登壇者プロフィール
株式会社LegalForce
執行役員 営業・マーケティング本部長
浦山 博史氏
一橋大学法学部卒業。東京大学法科大学院修了。2015年AOSリーガルテック株式会社(現リーガルテック株式会社)へ入社。訴訟分野のリーガルテック事業、デジタルフォレンジックと不正調査・eディスカバリのレビュープロジェクトに携わる。
2019年より2人目の営業担当者としてLegalForceに参画。2021年10月より現職。
株式会社クロスリバー 代表取締役
越川 慎司氏
全メンバーが週休3日・リモートワーク・複業の会社を2017年に創業し、 815社17万人の働き方と成果を調査・分析。 著書19冊、各社の人事評価上位5%の行動をまとめた書籍『トップ5%社員の習慣』は 国内外で出版されベストセラーに。
法務部や契約業務の”あるある”
株式会社クロスリバー 越川 慎司氏(以下、越川):
突然ですが、皆さん、労働時間を削減する働き方改革をそろそろやめませんか?これからは労働時間を減らして売上・利益が上がっていくという働き方改革をしなければなりません。いわゆるダイエットと一緒で、体重計に乗ってぜい肉を落として、筋肉を増やしていこうという話です。
法務に限った話ではありませんが、2022年3月のコロナ禍に17万3千人のビジネスパーソンを対象に、一週間でどのような業務に時間を費やしたのかを聞いたところ、1番多かった回答が「社内会議」で45%でした。
これは”あるある”な話だと思うのですが、コロナ禍になって、オンライン会議や、会議のための会議が増えていると思いませんか。私は過去5年半に19件の事業開発支援を行ったのですが、このうち会議室で新たなビジネスやイノベーションが起きたのは2件しかありません。それ以外は、会議室の手前で「今ちょっといいですか」と声をかけられて始まった会話から新たな事業が生まれました。皆さんも会議を減らして会話を増やし、「今ちょっといいですか?」と言える関係性を作ったほうがいいのです。
「社内会議」以外の回答は、資料作成が14%、メール処理が9%、社内の情報検索が7%、その他が32%という結果でした。特に注目したいのは、社内の情報検索という業務です。これは、社内の情報や契約書などを探す時間のことで、そのような生産性が低い業務に時間を取られているわけです。
法務部の抱えるリスクと本来やるべきこと
越川:
次に、法務部門が抱えている3つのリスクについてご紹介します。1つ目は、お客様から訴えられるという訴訟リスク。2つ目は、法律や個人情報保護法など、法律違反をしていないかどうかというコンプライアンスチェック。3つ目は、お客様のトラブルや謝罪といったことへの対応に時間を取られるビジネスリスクです。
また、弊社は法務部門の方だけを対象に、どんなときに働きがいを感じるのかを調査しました。結果をAI分析したところ、3つのキーワードが浮かび上がってきました。1つは、社内で「承認」されたとき、2つ目は、何かをやり終えたときの「達成」、3つ目が「貢献」です。
つまり、先程の3つのリスクを最小化して、承認、達成、貢献が感じられるようにしていったほうが、会社にとってプラスになるということです。10年前は、1つの部門、あるいはせいぜい2つの部門の中でイノベーションを起こすことができていました。ところが2019年くらいから、イノベーションを起こすにはさまざまな部署を巻き込むことが必要になってきました。その中には確実に法務部も含まれるわけです。
これからの法務部は、ITツールを使ってオペレーション作業を最小化し、それによって生み出された時間でイノベーションを起こしたり、契約につながる業務を行ったりすることが求められます。そのような業務は、会社の成長にもつながり、法務部門の方の働きがいにもつながる一石二鳥の業務と言えます。
法務部の役割は拡大している
株式会社LegalForce 浦山 博史氏(以下、浦山):
そうですね、法務の方が達成、承認、貢献という形で事業に関わっていくことが重要だと思っています。じつは法務部の役割は拡大しているのです。チーフリーガルオフィサーというCLOが経営に関与したり、官公庁とのルールメイキングをしたりなど、事業推進の役割が増えています。また、M&Aや新しい事業を行うときの実施可能性、フィジビリティ調査やデータ保護規制など、事業に直接関わる役割も担うようになってきています。
一方で、契約業務はどうしてもミスが生じやすいという課題があります。契約書には義務やリスクが潜んでいますが、それを見落とした結果、裁判沙汰に発展する可能性がないとはいえません。契約書のチェックだけでもミスは出来ないセンシティブな業務で、チェック自体に時間がかかります。そうやって、なかなか効率良く仕事を進められないという前提があるように思います。
また、契約書に記載されている更新日や契約終了日などの情報を事業部担当者が確認できず、解約の期日を徒過してしまうという場合もあります。期日が近づくと法務や総務から担当者にアラートが上がる、といった契約管理が不十分なわけですが、このような経験があるビジネスパーソンは38%いるそうです。
理想の法務像とは?
