登壇者プロフィール
株式会社SIGNATE 代表取締役社長CEO
齊藤 秀氏
2013年、日本初のAIコンペティション「SIGNATE」を事業化。現在までに会員数10万人の国内最大AIコミュニティに成長。これらの会員と連携し、累計1,000社以上でAI開発、AI人材採用・育成などのDX支援を実施。経済産業省「マナビDXクエスト」やNEDO「懸賞金活用型プログラム」などオープン型人材育成・研究開発プログラムも支援・運営。自身は国立がん研究センター客員研究員、筑波大客員教授を務め、未来投資会議や文科省の委員としても活動。AIとデータサイエンスの分野で、産学官連携を推進し、日本のDX促進に貢献している。
参考:株式会社SIGNATE 会社概要
はじめに
私は20年以上にわたり、AIとデータ活用の幅広い領域に携わってきました。最近では、中央省庁等でAIの研究開発や人材育成、データ活用に関する戦略的な政策立案にも参加しており、社会的な立場から、また企業のDXの視点からAI支援活動を行っています。
我々SIGNATEの事業は、主に二つの柱から成り立っています。一つは、主に大企業を対象としたデジタル活用によるビジネストランスフォーメーション(BX)支援です。もう一つは、そのためのデジタル人材の育成支援です。これらを同時に進めることで、企業の変革を促進しています。
また、我々の特徴的な点として、約10万人のデータサイエンティストやAI専門家からなる会員基盤を持っていることが挙げられます。彼らの才能と協力しながら、企業変革を進めているのです。
本日のテーマ
本日のセッションでは、主に2つのポイントについてお話しします。
- 1.経営視点から見て生成AIが不可欠である理由
- 2.生成AIを戦略的にどのように使っていくかという具体的な方法論
経営視点から見た生成AIの重要性
生成AIの現在位置
まず、生成AIの現在位置について説明させていただきます。最近、OpenAI社から生成AIの技術的な位置づけが公開されました。これは自動運転のレベル分けのようなものですが、現在の生成AIはレベル2の直前だと言われています。これは、単なるチャットボットを超えて、人間のような問題解決能力を持つレベルに近づいているということです。
今後の展望としては、AIが自律的に行動したり、AIそのものが発明や発見を行ったりするレベルに進化していくと予想されています。さらに、AI同士が組織を形成して会社のように働くような世界観も想定されています。
実際、AIエージェントに関する研究が盛んに行われており、特に米国を中心に、AIエージェントを先取りしたスタートアップやサービスが始まりつつあります。
興味深いのは、OpenAIの元開発者による予測です。彼らによると、汎用人工知能(AGI)と呼ばれる非常に高度なAIが、わずか3年後に実現する可能性があるとのことです。これが実現すると、私たちの仕事のあり方は大きく変わる可能性があります。
例えば、OpenAIの社長であるアルトマン氏は、近い将来、たった1人で10億ドル規模の価値を持つ会社を作ることができるようになるだろうと予測しています。これは、AIをメンバーや部下として持つ会社が出現し、大きなイノベーションを起こす可能性があることを示唆しています。
デジタル人的資本の重要性
このような状況の中で、私が提案したいコンセプトがあります。それは「デジタル人的資本」です。経営視点で見ると、昨今、非財務的な観点から人的資本という概念が注目されていますが、ここにデジタルの観点を加えることが重要だと考えています。
具体的には、従来の人間が生み出す労働力に加えて、「AI労働力」と「AI協働力」という二つの概念を提案します。AI労働力は、AIが自律的に生み出す、または既に自動化されている領域での労働力を指します。一方、AI協働力は、ChatGPTのような対話型AIと人間が協力して生み出す価値を指します。
経営者としては、これらのAIによる労働力をいかに現実のものにしていくかが重要です。しかし、これを実現するためには、AIを使いこなせる人材の育成が不可欠です。AIを日々の業務で使いこなすスキル、AIをビジネスのどの局面に適用するか判断するスキル、AIを活用して新サービスを創出するスキルなど、さまざまなスキルが必要となります。
また、デジタル人的資本の考え方は、企業の財務指標にも直結します。例えば、ROEやROICといった指標を改善するためのドライバーとして、AIによる生産性向上や設備最適化などが考えられます。経営者は、これらのAI版KPIを設定し、管理していく必要があります。
生成AIの戦略的活用方法
生成AI活用の成功要因
PwCの調査によると、生成AIの活用で成功している企業の特徴として、以下の3点が挙げられています。
- ●ユースケースの適切な設定
- ●データの品質管理
- ●社員のAIリテラシー
