システム開発の見積もりとは
システム開発における見積もりとは、プロジェクトの完遂に必要な費用や期間、リソースを予測し数値化したものです。価格を示す資料にとどまらず、開発会社からの「提案書」としての側面も持ち合わせています。
見積もりの定義と目的
見積もりは、クライアント(発注者)とベンダー(開発会社)の間で合意形成を行うための重要なツールです。具体的には、以下の点を明確にするためのものです。
- ●開発スコープの定義:どの機能を作り、どこまでを対応範囲とするか。
- ●コストの透明化:人件費、設備費、諸経費などの内訳。
- ●スケジュールの提示:着手から納品までにかかる期間とマイルストーン。
なぜ見積もりが重要なのか
システム開発プロジェクトの失敗原因の多くは、「要件定義の曖昧さ」と「見積もりの甘さ」に起因します。不正確な見積もりでプロジェクトを開始すると、開発途中での予算超過や納期遅延、最悪の場合はプロジェクトの頓挫を招きかねません。
適切な見積もりを取得し、その根拠を精査することは、投資対効果(ROI)を最大化し、ビジネスの成長を支えるシステムを構築するための第一歩です。
システム開発の見積もり算出方法
システム開発の見積もり金額がどのように計算されているかを知ることは、交渉や比較検討において非常に有利に働きます。ここでは、主要な4つの算出方法について解説します。
工数見積もり(人月計算)
日本のシステム開発業界で最も一般的に用いられているのが、「工数見積もり」です。
開発に必要な作業量を「人月(にんげつ)」という単位で表し、それにエンジニアの単価を掛けて算出します。「1人月」とは、1人のエンジニアが1か月間(通常160時間程度)稼働した場合の作業量を指します。
計算式: 作業工数(人月) × エンジニア単価 = 開発費用
例えば、3人のエンジニアが4か月かけて開発する場合、工数は「12人月」となります。エンジニアの単価が80万円であれば、開発費用は960万円です。
このように計算方法はシンプルで分かりやすい一方、エンジニアのスキルや経験によって生産性には差があるため、提示された単価が妥当かどうかを見極める必要があります。
機能ベース見積もり
システムの機能をリストアップし、それぞれの機能ごとに費用を算出する方法です。
「ログイン機能:〇〇万円」「検索機能:〇〇万円」「決済機能:〇〇万円」のように、機能単位で積算していきます。発注者にとっては、どの機能にどれだけのコストがかかっているかが把握しやすく、予算調整(機能の削減によるコストダウンなど)がしやすいというメリットがあります。
固定価格見積もり
要件定義が完了し、仕様が完全に固まっている場合に用いられる総額を確定させた見積もりです。
プロジェクト全体の費用があらかじめ決まっているため、予算管理が容易です。しかし、開発会社側がリスクを見込んで高めの金額を設定する傾向があります。また、開発途中での仕様変更には追加費用が発生する場合がほとんどです。
時間単位見積もり
アジャイル開発などで採用されることが多く、実際に稼働した時間に基づいて費用を請求する方法です。「タイム&マテリアル契約(準委任契約)」とも呼ばれます。
仕様変更に柔軟に対応できるため、要件が流動的な新規事業や、継続的な機能改善を行うプロジェクトに適しています。ただし、総額が見えにくいため、上限予算の設定などのコントロールが必要です。
システム開発の見積もりに含まれる費用項目
見積書には「一式」と記載されることもありますが、その中身は多岐にわたります。詳細な内訳を理解しておき、ブラックボックス化を防ぎましょう。
| 項目 | 費用項目 | 内容解説 |
|---|---|---|
| 要件整理 | 要件定義費用 | どのようなシステムを作るか、業務フローや必要な機能を明確にするための調査・検討費用です。全体の費用の10%〜20%程度を占めることが一般的です。 |
| 設計工程 | 設計費用 | 要件をもとに、画面設計(UI/UX)やデータベース設計、システム構成などの設計図を作成する費用です。基本設計(外部設計)と詳細設計(内部設計)に分かれます。 |
| 実装工程 | 開発費用(実装費) | 実際にプログラムコードを記述し、システムを構築する費用です。プログラマーやシステムエンジニアの人件費が主となります。 |
| 品質確認 | テスト費用 | 構築したシステムが正常に動作するかを確認するための費用です。単体テストや結合テスト、総合テストなどが含まれ、品質担保のために不可欠な項目です。 |
| 管理業務 | 進行管理費用 | プロジェクトマネージャー(PM)やディレクターが、スケジュール管理や品質管理、定例会議の進行などを行うための費用です。全体費用の10%〜15%程度が相場とされています。 |
| リリース対応 | 導入・移行費用 | 完成したシステムを本番環境にリリースしたり、旧システムからデータを移行したりするための作業費用です。 |
| 基盤構築 | インフラ構築費 | サーバーやネットワーク環境を構築するための費用です。クラウド(AWS、Azureなど)を利用する場合は、初期構築費に加えて月額利用料も発生します。 |