浦山:
理想の法務像は、先程説明した新しい役割を担う法務だと考えています。新しい事業を行う場合に、法の規制にぶつかるとなかなか進みません。そのようなときに、積極的にルールを作っていく、あるいは既存の法規制を変えていくという役割ですね。
事業に貢献できる役割を担える法務がまさに「攻めの法務」ということです。例えば、弊社が提供しているAIで契約書チェックや管理の自動化をしていくことができます。ミスをなるべく減らし属人化というものを無くしていくわけです。
越川:
テレワークを行っている企業でも、法務部の方は出社している場合が多い。その理由は、紙が書庫にあり、デジタル化されていないためです。さらに、属人化の問題はまだ起きていますね。「この人じゃないと分からない」ということが結構あるんです。その人をつかまえるためにわざわざ出社するということもありますよね。そういう事態を避けるためには、人依存ではなく、デジタル化して誰でもどこでもアクセスできるようにすることが必要です。
浦山:
本当におっしゃる通りで、法務部の方はコロナ禍においても出社していますね。先程契約書の日付確認が大事というお話をしましたが、営業から契約書の取引条件などを確認したいという照会依頼があるわけです。法務としては、誤った情報を伝えないように契約書の原本を確認したい。そこで、会社のキャビネットの中にある契約書の原本を見るために出社します。これは、紙の契約書をしっかりとスキャンをして、PDFファイルにし、クラウドにアップロードすれば解決することです。
また、契約書のチェック方法のルールが、ドキュメント化されずに属人化している場合が多いのが非常に大きな問題だと思っています。ルールなどを把握している担当者が退職や異動の際に、法務が非常に弱くなるタイミングが必ずあります。予防法務、契約書のチェックについての基盤を整えている企業は強い法務であり、「攻めの法務」が可能になるのではないでしょうか。
スタートアップで法務の基盤作りに投資をしている企業もあります。なるべく少ないリソースでいかに法務を事業の貢献に引き寄せていくかが、経営者の方々の大きな関心事項ではないかと思っています。
ITを活用し、リソースを有効活用する
越川:
僕は、ITが働き方を変えることはないと思っています。人間が働き方を変えるときにITが必要だと思うのです。法務部には弁護士の方もいますし、ぶっちゃけて言うと報酬が高いですよね。そのような方に日付のチェックをさせている場合ではないと思っています。弊社にも法務がいますが、絶対に日付のチェックはさせません。契約書もクラウドでAIによってチェックしています。
腹を割って話しますと、私の会社ではExcelの利用を禁止にしています。その理由は、Excelは凝りだしたらキリがなく、中にはマクロで計算式を作る人もいます。そうなるとほかの人では扱えず、その人依存になってしまうのです。アンケート調査などはAIやRPAに任せ、弊社のメンバーには人間にしかできないことをやってほしいと思っています。
浦山:
おっしゃる通りですね。じつは、お客様に弊社の商品の導入をお勧めする際に刺さるトークがあります。それは「このプロダクトを導入することで、御社の優秀な方、時給の高い方のリソースを事業に振り向けることができます」というものです。
重要なのは、その先に何があるのか、ということですね。プロダクトを導入することで生まれる時間によって、優秀な方々がどこにコミットしていくのか、どれだけのバリューを発揮できるのか、といった費用対効果の話が刺さりやすいということを率直に感じているところです。
越川:
働き方改革の本質は、今お話しされたことにあるんですよね。働き方改革に成功している企業は12.1%しかないのですが、彼らは労働時間の削減を行っているのではなく、ズバリ「時間の再配置」を行っています。ITを使って定型業務はダイエットし、生み出された時間で事業開発や研修、学び方改革を行っている。そういった再配置をできる企業が強いですね。
攻めの法務がやっていた”3つのこと”
浦山:
まず1つ目は「DX」です。優秀な方の時間をどのように作り、事業に貢献させていくかということに取り組んでいます。2つ目は「ルールメイキング」です。新しい事業を行っていくときに、いかにルールを変えていくのかという話ですね。そして3つ目は「事業部への関わり」です。法務部が営業に対して、商品開発や事業開発などの支援を行っていくことかなと思っています。
ルールメイキングについて1つ事例をご紹介します。最近、街で電動キックボードで道路を走っている方が増えてきましたが、じつは道路交通法上は原付ですので、ヘルメットを被り、ナンバープレートやウインカーもつけなければなりません。何より運転免許がなければ乗ることができないわけです。これでは気軽に乗れるという商品の良さが薄れ、電動キックボードを販売している会社にとっては、とても嫌な話ですよね。
そこでルールメイキングです。既存のルールを変えていく、あるいは既存のルールの適用が不明確なものを明確にしていくという話です。実際に電動キックボードの例ですと、販売会社同士で業界団体を立ち上げ、自主的な取り組みが進められています。