一方、活用がうまくいっていない企業では、特に社員のAIリテラシーの不足が大きな課題となっています。
3段階の生成AI活用アプローチ
生成AIを成功裏に活用するための3段階アプローチを提案しています。
- ●診断:自社の業務を見直し、生成AIの活用でどこに高い効果が見込めるかを分析します。
- ●型化:実際の業務フローに生成AIを適用し、その効果を検証しながら業務プロセスを再構築します。
- ●実装:型化の結果を踏まえ、最適な形で生成AIを業務に組み込みます。
診断段階
診断段階では、我々が開発した「SIGNATE業務診断AI」を活用します。このAIは、会社の組織情報や既存の業務概要を入力するだけで、AIが自動的に業務を定義し、生成AIとの相性を診断してくれます。
日本企業の特徴として、欧米のようなジョブ型の働き方ではなく、幅広い業務を担当することが多いため、自社の業務を正確に把握することが難しい場合があります。この診断AIは、そうした課題を解決し、効率的に業務の棚卸しを行うことができます。
例えば、ある大手企業グループ(7社、社員3万人規模)での診断では、約600職種、7,500の業務タスクを洗い出し、平均で25%から40%の時間削減が可能な生成AIの活用ユースケースを見出すことができました。
型化段階
型化段階では、現場の視点が重要です。経営視点で生成AIの重要性を認識していても、実際に使うのは現場の方々です。そのため、現場の納得感を得ながら、具体的な活用方法を検討し、業務プロセスを再構築していきます。
例えば、監査室での内部監査レポート作成、調査会社での調査業務、消費財メーカーでのマーケティング活動など、さまざまな業務での生成AI活用を具体的に検証していきます。この過程で、現場からの「これはすごく助かる」という声や「ここは不要かもしれない」といった反応を丁寧に拾い上げ、最適な活用方法を見出していきます。
実装段階
実装段階では、日々の業務で生成AIを使用する環境を整備します。ここでは、企業の状況に応じて最適なツールや方法を選択することが重要です。
我々は、以下の3レベルでの実装を提案しています:
- ●ChatGPTのプロンプトレベルでの解決
- ●既存のツールを活用した簡易アプリの開発
- ●複雑な業務や高いインパクトが見込める領域での専用アプリの開発
ここで注意すべき点は、必ずしも大規模なシステム導入が最適解ではないということです。生成AI技術は日々進化しており、ツールも多様化しています。そのため、簡単に実現できる改善から始め、段階的に高度な実装を目指すアプローチが有効です。
人材育成のポイント
生成AIを効果的に活用するためには、人材育成が不可欠です。我々は、以下のようなアプローチを提案しています。
オンラインでの基礎教育
クラウドサービスを通じて、生成AIの基礎知識や実践的なスキルをトレーニングします。我々のサービスは現在、900社、15万人以上のユーザーに利用されています。
業務への適用を通じた学習
自身の業務を見つめ直し、生成AIの活用可能性を探ることで、実践的な学びを得ます。我々の業務診断AIを活用することで、自分の仕事を言語化し、AIに任せられる部分を特定することができます。
全社的なデジタルマインドの醸成
例えば、SMBCグループでは、グループ横断でのデータ活用大会を開催しています。約1,500人の社員が参加し、「寝る間も惜しんでハマりました」「1年で最も楽しみにしているイベント」といった声が上がるほど、データ活用へのモチベーションが高まっています。
外部人材の活用
社内人材の育成には時間がかかるため、必要に応じて外部の専門家を活用することも有効です。我々のAI人材基盤を活用することで、短期間で必要な人材を確保することができます。例えば、最先端の宇宙衛星系の研究プロジェクトでは、わずか1週間で20人のエキスパートを集めてドリームチームを結成することができました。
おわりに
生成AIの活用は、今後の企業経営において不可欠な要素となります。その効果を最大化するためには、戦略的な業務適用と社員のマインドセット改革が重要です。我々SIGNATEは、AI人材の育成サービスや支援サービスを通じて、皆様の生成AI活用をサポートいたします。
生成AIの世界は日々進化しています。この変化に乗り遅れることなく、むしろ先んじて活用していくことが、今後の企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。ぜひ、本日お話しした内容を参考に、皆様の企業での生成AI活用を進めていただければと思います。
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
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