人事中計とは
まず人事中計とは何か考えてみましょう。人事中計は企業にとってどのようなものなのでしょうか。
経営における人事の羅針盤
企業は成長を続けるために、数年先を見据えた中期計画を作成します。いわゆる中期経営計画のことです。中期経営計画とは、企業の羅針盤として、今後数年間その企業はどのような方向性で事業を展開するのかを明記したものです。
同じように、人事中計は中期経営計画と連動して人事における施策展開の方向性を示しています。人は企業にとって最も重要な経営資源のひとつです。経営資源である人をどう獲得し、どう活用するかを記した経営における人事の羅針盤が人事中計といえます。
人事中計の必要性
企業にとって人は経営資源です。経営資源をどう配分してどう活用するかは企業の成長に大きく影響を与えます。もし人事中計がなければ、事業展開に合わせてどのような組織づくりをすればよいかわからなくなってしまうでしょう。
つまり、人事中計によって経営資源の無駄遣いをなくし、事業にとって本当に必要な時に必要な方法で人材を活用することができるのです。
人事中計の策定方法
では実際に人事中計をつくるにはどうすればよいのでしょうか。人事中計の策定方法をご紹介します。
中期経営計画からブレイクダウンする
大前提として、人事中計は中期経営計画を達成するための施策を人事の側面からまとめたものです。人事中計には中期経営計画を実現する採用計画や育成計画などの組織づくりに関する計画が記されています。そのため、まずは中期経営計画を確認したうえで、中期経営計画が目指すゴールから、人事において必要な取り組みをブレイクダウンしていきます。
例えば、中期経営計画で3年後の売上高が「3000億円達成」と記されていた場合、まず現状の売上高と目標とのギャップを確認します。
もし現状が2000億円だとすれば、あと3年で1000億円の売上をあげなければなりません。あと1000億円の売上を達成するとなると、人事領域では例えば新規事業を創造できる人材を採用する、営業部門の人員を増やすといった取り組みが必要になります。
このように、まずは中期経営計画を確認して現状とのギャップを比較しながら人事中計を作成していきましょう。
人と組織における問題を戦略人事の観点から分析する
中期経営計画を確認したら、あるべき姿に向けて人と組織における問題を戦略人事の観点から分析します。戦略人事の観点とは、単に現状の延長線上に計画を描くのではなく、人事の専門的見地から中期経営計画の実現に関する提案を積極的に行うことです。
もし中期経営計画の目標に対して、現状と目標がかけ離れているのであれば、予算を追加して適切な人材を採用するなど、大胆な取り組みが必要です。まずは中期経営計画を達成するために、人と組織観点からどのような問題があるかを冷静に分析しましょう。
問題に対する方針を導き出す
分析が完了したら、問題に対する方針を導き出します。方針は、中期経営計画の達成にとって最も重要な項目を3つ程度の方針にまとめるのがよいでしょう。もし10以上も方針があった場合、どの方針が優先順位が高いのかわからなくなってしまします。
分析した人と組織の問題のうち、特に効果的と言える問題に対する打ち手を方針として策定するのです。中期経営計画を達成するために、この数年で注力するべきことは採用なのか、育成なのか、それとも組織の一体感づくりなのか、あなたが考える方針次第で人事の取り組みが大きく変わってきます。
いま全力を注ぐべき取り組みを方針として人事中計に盛り込みましょう。
人事中計成功のポイント
当然のことながら、人事中計は策定して終わりではありません。策定したら実行する必要があります。
また、そもそも人事中計は中期経営計画を達成するためのツールです。人事中計を通じて中期経営計画を達成するにはどのようなことに気を付けたらよいのでしょうか。
経営者のコミットメント
人事中計のみならず、中期経営計画を達成するには経営者のコミットメントが重要です。コミットメントとは、「必ず達成する」といった意気込みと責任感のことです。
もし経営者がせっかく策定した人事中計をないがしろにしてしまうと、そもそも人事中計を策定した意味がありません。そのため、策定段階で経営者を巻き込みながら人事中計の検討作業を進めるのがよいでしょう。
CHROの推進力
人事中計を達成するためには、人事中計を推進するリーダーが必要です。人事のリーダーとして、CHROを設置することは人事中計の達成だけでなく、人事を通じた企業変革に有効な手段の一つです。CHROが人と組織の観点から、経営陣に対して積極的に提言しながら会社と人事部をリードできれば、人事中計を通じて企業の成長を実現できるでしょう。
人事部員の実行力
CHROの推進力と同じくらい重要なのが人事部員の実行力です。人事中計を具体的な施策として立案したうえで、自ら責任感を持って実行する人事部員は、人事中計の達成に必要不可欠な存在です。
もし現時点で人事中計を実行するほどの力が人事部員にないのだとしたら、社外から人事のプロフェッショナルを採用するなど、人事部の組織強化を行いましょう。強い人事部があれば、必ず人事中計を達成できます。
人事中計の事例
最後に実際の企業における人事中計の事例をご紹介します。
サイバーエージェント
サイバーエージェントでは3か年計画で人事中計を策定しています。売上、利益を中心とした事業計画に沿って計画を立てるそうです。いくつもの新規事業を立ち上げているサイバーエージェントでは事業環境の変化が激しく、年度によっては1年で数百人の中途採用もあり場合もあります。
また、サイバーエージェントの特徴は、中長期を見据えて行う新卒採用計画です。新卒社員を事業を担える人材として早期育成することで、事業成長を支えています。
ソニー
ソニーも3か年計画で人事中計を策定しているそうです。人事中計では、3つの柱を重点課題として設定しています。1つ目はグローバルな人事プラットフォーム作り、2つ目は日本の組織の内なるグローバル化、3つ目はリーダーやエンジニアなどの人材開発計画です。
人事中計の策定後は、目標に対する達成度合いを取締役会へ報告することも欠かせません。人事の計画が実行につながっている理想的な例と言えるでしょう。
参考:人事による、 人と組織のための 中長期計画 作り方会|Works
まとめ
今回は人事中計の策定について解説しました。企業によっては人事中計を策定する効果のイメージが持てないかもしれません。しかし人事中計を策定している企業では、人事の取り組みが企業の成長に確実に貢献しています。ただの計画だと侮るのではなく、人事を通じて会社を動かす「想い」を具現化した人事中計を策定しましょう。