もう1つ、ルールメイキングとして重要なのは、法律を改正していくという動きです。官公庁とコミュニケーションを取りながら既存の法規制を変えていく。実際に2022年4月に道路交通法が改正され、電動キックボードはヘルメットの着用義務や運転免許証の携帯義務もなくなりました。道路交通法に「特定小型原動機付自転車」という乗り物が新しく規定されたのです。このようなルールメイキングを法務や経営企画の方々が進めていくわけなので、契約書のチェックなどを行っている暇はありません。
また、最近利用されている官公庁の制度というのがあります。スタートアップや新しいビジネスを行いたい場合、既存の法規制があるためにチャレンジできないとしたら、それは日本の競争力を阻害してしまう大きな要因になります。そこで経産省等がイニシアティブを取り、グレーゾーン解消制度や規制のサンドボックス制度を用意をしています。
電動キックボードの場合、規制のサンドボックス制度を利用して、実際に道路で走らせてみるという実証実験を行いました。その結果、それほどスピードが出ないことが分かり、原付ほどの事故の可能性がないと実証され、法改正に進みました。このときに法務や経営企画の方々は、官公庁とコミュニケーションを取って安全性をアピールしたり、実証実験の申請など法改正に向けた取り組みを行ったりしました。これが事業貢献だと考えています。
ルールメイキングによってチャンスを広げる
越川:
すごく興味があります。ベンチャーは大手には勝てないから、大手が仕掛けていない、いわゆるブルーオーシャンと呼ばれるところを攻めていきます。キックボードの話を聞いて、ルールメイキングによってベンチャーは大手に勝てるのではないか、ゲームチェンジできるのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
もう1つ、サンドボックスという言葉が出てきましたが、この言葉の意味をご紹介いただけますか。
浦山:
まずベンチャーが大手と戦えるのか?ということですが、大手は既存の法規制のあるところに進むというリスクを取らないんですね。ただ、ベンチャーにとってはブルーオーシャンなわけです。そこに敢えてプロダクトを投下し、切り拓いていくことによってイノベーションが生まれるのだと思います。そのときに大手と組む場合もありますし、敢えて大手と戦いに行く可能性もあるのではないかと思っています。
サンドボックスについては、実証実験をする「場」みたいなイメージですね。例えば、皆さんはSaaSを自社に入れるときに、自分の会社に合うものなのかを実際に使いながら確認していくと思います。サンドボックスは、そのときの実証実験の場のイメージですね。
越川:
経営企画の方は、今の話を聞いて、ぜひ今一度ビジネスの拡げ方を考え直したほうがいいのではないかと思いました。事業計画は「ルールの中でどう戦うか」ということを基本に作るものですが、自分たちでルールを壊して新たなルールを作っていくことが、じつは一番ビジネスチャンスがあるのではないかということを考えるべきだと思います。
そのように取り組むと法務の位置づけも変わります。「契約書はどうなっていますか?」と相談する相手ではなく、むしろ業界団体を作るとか、官公庁と話し合いをしていくところに法務の力を使ったほうがいいということです。
今までは「DXで紙をデジタルにしよう」という何か薄い感じで取り組んでいた企業も多いかもしれませんが、DXは事業開発です。ルールメイキングやサンドボックスを行うために、契約書などほかのDXを進めたほうが結果的に成果につながるということですよね。
おわりに
越川:
最後に一言お伝えすると、インプットだけでは何も変化は起きませんので、このセッションを聞いて終わりではなく、動く!ということが大切です。事業開発の会議に法務部を呼ぶとか、プロジェクトに法務部を入れるとか、ITツールを検討するなど、今日聞いたことをどれか1つ行ってみてください。事業開発なりDXに向けて行動を起こす視聴者が一人でも多くなることを祈りたいと思います。ありがとうございました。
浦山:
今はどのSaaSもトライアルという形で使いながら、自社の業務に合うのかを確認して、使えるところを増やしていくような使い方ができるようになっています。DXを行いながら、法務・経営企画・総務の優秀な方々の時間をどのように事業のほうに振り向かせていくのか、というのが重要だということを、あらためてご認識いただければと思います。どうもありがとうございました。
登壇企業の提供製品をご紹介!
本セッションにご登壇いただいた株式会社LegalForce様が提供する契約書管理システムをご紹介します。
《LegalForceキャビネ》のPOINT
- アップロードするだけで契約書の全文をテキストデータ化
- キーワードによる全文検索で必要な契約書が瞬時に見つかる
- 自動リマインドで更新期限の見落としを防止
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
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