポイント
SES契約では、契約書に準委任と記載されていても、発注企業がエンジニアへ直接指揮命令を行っていると、実態に応じて労働者派遣と判断される可能性があります。契約形式だけでなく、現場での指示や勤怠管理の方法まで適切に整えることが重要です。
エンジニアへの直接的な指揮命令を避ける
発注企業の担当者が、SES事業者のエンジニアへ日々の作業を直接割り振ったり、業務の進め方を具体的に指示したりすると、指揮命令関係があると判断される要因になります。勤務時間や残業、休日出勤を発注企業が直接決める運用にも注意が必要です。
ただし、業務上必要な情報共有や、成果に対する要望を伝えることまで一律に禁止されるわけではありません。どのような指示が可能かを契約当事者間で整理し、現場の担当者にも運用ルールを周知しておきましょう。
業務上の依頼はSES事業者の責任者へ伝える
作業の依頼や優先順位の変更は、SES事業者側の責任者や窓口担当者へ伝え、その責任者が各エンジニアへ指示する流れを整えます。発注企業は必要な業務内容や期限を伝え、具体的な人員配置や作業方法の決定はSES事業者側に委ねることが基本です。
責任者が常駐しない場合は、連絡先や対応時間、緊急時の連絡方法を契約書や運用ルールに定めておくと、現場から直接指示が出る状況を防ぎやすくなります。
契約内容と実際の運用を定期的に確認する
契約書を適切に作成していても、現場の運用が契約内容と異なれば問題になる可能性があります。依頼の経路や勤怠管理の主体、作業場所・設備の管理方法などを定期的に確認しましょう。
業務上の依頼や報告をチャット、メール、課題管理ツールなどに残しておくと、運用状況を振り返りやすくなります。厚生労働省が公表する区分基準や疑義応答集も参照し、判断が難しい場合は労働局や専門家へ確認することが大切です。
SES契約だけでは埋まらない業務をどう補うか
SES契約は開発現場の人手を確保する手段としては有効ですが、社内のIT業務すべてをこれで賄えるわけではありません。自社の課題がどこにあるのかを見極めたうえで、他の外部活用の手段と組み合わせる視点が求められます。
常駐エンジニアには任せにくい業務がある
直接指示を出せないという制約は、日常的なIT業務との相性を悪くします。社員からのパソコンの不具合相談、新入社員向けの端末の初期設定、アカウントの発行や停止といった業務は、発生のたびに内容が変わるため、その都度の指示なしには進みません。責任者を介して一件ずつ依頼する運用は、現実には手間が大きくなります。
また、SES契約は稼働時間に対して費用が発生するため、業務量が少ない月でも支払いは変わりません。問い合わせが月に数件しかない企業が常駐エンジニアを確保し続けるのは、費用対効果の面で見合わない場合があります。業務の性質と発生頻度を踏まえた選択が必要です。
業務単位で外部に委ねるという選択肢
そうした日常業務に向くのが、業務そのものを外部に委ねるアウトソーシングです。ヘルプデスク対応や端末管理、資産の棚卸しといった業務を丸ごと引き受けてもらう形で、発注側は個別の作業指示を出す必要がありません。あらかじめ合意した業務範囲にもとづいて、事業者側が主体的に処理します。
費用も、対応件数や利用人数に応じた月額制で設計されている場合が多くあります。人を1人確保するのではなく、必要な業務だけを必要な量だけ買う形になるため、小規模な組織でも導入しやすくなります。開発はSES契約、社内IT運用はアウトソーシングという使い分けも現実的な解といえます。
IT運用を外部に任せられるサービス
社内のIT運用業務を委託できるサービスを紹介します。自社の業務量や体制に合うかどうかを確認するため、まずは資料を取り寄せて比較してみてください。
クラウドSE
- 柔軟なプラン調整で情シス業務のリソース不足解消とコストを削減
- チーム体制で属人化を防ぎながら円滑な引継ぎと業務支援を実現
- コンサルタントやエンジニアなどのプロが多様なIT課題を解決
株式会社Gizumoが提供する『クラウドSE』は、社内のIT業務を月額のサブスクリプション形式で代行するサービスです。パソコンに関する問い合わせ対応やITツールのアカウント管理といった日々の業務に加え、マニュアルの作成、Webサイトの保守、キッティング作業などにも対応します。IT活用のコンサルティングやITツールの導入支援、SaaS連携にも対応しており、業務効率化やデジタル化まで見据えた支援を受けられる点が特徴です。情報システム担当者が不足している企業や、専任担当者を置いていない企業にも適しています。
情シス代行パック (エイネット株式会社)
- 継続率99.8%のプロサポート
- 土日対応可能なオプションをご用意。
- IT担当者不在でも最適な支援をご提案。
まとめ
SES契約とは、エンジニアの稼働時間に対して対価を支払う契約であり、成果物の完成責任を伴わない点が請負契約との違いです。指揮命令権がSES事業者側に残る点は労働者派遣との違いであり、この線引きを曖昧にすると偽装請負に問われます。契約時は精算幅や再委託、成果物の権利の扱いを丁寧に確認しましょう。開発の人手はSES契約、日常のIT運用はアウトソーシングというように、業務の性質にあわせて手段を使い分けることが、費用と法令順守の両面で有効です。