| 運用フェーズ | 保守・運用費用 | システム稼働後の障害対応、セキュリティ更新、Q&A対応などのランニングコストです。一般的に開発費の年間10%〜20%程度が目安とされます。 |
システム開発の見積もり相場
システム開発の費用は、プロジェクトの規模によって大きく異なります。あくまで目安ですが、規模別の相場感を知っておくことは重要です。
小規模開発の相場:100万円〜500万円
機能が限定的なツールや、テンプレートを活用したWebサイト、小規模な社内システムなどが該当します。最小限の機能であれば50万円程度から始められる場合もありますが、実務で利用するシステムの場合、100万円〜300万円程度がひとつの目安となります。
開発期間は1〜3か月程度。エンジニア1〜2名体制で進めるケースが多いです。パッケージソフトやSaaSの導入で済む場合もあるため、スクラッチ開発(ゼロからの開発)が必要かどうかを慎重に検討しましょう。
中規模開発の相場:300万円〜1,000万円
顧客管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)、ECサイト、独自機能を持った業務アプリなどが該当します。
開発期間は3〜6か月程度。3〜5名のチーム体制で開発を行います。既存のパッケージでは対応できない独自の業務フローや、他システムとの連携が必要な場合に、この価格帯になることが一般的です。
大規模開発の相場:1,000万円以上
全社的な基幹システム(ERP)や金融システム、大規模なプラットフォーム開発などが該当します。
開発期間は半年〜1年以上。10名以上の大規模なチームや、複数の開発会社が関わるケースもあります。高度なセキュリティ要件や大量データ処理に対応するため、要件定義・設計フェーズに十分な時間とコストをかけることが不可欠です。
同じ規模でも「受託開発」を選ぶかどうかで、進め方や費用感は大きく変わります。受託開発の特徴やメリットについては、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
システム開発における見積書のチェックポイント
提示された見積書を鵜呑みにせず、精査することがプロジェクト成功の鍵です。ここでは、IT担当者が確認すべきチェックポイントを解説します。
作業範囲の明確性
「どこまでやるか」だけでなく、「何をやらないか」が明記されているかを確認してください。特に、データ移行やマニュアル作成、ブラウザ対応範囲(IE対応の有無など)は認識の齟齬が生まれやすいポイントです。「一式」という記載が多い見積もりは、後々トラブルの原因になりやすいため、詳細な内訳を求めましょう。
費用内訳の詳細度
機能ごとに費用が分解されているか、工数(人月)と単価が明示されているかを確認します。詳細な内訳があれば、予算オーバーした際に「この機能を削減してコストを調整する」といった判断が可能になります。ブラックボックス化している項目については、遠慮なく質問しましょう。
追加費用の発生条件
どのような場合に費用が増額されるかが、契約条件に含まれているかを確認します。「仕様変更は〇回まで無料」「軽微な修正の定義」など、変更管理のルールが明確でないと、開発終盤で追加請求が発生し、トラブルになる可能性があります。
納期とマイルストーン
最終的な納期だけでなく、中間成果物の確認タイミング(マイルストーン)が設定されているかを見ます。長期間のプロジェクトで、一度も成果物を確認できないまま納期直前になるのは非常に危険です。段階的な確認スケジュールが組まれているかが重要です。
保証と責任範囲
納品後の「契約不適合責任」の期間を確認します。民法改正(2020年4月施行)により、旧来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変更され、発注側が不具合を知ったときから1年以内が責任追及期間となりました。
契約書で別途期間を定めることも可能です。バグが発生した場合の修正対応の範囲や、サーバダウン時の責任分界点なども重要なチェック項目です。
支払い条件
支払いのタイミング(着手金や中間金、完了金など)を確認します。開発会社によっては、「月末締め翌月末払い」や「検収後100%」など条件が異なります。自社の経理処理と照らし合わせ、無理のない支払いスケジュールであるかを確認しましょう。
失敗しないシステム開発の見積もり依頼ポイント
正確な見積もりを引き出すためには、発注側にも準備が必要です。開発会社に丸投げするのではなく、次の4点を押さえて依頼しましょう。
要件定義の明確化
「使いやすいシステム」といった抽象的な言葉ではなく、「誰が、どんな場面で、何をするための機能か」を具体的に言語化しておきましょう。画面イメージの手書きメモや、現在の業務フロー図などがあるだけでも、見積もりの精度は格段に上がります。
複数社からの相見積もり
