人材マネジメントとは
企業は、事業上の目標を達成するために活動しています。例えば、ある製品の売上高を上げる、あるいは顧客単価を上げる、新製品を市場に浸透させるなど、さまざまな目標があります。こうした目標を達成するには、経営資源を投入して活動を行っていきます。
経営資源とは、一般的に人、モノ、金、情報と言われています。人材マネジメントは、このうち人を管理・活用しながら企業の目標を達成する活動と定義されます。人事部が行う活動だけではなく、企業のビジョンや目標を達成するために人を管理する活動はすべて人材マネジメントといえるでしょう。
人材マネジメントの関連概念
人材マネジメントと混同されやすい概念がいくつか存在しています。それぞれ人材マネジメントとどう違うのでしょうか。
人事管理との違い
人事部では人事管理という言葉が使われます。企業によって意味や内容は異なりますが、一般的には評価や報酬などの人事制度を通じて会社全体の人材の管理を行う取り組み、あるいはその取り組みを行う人事業務を意味しています。
人事管理は人事中心に使われる言葉です。しかし、人材マネジメントは人事の仕事に限らず会社が目標を達成するために人材を管理する取り組みを意味します。そのため、人材マネジメントは人事管理の上位概念といえます。
労務管理との違い
人事管理や人材マネジメントと混同されやすいもう一つの言葉が労務管理です。労務管理は、主に人事の専門用語として使われます。また労務管理自体が人事の特定分野の業務を示す場合もあります。
労務管理とは、一般的に社員の健康管理や勤務時間管理など、職場の環境を整えて人材を管理すること意味します。企業によっては、人事管理が人事制度などパフォーマンスを向上させる人材管理業務を示すをのに対し、労務管理は衛生管理や健康管理などを通じて社員のパフォーマンスが下がらないようにする業務を示している場合があります。
このように、労務管理も人事業務における特定分野の業務を意味しています。そのため、労務管理も人材マネジメントに包含される概念といえるでしょう。
人的資源管理との違い
経営学では人的資源管理という言葉が使われます。人的資源管理も、人という経営資源をどう管理し活用するかを表した言葉です。しかしもともと人的資源管理は、経営学という学問から生まれた言葉です。一方で人材マネジメントは、企業が目標を達成するために経営資源である人を活用する取り組みをより実務的に表した言葉といえます。
そのため人的資源管理は、学問的、理論的に企業における人材マネジメントを表した概念になるでしょう。
人材マネジメントの範囲と内容
ここまで紹介したように、人材マネジメントは企業が目標達成に向けて人という経営資源を活用する取り組みです。そのため人材マネジメントは企業活動の中でとても広範囲に及びます。そこで代表的な人材マネジメントの範囲と活動内容をご紹介します。
人材戦略の立案
人材マネジメントのうち最も重要な活動が人材戦略の立案です。企業のビジョンや目標を達成するために、どのような人材を獲得し、どのような能力が必要なのかを検討する試みが人材戦略の立案です。
人材戦略の立案にあたっては、フレームワークを活用するとよいでしょう。代表的なフレームワークとして、コンサルティング会社のマッキンゼー社が開発した「7S」があります。7Sは、戦略(Strategy)、組織構造(Structure)、組織運営の仕組み(System)、人材(Staff)、能力(Skill)、目標/ビジョン(Shared Value)の7つを意味しています。
目標が変われば戦略も変わり、組織構造や組織運営方法が変わります。そうした組織のハード面に合わせて、人材や能力といったソフト面も変わるのです。7Sは人材マネジメントの考え方を分かりやすく構造化したフレームワークといえます。こうしたフレームワークを活用しながら人材戦略の立案を行いましょう。
採用
人材戦略の立案ができたら、実際に必要となる人材を採用します。このとき注意したいのが、あくまでも採用は企業の目標達成を実現するために行う一つの手段であるということです。
原則として、新たな目標を達成するため、社内にその目標に関するノウハウを持った人材がいない場合に採用を行います。本当に必要なときに採用を行えば、採用コストを抑えることができるのです。
育成
