内定の取り消しについて
厚生労働省より発表された資料によると、令和2年3月に卒業した大学生や高校生のうち、11月末時点で206名の内定取り消し(80事業所)、仕事に就く時期を繰り下げられた生徒数は1,310人(93事業所)と発表されました。内定取り消しの206人中、主に新型コロナウイルスの影響と考えられるのは135名とされています。
ハローワークに報告があった数字のみとなりますので、実際にはさらに件数が多いと思われます。
参考:令和元年度卒(2.3 卒)内定取消し等の状況について(11 月末現在)|厚生労働省
そして、関東圏での緊急事態宣言が発令され、感染の拡大が収束しない状況の中で、さらに内定取り消しや解雇が増えることは容易に予想されます。内定取り消しについての注意点を説明します。
内定とは
まず、内定とは一体どういう状態のことを言うのでしょうか。内定について、特に法律で定められた明確な規定があるわけではありません。しかし、内定の取り消しに関する過去の裁判例などから一般的に、内定が成立した時点で(条件付きではあるが)労働契約が成立していると解釈することができます。
つまり、内定を取り消す=解雇と同じレベルの法的な規制や制限をうける、という点に注意が必要といえます。
内定取り消しの条件
内定の取り消しが認められるには、以下のような条件が必要です。
1.学生が予定通り卒業できなかった場合
入社予定の学生が単位不足などで卒業できなかった場合、学生との契約条件を満たしていないため、内定を取り消すことができます。(当然ながら、卒業を前提としない条件で内定をした場合は例外となります。)
2.履歴書に詐称があった場合
履歴書に経歴詐称があった場合も内定を取り消せると考えられます。しかし、あくまで採用の合否に関わる重要な箇所での詐称とされています。重要な部分とは、例えば持っている資格の詐称(実際は保有していないのに保有と記載されていた)、職歴(勤務したことのない企業名が記載されていた)、犯罪歴などのことをいいます。
それ以外の情報として、「以前、職場を解雇されたことがある」「精神疾患で入院していたことがある」などの情報が履歴書に記載されていなかったとしても、それは経歴詐称とまでは言えないと判断されることが多いです。
3.健康状態に不安がある場合
内定を通知した時と比較して、内定者の健康状態が悪くなり、期待する仕事ができない状態の場合も内定取り消しの理由となります。しかし、採用側の主観のみで判断することはできないため、医師の判断が必要と考えられます。
4.経営状態悪化によりやむを得ない場合
採用する会社の経営状態が悪化し、内定取り消しをする場合は、整理解雇として判断を進めます。整理解雇とは、「会社が経営不振の打開や経営合理を進めるために、人員削減を目的として行う解雇」のことをいいます。
整理解雇として認められるかどうかは以下の4つ基準により判断されます。(厚生労働省HPより抜粋)
- 1.人員削減の必要性(人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること)
- 2.解雇回避の努力(配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと)
- 3.人選の合理性(整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること)
- 4.解雇手続の妥当性(労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと)
参考:労働契約の終了に関するルール | 厚生労働省
1については、新型コロナウイルスの影響で売上が下がり、改善する見通しが立たないなどの事業がこれにあたります。2については、内定を取り消しする前にコストカットや役員の報酬の削減など努力をしたかどうかが問われます。は内定取り消しの対象者の選定方法に合理性があったかが基準となります。
4に関しては、1~3までを踏まえつつ、誠実に内定者と交渉を行ったかが大切となります。
障害者の法定雇用率の引き上げについて
令和3年3月1日から障害者の法定雇用率が引き上げられることになりました。障害の有無に関わらず、誰もが仕事を通じて社会参加することを目指す中、すべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者を雇う義務があり、これを「障害者雇用率制度」といいます。
参考:障害者の法定雇用率の引き上げについて | 厚生労働省
参考:障害者雇用制度について | 厚生労働省
障害者法定雇用率とは
「障害者法定雇用率」とは、企業に対し義務として定められている障害者雇用の割合をいいます。健常者と同じように仕事をもつ機会を得ることを目的とし、雇用率は以下のような計算によって導き出されています。
※常用労働者とは、雇用契約に関わらず、一週間の所定労働時間が20時間以上の労働者で、見込みを含み1年を超えて継続雇用されている人。
※常用労働者のうち短時間労働者(週20時間以上30時間未満)は1人を0.5人としてカウントする。
※重度身体障害者、重度知的障害者は1人を2人としてカウントする。
参考:常用労働者の定義の変更について | 厚生労働省
障害者の定義
法定雇用率を計算する際、当人が障害者であるか否かは障害のある方が所持している障害者手帳や療育手帳の記載内容によって以下のように判断をします。
参考:障害者の範囲 | 厚生労働省
1.身体障害者
身体障害者福祉法による「身体障害者手帳1~7級」を所持している方。重度身体障害者とは、1級または2級とされている方。
2.知的障害者
都道府県知事が発行する「療育手帳A~C」を所持している方。重度知的障害者とは療育手帳で程度が「A」とされている方。
3.精神障害者
精神保健福祉法により「精神障害者保健福祉手帳1~3級」を所持している方(重度の概念はなし)
法定雇用率の改定
2021年3月1日より、障害者法定雇用率は以下のように改定されます
今回の法定雇用率が改正されたことにより、障害者を1人以上雇用する義務が発生する民間企業の人数の範囲が「従業員43.5人」となります。そのため、常用労働者が43.5人以上いる会社は毎年障害者の雇用状況をハローワークに報告する必要があります。