1社だけの見積もりでは、その金額が適正かどうかを判断するのは難しいため、3社程度から相見積もりを取りましょう。ただし、単に安さを比較するのではなく、提案内容の違いや各社の強み(技術力、業務知識、サポート体制など)を比較するのが目的です。
RFP(提案依頼書)の作成
口頭での説明だけでは、会社によって解釈が異なり、見積もりの前提条件がバラバラになってしまいます。RFP(Request For Proposal)を作成し、システムの目的や必要な機能、予算感、スケジュール、技術要件などを文書化して各社に配布することで、同じ条件での比較が可能になります。
開発会社との適切なコミュニケーション
見積もり作成期間中には、開発会社から多くの質問が来るはずです。これに対して迅速かつ丁寧に回答することで、見積もりの精度が高まります。一方で、質問がほとんどない場合は、要件を十分に理解しないまま見積もりを作成している可能性もあるため注意が必要です。
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システム開発の見積もり比較時の注意点
複数の開発会社から見積もりを取得した後は、金額だけで判断せず、内容や前提条件を含めて比較することが重要です。ここでは、見積もりを比較する際に押さえておきたい注意点を解説します。
金額以外の要素も含めて総合的に判断する
安さの裏には理由があります。テスト工程が省略されていないか、経験の浅いエンジニアが担当になっていないかなどを疑う視点も必要です。過去の類似実績や、担当者のレスポンスの速さ、提案の質なども含めて総合的に評価しましょう。
特に自社の業界特有の業務知識を持っているか、あるいはシステム開発会社の選び方や受託開発における実績が豊富かどうかは、プロジェクトの成功率に直結します。
極端に安い見積もりには注意する
他社と比較して、極端に安い見積もりが出てきた場合は要注意です。「必要な機能が漏れている」「要件定義を含んでいない」「品質管理コストを削っている」などの可能性があります。安い理由が合理的に説明されない限り、選定候補から外すのが賢明です。
見積もり内容の妥当性を確認する
各項目の工数が現実的かを確認します。例えば、「他社が3か月かかるといっている機能を1か月で開発する」としている場合、その根拠(既存モジュールの流用など)を確認しましょう。根拠のない短納期・低価格は、デスマーチ(過酷な労働状況)を招き、品質低下に直結します。
システム開発の見積もりでよくある失敗事例
過去の失敗から学ぶことは非常に有効です。ここでは、代表的な失敗事例とその対策を紹介します。
事例1:追加費用が膨らんで予算オーバー
要件定義が十分に固まらないまま開発を開始した結果、開発途中で「この機能も必要だった」と追加要望が次々と発生し、当初の見積もりから大幅に費用が膨らんでしまったケースです。
- 対策:「Must(必須機能)」と「Want(あったらよい機能)」を明確に区別し、初期開発では必須機能に絞る。また、仕様変更時のルールを契約前に決めておく。
事例2:認識齟齬による「言った言わない」のトラブル
打ち合わせを口頭中心で進め、議事録や合意内容を文書として残していなかったため、完成したシステムが発注側のイメージと異なり、「聞いていない」「そんな話はしていない」といった認識齟齬が生じたケースです。
- 対策:すべての打ち合わせで議事録を作成し、双方が合意した内容を記録に残す。画面設計書(モックアップ)を用いて、視覚的に認識を合わせる。
事例3:納品後の不具合多発とサポート不足
見積もり金額の安さを重視するあまり、テスト工程を十分に確保せず、さらに保守・運用サポート契約も結んでいなかったため、納品後に不具合が多発し、十分な対応を受けられなかったケースです。
- 対策:テスト計画と品質基準を見積もり段階で確認する。運用保守の範囲と費用を契約前に明確にする。
システム開発の見積もり取得後の進め方
見積もりが出揃った後は、いよいよ発注先の選定プロセスに入ります。ここでは、見積もり取得後に押さえておきたい進め方のポイントを解説します。
見積書・提案内容の比較検討
各社の提案書と見積書を横並びで比較できる「比較表」を作成しましょう。評価項目には「金額」「提案力」「実績」「体制」「信頼性」などを設定し、社内の関係者でスコアリングを行うと客観的な判断がしやすくなります。
発注先を決定する前の最終確認
契約を結ぶ前に、最終候補の企業と面談を行いましょう。実際のプロジェクトマネージャーや開発リーダーと直接話し、コミュニケーションの相性を確認することは非常に重要です。また、契約書(基本契約書・個別契約書)の内容を法務部門に確認してもらい、リスクがないかを最終チェックします。
まとめ
システム開発の見積もりは、プロジェクトの成否を分ける重要なファクターです。金額の多寡だけを見るのではなく、その根拠となる工数や体制、リスクヘッジの内容まで踏み込んで精査することが求められます。
適正な見積もりを取得するためには、発注側も要件を明確にし、RFPを用意するなど能動的に動くことが不可欠です。「安物買いの銭失い」にならないよう、品質とコストのバランスを見極め、信頼できるパートナーを選び抜いてください。