人材育成も人材マネジメントにおいては有効な手段です。例えば目標の中に、新しい市場に参入するという目標があったとします。その場合は新しい市場に関する情報や知識を社員にインプットする必要があるでしょう。また、長期的に事業を成長させたい場合は、事業に必要な技術やノウハウを社員に学ばせることも必要です。
このように、人材マネジメントにおける知識や能力の獲得の一手段として、育成は重要な方法の一つです。
配置
最適な配置を行って組織パフォーマンスを向上させることも、人材マネジメントにおける重要な取り組みの一つです。
企業経営はよく、軍事戦略に例えて表現されます。例えば戦時中であれば、ある部隊のパフォーマンスが戦況を左右することが大いにあり得ると想像できるのではないでしょうか。同じように企業経営でも、人材の配置が経営を左右します。最適な場面で最適な人員を配置することが不可欠です。
そのため企業は配置転換を行って常にパフォーマンスが最大化されるように調整します。
新陳代謝
人材マネジメントで忘れられがちですが、重要な取り組みの一つが新陳代謝です。パフォーマンスの低い人材や経営環境に合致しなくなった人材を入れ替えることは、組織パフォーマンスを維持向上するために必要な取り組みです。
日本企業の多くは定年退職という形式で新陳代謝を促してきました。しかし変化の激しい現代では、定年に限らずパフォーマンスの低い人材を配置転換や子会社への出向などで入れ替える試みが行われています。新陳代謝も、企業の目標を達成するために重要な人材マネジメントの取り組みでしょう。
人材マネジメントの潮流
人材マネジメントもこれまでの歴史の中で、さまざまな手法が取り入れられてきました。代表的な例をご紹介します。
プロセス管理
日本企業で80年代以降に取り入れられてきたのがプロセス管理です。プロセス管理とは、結果だけではなく成果につながるプロセスを管理する手法です。
当然ながら、企業活動は人により行われています。そして人が何らかのプロセスにより成果を生み出します。企業は能力開発や上司による指導を通じてプロセスに介入します。プロセスへの介入によって成果を向上させることがプロセス管理です。
プロセス管理は、現在よりも比較的経済が安定して成長していた時期に適したやり方でした。しかし変化の激しい現代では、能力開発などによる中長期的視点でプロセス管理する手法が合わなくなってきています。そのため日本企業でも、プロセス管理をやめる企業が出てきています。
パフォーマンスマネジメント
プロセス管理の次に取り入れられたのがパフォーマンスマネジメントです。パフォーマンスマネジメントは、プロセス管理とは反対で成果を管理する手法です。企業はプロセスに介入するのではなく、目標設定や評価、報酬を通じて組織パフォーマンスを管理します。
まず目標設定を行い、目標を達成できれば良い評価と良い報酬がもらえるのです。日本企業では、90年代後半から欧米の成果主義人事制度が取り入れられ、目標管理制度(MBO)とともに浸透してきた人材マネジメントの手法です。
ピープルアナリティクス
最も新しい人材マネジメントの手法がピープルアナリティクスです。ピープルアナリティクスは、人材データを収集・蓄積することで組織の状態を見える化し、データ分析によって問題解決を行う手法です。
これまでの人材マネジメントの手法は、あくまでも仮説ベースでしか対応を行ってきませんでした。例えば、プロセス管理では管理職の経験に基づいた介入が中心でした。パフォーマンスマネジメントでも、人事制度の変更という大掛かりな仕組みにより人材マネジメントを行ってきたため、細やかな対応ができないことが課題でした。
ピープルアナリティクスであれば、ITツールを使い、リアルタイムに課題を抽出して対処することが可能です。変化の激しい現代においては、最も適した人材マネジメントの手法でしょう。
まとめ
多くの人にとって人材マネジメントは聞き慣れない言葉かもしれません。しかし、意味を紐解いてみると働く私たちに密接に関わる概念であることがわかります。また人材マネジメントの取り組みは、企業の業績を大きく左右する取り組みだということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
一方で人材マネジメントはどちらかというと大掛かりな取り組みをイメージします。しかしできる範囲から取り組んでいけば、企業の業績向上に大きく貢献することは間違いないでしょう。